OK Go 「I Won’t Let You Down」! 原野守弘、西田淳、関和亮インタビュー!!撮影現場秘話からMVを超えた”OK Go”というジャンルについて!

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OK Go 「I Won’t Let You Down」! 原野守弘、西田淳、関和亮インタビュー!!撮影現場秘話からMVを超えた”OK Go”というジャンルについて!

OK Go 「I Won’t Let You Down」! 原野守弘、西田淳、関和亮インタビュー!!撮影現場秘話からMVを超えた”OK Go”というジャンルについて!

左から)原野守弘(クリエイティブディレクター|株式会社 もり)|関和亮(ディレクター|OOO)|西田淳(コンテンツプランナー|株式会社 ドリル)

OK GoのMV「I Won’t Let You Down」。文字通り“がっかりさせない”どころか期待を上回る超大作で、世界中で話題となった本作は、周知の通り、日本を舞台に、日本人クリエイターとOK Goとのコラボレーションで生み出されたものだ。2011年のカンヌライオンズでフィルムクラフト部門の金賞をはじめトリプル受賞となった「森の木琴」を手掛けたクリエイティブディレクターの原野守弘氏が、「森の木琴」のファンだったOK Goのボーカル、ギターDamian Kulash(ダミアン・クーラッシュ)とカンヌで知り合ったのがきっかけだ。本作の企画制作の中心メンバー原野守弘氏、コンテンツプランナーの西田淳氏、監督の関和亮氏に完成するまでの舞台裏をたっぷりと語ってもらった。

OK Go「I Won’t Let You Down」

cd: Morihiro Harano|ad: Jun Nishida|dir: Kazuaki Seki and Damian Kulash, Jr.|cho: furitsukekagyou air:man|c: Makoto Okuguchi|l: Akiyoshi Irio|grip: Takashi Taniguchi|dit: Taito Oyama|multi-copter pilot: Kenji Yasuda|sty: Kazuki Yunoki|hm: Asuka Fujio|sound operator: Isao Yoshida|location coordinator: Kyohei Kitamura|online ed: Shunsuke Kakuuchi, Takashi Tanaka|colorist: Shigeyuki Toriumi|translator: Aiko Ishikawa, Ryuzo Tsutsui, Sumire Matsumura

UNI-CUB βにPerfumeのカメオ出演!アイデアがカタチになるまで。

OK Go 「I Won’t Let You Down」! 原野守弘、西田淳、関和亮インタビュー!!撮影現場秘話からMVを超えた”OK Go”というジャンルについて!

UNI-CUB: Kazuyuki Iwata, Hirokazu Hara, Shinichiro Kobashi, Makoto Hasegawa|mass games de/previsualization: Daisuke Sasaki, David Robert, Munechika Inudo, Yoshifumi Sadahara, Gilles Brossard|assistant-dir: Hideaki Jinbo|prod manager: Satoshi Miyata|a pr: Shiro Miyamoto, Naoyuki Masuda, Misato Tachibana|pr: Mitsuru Yamamori|cast: OK Go|cameo: Perfume|sp thx: the school girl dancers and Honda|ca: Mori Inc.

――OK Go、Hondaとのやり取りを含め、どう企画がカタチ作られていったのですか?

原野守弘(以下、原野):Hondaは仕事でこれまでも携わっていて、UNI-CUB βもずっと前から知っていました。だから、OK Goからオファーをもらった時すぐに、「HondaのUNI-CUBっていうのが面白いよ」と、ダミアンに提案しました。彼らってレスポンスがすごく速くて、10分後には、50年代にイタリアで作られた、白バイを使ったマスゲームの映像が送られてきて、「こういう感じでどう?」と。ですから、UNI-CUB βでマスゲームという基本形は割とすぐに決まったんですね。

関和亮(以下、関):OK Go、UNI-CUB β、マスゲームっていう企画を聞いた時点で、これは面白そうだなあって。UNI-CUB βに乗っている姿も可愛いですし。さあ、それを、一曲分飽きずに楽しんでもらうためにどうしようかと考えていきました。

西田淳(以下、西田):しかもワンカットでね。

関:そう、OK Goからのお題が、“ワンカット”でしたね。

原野: 一方、HondaにとってUNI-CUB βという乗り物は、歩道でも人と共存できるというコンセプトがあるんですね。だから、UNI-CUB βに乗っていないダンサーとの共存する姿は伝えたいとは言われていました。

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OK Goは1999年、シカゴ出身の4人組みバンド。

左から)Andy Ross(アンディー・ロス)(G/Key/Vo)、Damian Kulash(ダミアン・クーラッシュ)(Vo/G)、Tim Nordwind(ティム・ノードウィンド)(B/Vo)、Dan Konopka(ダン・コノップカ)(Dr)

――企画のディベロップメントの中で、日本らしさを意識しましたか?

