バンダイナムコアミューズメント×ピクス対談 唯一無二のアミューズメント施設「MAZARIA」の映像演出はいかにして誕生したのか~02:P.I.C.S. TECHチームが創り出す新時代の映像コンテンツとは? 後編~
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バンダイナムコアミューズメント×ピクス対談 唯一無二のアミューズメント施設「MAZARIA」の映像演出はいかにして誕生したのか~02:P.I.C.S. TECHチームが創り出す新時代の映像コンテンツとは? 後編~

株式会社ピクスの中でもインタラクション性の高い映像作品、空間設計の制作に特化したチーム、P.I.C.S. TECH。そのP.I.C.S. TECHが昨年手がけたプロジェクトの中には、2019年7月、池袋にオープンしたアミューズメント施設、「MAZARIA」での映像演出があります。「アニメとゲームに入る場所」をコンセプトに、バンダイナムコアミューズメントが作り上げた空間にP.I.C.S. TECHはどのように関わったのか。前編でインタビューに応じていただいたP.I.C.S. TECHの上野陸氏と、MAZARIA誕生のキーマン、バンダイナムコアミューズメントの小山順一朗氏、髙橋雄二氏にお話を伺いました。

小山順一朗氏
株式会社バンダイナムコアミューズメント ニュークリエイティブディビジョン クリエイティブフェロー。
メカエンジニアとして1990年に株式会社ナムコ(現 バンダイナムコアミューズメント)に入社し、1990年代には『アルペンレーサー』、『VIRTUALITY』など数多くの体感ゲームに携わる。2000年代には『アイドルマスター』や『機動戦士ガンダム 戦場の絆』、『湾岸MIDNIGHT』といったアーケードゲームの企画起ち上げに携わり、2015年からはVR技術でエンターテインメントの未体験領域を開拓するプロジェクト「Project i Can」を担当し「コヤ所長」として活躍中。

髙橋雄二氏
株式会社バンダイナムコアミューズメント プロダクトビジネスカンパニープロデュースディビジョンプロデュース部 プロデュース3課マネージャー。 数社にて家庭用ゲーム、業務用音楽ゲーム開発等に携わったのち、2004年に株式会社ナムコ(現 バンダイナムコアミューズメント)中途入社。『機動戦士ガンダム 戦場の絆』の開発・運営に携わり、2019年からはキッズ、ファミリー向けアミューズメントマシンプロデュースチームのマネージャーを務めている。

上野陸氏
P.I.C.S. TECHに所属するエンジニア/テクニカルディレクター。MAZARIAでは施設中央の吹き抜けで展開されている、『パックマンバトルロイヤル for MAZARIA』を制作。
VR ZONE SHINJUKUから始まった、ピクスとバンダイナムコアミューズメントの取り組み
――まずはピクスがMAZARIAに関わるようになったきっかけを教えてください。


実はピクスの上野さんと一緒に仕事をさせてもらうのはMAZARIAが初めてではなく、VR ZONE SHINJUKUからのお付き合いなんです。そこで作ってもらったアクティビティ(『ナイアガラドロップ』、『トラップクライミング』)が本当に素晴らしくて。あれは一緒に海老名の(バンダイナムコアミューズメントの)倉庫に一緒に行って、8メートルぐらいある滑り台を上野さんに見せて、「これを使ってVR ZONE SHINJUKUでなにかやりたい」と相談するところから始まりましたよね?


そうですね。『ナイアガラドロップ』、『トラップクライミング』は最初のアイデア出しから関わらせてもらって、最初は一週間ぐらいずっと倉庫に通って、いろいろな映像を投影して、最終的にボルダリングと大人のすべり台がテーマになることが決まりました。お客さんの位置にあわせてスモークやミストを出すといった実物部分のエフェクトや、映像的な演出も担当させてもらいました。


『ナイアガラドロップ』も映像の演出は、岩が落ちてきたりマグマが迫ってきたり、たまに謎のひよこが大量に降ってきたりだとか、けっこう遊び心のある感じでしたよね。お客さまが食事をするスペースの近くに置いたこともあって、見ている分にはマンガに出てくるようなお金持ちの気分にもなれる感じで(笑)。最初はボルダリングの方(『トラップクライミング』)をMAZARIAにも持っていきたかったんだけど……。


