会社の枠を超えた謎のチーム「CEKAI(世界)」とは? 快速東京&泉田岳インタビュー!!

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会社の枠を超えた謎のチーム「CEKAI(世界)」とは? 快速東京&泉田岳インタビュー!!

会社の枠を超えた謎のチーム「CEKAI(世界)」とは? 快速東京&泉田岳インタビュー!!

(左)泉田岳(太陽企画 / PARABOLA):ディレクター。新橋で働く傍ら、フェリさんという人形を操り、RISING SUN ROCK FESTIVALの舞台に立つ。
KIRIN 快速東京×鎮座ドープネス×キリン本搾り「ライムのうた」、JACリマーカブルディレクターオブザイヤー2012受賞「有島君は今、屋上にいる」、ADFEST 2013 Fabulous Four受賞「LOVE」、ADFEST 2014 FILM Silver受賞 信濃毎日新聞「家族のはなし」などを手掛ける。

(中央)一ノ瀬雄太(CEKAI):グラフィックデザイナー / ギタリスト。フリーランスのグラフィックデザイナーとして活動しており、クリエイティブチームCEKAIにも所属。
快速東京のジャケットアートワークなどを手掛けつつ、クライアントワークもこなしている。最近では雑誌「GINZA」のデザインにも携わっている。
Twitter:@ichinoseyutaTumblr

(右)福田哲丸(CEKAI):ディレクター / イラストレーター / ミュージシャン。快速東京というバンドをやりながら個人でフリーランスのディレクターとして活動。世界株式会社所属。
これまでに、KIRIN 快速東京×鎮座ドープネス×キリン本搾り「ライムのうた」(CreativeDirector&Music&Performance)、KIRIN 本搾り 果実ラボ第5弾「冬柑~ふゆかん~×ROCK」(Director&Music&Performance)、白泉社「野生アニマル 創刊号」(Director)などを手掛ける。

Photo:荻原楽太郎

快速東京と鎮座DOPENESSがダジャレで韻を踏みまくり、狂熱の宴会ライブを繰り広げる、キリン本搾りチューハイライムの発売記念WebCM「ライムのうた」。お気付きの通り、果物の“LIME”と韻の“RHYME”を掛けるところから着想されたものだ。この「ライムのうた」を手掛けた快速東京のボーカル / クリエイティブディレクターの福田哲丸氏、CMの監督を務めた太陽企画の泉田岳氏、多摩美術大学からチームを組んできた2人にインタビュー!

美大を卒業後、ロックバンドとクリエイターとして活動する福田氏、プロダクションでディレクターとして働きながら、福田氏らとクリエイティブチーム「CEKAI(世界)」の一員でもある泉田氏。卒業後のキャリアについて、これからのモノづくりについて、そして「CEKAI」というチームについて語っていただいた!

謎のチーム「CEKAI」とは?

――WebCM「ライムのうた」ですが、所属する会社などの垣根を越えてCEKAIというチームとして制作されています。この一軒家の事務所がCEKAIの基地だそうですが、一体どういったチームなんでしょうか?

福田哲丸(以下、福田):ここは事務所であって、友達の家的存在の場所でもあって、この場所が軸となって始まってる。みんな会社の帰りに友達の家に寄る感覚で事務所に来て、そこで面白い話があったら「やろうよ」ってなるのが、物事の生まれ方として一番いいじゃないですか。

あと、雰囲気だけじゃなくて、友達の家って実はルールがあるでしょ。俺らは毎日いるから、ここが自分の家って考えたら、変な奴は呼ばないんですよ。「ウチおいでよ」って言える相手って、自分と何かを共感出来るとか、分かり合えるんじゃねーかとか思う相手。家にある漫画をコイツに読ませたいとか、誰にも言ってなかった俺のあのフィギュアの良さを分かってくれるかもしれないみたいな。それくらいの感じで仕事をしたい。

代理店で働いていようが、コンビニでバイトしていようが、友達の家に行ったらみんな一緒に「マリオカート」やるわけで、その「マリオカート」をキリンのCMにしようってノリなんです。そういう場所なんです、CEKAIは。

そうやってこの「ライムのうた」も出来ました。鎮さん(鎮座DOPENESS)へのオファーも、“友達の家”で作っているからその延長で解決したくて、代理店を通して云々でなく、ライブで一緒になった時に「今度キリンのCMやるんで出て下さいっ!」「えーー! 超恥ずかしいからなーどうしよう、それマジかー!」「そうっすよねー。鎮さん、恥ずかしいですよねー、CMっすもんね」「マジ超恥ずかしいな。でも、ちょっと相談してみる」という始まりでした。

