“普通”が全く普通の“普通”じゃない。アニメーション処女作「ニュ~東京音頭」に続く2作目にして“最終話”を絶賛制作中の謎のアーティスト“ぬQ”を伊藤ガビンがインタビュー!

アニメーション
インタビュー
キャリア
映像

映像

“普通”が全く普通の“普通”じゃない。アニメーション処女作「ニュ~東京音頭」に続く2作目にして“最終話”を絶賛制作中の謎のアーティスト“ぬQ”を伊藤ガビンがインタビュー!

“普通”が全く普通の“普通”じゃない。アニメーション処女作「ニュ~東京音頭」に続く2作目にして“最終話”を絶賛制作中の謎のアーティスト“ぬQ”を伊藤ガビンがインタビュー!

ぬQ:アーティスト。東京都在住。多摩美術大学大学院修士課程修了。アニメーション作品「ニュ~東京音頭」で、第18回学生CGコンテスト最優秀賞を受賞し、「第16回文化庁メディア芸術祭」審査委員会推薦作品に選出されるなど、国内外で多数上映され話題となる。アニメーションに留まらずアーティストとして幅広く活動する。

アニメーション作家であり、画家、マンガ家でもあるぬQさんのインタビューをお届けします。“ぬQ”。これが名前なんですね。魯迅の「阿Q正伝」の阿Qとか、シャ乱Qなど、唐突にQの入る名前はいくつかありますが、ぬQさんはその最新モデルと言えるかもしれません。

――ぬQさんは“謎の多い人”って勝手に思っていまして、そこがたまらなくいいので、正直インタビューであんまり根掘り葉掘り聞きたくないなあって気持ちがあります。

ごくごく普通の家庭に育った、ごくごく普通の人ですよ。

――そういう気もするし、その“普通”が全く普通の“普通”じゃない可能性もあるなと・・・。えーと、僕が初めて“ぬQ”さんの作品を見たのは、竹熊健太郎さんが編集した「マヴォ」で掲載されていたマンガでした。アレは竹熊さんが多摩美で講義を持っていた時のことで、生徒さんの作品を結構載せていたように記憶しています。ぬQさんも竹熊さんの講義を受けていたんですよね?

それが、受けてないんですよ(笑)。

こういう理由でアニメーションをはじめました

――え、どういうことですか。

私は多摩美のグラフィックデザイン学科にいたのですが、グラフィックって図画と文字を組み合わせて作りますよね。

――えらい簡潔に定義しましたね。

イラストと文字を組み合わせると絵本になります。ですから絵本を作る人が結構いるんですよ。それでわたしも作っていたんです。でも絵本って、見開きに絵と文字、ページめくって絵と文字、って話が全然進んでいかないじゃないですか。

――絵本ってそういうもんですからね。

それであまりに進まないから1ページに絵と文字をいっぱい入れてみたところ、“これはマンガだ!”ってなったんですよね。

――マンガを発明しちゃったんですか。

発明しました。そしたらですね、今まで絵本を親身に見てくれていた先生が冷たくなったんですよ。僕はマンガは見ないよ、みたいな。アカデミックな場でのマンガの地位の低さを痛感しました。

――それマンガの地位の低さが理由なんですかね・・・。

それで全く相手にしてもらえなくて困ってたら、友達から「竹熊先生っていうマンガの先生がいるよ」と教えてもらいまして、受講はしていませんでしたが、頼めば見てくれるに違いないと思って。

――で、見てもらったと。その時見てもらったのはどんなものだったんですか?

タイトルが「死後の生き方」って言いまして、死んだ後、死後の世界でどうやって生き抜いていくかという話でした。

――明らかにヤバそうですね。それが「マヴォ」に載ったやつですか?

いえ、それは完全に処女作なので非公開です。

――見たい・・・。

“普通”が全く普通の“普通”じゃない。アニメーション処女作「ニュ~東京音頭」に続く2作目にして“最終話”を絶賛制作中の謎のアーティスト“ぬQ”を伊藤ガビンがインタビュー!

「死後の生き方」より

「マヴォ」に載ったのは、先生のアドバイスを受けて16ページくらいに削ったマンガです。ただ・・・マンガを描くのは面白いんですが、基本的には色がないんですよね。

――マンガですからね。

わたしはキラキラしたものがすごく好きなので、“面白い”と“キラキラ”を合わせたものが表現したかったんです。絵本の話の進まなさ、マンガの色のなさに対して、アニメーションならそれらが全部入る!! と思ったんですよ。それが学部の4年生くらいの時で、今からアニメーションを作るには時間が足りないなと思って大学院に進学したんです。

“普通”が全く普通の“普通”じゃない。アニメーション処女作「ニュ~東京音頭」に続く2作目にして“最終話”を絶賛制作中の謎のアーティスト“ぬQ”を伊藤ガビンがインタビュー!

