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コーダーからUXリサーチャーへ! 興味あることを追求して築き上げたキャリア

コーダーからUXリサーチャーへ! 興味あることを追求して築き上げたキャリア

不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」をはじめ、生活に関するさまざまなサービスを提供する株式会社LIFULL(ライフル)。同社にてHCD-Net認定 「人間中心設計専門家」として、UXリサーチの分野で活躍する小川美樹子氏に、人間中心設計に関心を持った経緯や仕事内容、これからのキャリアについて話を聞いた。

Webが一般に普及してすでに20年以上が経つが、未だにWeb業界のキャリアモデル、組織的な人材育成方式は確立していない。組織の枠を越えてロールモデルを発見し、人材育成の方式を学べたら、という思いから本連載の企画がスタートした。連載では、Web業界で働くさまざまな人にスポットをあて、そのキャリアや組織の人材育成について話を聞いていく。

森田雄 & 林真理子「Web系キャリア探訪」とは?

大学で履修したHTMLの知識を活かし、Web制作の道へ

株式会社LIFULL 品質戦略部 品質改善推進ユニット ユーザーファースト推進グループ 小川 美樹子 氏
株式会社LIFULL 品質戦略部 品質改善推進ユニット ユーザーファースト推進グループ 小川 美樹子 氏

林: Webに触れたきっかけから教えてください。

小川: 大学の授業でホームページを作る課題があり、HTMLでWebページを作ったのが最初ですね。教育学部だったのですが、小中学校で情報教育が始まるタイミングに合わせて情報教育分野の単位が必修になり、その授業での課題でした。インターネットの利用については、当時住んでいた実家に家族共有のパソコンがあり、自由に閲覧できていました。

林: それが1990年代の後半。そこから興味を持って、ホームページ制作を仕事にしたいと考えるようになったのですか?

小川: いいえ、実は卒業後に就職予定だったのですがダメになってしまったんです。それで、自分がやれることの中でおもしろそうなことを探したところ、ホームページなら作れるなと思い、求人誌で見つけた地元・名古屋のWeb制作会社にアルバイトとして入社しました。当時、名古屋には実務未経験者の採用をしているWeb制作会社は多くなく、私が入社した会社は社長とWebデザイナーのアルバイト数人でまわしている小さな会社でした。

森田:その会社にはどれくらい在籍していたのですか?

小川: 1~2年です。名古屋で経験を積むうち、より大きな仕事を手がけたいと思うようになって、東京のWeb制作会社に応募したところ正社員で採用され、東京に来ました。その会社も入社当時は社員5人程度。私はコーダーとして、コーディング、マークアップを担当していました。

サービスを育てたい! 事業会社への転職を決意

林: 実は小川さんとは、2000年代後半のCSS Niteでお会いしたことがあるんですよね。

小川: はい。出会ったのは2008年ですよね。ちょうどその年に、LIFULLの前身である「ネクスト」に転職しました。

林真理子氏(聞き手)
林真理子氏(聞き手)

林: ネクスト(現LIFULL)に転職された経緯は?

小川: それまで勤めていた制作会社では、ホームページを作ったら仕事は終了。そこに物足りなさを覚え、「サービスを育てる仕事がしたい」と考えるようになったんです。自社サービスの開発を内製している事業会社を探していたところ、ネクストが「HOME'S」のWebデザイナーを募集していたので、応募しました。

林: 当時から「HOME'S」は不動産ポータルサイトとしてよく知られていましたよね。事業が拡大しても内製を維持して、丁寧にサービス作りしておられた印象があります。おもしろそうだなと思って飛び込んだWeb制作の仕事ですが、この時点でかなり腹を決めて“ここでやっていこう”というふうに見えます。新卒からネクスト入社までの仕事観や興味ってどんな感じでしたか?

小川: Webそのものに興味があり、おもしろいことができそうだなという気持ちは変わらず持ち続けていました。趣味でホームページを作っていましたし、当時のWeb業界はおもしろいことをやっている人たちが集まっている印象がありましたね。この時点では、Webを仕事にしようというより、もっとおもしろいことがやりたい気持ちの方が強かった気がします。

※CSS Nite:ウェブ制作に関わる人のためのセミナーイベント

転職を機に、仕事の取り組み方が変わる

林: HTMLとCSSの実務的な知識は、どうやって身につけていったのですか?

小川: きちんと勉強を始めたのは、LIFULLに入ってからです。それまでは、小さい会社ということもあり、扱うサイトの規模も小さかったので、趣味の延長線上でもできてしまう部分もありました。そこからLIFULLに転職し、扱うサイトの規模も大きくなり、求められるクオリティも高くなっていきました。一緒に働く専門職の同僚、たとえばマークアップエンジニアやデザイナーなどに触発され、プロとしての仕事を自覚するようになりました。

森田: 規模の大きいサイトほど多くのスタッフが関わるし、1人で作るのとはルールが違いますよね。小川さんのチームはどのくらいの規模でしたか?

