映画のように音楽を紡ぐ。sasakure.UKインタビュー! ゲーム、文学、男声合唱に理系頭脳!sasakure.UKの創作世界を解剖

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映画のように音楽を紡ぐ。sasakure.UKインタビュー! ゲーム、文学、男声合唱に理系頭脳!sasakure.UKの創作世界を解剖

映画のように音楽を紡ぐ。sasakure.UKインタビュー! ゲーム、文学、男声合唱に理系頭脳!sasakure.UKの創作世界を解剖

sasakure.UK:福島生まれ。作詞、作曲、編曲の全てをこなすサウンド・プロデューサー。幼少の頃、ゲーム機の奏でる音楽に多大な影響を受けて育つ。学生時代には男声合唱を学びながら、詩、文学作品に触れ、この頃から独学で創作活動を開始。時代を越えて継承される寓話のような歌詞と、緻密に構成された深く温かみのあるサウンドを融合させることで唯一無二の音楽性を確立。また、楽曲のコンセプトや世界観をもとに自らイラストや映像の制作も手掛け、そのマルチな才能は各方面で高く評価されている。

小学校に上がる前にゲームミュージックに目覚め、高校生の時に携帯電話で作曲を始める。男子校では男声合唱をたしなみ、大学は理系に進学するもミュージシャンとして「ボーカロイドは終末鳥の夢を見るか?」でメジャーデビュー。作る楽曲は文学の香りが漂い、背景には壮大な物語の存在を感じさせる独自の世界・・・。そんなsasakure.UKに、ニコニコ動画からのデビューから、まるで映画制作のような楽曲の作り方、インスピレーションの素などをインタビューした!

理系の大学からニコ動デビュー

sasakure.UK「tig-hug feat. GUMI」
dir: YumaSaito|ill: リサナカムラ|m: sasakure.UK

――ゲームミュージックで音楽に目覚めたそうですが、好きなゲームは何ですか?

河津秋敏による「SAGA」シリーズ「魔界塔士Sa・Ga」、「ロマンシング サガ -Minstrel Song-」、「サガフロンティア」が好きです。少ない言葉で相関を結びつける、それがすごく自分の好みに合うというか。時間を見つけては何度もプレイしてしまうんです。自分は“ゲーム世代”って言われる世代で、小学校に上がる前にファミコンやゲームボーイ、ディスクシステムが流行り始めたんです。ゲームの音楽って商業的に流通している曲とは、音も違うし、テンポ感も違っていて、すっかり虜になりました。

――ユニークなバックグランドですが、ゲーム音楽から一転して肉声の男声合唱を始めたのが中でも興味深いです。

男子校だったので、そこで今しか出来ないことをやろうと思っていました。偶然男声合唱を聴いて凄く面白いなって。自分は、YMOや、先日「飛ばしていくよ」でプロデュースをさせてもらった矢野顕子さんが好きで、よく聞いていたのですが、恐らく、根底ではそういったポップスとはまた違うものに触れたかったのかもって分析しています。

あとは、ジャンルというより、個性的な楽曲が好きなんです。拍子が突然変わったり、音色が独特だったり、歌声が特徴的だったり、今考えるとそういうところに反応していたんですよね。男声合唱も、実際独特な色を持った楽曲に溢れているんです。4拍子で進行していなかったり、ハモってないように思えてちゃんとハモっていたりして、「あぁ、和音って面白いな」って気付いたり。作曲する中で、複雑な和音や、展開を多用するようになったのも、そこから来ているんだと思います。

人生で初めて手に入れた携帯に入っていたアプリでその頃作曲を始めるんですが、合唱も4和音だから、ハーモニーをそのままアプリにコンバートすることも出来て都合も良かった。因みに、チップチューンも、3和音+ノイズの1和音=4和音で構成されるので、携帯で自分の好きな音楽を再現しやすかったんです。

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sasakure.UK氏の創作現場

――大学は理系に進学しつつも、自身のホームページやニコニコ動画で楽曲を発表しミュージシャンとしてメジャーデビューされましたが、どういうきっかけで音楽で食べていこうと決心されたんですか?

