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ミッション:フィルムを後世に残せ!『国立映画アーカイブ』見学体験記

ミッション:フィルムを後世に残せ!『国立映画アーカイブ』見学体験記

国立映画アーカイブの役割

映画には文化遺産として、また、歴史資料としての価値がありますが、映画フィルムは経年劣化を起こします。そこで、映画を後世に残そうとする活動が世界中に広がっていて、世界各国の映画保存機関が集う国際組織『国際フィルムアーカイブ連盟(FIAF)』には171の機関が参加しています。そして、日本で国立映画機関としてこの活動を行っているのが、『国立映画アーカイブ』です。国立映画アーカイブは、国立近代美術館の映画事業(当時名称:フィルム・ライブラリー事業)に始まり、2018年独立行政法人国立美術館の6番目の館として設立されました。

国立映画アーカイブは、京橋本館と相模原分館からなりますが、今回はフィルムが保存されている相模原分館を取材させていただきました。写真に納まりきらないほどの広大な敷地内に、3つの映画保存棟があります。フィルムは適正な温度と湿度の環境下であれば、100年以上の長期保存が可能だと言われています。ここでは約83,000本の映画フィルムを安全に保存しているほか、映画フィルムの検査やデータの採取、出入庫作業等も行っています。

国立映画アーカイブ 相模原分館
国立映画アーカイブ 相模原分館

相模原分館を訪問

案内していただいたのは、学芸課、映画室の三浦さんです。
実は三浦さん、7月に当社が開催した「映像匠塾2021 デジタルリマスター編」に参加され、それがきっかけで今回の取材をお受けいただきました。

三浦 和己 氏
独立行政法人国立美術館 国立映画アーカイブ
主任研究員
三浦 和己 氏

大学では機械科を卒業し、2000年に株式会社IMAGICA(現:IMAGICAエンタテインメントメディアサービス)に入社、フィルムのデジタル修復を担当していました。2014年に国立映画アーカイブの職員となり、フィルムの保存だけでなく、デジタル保存の調査と実務を担当しています。前職では修復作業をしている側でしたが、今は修復の発注をする側です。

さっそく館内を案内してもらいました。

天井の採光窓
天井の採光窓

映画保存棟Ⅱに続く渡り廊下の天井を見ると、大きさの異なる採光窓がいくつもあります。これは、劇場のスクリーンの画郭なのだそう。確かに映画によって、スクリーンの長辺と短辺の比率はさまざまです。やっぱり映画は劇場のワイドスクリーンで観て没頭したいなぁ、と思いながら歩いていました。

次に、保存棟の外壁に注目してください。
レンガの幅が異なるのですが、なぜだか分かりますか?

壁のレンガの形もバラバラ
壁のレンガの形もバラバラ

あえて大きさを変えるデザインなのかなと思いきや、これ、フィルムの幅なんです。狭いものが35㎜、長いものが70㎜。壁のレンガ1つとっても作った人の想いが込められているのですね。建物の入り口で立派なたたずまいに早くも感嘆の声をあげると、三浦さんが補足してくれました。
「ここはフィルムの倉庫機能を持ちつつも、美術館の分館なのです。よって所々に美術館らしい意匠を散りばめているんです。」

保存棟

いよいよ保存棟の中にお邪魔します。埃があるとフィルムに付着する恐れがあるので、スリッパに履き替えて入ります。
映画フィルムは1コマ1コマの連続で、それが巻かれてロール状になっています。映画フィルムというと直径40cmほどのロールをイメージしますが、その大きさで約20分程度しか記録できないそうです。なので、ロール5本でやっと90分の映画1本ということですね。また、フィルムというと劇映画のイメージが強いかと思いますが、実際は文化・記録映画やニュース映画の方が多いそうです。

入り口の壁に飾られたフィルム
入り口の壁に飾られたフィルム

入口の壁一面に35㎜フィルムが展示されていました。
近づいて良く見てみると、1899年(明治32年)に日本人によって撮影された現存する最古の動画で、国の重要文化財に指定された『紅葉狩』の複製フィルムでした。作品ではなく、映画フィルムに対して指定されています。