小川: 企画・エンジニア・デザイナーで10人ほどのチームを組んで、1つのサイトを作るスタイルでした。デザイナーにもデザイン専門とコーディング専門の人がいて、分業制で。

林: 同じ職種のスタッフと意見交換する機会はありましたか?

小川: はい。中途入社した社員にメンターがつく制度があり、同じ職種の先輩がメンターとなって、いろいろな人を引き合わせてくれました。

森田: メンターとはどんな風にやり取りをしていたんですか?

小川: 朝会・夕会の形式で、「今日はこれをやる」「成果はどうだったか」といった報告や相談をしていました。私のメンターはデザイン専門だったので、コーディングに関することは別の人を紹介してもらっていました。私と同じ職種の人、異なる職種だけど同じような興味がある人など、さまざまな人に引き合わせてもらっていたので、コーディング以外のところでも興味を広げていけたと思います。

大学で人間中心デザインのプログラムを履修し、専門家の認定資格を得る

林: 転職後、コーディング技術に限らず今の職域につながるかたちで関心分野が広がっていったのは、どんな経緯だったのですか?

小川: HTMLとCSSをきちんと学び始めてから、ユーザビリティにも興味を持ちました。その流れでHCD(Human Centered Design、人間中心設計)を知って、HCD-Net(特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構)のセミナーや勉強会に参加するようになりました。2010年頃ですね。

森田: 人間中心設計専門家(HCD-Netが実施する専門家認定制度)の認定を受けたのはいつですか?

小川: 2016年です。当時はコーディング業務と、ユーザビリティテストやUXデザインなどのHCDに関する業務を半々くらいの割合で担当していたのですが、HCDに関する業務をもっと増やしていきたく、専門家になろうと思いました。そもそも、業務でHCDを実践できるようになったのは、社会人向けの大学院に行ったことが大きかったです。それまでは、HCDに興味があって自分なりに学んではいましたが、コーディングをやっている私がユーザビリティについて意見や提案するのは、説得力がないと感じていました。デザイナーならともかく、コーディングはユーザビリティやUXデザインとは分野が違うと思っていたのです。そこで、都立産業技術大学院大学で「人間中心デザイン」の履修証明プログラムを受講し、2013年頃には、仕事でも少しずつHCDに関わるようになりましたね。

森田: 人間中心設計専門家は実務経験が必須なので、良いタイミングでしたね。ちなみに、コーディングからユーザビリティに行くのに違和感があったようですが、2000年代はXML/XHTMLの潮流があったため、マークアップエンジニアから情報アーキテクチャー(IA)への展開や、さらにインタラクションデザインからUXデザインへ進むのは、キャリアとして自然な流れであったようにも思います。もちろん、フロントエンドの実装を極めるキャリアもあります。僕自身、90年代からマークアップエンジニアのキャリアをスタートしていますが、2000年代はIA/UXデザインが専門でした。2010年頃を境に、実装者はJavaScript開発などフロントエンドエンジニアリングに、特化していくようになったと感じます。

小川: LIFULLでも、コーダーがJavaScriptも取り扱うようになり、現在はフロントエンドエンジニアという職種になっています。

森田: その後のキャリアパスとしてHCDか、アクセス解析などのデータアナリスト、データサイエンティスト方面になってきていますね。小川さんが早々にご自身でHCDプログラムを選択されたことはスマートだったと思います。

エンジニアでもデザイナーでもない自分がはまったのが「品質管理部門」

林: 大学で学んだことを社内で活かす場は、どんなふうに築いていかれたんですか?

小川: 私が大学を修了しHCDを実務で重ね、人間中心設計専門家の認定を受けたタイミングで品質戦略部に異動になりました。LIFULLは「QA(Quality Assurance、品質保証)」や「セキュリティ」などサービスの品質に力を入れているので、品質管理の専門部署があるんです。配属先は新しく立ち上がったユーザーファースト推進グループで、ユーザビリティやUXなど、利用者に対しての品質を向上するために新設されたグループでした。

森田: 品質管理のアプローチからユーザビリティ、UXというのはおもしろいですね。

小川: そこがLIFULLのユニークなところだと思っています。ユーザーファースト推進グループができたタイミングは偶然でしたが、新設の布石はありました。というのも、QAの観点からユーザビリティテストをする動きが社内にあると聞き、「実務でユーザビリティテストを取り入れているので手伝いますよ」と、私から手を挙げていましたので。

森田: 実装者のユーザビリティテストは、自身の実装結果を客観的に見られるのかという問題があったりもしますが、品質保証の立場側からのユーザビリティテストは説得力がありますね。

森田雄氏(聞き手)
森田雄氏(聞き手)

林: 現在も品質戦略部ですか?

