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観客を魅了するeスポーツの新たな映像演出方法 ~後編~

観客を魅了するeスポーツの新たな映像演出方法 ~後編~

前編では、esports映像の演出についてお伝えしましたが、後編では日々発展するesports映像の進化についてお伝えしていきます。

eスポーツ映像の驚くべき進化

前回esports映像がブロードキャストグラフィックスの手法を取り入れ、この10年で飛躍的に進化を見せるといったご紹介をしました。
飛躍のきっかけはいくつか理由がありますが、中でも年々拡大し続けるesportsイベントの大会規模が大きな要素として存在しました。また、YouTubeやTwitchといったワールドワイドに展開する動画配信サービスがライブ配信サービスを開始したのもこのタイミングとうまく重なります。

特に、Riot Games社が主催するLeague of Legendsというゲームタイトルにおける esports大会は、その進化の過程を垣間見ることができます。
「Worlds」と呼ばれるLeague of Legends World Championshipでのオープニングセレモニーにおける映像演出については特筆すべきものがあり、そのまま esports映像の進化を表していると言っても過言ではありません。

では実際にそのWorldsの映像を年代順に追いながら、 esports映像がどんな進化をしていったのか見てみましょう。

esports大会開催マップ

※クリックすると拡大表示されます。

WCG 2010

まず10年前の esportsイベントがどんな雰囲気だったのか?
WCG 2010での映像を見てみます。

WCGはWorld Cyber Games(ワールドサイバーゲームズ)の略称で2000年 esports黎明期から開催される国際的な esports大会で、日本人選手も開催初期から多く参加しており、いくつものタイトルを獲得しています。

League of Legends Channel参照
※クリックすると動画が始まります

オリンピックのような形式で開催され、さまざまな国からエントリーされたプレーヤー達による国際 esports大会です。東京ビックサイトで開催されるゲーム関連の展示会のような雰囲気で、ファン同士のコミュニティを中心としたイベントの雰囲気が見て取れます。この翌年Riot Games社は自社開催によるLeague of Legendsのリーグをはじめようと試みます。

第1回World Championship

LoL Esports Channel参照
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初のWorld Championshipはスウェーデンのヨンショーピング(Jonkoping)市にあるエルミア(Elmia)で第1回(Season 1)のシーズン1大会が開催されます。この時はまだWorld Championshipという名前は付いておらず"Season One $100,000 Championship"というタイトルでの開催でした。
エルミアというのはスウェーデンの幕張メッセのような展示会場の名前ですが、ゲームに詳しい方であれば、DreamHack(スウェーデンの世界最大LANパーティー)の会場だとピンと来るかもしれません。

解説しているのは、Riot Games社のDavid TurleyとRivington "RivingtonThe3rd" Bisland III(サード)です。Rivington Bisland IIIは元々スーパーマーケットに勤める傍らWorld Cyber Gamesなどでゲーム実況をしていましたが、2011年にRiot Games社に移りちょうどその年からWorldsが開催されます。初の大会は参加チームが8チーム、賞金プールは10万ドル程でした。最終的にはFnaticが優勝し、優勝賞金5万ドルを獲得します。

余談はさておき、一見よくある普通のイベント大会がストリーミング中継されている感じに見えます。実際にPCを5台ずつ並べた机を向かい合わせに置いただけの、地下室のような小さな会場でWorldsの歴史がスタートします。
映像的には固定カメラによる解説者のショット、ゲームパート(INGAME映像と呼ばれます)ではマウスでゲーム進行を追いつつゲーム画面を転換しながら解説している姿が見られ、時折プレーヤーや周りの様子が左下にPinP(ピクチャインピクチャー)*¹で映し出される、といった形です。

*¹…ひとつの画面の隅などに小さく別の画面の表示領域を設け、それによって両方の画面を同時に表示させておけるようにする表示法

League of Legends World Championship 2013(Season3)

その2年後。
League of Legends World Championship 2013(Season3)です。

リーグ・オブ・レジェンズ Channel参照
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大会場での壮大なオープニング・セレモニーで大会が始まり、数年でかなりの映像演出の進化を遂げています。この年になると大会はDreamHackとは独立しており、ファイナル会場はロサンゼルスのステイプルズ・センターとなりました。
ステイプルズ・センターといえばグラミー賞の会場として有名ですが、2万人の収容が可能で、2011年の初回大会から考えると想像を超えた大規模開催です。会場のステージ上に3ブロックに分割設置された連動大型スクリーン。左右に5分割スクリーンが配置され各チーム5名のプレーヤーが選択したゲームキャラクターが映し出されます。中央スクリーンにはINGAME*²映像や解説映像が会場に向けて展開、高度な映像切り替えが行われます。

