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プレイングマネージャーの今が楽しい! チームマネジメントは「褒める」「期限を設ける」で円滑に

プレイングマネージャーの今が楽しい! チームマネジメントは「褒める」「期限を設ける」で円滑に

今回の主役は、エクスペディアの田中樹里氏。サイバーエージェントでSEOを担当後、ワーキングホリデーでオーストラリアへ。帰国後にエクスペディアに入社し、今年で10年目になる。現在はアジア圏のSEOチームを率いており、各国に散らばる部下をどうマネジメントするかを考えるのが今は楽しいという。

「英語」「SEO」「自己主張」「あきらめ力」「部下の褒め方」など、その時々で身につけてきたスキルをあげながらお話しいただいた。

Webが一般に普及してすでに20年以上が経つが、未だにWeb業界のキャリアモデル、組織的な人材育成方式は確立していない。組織の枠を越えてロールモデルを発見し、人材育成の方式を学べたら、という思いから本連載の企画がスタートした。連載では、Web業界で働くさまざまな人にスポットをあて、そのキャリアや組織の人材育成について話を聞いていく。

森田雄 & 林真理子「Web系キャリア探訪」とは?

「プログラミングを仕事に」で選んだキャリアのスタート

林: Webに触れたきっかけから教えてください。

田中: 高校生くらいの時に、親がパソコンを購入して、自分でも掲示板などを作りたいなと思って、独学でHTMLを学んだのが最初です。はっきり覚えていないのですが、1999年くらいのことだと思います。友達がチャットルームを作ったので、一緒にやったりしていました。

数学と化学が好きだったので大学は理系に。薬剤師の道も考えたのですが、仕事にするならプログラミングがいいなと思って、情報科学科に進学しました。

林: 大学に入って、実際にやってみていかがでしたか?

田中: プログラミングはこうやったら、こうなる、という答えがはっきりわかるところが好きでした。

林: 大学を卒業してサイバーエージェントに入社したのは、大学の専攻からの自然な流れで興味をもたれてのことですか?

田中: プログラミング技術を活かしつつ、人と関わる仕事に就きたかったんです。といっても当時は、あまり絞り込んで何か目指してという感じでもなかったのですが、やりたいことの両方ができるということで、サイバーエージェントに入社しました。

森田: 現在はエクスペディアのアジア圏のSEOを統括する立場にいらっしゃいますが、最初からSEOに関心があったのですか?

田中: いえ、全然。入社して初めてSEOを知りました。ただ、当時のSEOはシンプルだったので、プログラミングのバックグラウンドがあれば、ページ最適化のコツは苦労せず理解できました。2年程勤めた後、2009年にワーキングホリデーでオーストラリアのシドニーに行きました。

エクスペディア シニアSEOマネージャー 田中樹里氏

エクスペディア シニアSEOマネージャー 田中樹里氏

ワーキングホリデーで英語のスキルを身につける

森田: ワーキングホリデーは、どういう制度なんですか?

田中: 日本が提携している国に、1年間滞在できるビザが付与される制度です。年齢制限がありますが、滞在中は働いてもいいし、学んでもいい、というものです。2009年はリーマン・ショック直後で、ちょうどオーストラリアドルが下がったので、いい機会だと思って行きました。

林: フットワークが軽い! オーストラリアではWebに関わる仕事をされていたのですか?

田中: はい。ただワーキングホリデー期間中に入社した会社は、3か月働いた時点で、会社の業績が悪くなり解雇になってしまいました。当時は英語もできなかったので、振り返るとよく入れてくれたなと思います。1年経って、英語が上達しビザも切れたので、日本に帰国することになりました。

林: 帰国後はどんな仕事に就かれたのですか?

田中: Webコンサルティング会社に入り、UX改善、ログ解析などを担当しました。実はオーストラリアにいたときから、エクスペディアに応募をしていたものの、入社がかなわなかったんですね。でも、日本オフィスでSEOのポジションを募集していたので、Webコンサルティング会社を辞めて、2011年に入社しました。

森田: SEOはたまたま始めたということでしたが、そのスキルが生きたんですね。

田中: そうですね。流されるまま今に至っているような気がしているのですが、振り返ってみると、それぞれのフェーズで必要な知識を得ていて、そういったものの積み重ねが「現在」に生きていると思います。

各ステージで得たスキル

各ステージで得たスキル

SEO+英語のスキルで、エクスペディアへ

林: 田中さんのキャリアは「SEO」が軸にありますが、2006年当時のSEOと今のSEOでは求められる技術や能力が変わっていると思います。その変化は、どう受け止めていますか?

田中: プログラミングの基礎があるので、アルゴリズムの変化についての違和感はないです。オーストラリアからの帰国後、ログ解析、ヒューリスティック分析などを経験したので、その知識もつながっていると感じます。またプログラムの側面だけでなく、Googleが目指すこと、やりたいことがアルゴリズムに現れるので、その点も意識しながら仕事をしています。

森田: エクスペディアに入社してどのくらい経ちますか?