小川: はい、2016年からずっと品質戦略部のユーザーファースト推進グループに所属しており、2020年に「UXリサーチャー」という職種を社内に作りました。ユーザーファースト推進グループができた当初から、「エンジニアやデザイナーでもなく、マーケティングリサーチャーとも違う。だけど、これから必要になる仕事だから新たに職種を作ろう」と、上司と話し合いを続けていました。当時はまだUXリサーチャーという職種を知らず、UXデザイナーやユーザビリティエンジニアを候補にしていましたが、どれもしっくりきませんでした。そのうち、私がUXリサーチャーのイベントに登壇する機会が増えてきまして。自分ではサービスデザインをしているつもりでしたが、他の登壇者の話を聞いているうちに「いま私がやっていることは、UXリサーチなのかな?」と思うようになり、肩書きをUXリサーチャーとしたんです。

森田: デザイナーにはデザインだけでなく、リサーチも必須スキルになっていますし、UXリサーチャーで良いのではないでしょうか。

UXリサーチを推進するために、まずは理解の深い部門と一緒に仕事をする

林: 現在はどのような形でHCDに取り組んでいるのですか?

小川: ユーザーファースト推進グループは私含めて3人しかいないので、現状は事業部の依頼を受けてから、UXリサーチを実施しています。その結果を踏まえて、施策へのフォローや改善点をフィードバックする流れです。

森田: テスト結果が悪いのでサービスをリリースできない、というようなことはありますか?

小川: ないですね。UXリサーチ後の対応は開発部署にお任せしていますが、調査結果のフィードバック後に調査結果を活用するサポートもしているので、テストの時点でひどいものはそのまま世に出ていないと捉えています。

林: ガイドラインなどは作っているのですか?

小川: 作っていません。ルール作りはいい面もあるのですが、運用していくうちにルールが必要な理由が抜け落ちてしまうことがあります。また、ルールに則っているかチェックする必要も出てきて、それだけで1日が終わってしまうことも。それよりも「ユーザーファーストな開発を実践していくにはどうしたらいいのか」をモットーに、実際にテストやリサーチを行い、開発現場にフィードバックしていったほうが、効果があると考えています。

森田: 今後、ユーザーファースト推進グループは人数を増やしていく方向ですか? あるいは、人間中心設計専門家を増やそうといった動きはありますか?

小川: ユーザーファースト推進グループのメンバーは増やしていく予定で、求人を出しています。社内転職の制度もあるので、社内でUXリサーチに関心がある人を公募するようなやり方も検討中です。専門家を増やすことは、まだ考えていないですが、人間中心設計専門家になるためにはどうしたらよいか相談を受けることが増えてきました。

林: UXリサーチの重要性は、社内でどれくらい認知されていますか?

小川: UXリサーチが大事だということはみんなわかっていますが、捉え方は部署によってばらつきがあります。ただ、品質戦略部に異動になる前からユーザビリティテストをやっていたので、ユーザーファーストな開発に興味がある人たちとのつながりを保ちつつ、その人たちが担当するプロジェクトを中心にUXリサーチを続けてきました。ユーザーファースト推進グループができて2~3年も経つと、その人たちから紹介された社内の別の人から依頼がくるようになり、一気に認識が広がっていったと感じています。

林: 具体的な成果を出して、社内のプレゼンスを高めていったのですね。

やりたいことを追いかけて、たどり着いたキャリアとは?

林: 一口にUXデザインといっても、認知心理学や統計分析など関連分野が幅広く、さまざまな専門分野をどう学ばれているのだろうと思うのですが、最新の知識などはどのように取り入れていますか?

小川: UXデザインや HCD関連の新刊はマメにチェックし、購入しています。また産業技術大学院大学の先生やクラスメイトとSNSでつながっていますし、HCD-netやUXリサーチャーのコミュニティもあるので、そこから最新情報を得ていますね。あと社内にサークル活動制度があり、私はHCD、UXに関するサークルを主催しているんです。メンバーは20~30人ほどいて、デザイナーやエンジニア、企画職などが集まっています。そこでもメンバー間で情報をシェアしています。

林: 得た情報を実務で活かすメソッドがあれば、教えてください。

小川: 業務外で少し試してみて、手触りを知っておいて引き出しを増やしていますね。たとえば、過去のデータで新しい分析手法を試してみたり。また、たまにプロボノでUXリサーチの仕事を募集しているので、そういったものに参加して他社の取り組みから学んだりしています。

林: 社内外を柔軟に行き来して試行しているんですね。

小川: やはり業務だけだとできないこともあるので、おもしろそうと思ったら社外の取り組みにも積極的に参加しています。

森田: 今後の展望はいかがでしょうか?