保存する前に行われるフィルムの検査

さらに進んでいくと、検査室がありました。フィルムの検査を担当している方に、お話しをお聞きしました。

検査を丁寧に説明していただきました
検査を丁寧に説明していただきました

こちらにあるフィルムの多くは、個人や企業から寄贈されたものです。昔、市町村の図書館で16㎜フィルムの貸し出しをしていたそうですが、それが寄贈されたものもありますし、映画監督の学生時代の作品や戦前のフィルムなども寄贈されるそうです。それらのフィルム1つ1つのコンディションを確認し、管理の為のデータベースを作成します。この作業を「カタロギング」と呼んでおり、海外ではカタロガーという職業もあるそうです。フィルムが入っている缶に記載されたタイトルと、中身のフィルムが異なることもあるため、注意が必要です。また、ネガフィルムの場合は画原版と音原版の2つの原版があるので、それらが揃っているかも確認します。1つのフィルムの調査にかかる時間は、ものによりますが、1時間程。日々、大量のフィルムがトラックで搬入されるため、効率良く作業する為に早送りして検査することもあります。

実際に、フィルムの検査をしている所も見学させていただきました。

たくさんのフィルムを扱う機材
たくさんのフィルムを扱う機材
2連の編集台
2連の編集台

検査室の中には、フィルムを扱う機材がたくさん置いてありました。その中には、フィルムの巻き取り機が2連になっている編集台(ドイツのKEM社製)もあり、これを使用すると、ネガフィルムの画原版と音原版を同時に検査できて、効率的だそうです。

映像はモニターで確認します。昔懐かしい映画ですが、画像や音にも乱れがありました。これがフィルムの傷なのか、実際そのような映像なのかの判断が難しいのです。そして、フィルムがどれくらい褪色しているのかは、チャートで確認しています。6段階のチャートがボードに描写されており、これに照らし合わせ、どのくらい褪色が進んでいるか判断します。また、フィルムの劣化症状の1つに収縮があります。この症状が進むと映写や複製ができなくなってしまうため、収縮具合を目盛りに照らし合わせて判断します。このようにしてフィルムのコンディションを決めていきます。

フィルムを仮止めするテープも見せてもらいました。ビニールテープだと糊がベタベタになり、フィルムに固着してしまうため、マスキングテープを使っていました。これにはアクリル糊が使用されており、糊移りがしないため重宝されているそうです。

ボロボロになってしまったフィルム
ボロボロになってしまったフィルム

フィルムの中には、加水分解され、ボロボロになってしまったものもあります。
こんな風になってしまうのですね。写真のようなフィルムは修復不可能なため、寄贈主に返却しているそうです。

また、古いフィルムからは酢酸ガスが出て、他のフィルムにも伝染してしまいます。空調に酢酸匂を脱臭できるフィルターが入っていますが、それだけでは追い付かず、酢酸ガス吸着フィルター付きの空気清浄機も置いています。

最後に、ネガフィルムとポジフィルムの検査方法の違いを教えてもらいました。ポジフィルムは目で見たままの色で被写体を見ることができるため、確認しやすいのですが、ネガフィルムは色が反転して映るため、特殊なモニターで見て色や被写体を確認するそうです。

フィルム収蔵におけるさまざまな工夫

続いて、フィルムが保存されている場所に案内してもらいます。
通常の2倍ほどの大きさのエレベーターに乗り、地下に降ります。フィルムを積んだカートの運搬に適した、段差のないエレベーターです。

フィルムの劣化を防ぐため、保存庫の中は低温となっています。地下1階は約5度、地下2階は約2度と、冷蔵庫並みに冷やされています。厚手のジャンパー、いわゆるドカジャンを着て、いよいよフィルムを収蔵している部屋に到着しました。

保管庫の中にズラッと並ぶ棚
保管庫の中にズラッと並ぶ棚

フィルムが収蔵されている棚が奥までズラッと並んでいますが、棚と棚の間隔がそれぞれ20cmほど空いています。ボタンを押すと、可動式収納棚が動き、目的の棚の間隔だけが広がってフィルムが取り出せる仕組みです。そして棚が動く際には、棚と棚の間に人が挟まれないよう、メロディーが流れます。選曲の基準は分かりませんが、松任谷由実さんの「春よ来い」でした。保存庫によってメロディーは異なるそうで、LINDBERGの曲もあると聞き、エンタメ感が散りばめられていることに嬉しくなりました。

フィルムが収蔵されている棚

棚の中には、フィルムが取り出しやすいよう、上下に間隔を空けて収納されています。
そしてフィルム缶の蓋は、軽く浮かせるように被せてありました。ビネガーシンドローム*¹が起こった際、フィルムが出した酢酸ガスを、自ら吸い込んでしまうことを防ぐため、あえて密封しないようにしているそうです。