大学生の時、色々ちょっと人生で挫折する事があって、明日を生きる活力を失っていたんです。悶々としていた日々の中で、ただ一つだけ、毎日続けていた事があった。それが作曲だったんです。その時に、もしかすると音楽は仕事に出来るのかもしれないと思ったんです。

学校では、理系で工学系を専攻していて、素材の強度を調べる材料力学といった音楽とは少し離れた分野を研究していたんです。もともと大学院に進学する予定だったので、「すみません。音楽を仕事にしていきたいんです」って教授に頭を下げに行ったりして、自分は夢物語みたいな仕事に就こうとしていた。当時周りはやはり“理系”というか、真面目な学生が多くて、自分の進路について冷やかされたことも多々ありましたが、今となっては良い思い出、でしょうか。不思議な世界に飛び込んだな、というのはありますね。

これまで感覚で作っていたのですが、音楽の道を志すことになってから、それらの感覚が理論と合っているのかなどをロジカルに勉強していきました。理系脳が根底にあるので、どうしても理屈から知ろうとしちゃうクセがあるんですよ(笑)。

――作られている音楽からはとても文学の香りがするので理系というのが意外でした。

良かった(笑)。理屈臭くなっちゃうんですよね。なんでそこにこのキャラクターが居るんだろう?なぜここにこの歌が鳴っているんだろう?とか。理由があると芯がしっかりするんですけど、純粋にそれを心地良いと感じるかどうかは別の問題ですからね。まずは、心地良いというのが根底にないと。理論を知っている人が陥りやすい勘違いだと思うんです。理論は整然としているけど、そもそもメロディーが格好良くないとか。好きになっちゃった人は好きで、理由があって好きになるわけじゃないってことですよね。でも、こうやって思考をめぐらせる話自体がそもそも理屈っぽいですね・・・。う~む(笑)。

そうやって考えながら作った曲をネットで発表することを続けていました。その後、ニコニコ動画が流行した時期にVOCALOIDをはじめとした様々な楽曲を投稿していったら、徐々に沢山の方に見て貰えるようになっていって。動画に即座にレスポンスが付くのは、当時はとても画期的でしたから、夢中になって制作していましたね。そうこうしているうちに、今の事務所からありがたいお話を頂くようになりました。VOCALOIDを用いた楽曲を発表するようになったのも、ニコニコ動画の存在があったからだと思います。

――VOCALOIDの登場はsasakure.UKさんにとって何をもたらしたのでしょう?

VOCALOIDは、レコーディングをする必要なく音楽を作れることが斬新で、人が歌ってないという世界観が面白くて、しかもこれまでの技術とは比べものにならないほど完成度が高くて、なんというか新しい時代の到来を感じました。ちょうど自分がインストで活動していて新しいことがしたいと沸々思っていたタイミングとも重なった。新しい世界観を描けるんじゃないかって。2007年の12月頃でしたね。

自分は、変拍子を多用したり、アレンジにこだわって少し難しい音楽を作っているという感覚があったんですが、それが受け入れられる土壌がニコニコ動画にあったんですよね。自由に、好きな音楽を作っていいんだってことにも可能性を感じたんです。

「摩訶摩謌モノモノシー」には詳細なバックストーリーが存在した!

sasakure.UK「摩訶摩謌モノモノシー」

m/original character:sasakure.UK|original character de: リサナカムラ|artwork: 佐藤おどり|booklet illustration: にほへ
(C)2014 U/M/A/A Inc. (C)INTERNET Co., Ltd. (C)1st PLACE Co Ltd. | IA PROJECT (C)Sen/Oyamano Mayo/TWINDRILL | Kasane Teto

稀代のサウンドテラーsasakure.UKが、“終末”、“寓話”、“未来”を経て開闢(かいびゃく)する新奇譚。摩訶不思議な世界観を音で紡ぎだすsasakure.UKが考案したストーリーを元に、作中の登場人物や出来事をモチーフとした音で綴るプロジェクト。VOCALOID、ゲストボーカリストにlasahを迎え、機械と人間を織り交ぜて描く楽曲や、サウンドトラックのようなインスト曲で構成された全8曲入りのミニアルバム。

――最新ミニアルバム「摩訶摩謌モノモノシー」からのMV「tig-hug feat.GUMI」ですが、まずは楽曲のバックストーリーを教えてください。

中学生の頃の自分の想いを照らし合わせて作った楽曲なんです。登場人物もみんな中学生の男子や女子に、彼らを取り巻く環境だったりします。大きなテーマは、“人間と異形なものがどう共存していくのか、どう暮らしていくか”というものです。

――どのような中学生の頃の想いとリンクしているんですか?