小川: 正直、これまでキャリアを考えずに働いてきました。コーダーからUXリサーチャーになりましたが、決意して転身したのではなく、いつの間にか自分がやっていたことがUXリサーチになっていた、という感じです。周りからは、専門家の認定を持っている探求心のある人、社内に新しい職種を作って道を切り開いている人などと思われているようですが、おもしろそうだと思ったことをふわふわ移動するように働いてきました(笑)。興味あることに取り組んでいれば自然とその立場になると思っているので、これからも社内で求められている役割と興味があることが兼ねられる分野を見つけて動いていきたいですね。

林: 社内転職があるとのことですが、小川さんがその制度を使って別部署に異動するお考えはありますか? それとも、今の専門分野を追求していくとか、UXリサーチを社内に広めていきたい感じでしょうか?

小川: UXリサーチをやりたいというよりも、「ユーザーが困らないものを作りたい」と思っているので、それを叶えるにはUXリサーチ分野を極めるのが一番近道かなと思い、現在はUXリサーチに取り組んでいます。HCDの中でも調査・評価に軸足を置いていますが、いずれは情報設計・サービスデザインの方面にいくかもしれません。自分の興味と状況によって選択できればいいですね。

林: 規模が大きい事業会社だけに、仕事の機会と自分の興味をつなぎあわせやすい環境ですよね。

小川: そうですね。不動産の分野も幅広いですし、最近は社会課題の解決のために不動産・住宅情報以外の分野の事業も展開しています。既存サービスの運用だけでなく、社内起業でゼロから事業を立ち上げる機会も増えているので、さまざまな視点から取り組めるかなと思っています。

本取材はオンラインで実施
本取材はオンラインで実施

二人の帰り道

林: 「明確な目標を設定して、それに向かってキャリアを積み上げる」というアプローチ以上に、小川さんのようなキャリアの歩み方は直接参考になる、励みになる方が多いのでは?と思いました。かくいう私もその一人。今の仕事に丁寧に向き合いながら経験を積み、そこから新たな興味が見えてきたら、それにまた時間を割いて学習し、仕事領域を広げたり軸足をずらしていく。小川さんは、職場の上司や仲間に自分から声をかけて相談したり提案したりしながら、自分の具体的な仕事機会、新しい役割を創り出していますね。自分がやりたいことを、職種や肩書き、専門分野で一言に決め込まず「ユーザーが困らないものを作りたい」というふうに捉えて、時々の市場環境や、自分の職場の事業ステージなどと照合しながら、自分の職能を開放的にとらえているのも素敵だなと思いました。会社が本腰入れていこうと組織編成したタイミングでは、すでに「人間中心デザイン」を修めている、組織より先手打って活動しているさまも実に頼もしく感じました。

森田: 僕は前職(ビジネス・アーキテクツ)の設立メンバーですが、その時点でのメインのスキルセットはマークアップエンジニアだったにも関わらず、最初からプライマリの配属は品質向上室だったりもしたもので、小川さんの、HTMLコーダーから品質管理の部門へ移るキャリアパスというのにちょっと共感みを感じるなどしました。それにしても、品質管理じゃなくて品質戦略部という名称がまたいいですよね。品質を戦略的に取り扱うということが想像できるし、だからこそのユーザーファースト推進グループなのだという、会社が大切にしている方向性さえ名称だけで見えてくるというのが興味深かったです。そしてそこから小川さんが人間中心設計専門家の認定を受けて、現在UXリサーチャーとして活躍されている…という流れ、個人と組織が相互にプラス作用しまくっている感じで、羨ましいなあという気持ちでお話を伺っていました。今後の展望についても、実にフリースタイル的というか、いい意味で力が抜けている感じが素敵でした。僕も結構いい歳になってきたなぁと、時々じっと手を見ていますが、これからも興味と状況に合わせてイイ感じの道を選択していきたいなと思いました。ありがとうございました。

深谷 歩
株式会社 深谷歩事務所
代表取締役
深谷 歩

ソーシャルメディアやブログを活用したコンテンツマーケティング支援として、サイト構築からコンテンツ企画、執筆・制作、広報活動サポートまで幅広く行う。Webメディア、雑誌の執筆に加え、講演活動などの情報発信を行っている。
またフェレット用品を扱うオンラインショップ「Ferretoys」も運営。

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