関:原野さんとダミアンのディスカッションで早い段階から、日本を象徴する女子高生をアイコン的に使うことが決まっていました。

――Perfumeのカメオ出演も話題になりました。

原野:MVの話が来たときに、日本でも話題にするため、日本人のタレントを出演させられないだろうかって考えて、何人かの候補を検討していました。Perfumeは最初から最も有力な候補でした。OK Goの共演者であるためには、Makerというか、クリエイティブな匂いのする人じゃないとダメ。単に有名な人が出て来ても、大人の事情なのかなって思われてしまうでしょ。本当は、Perfumeにもっと、ダンスでも絡んでもらいたかったけど、練習時間も限られているし、現場スタッフという役どころに落ち着きました。関さんもずっとPerfumeのMVを作っているっていう安心感もありましたしね。

関:彼女達がOK Goがすごく好きだって言うのは知っていたし、出演の打診をしたらすごく喜んで二つ返事で引き受けてくれました。

プリプロダクションとシミュレーション

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OK Go「I Won’t Let You Down」

interactive: Ryo Tsukiji, Kousei Motoyoshi, Nobuaki Arikata, Kenshiro Nakashima, Junichi Arakawa, Masanobu Ishii, Yusuke Kitani|making-of: Makoto Kubota
「I Won’t Let You Down」の公式サイトでは自分で作れるインタラクティブMVも!

――OK Goはプリプロの段階ではどう関わっているのでしょう?

西田:ダミアンは撮影前に3回ぐらい来ているんです。打ち合わせやUNI-CUB βの練習をしたり、ロケ地に行って撮影コースをどうするか打ち合わせたり。毎回1週間程滞在して撮影の準備を進めていきました。

OK Go 「I Won’t Let You Down」! 原野守弘、西田淳、関和亮インタビュー!!撮影現場秘話からMVを超えた”OK Go”というジャンルについて!

――プリプロダクションについて教えてください。カメラワーク、コレオグラフ、エキストラの人数など、どういったシミュレーションを経て準備されたのですか?インタラクティブ版MVとしてWebに上がっている、自分で振り付けたビデオが作れる仕組みがありますが、あのような感じでプレビズやシミュレーションをしていったのでしょうか?

原野:そうです。Webに公開しているものは、エンターテイメント性を上げたもので、僕たちが使っていたのはもっとプリミティブなものなんですけど。とにかく2,400人っていうすごい人数が登場するし、タイミングを合わせるのも難しいし、撮影してから「あれ?」ってなるのは絶対避けなくてはならない。プリプロで言うと、シミュレーションしてテスト撮影をして、アイデアを補正していくという流れでした。

西田:楽曲、カメラ、ダンスなど全てをシンクロさせなきゃいけないのですが、その検証には相当時間をかけましたね。

振付稼業air:manによる振り付け

――マスゲームをワンカットで5分間に渡り見せていく際に、関さんのこだわりはどういうところだったのでしょう?

関:マスゲームっていう言い方はちょっと違うのかもしれない。俯瞰のダンスの見せ方という意味では、ミュージカルの手法に近い感覚なんです。そういうミュージカルの名作の資料の一つがOK Goも公式サイトのインタビューで触れているBusby Berkeley(バズビー・バークレー)の作品でした。演舞の見せ場における演出はそうした考え方で作っています。そして、最後の大団円へと繋がっていき、一人一人がドットとなって、大きなメッセージが描かれるという構成です。

――振り付けはair:manが担当されていますね。

関:前半のダンサーのパートはもちろん、最後カメラが上空に昇ってドット絵のようになる手前まで、振り付けと人の配置をやってもらっています。OK Goの振り付けは、本人達がベースを作ってair:manのアドバイスも取り入れながら作っています。

西田:OK Goとair:manはすごく気があったようで、OK Goがちょっと振り付けを迷うと「air:man!ここどうしたらいい?」って頼りにしていて、そんな中から傘の振り付けのアイデアが生まれたりしているんです。

関:練習中に、余興的にダンス空手を披露していたら、「じゃあ、これ入れようって」って決まったり。女の子がクルクルって回ってぺたっと座る振り(1:55辺り)のところですね。彼女達もすごくて、一度も失敗しなかったんです!air:manが、オーディションをして50名程のダンサーチームを作っています。

ロケ地とエンディングの謎

OK Go 「I Won’t Let You Down」! 原野守弘、西田淳、関和亮インタビュー!!撮影現場秘話からMVを超えた”OK Go”というジャンルについて!