日記を付けているんです。今でも「今日は書けるな」って思ったら、延々とお経のように書いています(笑)。想いや詩だったり、今日の出来事だったり、ただただ、思っていることをずーっと書いていくんです。中学の頃の日記を読み返すと、「こんなことを考えていたんだ。こんなくだらないことを考えていたんだ~」って再確認出来るし、あの時の気持ちを思い出せるので、楽曲を作るときその感覚を利用したりするんです。その年頃って一番多感だし、その時期に悩んで乗り越えてきたデリケートな部分をテーマにすると心を揺さぶるモノが出来るというか。例えば、プレゼント1つにしても、数日間悩んでいる自分がいたり、けんかした友達とどうやって仲直りしようかってくすっぶっていたり、毎日、ネガティブな詩がその期間綴られていて、今ならその感覚をみずみずしく掘り起こせるだろうと。そういった要素を「摩訶摩謌モノモノシー」では大きく取り込んで、中学生だった自分と向き合ったアルバムなんですね。

――そういう感覚を反映した、女の子が主人公の物語ですね。

「tig-hug」では“イチジク”という女の子が主人公になっていて、前はすごく元気だったけど、ある事件を境に人柄が変わってしまったんです。上手くいかない自分に納得がいかない様子で、モヤモヤと生活をしている。でも、それを顔に出すことが出来ないジレンマを抱えている女の子の話です。

――それにより、周りとの関係性も変わってくるわけですね。

途中から登場するのが、あの世界で“妖禍子(アヤカシ)”って呼ばれる不思議な生命体です。イチジクちゃんは、アヤカシ達に近いところまで行っていて、世界を共有しているんだけれども、彼女はアヤカシや、取り巻くものに嫌悪感を抱いていて、夕方に街を徘徊してはそういう存在達をバットで壊していく。アヤカシが、自分自身に対する理不尽さからくるストレスをぶちまける先なんですね。まだ、この話には登場してないけど、過去の思い出からくる暴力が背景に横たわっています。

――“人とアヤカシの共存”というテーマは、この楽曲に限らず根底にはあるように感じます。

そうですね。お互いの存在を認め合うことが出来れば理想だなって思って描いています。今回VOCALOIDにGUMIを起用したのも、“人だけれども人ではないという存在”というテーマにピッタリな、人間になり切れない存在だからです。

sasakure.UK流MVの作り方

映画のように音楽を紡ぐ。sasakure.UKインタビュー! ゲーム、文学、男声合唱に理系頭脳!sasakure.UKの創作世界を解剖

sasakure.UK氏の創作ノートより

――楽曲制作の時点でここまでしっかり世界観が練られていますが、MVにする際は映像ディレクターとどういうやり取りで進んで行くんですか?

まず、設定を元に、自分でコンテに割り振っていくんです。ここのタイミングで、このキャラのアップになって、ここで腕が落ちるというのを描いて、ディレクターのYumaSaitoさん、イラストを描いてもらったリサナカムラさんに渡して、彼らから提案をもらったりしながらブラッシュアップをしていきます。基本的に、“これはこういう話です”という一本の芯を分かりやすくして、伏線を張ったり、歌詞のワードを使って肉付けしていきます。

――共同監督といっても過言ではないですね。

楽曲とMVに共通するプロット、イメージやキャラクターの雰囲気、色彩はある程度決めちゃいます。MVの場合、それらを元に絵コンテを作って、打ち合せはそれを持参すると。登場人物の相関図や、物語の舞台となる街のマップも最初に作っています。ゆうまさんは、VJエフェクト的なものだったり、イラストをフィーチャーするのが得意だし、異空間を表現するのも上手いんです。その感性はこのMVでも発揮頂けましたね。