上)「サイシュ~ワ」題字  下)「サイシュ~ワ」からの1コマ

――そういう流れだったんですね。院ではどういう作品を作ろうと思って入ったんですか。

学部の卒業制作で「一生」という絵本を作って、それをアニメーション化しようと思ったんです。ただ、いきなりそれを作って失敗するのが怖いから、まずは軽くて面白いものをささっと作ろうと思ったら、2年かかっちゃいました。それが「ニュ~東京音頭」なんです。

「ニュ~東京音頭」
dir: ぬQ

――え! あのメディア芸術祭や学生CGコンテストとかで賞とりまくったアレ、ささっと作るはずだった処女作なんですか?

はい、それで大学院が終わってしまいました。

――アレ、秒30フレームでフルに動いてますもんね。そりゃあ時間かかると思いますが・・・。

みんな30フレーム描いてると思ってたんですよね。わたしも院ではかなり頑張ってたはずなのに、みんなが前期で1本とか仕上げてくるのに、自分はどうして終わらないんだろうと思ってました。もしかして1秒間に表示されてる枚数がみんなより多い?って気づいたのが大学院2年の夏くらいで。

――時既に遅しと・・・それで修了制作でやろうとしてたアニメーションは?

まだですね。まだ1作しか出来てないってことになりますね(笑)。

――いやいや、その後RedBull Music Academyとか、チャットモンチーのMVとか活躍されてるじゃないですか。

そうですね、仕事もがんばってます!

チャットモンチー「こころとあたま」 Short Ver.
dir: ぬQ

「ニュ~東京音頭」は多摩美通学の苦痛から生まれた・・・!?

――ちょっとその前に「ニュ~東京音頭」の話を少しお聞かせ下さい。あれ初めて見た時、正直、これ一体なんなんだ、と思いましたが、ちょっとご本人に解説してもらってもよろしいですか? むちゃくちゃ謎ですよねアレ。

え、謎ですか?謎の部分はないと思いますが?

――え。全体的にまるっと謎なので説明してもらっていいですか。

わたしは世田谷で生まれ育ったんですね。学校も高校までは近所でした。でも多摩美はすごい山奥にあって、思いのほか通学に苦労しまして、その不満を解消するアニメーションなんです。いや~、授業とかには全く不満なかったんですけど、一生懸命片道1時間半もかけてクタクタになって辿り着いた、憧れのキャンパスが、たぬきの出る山の頂上っていうのが本当に辛くて・・・。

――怒られますよ(笑)。

それまでは、世田谷は都心ではないので、都会ではないという認識が私にあったのですが、大学進学で覆されたんです。とにかくここは私の生まれ育った東京と違うから、私の知っている東京に、早く帰りたいな~と・・・。

――ひどい・・・。

そういう思いを持っている時に、世田谷の自宅の前のビルが取り壊しになったんです。ビルが壊れて視界が空いたら、新宿のビル群が島のように見えまして、ああ、あそこまで手が届けばなあ~と。そうしたら新宿を掴んだ腕の上を走っていけば乗り換えなしで新宿まで行けるなと。

――世田谷から新宿も遠いと思ってたんですか。

それまで自主的に行く1番遠い場所が新宿でしたからね。30分もかかりませんが遠く感じていました。だから多摩美にいる時はもうなおさら東京に戻りたい戻りたいって思っていて、あ、多摩美も一応東京なんです。

――知ってますよ(笑)。

たぬきがいっぱいいますよ。

――まあ、そういう欲望をストレートに反映した作品だと。あの主人公の2人はほかの作品でも見かけますが、誰なんですか?