雨の中練習中のOK Go。ロケーションは千葉のロングウッドステーション。

関:最初は、屋内やスタジアムで撮影した方が良いんじゃないかっていうアイデアもありましたが、ここは外にどーんと出て、いきなりスケールが大きくなるというのも、一つの超えるべきポイントだと思ったんです。

原野:ロケーション撮影というのは、完全にギャンブルでしたね。

西田:ギャンブル完全に負けましたけどね(笑)。

関:半分以上雨だったっていうね。

西田:ほんとに泣きそうだった。撮影予備日にやっと晴れて撮影できた。

原野:でも、雨でUNI-CUB βの練習と撮影が出来なかった3日間で、歩いて練習するしかない状況が功を奏したのかもしれません。最初から乗ってやっていると、機械もおかしくなっちゃってたかもしれないし、頭で理解して、足で歩いて、色々と分かった上で乗ったから良かったと思います。

――ラストの俯瞰ロングショットにおけるこだわりについてもお聞かせください。

原野:カメラは、700メートル上空まで昇っているんです。大俯瞰で水が見えて、ひょっとしたら雲がかかっちゃうといいな、なんて思っていたんですが、すごい偶然で撮影できたんです。あの時、ダミアン達は、音楽も終わっているのに、ずーっと何をやってんだろう?って疑問に思ってたそうです。打ち上げの時に聞かれて説明したら「てことは、本編が終わった後に二分間無音が続くっていうこと?それめちゃくちゃかっこいいじゃん!」ってなって(笑)。

ワンカット、ドローン撮影の現場

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――壮大なワンカットですが一体どうやって撮影したのか教えてください。

原野:半分のスピードで撮影して、編集でその倍、つまり通常の速度に戻しているんですよ。 スローにすることで、振り付けの一つ一つの動きが簡単になるんですね。傘を開いたり閉じたりするパートも、普通のスピードで撮影していたら、間違える人が続出したと思います。

西田:ただ、5分のビデオなので、10分のワンカット映像を作るということになるんですね。撮影的にはそういうリスクが発生します。

原野:そうすると、ドローンのバッテリーの時間に影響が出る。カメラをドローンに搭載して撮影しているんですが、ラストにあの高度まで昇ると、戻って来られるかどうかギリギリ(笑)。

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――風の影響もありそうですね。

西田:この企画で、一番の挑戦だったと思います、ドローンの動きが。企画が固まっていくうちに、昇ったり降りたりがすごいことになったので、これをワンカットでやるのか・・・と。これまでの仕事でドローンを使った時も風にすごく影響されるっていうのが分かっていたから、10分間のワンカットが果たして本当に出来るのかっていうのは現場勝負で、その緊張感たるや、すごかったですね。だから成功して、最後の雲抜けて700メートル昇った時はみんなビジコン見てシーンとして、ちょっと崇高な感じでした。

原野:ドローン撮影ですごくいいのを作るぞ、って世界中のみんなが狙っている時に、全員置き去りにするほどのハイレベルなことが出来たと思います。どうやって撮っているのってアメリカの2chみたいなサイトで議論されていたのを見ましたけど、「これは巨大な梯子だよ!」って言う人もいて。めっちゃウケましたけど。

関:演出的に僕が挑戦したくて追加したところ(1:45辺り)、一回上空に昇って、また降りてくる動きの箇所があるんですが、最初はみんなそんなこと出来るの!? って感じだったんですが、毎回ピタッと降りて来てくれたことにはすごく感動しました。ああやって空間を自由に行ったり来たりするっていうのは、ドローンの映像として新しいものが作れたと思います。

――合計何テイクしたんですか?

原野:44テイクで、最後まで行けたのが11回。僕ら的にOKテイクが4テイク。その中の1個が公開されたものとなります。

関:最後のテイクでは、結構精度上っていました。光の感じや、本人たちの表情とか、そういうのを含めて一番いいのをチョイスしています。

西田:いや、上手くいったから笑って話せますけど、ほんとに綱渡りでしたよね(笑)

OK Goのダミアンってどんな人?OK Goというジャンル。

OK Go 「I Won’t Let You Down」! 原野守弘、西田淳、関和亮インタビュー!!撮影現場秘話からMVを超えた”OK Go”というジャンルについて!