*¹ビネガーシンドローム…フィルムの三酢酸セルロースという成分が空気中の水分と結合すると加水分解が生じ、酢酸ガスが放出され、そのガスがさらに加水分解を加速させるという現象。しだいにフィルム表面にべとつきや白い粉が出る。

フィルム缶の蓋は、軽く浮かせるように被せて

実際に、上映会で使われる15分のフィルムが入った缶を持たせてもらいました。15分の重みは思ったより重く感じました。

ソックフィルター

そして天井には、ソックフィルターという、白い筒状のフィルターが設置されており、ここから冷気を出し、部屋全体を同じ湿度にするよう保っています。除湿機を保存庫内に設置すると、置く場所によって湿度が変わってしまうから使えないのですね。

保存庫は魔法瓶構造になっています。保存庫の周りを囲むように廊下があることで、外気の影響を受けにくく、温湿度の差による結露を防ぐことができるのです。また、フィルムを持ち出す際は、各階にある「ならし部屋」に数日置き、外気温に慣らしていく、という徹底ぶりには脱帽です。

保存庫の周りの廊下
保存庫の周りの廊下

保存庫の見学が終わり、地下1階の廊下を歩いている途中で、三浦さんからクイズが出されました。
「各階フロアの壁の色は覚えていますか?地下1階は緑、地下2階は青でしたが、1階は何色でしたでしょうか?」

記憶力には自信が無いので法則を考えるべく、緑・青ときたら……

「赤!」

「正解!三原色であるRGBを壁の色で表現しているんです」

さすが国立のフィルムアーカイブ、期待を裏切らないですね。大人の社会科見学、楽しい!

重要文化財に指定されたフィルムの保存棟

可燃性フィルムの保存庫
可燃性フィルムの保存庫
可燃性フィルムの保存庫と博物館の間の壁
可燃性フィルムの保存庫と博物館の間の壁

可燃性フィルムは、重要文化財に指定されているものもありますが、ランプの熱でも燃えてしまいます。フィルムそのものが燃料なので、一度燃え出すと消すことができません。映画『ニュー・シネマ・パラダイス』でもフィルムの発火シーンがありましたね。戦前の映画は、ほとんどが可燃性フィルムで作られていたそうです。

右の写真にある白い分厚い壁は、防火壁。
隣には相模原市立博物館がありますし、被害を最小限に抑えるための対策ですね。また、保存庫を密封すると万が一発火した際に爆発してしまうので、地下に爆風を逃がす通路があるそうです。これほどの危険性を聞くと、可燃性フィルムは外部の危険物倉庫に預けた方が良いのでは、と思ってしまいますが、重要文化財に指定された貴重なフィルムを最適な環境で保存するために、このような施設が必要なのです。

今後の課題と期待

一通り見学を終え、三浦さんからコメントをいただきました。

フィルムアーカイブというと現役を退いたフィルムが終の棲家としてやって来るイメージがあるかもしれませんが、撮影用メディアとしては現役であり、国際映画祭の中でもフィルム作品が多くノミネートされています。それに、フィルムを修復するには最先端のデジタル技術が必要だったりします。その意味でも、ぜひ若い方にも関心を持っていただきたい領域です。

また、フィルムをデジタル化すれば良いのではと考える方もいるかもしれませんが、デジタル保存にはフィルム保存以上に課題が多いことも知られてきました。マイグレーション、つまり媒体が古くなったら、新しい媒体に移行しなければならないからです。100年以上フォーマットを堅持するフィルムは、その点において優れた保存用媒体なのです。しかし、製作段階においてフィルムに触れる機会が激減しているため、後進育成が課題です。フィルムラバーの方は多いと思いますので、フィルムを後世に残すこのような取り組みに、一人でも多くの方に興味を持っていただけたら嬉しいです!

相模原分館は一般公開されておりませんが、京橋にある本館ではさまざまな作品が上映されています。ご興味のある方は、公式ホームページをご確認の上、ぜひ足を運んでみてください。

国立映画アーカイブ本館アクセスはこちら
〒104-0031東京都中央区京橋3-7-6

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青木 彩子
株式会社イマジカデジタルスケープ
ビジュアルプロモーション部 映像ブランディンググループ
青木 彩子

2005年入社以来、映像業界に向けた人材コンサルティングサービスに携わり、放送局、ポストプロダクション、映像・CG制作会社を始め、100社を超えるクライアントの営業窓口を担当し、約300名の転職希望者の支援を行う。
派遣スタッフの社員登用支援や、新卒クリエイターの採用活動にも携わり、直近では映像クリエイター向けのイベント・セミナー企画を担っている。

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