女の子のふたこちゃんと、男の子の一郎くんです。2人はなかよしです。

――なかよしなんですね。

はい。わたしの作品の特徴は、絵画とかアニメーションとかマンガとかがみんな背景で繋がっていることなのですが、2人は頻出します。

――いわゆるスターシステムですね。

そうですそうです。スターシステムを採用しています。

――どうしてスターシステムを使うことになったんですか。

ああ、実は、前に描いてはみたものの、あんまり気に入らなかったのでそのままにしちゃったキャラがいたんですよ。せっかく産み出したのに・・・ペットを放置しているみたいな、エサをあげないと死ぬのに見て見ぬふりをしているというか、そういう気分になってしまって。だから、あんまりキャラを産み出さないで、いまのキャラをずっと使っていった方がいいんじゃないかと思ったんですよね。

――そういう理由ですか!その放置してる子を復活させてあげたりしたらいいんじゃないですか。

ああ、それは、かわいそうだったからそのキャラを凍結させた絵があるんですね。ちなみに“木”と“ねこ”です。

――あの、ちょっと言ってることよく分かんないんすけど、キャラを冷凍した絵を描いたってことなんですか?

そうです、コールドスリープさせました。だから彼は痛みも寂しさも感じないはずなので、一旦これで許してくれ!という気持ちです。

――それをいちいち絵にしないと気が済まないんですね。自分が描く=産んだものってことで、1人1人生命体として扱ってるような感じなんでしょうか。

そうかもしれないですね。マンガとかでも当て馬キャラとかすごく嫌で、この人だって人間なんだよ?話を都合よくするためにだけに産み出されたキャラとか見ていられないんですよ。当て馬にも幸せを用意して欲しいです。

――難儀ですね。

自分の作品でも、モブはあえて描かないです。絵画も漫画もアニメも、背後はいつも無人です。

――そういうのもダメなんですか。

描いちゃうと産まれちゃうので。描いたら一生分の幸せを用意してあげないと・・・。

――難儀ですねほんとに。スターシステムっていうか、ぬQさんの世界で生きてる感じなんですね。登場人物たちとぬQさんの関係というのはどういうものなんですか?

一緒に歩いてる感じです。そこであった面白いことを作品に変換しているようなイメージです。

――ああ、ぬQさんと登場人物たちが生きている世界があって、そのエピソードを映像に変換したり、マンガに変換してる感じなんですね。

そうなんです。でも、一緒に歩いて生きていると言っても、タイムラグがあって、「ニュ~東京音頭」ですと、この新宿の島を掴んだ腕を渡っていけたら、という0.5秒くらいの思いつきを映像に変換するのに2年かかってしまった・・・。

――いくら時間があっても足りないですね。

そうなんですよ。それで今は最終話を描いています。

2作目にして最終話を制作。そのワケとは?

――へ?

あの元々修了制作でやろうとしてた作品が「サイシュ~ワ」というタイトルで、自分の芸術の最終話なんですよ。

――すんません、もうちょっと詳しく教えてもらってもいいですか、恐縮です。

以前、お世話になった先生が若くして亡くなったり、家族の突然の入院を目の当たりにして、すごく怖かったんです。さようならを言えないことや、やりたいことを半ばにしてしまうことや、そのタイミングを自分で操作出来ないことが。ですから私の場合は、先に自分の芸術の最終話を描いておきたいと思ったんです。描いてしまえば安泰ですよね。

――えーと・・・最終話を描くんだけど、その後にまた他の作品も作るんですよね?

それは最終話の後を描くんじゃなくて、真ん中あたりを描くから大丈夫なんですよ。

――あー、それは例えば「ゴルゴ13」の最終回はすでに書かれている、みたいな話なんですかね。

そうそう、そういうことです。「名探偵コナン」とかも、作者が急に亡くなったらどうなるんだろうと思って。何かのネットでの議論で、先に最終話を描いておけばいいのでは?という意見を見て、確かに!と思って。

――スターシステムだから、ぬQさんの作品は全体で大きな物語になっていて、その最終話を先に描いておくってことなんですね。でも、物語って、積み重ねていく中で生まれるものだったりしないんですか?

わたしの作品はラストから作っていくんですね。1つ1つの作品も全部そうで、ラストシーンを最初に思いついて、全部そこから逆算して作っているので問題ないんです。

――「ニュ~東京音頭」で言うと、新宿みたいな島に腕の上を走って行くというのが先に決まって、そこに到達するまで逆算した結果、あの何もない砂漠みたいなところからスタートするってことなんですね。

多摩美ですね。

――多摩美?

あの何もないところは多摩美です。

――砂漠じゃないですか。あそこまで何もなくないですよ。それで言うと、これから先作っていくものの内容も決まってるってことなんですか?

決まっていますね。

――いつから決まってたんですか?