――ダミアンはこれまでのOK GoのMVの監督も手掛けてきていますが、クリエイターとしてどういう印象でしたか?

関:とてもクレバーですよね。画面の見え方、自分たちの見え方を分かった上でやっているのがすごいなと思いました。どのレンズを使うとどう見えるかっていうのも理解しているんですよね。「ミュージシャンですよね?」って言いたくなる(笑)。映像クリエイターとしての一面をまざまざと見せつけられましたね。

西田:攻めることに全くためらいがない。映像を作っている人だから、もちろん不可能なことは言わないですけど、頑張れば出来るギリギリのところを攻め続けるんですよね。そして、「やるのはあなたたちですけど大丈夫ですか?」って言うところまで詰めてくる。

原野:僕は、制作現場だけでなくてプロジェクト全体をダミアンと共有してやっているんですけれど、なんて言うかハスラーだなって感じましたね。彼はアーティストであり、監督であり、OK Goというプロジェクトのプロデューサーでもあるんです。だから、クリエイティブディレクターの仕事の意味も分かっていて、Hondaを満足させることも重要だってことも分かっている。そう意味で言うと、すごくやり易かったですね。他にも、制作中に楽曲を4小節伸ばして映像に合わせてくれっていうお願いをした時も、その場で判断してOKしたし、イチ・ニ・サン・ヨンってかけ声を入れるアイデアまでダミアンが出してくれました。

――ちょうど、間奏のあたりですよね。映像にあわせて4小節分楽曲を追加したパートですね。Hondaとのやり取りについても教えて下さい。

原野:Hondaに対しては作っているものを完成するまで見せないという条件でお金を出してもらいました。企画コンテは見せるけど後は全部任せて下さいっていうことですね。そして、ダミアンは、その関係性が実現出来ているということの意味をきちんと分かっているから、僕がこれは難しいっていうことは、本当に難しいんだなっていう風にちゃんと理解してくれた。 OK Goはインターネットを初めて上手く使いこなしたアーティスト。「Here It Goes Again」(ランニングマシーンのMV)をYouTubeで公開して、インターネットでほぼ無名のバンドが、世界中の人に知られることになって、そのハードルをどんどん上げてきた。そこがユニークだなって思っています。ワンカットとかインターネットでユーザーがびっくりしやすい要素も彼らの中に実感として知っている。OK Goのやり方はMVを超えた一つのジャンルというか。それに参加出来たっていうのは良かったって思いますね。

――楽曲のタイトルどおり「I Won’t Let You Down(がっかりさせないの意)」なMVでしたが、みなさんの感想をお聞かせください。

関:今回の成功はやっぱりスタッフの一体感の賜物というか。こんな長い間一つの作品を作るってなかなかないんですが、そこで生まれた謎の友情、結束感にしても他では得られないものがあった作品制作でした。

西田:今回学ぶことが多かったですね。一つ一つのアイデアを丁寧にこつこつ積み上げて、検証を繰り返してやることで、ここまで飛距離が出せるんだってすごく勉強になりました。自分自身が込める熱量をもっと上げていけば、まだその先に行けるんだって。ダミアンのいる場所っていうのが、こんなにも高いところなんだって体験できたことは、このプロジェクトに関われて良かったことです。

原野:これは“史上最大のワンカット”。MVの歴史に残る作品が作れたと思います。そこまで行こうという気持ちで挑みましたが、本当に行けるかどうかは半信半疑。試写の時、出来た!と実感した時は嬉しかったですね。 また、アーティストと企業のコラボレーション、という新しい枠組みの提示になっているとしたらいいですよね。MVには、まだまだすごいチャンスがあるなって思います。通常のMV制作では、基本的に企画も監督が作るわけで、クリエイティブディレクターって存在しない。今回は、クリエイティブディレクターと映像監督が両方いることによって、企画性の種類がちょっと違うものが出来た。MVは予算がないって言いますが、OK Goも同じで、予算がないんだけど、僕を見つけて、僕に頼んで、僕にHondaを連れて来させるっていうのを企画したわけじゃないですか。アーティストがそういう発想を持っているから出来たし、クライアントも今回クリエイティブコントロールなしでもやることを判断したから、この新しいステージに行くのに乗っかれた。そういう、枠組みを超えていく企画性の時代に突入したとしたら、出来ることってまだまだあるような気がします。そういう意味では、MV制作は今回初めてでしたが、またやってみたいですね。

To Creator編集部
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