ステージスクリーンに投影される大会イメージ映像とエフェクト映像を背景に、ハリウッド交響楽団(HSO)が奏でる荘厳な演奏とシンクロさせながら、The Crystal Methodによるテクノプレイが連動する様は圧巻です。HSOはプログラミングされたビジュアルメディアスコアによる演奏を得意としている楽団で、映像と同期したライブパフォーマンスは世界的に有名です。 esportsの持つイメージとの相性も良くダイナミックにオープニングを演出しています。The Crystal Methodのプレイも素晴らしい限りです。

*²…実際にプレイしている画面

下記はこの大会のファイナル全体の動画ですが、ゲームパートでの映像演出にも変化がみられます。

LoL Esports Channel参照
※長尺なので中程まで先送りでご覧ください

このゲームは敵陣に攻め込むために3本の道を通ります(トップレーン、ミッドレーン、ボットレーン)。両チーム合わせて10人のプレーヤーが戦略、戦術を駆使し、この3本のレーンを攻防しつつ戦いを繰り広げる形です。そのため、ゲーム解説には複数個所で同時平行して行われる戦いを、画面切り替えを行いながら解説する必要があり、初回大会でもマウスで戦況を追って解説している姿が見られました。

今回ゲーム中の映像をよく見てみてみると、解説中にリアルタイムで進行するゲーム映像が瞬時に違う場所で戦っている場面に切り替わっています。第1回大会では1台のPCで解説しながらマウスで追っていたゲーム進行映像が、複数台のPCでゲーム映像追いながら瞬時に映像を切り替えるよう進化したのです。ゲーム進行を常にモニタリングする映像チームが加わったことを意味しています。

これはObserver(オブザーバー)と呼ばれる esports独特ともいえる映像セクションで、ゲーム内に巻き起こるドラマティックで決定的な一瞬を逃さないよう、ゲーム映像の進行を常にモニタリングし視聴者に提供する使命を帯びます。ところが、このObserverは単にゲーム映像をモニタリングしているだけでは使命を全く果たせません。

というのもゲームタイトルによってさまざまなルールが存在します。5vs5、数十人のバトルロワイヤル、1チーム3名でのチーム戦等々。視聴者への分かりやすい解説にはスローリプレイも重要になってきます。これをどう映像システムとして構築するのか?予算内で構築するにはどうしたら良いのか?Observerは今や映像技術が集約される esports映像において中核的なポジションとなっています。また、 esports映像制作の企業秘密ともいえるシークレットな部分でもあり、その試行錯誤の技術の積み重ねが esports映像を急速に進化させる一要因にもなっています。

さらにObserverの興味深いところは進化した映像システムだけあっても成り立たないところです。ライブでのゲーム映像の決定的な瞬間を捉える為には、そのタイミングを予測していなければいけません。そのため、腕の良いObserverは複数個所で同時展開されるゲーム進行を常に頭の中のマップで未来予測しながらゲーム映像を切り替えており、簡単には真似のできるものではなさそうです。
Observerは職人的な才能をも併せ持つ esports映像における花形ポジションなのです。

Worlds Season 6

さて、さらに3年後の大会を見てみましょう。
この年のWorlds Season 6のオープンング・セレモニーではZedd(ゼッド)がメインステージを担当します。

リーグ・オブ・レジェンズ Channel参照

ファイナル会場は再びロサンゼルスのステイプルズ・センターです。Worlds 2013の会場と同じ場所ですが、雰囲気が全く変わっています。
2013年大会ではメイン会場スクリーンに向かって観客席が配置されていましたが、2016年大会では中央にステージが配置されています。これはステイプルズ・センターにおいて最大観客数を収容する場合に使用される配置で、この年のファイナルでは2万人近くを集客、第1回目の大会では10万ドルだった賞金もこの年、最終的な賞金プールが670万ドル(7.1億円以上)、1位賞金は約200万ドルで2.1億円程にもなりました。会場中央をハーフスクリーンで覆い64台のプロジェクター、308台のムービングライトを駆使し空中に浮いたようなホログラムチックな映像効果を全周囲に展開します。