プロジェクションマッピングを使って何かをやろうと決まっていたMAZARIAの吹き抜けが特殊で、窓枠があったり、ガーゴイルの石像みたいなオブジェがくっついていたりして、ちょっと厳しかったんですよね…。


あと、テーマ性を持った施設はその場所を象徴するようなモニュメントがあると来てくれたお客さまを世界観に引き込みやすくなる。じゃあウチの会社の象徴ともいえるキャラクターを使ったほうがいいよね、そしてピクスさんと一緒にやるなら、ただ見るだけじゃなくて遊べるものにした方がいいよね、という感じで考えているうちに、そういえば『パックマンバトルロイヤル』っていうタイトルがあるのを思い出しまして(笑)。


パックマンに決まる前は『ディグダグ』の映像とボルダリングをあわせたアクティビティを作る案なんかもありましたよね。


でも将来的なことも考えると、MAZARIAの吹き抜けは巨大なスクリーンでゲームを遊んだり、大会を観戦できるスペースにもしたいね。ということになりまして、それならば『パックマン』が一番向いているという結論になりました。もともと『パックマンバトルロイヤル』はアメリカ向けに作ったタイトルで、日本国内では新鮮味があったし、老若男女遊べる内容だったので、いろいろな層のお客さまがやってくるMAZARIA向きかなと。とはいえ決まってからも大変でしたよね、主に髙橋が。


筐体自体は倉庫に眠っているものをわりと手早く見つけ出せたんですけど、開発当時には『パックマンバトルロイヤル』のプロジェクトチームはとっくに解散していまして。だからゲームの内容は一切いじれないことがわかりました(笑)。
――元はモニター内で表示していたゲームを、そこからどうやってプロジェクションマッピングで遊べるアクティビティに仕上げられたのでしょうか?


ちょっと回りくどいやり方ではあったのですが、パックマンがどの位置にいるのか、餌を食べたのかどうか、今画面にはどういう色が表示されているのかといった、ゲーム画面の情報を常に解析しながら、プロジェクションマッピング上、壁面にエフェクトを出して演出するという方式にしました。


結果的にピクスさんにすべておまかせするような感じになってしまったのですが、できあがったものはイメージ通りでした。


時間もなかったですよね。タイトなスケジュールの中、素晴らしいものを作ってもらえたと思います。
MAZARIAを通じて感じた、両者の尊敬ポイントとは?
――VR ZONE SHINJUKU、MAZARIAでの経験を経て、お互いの仕事ぶりでここは尊敬できる、と思った点があれば教えてください。


一番驚いたのは、企画がまだ固まっていない状態で「こういうイメージにしたい」って漠然とした状態で相談しても、「それってこういうことですよね?」って返ってくる答えが、全部大正解だったこと (笑)。時間もない中で、こちらの要望を拾って形にしてくれる能力というのが非常に高かった。さらにプラスアルファで、僕たちは考えていなかったことまで提案として必ず混ぜて返してくれました。
――プラスアルファといえば、『パックマンバトルロイヤル for MAZARIA』の両サイドに表示される映像は、元のアーケード版にはなかったものですよね?


そうですね。あそこはイチから僕が作りました。ゲームプレイ中に順番を待っている人もちょっとしたインタラクションのある映像で遊べると楽しいかなと思って。


他にもいろいろ提案をしていただいていて、そこまでやっちゃうとオープンまでに絶対完成しない、やめといたほうがいいですよってこっちが心配しちゃうぐらいでした(笑)。「ここはどうしたらいいのか?」っていうような受け身の質問もなくて、「こうしたい」だとか、「こうした方がもっとよくなるんじゃないか」っていう提案ばかりだったので、非常に楽しく仕事ができました。


こちら(ピクス)としては、我々のそういう提案を実現させてくれる、懐の広さをすごく感じましたね。パックマンみたいなひとつのゲームを超えたような存在感があるコンテンツには強い世界観があるから、そこを汲み取りながら企画を提案するのはかなり楽しかったです。あとはコヤ所長(小山さん)から聞いたMAZARIA全体のコンセプトを絵で見せてもらったことで、イメージが固まりましたね。