ふたこちゃんと一郎くんの話とは別に、さよちゃんシリーズというのがあるんですが、それは中学生くらいから描いてる絵画の連作なんですが、それとも繋がってますから結構古いですね。

――そんなに古く。

さよちゃんがいたずらにビッグバンを起こしたことによって東京23区が23大陸に分かれてしまって、23大陸の都会の部分がぎゅーっと集合して出来たのがニュ~東京です。そこに行きたいぞという話が「ニュ~東京音頭」なんです。私の作品の大体のことは世田谷大陸とニュ~東京での話です。

自分とホームページの特別な関係

“普通”が全く普通の“普通”じゃない。アニメーション処女作「ニュ~東京音頭」に続く2作目にして“最終話”を絶賛制作中の謎のアーティスト“ぬQ”を伊藤ガビンがインタビュー!

チャットモンチーのMV「こころとあたま」に登場するキャラクターの立体たちは、彫刻家の近藤南氏による。左側はぬQユニバースのメインキャラクターの1人、玉川ふたこ。桃とジュースが好き。

――ぬQさんのホームページ、かなり面白いですよね。急に全体がむちゃくちゃになったり、画像の使い方もかなり特殊で。あれはさすがに楽しんでというか、ふざけてますよね?

時々自分でもどうなっちゃってるんだろうと心配になることはあります。アレはですね、中学生の時に父が全部揃えてくれたんです。それ以来ずっとアレでやってます。

――アレってなんですか。もしかしてホームページビルダーのことですか。

そうです。当時はアレでホームページを作るのがスタンダードだったんですよ。それで最初に自分のホームページを作りました。その後、Flashとかもやってみたいと思っていたらいつの間にかFlashの時代も終わっていて、今はSNSだからもはやホームページとか持ってないですよね。最後の生き残りっぽくアレをやり続けたいと思います。

――時々、同じ画像が延々貼られたりとか1人祭り状態とかになったりしますよね。

ホームページとホームページビルダーに対するこだわりは人一倍強いんですよ。ホームページとわたしが一心同体になってるんです。

――すいません、意味が分かりかねます。

周りにいませんか?

――ホームページと一心同体ですか・・・いないです。

そうでしょうか?Twitterとかならいるんじゃないですか?ずーっとつぶやいてる人とか。何でも書く人。あれって自分よりもっと自分みたいな感じになってますよね、きっと。それをわたしはホームページで感じ続けているんです。

――リアルの自分よりホームページの自分の方がより自分らしい、みたいなことですかね。それで夜中に盛り上がった気分の時は、祭りみたいになったり。

そう。それで朝になったら元に戻ってる(笑)。色んなことがある中で、1番一体感があるのがホームページなんですよ。

――その道具としてホームページビルダーが使い慣れてるから好きってことなんですか?

素材も豊富なのですが、ただの1つもかっこいいのがなくて、これがまた最高に良いんです。虹色の文字も簡単に作れます。というかですね、ホームページビルダーに愛を注ぎすぎてしまって、他のソフトでもっといい感じにするとかもう絶対嫌なんですよ。

“普通”が全く普通の“普通”じゃない。アニメーション処女作「ニュ~東京音頭」に続く2作目にして“最終話”を絶賛制作中の謎のアーティスト“ぬQ”を伊藤ガビンがインタビュー!

――キャラと同じように、ホームページビルダーも生きてるみたいに扱ってませんか。

そうかもしれない。死に別れた奥さんより好きになりたくないから、他のものに近寄らないっていうか。

――死んだことになってるじゃないですか。

Macに買い換えてホームページビルダーを動かせなくなってしまって・・・。それが今抱えている1番の悩みです。

――難儀ですね。じゃあ、あの、では最後に、今後のご予定とかをお聞きしたいのですが。

「サイシュ~ワ」を今年中には完成させたいと思っています。

――おお!それは見たいっ。今どれくらい出来てるんですか?

半分は出来てますよ。チャットモンチーの時は色んな人に手伝ってもらいましたが、自分の作品は純度を高めたいので1人でやっています。自分の作品なんだから、わがままになって自分1人でやろうと決めたので、どうしても時間かかっちゃいますね。

――時間かかってもいいじゃないですか! ぬQさんの場合は途中で頓挫するってことがなさそうだから、安心して待っていられます。では完成をお待ちしております!

とにかく完成させないと!

取材&文:伊藤ガビン

写真:永友啓美

To Creator編集部
To Creator編集部

Tips/ノウハウ、キャリアに関する情報/最前線で働く方へのインタビュー記事など、クリエイターの毎日に役立つコンテンツをお届けしていきます!