ちょうどこの頃、特に2010年代の中頃あたりからでしょうか。年々進化を続けていた esports映像が、さらに急加速して進化をしていったように思います。2010年代前半の頃の esports大会は、主にゲーム好きユーザーの為のコミュニティに基づいた大会が多数でしたが、2010年代中頃あたりからビジネス的に大規模な成功を次々に収め始めます。
理由は成長期に入ったライブ配信ビジネスと大会規模の拡大のタイミングがうまく折り重なり、さらにゲームタイトルの課金アイテム収益が大会賞金にプールされることで、増収益のサイクルが生み出された事によります。2014年度Twitchは推定9000万人の esports視聴者を記録し esports関連収益は1億9,400万ドルにも昇りました。ゲームのタイトル販売やアイテム課金の収益ではなく、映像配信による収益が esportsビジネスの中核となっていくわけです。それに伴いesprots映像も年々システム規模を急拡大させ、数千万という視聴者を惹き付けるべく、進化を求められることになります。

Worlds 2016

下記は同年のWorlds 2016の決勝の全体の様子です。

リーグ・オブ・レジェンズ Channel参照
※長尺なので中程まで先送りでご覧ください

ゲームパートでの映像演出でも、カウントダウン、トーナメント表、プレーヤーvsグラフィックス、キャラクター選択、Twitter集計、各ゲームデータの表示等、あらゆる箇所にリアルタイムグラフィックスが入ってきており、ある1つのゲーム解説映像だけ切り取って見ても、さまざまなゲーム情報が多重合成され画面構築されています。また、会場床面にはゲーム進行と連動してエフェクト映像やゲーム情報が投影され、会場全体を盛り上げる一役を担います。

「eスポーツがスポーツ分野である」と認められた映像

Worlds Season 7

翌2017年。
Worlds Season 7ですが、この年 esports映像演出に画期的な出来事が起こります。
アメリカのロックバンドAgainst the CurrentのChrissy Costanzaが歌うLegends Never Dieの最中に、ゲーム内キャラクターであるエルダードラゴン(CG)を生配信中のライブ会場にAR(Augmented Reality)として登場させ、視聴者に強烈なインパクトを与えます。

LoL Esports Channel参照
※9分20秒あたりから

AR自体は放送局での番組演出としては一般的で、日々あたり前のように目にしていますがここまでのスケールで展開させることは通常ありません。なぜなら、野球やサッカーのようなスポーツ中継ではそういった演出の必要がほぼないからです。まさに esportsならではの映像演出といえます。
綿密な3DCGモデリングからシミュレーション、現地での調整、カメラとの連動、実現させるためにはさまざまな要素があり実現するには容易ではありません。何かトラブルがあれば映像演出が飛んでしまい数千万人が見ている中、失敗してしまうリスクまであります。
実際、リハーサルでドラゴンの足がダンサーを踏んでしまっていたり、本番直前に合成用のマスクがズレたりするなどのいくつかのトラブルは発生しましたが、見事この映像演出を大成功に収めます。
(ドラゴンがダンサーを踏んだ場面はドラゴンにカメラを急遽ズームする演出に変更することでクリアし、マスクずれは本番直前で意を決して位置修正を行ってギリギリで回避します。)

この映像演出は、この年アメリカでMLB(メジャーリーグベースボール)やNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)といった並々ならぬプロスポーツの映像演出を抑えスポーツエミー賞を受賞し、「 esportsは立派にスポーツ分野である」という証明を勝ち取ることになります。
エルダードラゴンの3DモデルはPassionRepublic社、ARはUnreal Engine4をベースとしたARシステムを持つZero Density社、カメラトラッキングはstYpe社が担当しました。

2018 World Championship

その翌年。
2018 World Championshipでは、どんな演出がされるのか?と期待が高まります。
昨年1ショットでの登場だったエルダードラゴンのARでしたが……

League of Legends Channel参照
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League of Legendsのゲーム内のキャラクターを元にした仮想POPアイドルグループ「K/DA」をステージに登場させ、ゲーム内キャラクターについても生放送でのライブARでコラボレーションさせます。この「POP/STARS」のミュージックビデオは1カ月で1億再生を記録します。
残念ながら最後のショットをトラブルで失敗してしまいますが、映像をよく見ると実写床面にCGキャラクターが映り込んでおり、ステージバックに配置されたピンクの照明光がCGキャラクターの髪を照らし出すなどと、リアルタイムで実写とCGがうまく影響している様子が見て取れます。また、カメラもPTZ(パンチルトズーム)カメラ、12mロングクレーン、ステディカムの3カメでCGキャラクターをAR連動しておりかなり高度な映像演出であることが分かります。
去年同様にZero Density社の演出かと思いきや、同じUnreal EngineベースのARシステムを持つノルウェーに本社を置くThe Future Group社がARパートを担当しています。