田中: 10年目です。長いですね(笑)。実は入社して4年ほど経ったときに、仕事に飽きたことがありまして、上司に率直に伝えたことがあるんですよ。

このままだと先が見えているので、別のことをしたい

プロダクト開発などエンジニアリング方面に行くという選択肢もありましたが、アジアのチームマネジメントを2016年から担当するようになりました。今はチームマネジメントが楽しいですね。これがなかったら辞めていたかもしれません。

上司も部下も全員海外。グローバルなチームの働き方

森田雄(聞き手)

森田雄(聞き手)

林: 今は、田中さんは日本に勤務していますが、部下の方は皆さん海外にいるのですか?

田中: はい、上司も何度か変わりましたがずっと海外ですし、部下も全員日本以外にいます。今、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、リモートワークとなっていますが、コロナ以前からミーティングはオンラインだったので、その点はあまり変わらないですね。各国に物理的なオフィスがあってそこに通っていたのがなくなったくらいです。

森田: 部下の方はどこにいるのですか?

田中: 香港、シンガポール、オーストラリアですね。エクスペディアが各国に拡大していくたびに現地で人を採用しています。

林: リモートでのマネジメントの難しさは、現在よく話題にもなっていますが、田中さんはリモート環境で具体的にどんなことをマネジメント業務として行っているのですか?

田中: 目標達成の数字の管理などもありますが、そこに至るプロセスを重視してマネジメントしています。また、メンバーのSEOスキルがバラバラなので、SEOに関する知識を教えることもあります。数字の管理より、むしろ育成を重視しています。

グローバルなオンラインミーティングのやり方

林: 世界各国の人とオンラインミーティングする上で、難しさとか、心がけていることとかはありますか?

田中: オンライン会議は20人いたら、めちゃくちゃですね。個人によって自己主張の度合いが違ったりして、比較的アジア人は、おとなし目なので負けてしまう印象です。自分の発言の順番が来るのを待っていたら、ずっと発言できないので、言いたいことがあったらどんどん言うようにしています。カメラに向かって手を上げて気づいてもらってチャンスを得るのも重要です。「自己主張」は、この会社に入って学んだスキルです。

森田: コミュニケーションに文化的な違いがあるのですね。

田中: 個人差もあると思いますが、自己主張の強い人、発言を待ってしまう傾向がある人と分かれるので、私がファシリテーションするときは、発言量の少ない人に声をかけるようにしています。話す機会を用意すれば、どの国のメンバーも意見をしっかり言いますね。アジアのメンバーからは、私のファシリテーションは評判がいいのですが、他の国からはそうでもなかったり。

私は、会議の目次が5個あったら全部やりたいんです。しかし、他の国の人には自分の関係するテーマのことが話せるなら2個でもいい、全部終わらなければ次回でいい、という傾向も見られます。だから、どんどんミーティングが長くなって、缶詰ミーティングになってしまう傾向があります。

年に何回か出張の機会があり、そこで皆で集まることがあります。海外出張も最初は楽しめたのですが、基本的にホテルから出勤して1日オフィスでミーティング。次の日もまたミーティング漬けなので、今では、出勤する場所が変わっただけという感じです(笑)。でも、会議を終えた後にそのままランチに一緒に行けたりして、雑談しながら交流できるのはいいですね。

頑張っても説得しきれないことはやらない「あきらめ力」

林真理子(聞き手)

林真理子(聞き手)

林: キャリアの質問からは少し外れますが、「旅行先の選び方」に各国で違いはありますか? SEOの施策も多岐にわたりそうですが。

田中: そうですね。日本の場合は、旅行先の名称を入れて検索することもありますが、行き先を決めていない状態で「3泊旅行 おすすめ」「10万円 おすすめ」といった検索も多いです。ですから、そういった検索ニーズに応えるコンテンツを作る、ということは定期的に続けています。ただ、内容のローカライズはしますが、エクスペディアのサイトはグローバルで統一されています。

国によって、好みのフォント、色などは違いますし、旅行サイトの場合、日本を含めてアジア圏の価格表示は「赤文字」が主流です。以前、料金を赤文字に変えたいと思って、エンジニアに相談したことがあったのですが、受け入れられませんでした。国内の他のサイトで赤文字の採用比率の高さを数字で見せたり、各国の慣習などを説明したり、いろいろな方法で説得したのですが、どの説明も刺さらず結局、その変更はあきらめました。

あきらめるといってもネガティブではなく、「自分がコントロールできないことは、追わない」という「あきらめ力」も時には必要だとこの時気づきました。自分の力で変えられること、メンバーの協調を得られる部分にエネルギーを注いだほうが建設的ですからね。

エンジニアから見ると、日本リージョンだけカスタマイズすると、後々そこだけ保守や工数が増える実装になってしまうという判断です。もちろんそれにも一理ありますし、それ以外にも、できることがたくさんありますから。

部下の管理は「褒めること」「期限を設けること」が鉄則

林: 部下のマネジメントで、何か気をつけていることはありますか?