いわゆるテーマパークって文字通りテーマがないと、お客さまが一つにならないんですよね。日本の場合だと、どのテーマパークでも、メインモニュメントやアトラクションなどを見ると、子供も女の子もおじいちゃんも同じ気持ちになる(笑)。童心こそ正義っていうじゃないですか。我々の場合は、アニメとゲームの中に入ってロールプレイすることが正義。MAZARIAに来たお客さまが2次元と3次元の狭間にいるみたいに感じてもらうために、入口の映像、ウォールマザリア、はじまりの部屋という空間を設けています。これも作ってもらったのはピクスさんなんですけど、最初に浮かんだアイデア、「心の鎧を脱がせるために心を洗ってあげましょう」を伝えたら、すごく良いものができました。


小山の言葉だけだと、最初は自分も含めてよくわからなかったですけどね「は?」って(笑)。


ウォールマザリアやはじまりの部屋に関しては僕は参加していないんですけど、ウォールマザリアを担当したメンバーはもともとすごくゲームが好きで、とても楽しんで作ってましたね。ドット絵がむちゃくちゃ良いですよね。


パックマンみたいなゲームのキャラクターには元々のドット絵がありますけど、エヴァンゲリオンやゴジラはイチから作ってこのクオリティですからね。


版権ものということで守るべきレギュレーションはあったんですけど、そこは完璧に守りつつ作ってもらえたので、厳しくチェックされるということもなかったですし。本当にすごいなって思います。
バンダイナムコアミューズメントとピクスが考える、映像表現の未来
――P.I.C.S. TECHのプロジェクションマッピングの技術を使って、『パックマンバトルロイヤル』のように復刻させたいゲームはありますか?


そりゃあいっぱいありますよ。皆さんが好きかどうかは置いといて(笑)、個人的にはさっき話しに出た『ディグダグ』ですね。あの壁を掘っていくっていうのはプロジェクションマッピングで見てみたい。


MAZARIAの吹き抜けの壁面は下まで使いたいですよね、あの縦長の空間を全部使えれば、『ミスタードリラー』なんかも再現できるでしょうし。でも1番やりたいのは建物全部をプロジェクションマッピングでやりたい!


それはヤバいっすね。(仕事として考えると)恐ろしい(笑)。


逃げた方がいいですよ(笑)。


『マリオカートアーケードグランプリ』のコースまでプロジェクションマッピングで作ったり、ゴジラやエヴァンゲリオンの世界を丸ごと描いて、みんなで逃げたりしたい。施設丸ごとプロジェクションマッピングで覆いたいぐらいですよ(笑)。
――本日はありがとうございました。最後に小山さん、髙橋さんから、上野さんのような若手クリエイターに向けてメッセージをいただけますでしょうか。


上野さんと仕事をさせてもらって感じたのは、「全く諦めない、やばい状況も楽しんじゃう」のは強いなということ。そこが仕事をしていて気持ちよかったし、やっぱりやれない理由を一番最初に言いがちじゃないですか。そうじゃなくてそこを諦めず、楽しんで達成していくっていうところを意識して、クリエイティブに勤しんでいただければなと思います。


最近は一般消費財の市場では、「商品にはカスタマーエンゲージメント」が大切だと言われてます。でも我々の作っているもの、ゲームやVR、プロジェクションマッピングを使った体験って、商品っていうよりも、「作品」って呼ばれますよね? で、商品と作品の違いってなんだろうって考えると、作品っていわれるものには、そこにファンがついています。作品に共感するっていう言葉は自然ですが、商品に共感するってマーケティング用語っぽい(笑)。作品に対するクリエイティブとは、より多くのファンの共感を呼び起こすための知的活動だと思います。そして、そこにはものすごいビジネスチャンスも眠っているはずなので、ゲームやアートとかだけじゃなくて、いろんな所でクリエイティブを発揮するチャンスを逃さず、いろいろな世界に飛び出してみたらどうでしょうと思います、はい。
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