――まるで映画制作だったり、長編小説のように、背景まで作り込んでいるんですね。

歌詞を描く時にマップがないと、整合性がとれないんですよね。

――その辺は理系の匂いを感じますね(笑)。

ここに神社があって、この移動距離だから成立するなって(笑)。多分、ゲーム好き、というのが大きいんですよね。ロールプレイングゲームの設定資料集を見るのが大好きだったんです。裏設定資料集まで漁って、ゲームの中では一度も登場しないけど、その世界に存在しているキャラクターの資料を読みながら、ゲーム友達と濃ゆい話をするのがすごい好きです。

ダイナミックな展開とツールの関係

映画のように音楽を紡ぐ。sasakure.UKインタビュー! ゲーム、文学、男声合唱に理系頭脳!sasakure.UKの創作世界を解剖

sasakure.UK氏が愛用する小型シンセサイザーQY100

――sasakure.UKさんの特徴でもあると思うんですが、楽曲がダイナミックな展開、まるでサスペンス映画で「ええ、こいつが犯人!?」的に、ガラッと変拍子になりますね。

ガラッと変えるのは、狙っていますね。映像にも出ていると思いますが、この雰囲気をどこまで引っ張って、伏線を仕込んでおいて、サビにぶつけていく。音楽と映像って同じところがあって、感覚で新しいものを伝えていかなくちゃならない時に、斬新さや、色々な要素があるんですけど、Aメロ、Bメロで持ってきたものを、サビでさらに新しいもので表現する、というのは自分が最近やってることだったりします。

――具体的にはどういうやり方なんですか?

シーケンサーにセクションごとにマーカーを付けて、展開させる楽器をメモっていきます。“ピアノをジグザグに鳴らす”とか“ピコピコ少ない”とか、そういうメモをテキストで書きます。

シーケンサーはMOTU Digital PerformerというDAWを使っています。で、サンプラーはNative Instruments Maschineです。4×4のボタンで音を鳴らすもので、パターン切り替えながらを叩いてリズムトラックやメロディーを作ったりしています。他には、microKORGのボコーダー機能やQY100を愛用しています。QY100は持ち運べるサイズのシーケンサーで、僕が初めて手に取ったシーケンサーです。作曲を始めた15年前は、だいぶ斬新なものでした。音が気に入っていてパソコンでやる前はずっとそれで作っていました。

今も古いシンセの音を入れたりと使っています。QYを知り尽くしているので、どのバンクにどの音色が入っているのか、というのを把握しているんです。ほぼ一心同体。そういう音色をちょっとずつ入れているんですよ。最近はソフトシンセでみんな作曲するので、そういうアナログ的なものを意識して取り入れています。

今後のビジョン

――映画音楽というのは今後視野に入れていますか?

挑戦してみたいジャンルではありますね。もともとゲームのサウンドトラックとか聞くのが好きで、そういうものに携われたら幸せですね。映像に音楽を乗せる、というのが自分の中でやりたいことの一つなので。

――全体の制作活動における目標は?

一つの大きなお話を作りたいです。この話も一つの大きいお話で繋がっていて、自分の楽曲を一つ大きなストーリーを使って結ぶことが出来たら面白いだろうなって考えています。

――日記の他にインスピレーションのために日常生活でやっていることってありますか?

散策が好きです。新しい街を散策して、新しいお店に入るんです。喫茶店、雑貨屋、おいしいお店。その3つがメインです。ここ3年くらいやってますね。後は、テレコムセンターの平日の展望台は人が居なくてお勧めです。平日は、都会の生きた廃墟みたいになっているんです。でも、大体美味しいお店のある街を散策するのが好きですね。最近は食べすぎで太ってしまったので、ヘルシーなものを食べる努力中(笑)。大好きなラーメン+ちょっとヘルシーなものを(笑)。

――逆に増えていませんか(笑)?ありがとうございました。

写真: 永友啓美

To Creator編集部
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