田中: 私が感銘を受けた上司がいて、その方は褒め方の表現のバリエーションが豊富で、褒め方がうまかったんです。相手を喜ばせる、感動を伴ったフィードバックがあるとうれしいですよね。

だから私が部下を褒めるときも「あのプレゼンのこのデータが良かった」「あなたはここが強いからこれを任せたい」というような言い方をして、モチベーション高く仕事をしてもらえるように心がけています。

森田: 相手のことをよくみて、具体的に褒めるんですね。

田中: そうです。単に「数字が上がったからよい」ではなくて、「あの施策の積み重ねがこの数字に現れているね」と言われたほうが、自分を見ていてくれたと感じられますよね。私もそういう風に褒められたいので、部下に対してもそうやって伝えるようにしています。

林: 褒め方以外にも、何かありますか?

田中: 曖昧な目標を定めないことですね。まずは、日付設定をして、「この日までに、ここまで達する」といった具合に合意をとるようにします。ゴールがないとフィードバックもできないですから。

日付設定は、「他のことをやっていたからやれなかった」と言われないようにするためにも重要です。仕事を依頼するほうが気を使っている感じですね。相手が忙しいという場合は、毎日今日はどうかと聞くこともあります。できない理由を組み立てるのが上手い人がいるので、どこをつぶしていくか考えます。

林: 目標を数値化するというと、どうにかして金額に紐づけたり難しく考えがちですが、期限を設けるというのは日常的に取り入れやすい数値目標ですよね。

森田: マネジメントでは他にどんな仕事がありますか?

田中: 勤怠管理の承認、採用のレジュメのチェックなど雑多なこともありますが、給与に関わる人事評価もあります。各メンバーと週に1回ワンオンワンのミーティングがそれぞれ1時間あるので、そこにも時間を使っています。困っていること、やりたいこと、その他の意見などを聞いて一緒に考える時間です。といっても必ず1時間というわけではないし、特に必要なければスキップするのですが、スケジュールとしては確保しています。その時間が用意されていることがチームマネジメントにとって重要だと思います。

次のことはまだわからない。今は、業務とマネジメントの両方が楽しい

林: SEOの専門家として働くのと、チームのマネージャーとして働く割合は、今は五分五分くらいですか。どういうふうにバランスをとっていきたいとかは、あるのでしょうか?

田中: 業務時間としてはちょうど半分ずつです。今がちょうどいい働き方で、楽しいですね。勤続10年は長いなと思いますが、転職するのが正しいわけではなく、とどまるのも選択肢としてありだと思っています。自分が「おもしろい」と思える仕事をしていきたいですね。

本取材はオンラインで実施、左上から、林真理子氏、森田雄氏、田中樹里氏

本取材はオンラインで実施、左上から、林真理子氏、森田雄氏、田中樹里氏

二人の帰り道

林: マネジメントの心がけとして、「褒め方」の話にはうなずきが止まらなかったです。部下の立場からすると、日常的なやりとりの中で上司が自分の「何に対して」褒めているか、一言の選び方が上司への信頼度を大きく揺さぶりますよね。頻繁に褒めてくれても「よくできてる」「助かったよ」だけでは口だけだなぁと思ったりもしますし、自分が特に頑張って工夫したところに気づいて、そこがよくできているって褒められれば、短い一言でもグッときたり。具体的に褒めるって言うは易しで、その仕事のどこに良し悪しを分けるポイントがあるか、その部下が何に注力したか、そうしたことを見抜いて評価しないと的を射た一言はかけられないわけで、逆にそこがあれば「褒め」でなくても良いアドバイスとして部下は動機づけられたりしますよね。その部下のこと、部下の仕事をどれだけ真剣にみているか、時間をかけて意識を向けて関わろうとしているかっていうことなんだろうと思いましたし、そういう関わり方をしてきているところに田中さんのマネジメントの神髄があるんだろうと思いました。また画面ごしながら、田中さんの笑顔が健やかで、すがすがしいのが印象的でした。人にも物事にも自分にも率直に向き合っている感じが伝わってきて、だから上司にも信頼され、部下にも慕われ、オープンマインドで新しいことに取り組めているだろうなぁって思いました。

森田: SEOはたまたまだったとおっしゃる田中さんでしたが、確かに最初のとっかかりとしてはたまたまだったのかもしれないけれども、振り返ってみればすべての点が線となってつながっているのがよくわかるお話が伺えました。キャリアは経験値の積み重ねから成り立っているものですから線になるのは当然なのかもしれませんが、その都度都度のタイミングにおいてもそれをきちんと自覚して、次の変化を求めて行けるかというのは、けっこう重要な心持ちなのではないかと思っています。現在のエクスペディアにもう10年もいるので次の道はといえば、転職もありだしとどまることもありであると。この連載でも第一回の岩崎電気新井さんのように、長くいるからこそできることがあるという話もありましたし、転職を重ねてキャリアチェンジしていく方は他のゲストの多くがまさにそういう感じでしたね。エクスペディアでもたくさんのおもしろいと思えることをお持ちのようですし、それはとても素敵なことですよね。僕もツルカメがつい先日10周年となり、自分のキャリアの中で一番長く在籍していることになったのですが、まだおもしろさを模索する余地がたくさんあると感じています。当面は、マネージャーとプレイヤーの両方のおもしろさを存分に堪能されることに期待しています。僕も楽しもうと思いました。ありがとうございました。

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