韓国のアイドルグループ(G)I-DLEのYouTubeクリップの中にモーション収録の様子が少し紹介されていますので、合わせて見てみると興味深いところです。

United CUBE Channel参照
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さて皆さんはお気づきでしょうか?
当然といえば当然ですが、会場の観客にはこのCGキャラクターは実際には見えていません。
ステージのダンス演出はこのCGキャラクターが実際にいる形として組まれていますのでステージ演出上、会場観客にはCGキャラクターのいるステージの中央がポッカリと空いているように見えているはずです。
昨年のエルダードラゴンの映像演出もそうですが数万にものぼる会場観客よりもネット上にいる視聴者を優先してメイン映像の演出が組まれる、といった点も近年での esports映像ならではの特徴として大きく見られるようになりました。

League of Legends World Championship 2019

そして2019年。
League of Legends World Championship 2019でのオープニング映像は圧倒的な存在感をネット上の視聴者に印象付けます。

League of Legends Channel参照
※クリックすると動画が始まります

この年も引き続きAR/CGを使った演出?と思われましたがRiot Games社は予想の上を行きます。
趣向を一転してkaleida社の3D Holonetを使い、ホログラフィックプロジェクションを駆使した映像演出を会場全体に展開します。3D Holonetとはメタルで作られたガーゼ構造のようなスクリーンで、今大会で世界最大サイズのHolonetをkaleida社に発注し会場設営が行われます。
Holonetに映像投影をすることで空間に浮かぶホログラフィック的な映像演出を行うことが可能で、この年Worlds 2019でのオープニング映像の演出は大変完成度も高く驚くべきものでした。長期間に及ぶ入念なグラフィックスシミュレーションやさまざまなテストがなければ実現することが出来ないものです。

そしてこの年のオープニングセレモニーの映像演出も、センターステージ正面からしか正しく映像が見えないことにお気づきでしょうか。

ライブイベントを構成する要素として、ライブ会場観客よりもライブストリーミング及びオフライン配信での視聴者を最大の顧客として捉える姿勢は、ワールドワイドで魅力的且つ視聴者を離さず捕らえようとする esportsの映像演出に大きく影響を与えています。 esportsビジネスの最大顧客はネットの向こう側なのです。

これは将来 esportsに限らずネット上に展開していく新しい映像分野の共通課題でもあり、さまざまな分野に飛び火して広がっていくことでしょう。そして、それを担う人材もまだまだ不足しており、既存の画面の中で表現される従来映像に捉われない新しい時代のクリエーター達の活躍が期待されます。

esports大会 開催概要一覧

esports大会 開催概要一覧
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eスポーツ映像の今後の発展

2020年は上海大会でどういった展開されるのか?
大変期待が高まるところでしたが昨今のコロナ禍の影響により変則的な形でリーグ規模が縮小されますが、現時点では上海でのファイナル大会の開催が決定しています。
esportsプレーヤーが国を渡ることを禁止され、さまざまな大会がキャンセルされ esports自体が停滞すると思われましたが、esports業界は即座にクラウドシステムに対応を始め、映像編集や、配信システム、ワークフローを放送局よりも早くクラウド展開するよう模索し、 esports映像システムをネット上に構築していきます。
Riot Games社は映像編集にBlackbird(https://www.blackbird.video/)というクラウド上で編集を行うシステムを取り込みはじめ、リーグ配信を全てクラウド上の映像システムに転換しようと試みたりと即座に環境にあわせた適応をはじめます。
esports映像の進化は、昨今の状況においても最先端を走り続ける歩みを止めることなく、さらなる進化を遂げていくようです。

そして今年開催される2020 World Championshipは本日9月25日から戦いが開幕されます。
この環境下、会場は上海に統一されての開催ですが決勝会場は浦東足球場(Pudong Soccer Stadium)で、ファイナルは10月31日に予定されています。
今年はどんな映像演出を見せてくれるのか?噂によればかなり凄い映像演出を世界中のファンに向けて準備している、との話もあるようなので、今から2020 League of Legends World ChampionshipのOpening Ceremonyが期待と興味で大変待ち遠しい限りです。

今回 esports映像のご紹介として全体の僅かしかできませんでしたが、 esportsにはまだまださまざまなゲームタイトルがあり、それぞれが違う様相をしています。
オブザーバーやリプレイオペレーター、ブロードキャストグラフィックスデザイナーなどさまざまな専門のスペシャリストセクションもあり、機会があればまた詳しくご紹介できればと思います。

最後にWorlds 2019のオープニングセレモニーのメイキングを以下にご紹介しておきますので、ご興味ある方は制作現場の雰囲気を感じてみてください。

League of Legends Channel参照
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