泉田岳(以下、泉田):僕は、その策略にまんまとハマってしまった1人です。今は太陽企画というプロダクションでディレクターをやりながら、帰りにCEKAIに寄っているんですが、哲丸と2人で自転車で家に帰ってる時に言われたのが「温泉行きたくない?」って(笑)。「ああ、新しい快速東京のMV撮るのか」と思って二つ返事で返したところ、実はこんな話だった(笑)。

CEKAIはリハビリなんです。固まった頭をほぐして自分を取り戻す場所。例えば、哲丸や一ノ瀬雄太(快速東京ギター / デザイナー)に案を話したりするって、全然仕事として意識していないんです。大学の時と同じく、こいつらが「ヤバい」って言ったらそれが正解で、そこからもっと良くしようと思うし、「ダサいね」って言われたら、無しだなって。

もちろん、もっと広いチームでモノづくりするわけだから、説明責任や締切を守るとかはあります。でも、表現については、会社組織に入ったらなんで考え方を変えなくちゃいけないのか? 変わる必要なんてないんですよね。

福田:どうやったらストレスを取り除いてモノづくりが出来るか。ストレスなくお金を稼ぐにはどうしたらいいかって考えてるからね。

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「ライムのうた」撮影現場より。鎮座DOPENESS以外にも、実はHIFANAのJuicy、DJ Uppercut、天野ジョージ(撃鉄)もカメオ出演している! 鎮座DOPENESSの登場シーンはこだわりのカット。ヒップホップアーティストである鎮座DOPENESSがセルアウトだと視聴者に捉えられないように、とにかくカッコいい映像を目指したそうだ。カメラワークでギュッと寄る動きにし、編集でもわざと画像を粗くして質感を変えている。泉田氏も納得の福田氏の演技にも注目。いつか役者としての姿も見れるかも!?

――しかし、快速東京は多摩美術大学在学中に結成され、音楽のみならず、アートワークや漫画、Tシャツに映像と、広がりのある活動を既にされています。改めてCEKAIである必要性って何なんでしょう?

福田:快速東京の音楽は結局マスではないんです。キリンの広告の方が断然マスですよね。“快速東京+泉田岳vsマス”っていう明確な構図で挑むステージのための組織。快速東京が受けて、岳と一緒にやるよりも、CEKAIで受けて「出来ました」の方が絶対面白い。絡む人が多いし、広がりが全然違う。手の数も頭の数も違う。みんなの脳味噌分プラスになる。交通量が多くて速い高速道路と一緒。

泉田:僕と哲丸でまとめることは出来るけど、色んな人の考え方が入ってきてくれる方が嬉しい。その方がより外に向く。

福田:あとは経験とかね。俺らはまだガキんちょだから。

泉田:それで、CEKAIはフラットな場所。この仕事をやって思ったのが、モノを作るってことに対して健康的。僕は会社員だから、不健康な部分とかいっぱい見てるんですよ。

福田:社畜ぅー社畜ぅー。

泉田:そう、僕は社畜3年生だから(笑)。必要のないことがたくさんある。代理店と打ち合わせしても、快速東京としての哲丸が凄い発言権持っていて、それって、作る人たちに発言権があるのは当たり前のこと。でも、プロダクションの若手ディレクターとして行くと、なかなかそうもうまくいかない。

なんかおかしいことを「おかしい」って言っても無駄だと諦めてる自分がいたんですよ。でも、この業界に入って思った“狂ってる感”を忘れないようにしようと。そうしないと、この流れに飲まれてどんな返しにも文句一つ言わず頑張っているんだろうなって。「俺、凄い文句があるな」とCEKAIにいて、ふと思い返せたのが良かった。

就職なのかフリーなのか? 卒業後のキャリアについて

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「ライムのうた」撮影現場より。撮影に使われたカメラは、EOS 5D Mark IIIが1台。手持ちの他、クレーンの特機やドリーも導入している。撮影はGROUNDRIDDIMが担当。哲丸氏は「何でも出来て、ワイワイとノリも共有出来る」と信頼を寄せている。ちなみに、マジシャンの役は予定していた役者がインフルエンザで来られなくなったため、代役として泉田氏が体を張って演じきった。

――面白いのが、快速東京のメンバーはみんな会社員をしながら活動されていますが、福田さんだけは卒業後フリーで快速東京をやっていますね。

福田:うん、俺だけ就職してない。ぷらーんってしてる。なんかもう、本当にマジでどうでもいいと思ってるから、就職とか。就職してる人のこと悪く言うつもりは全くなくて、すげーちゃんとしてると思うんだけど、自分のことになると、月曜日から金曜日まで会社に拘束されてて、やりたいことが出来るチャンスがある日突然降ってきた時、その話に乗れなかったら、俺はたぶん死ぬと思って。

そんな気持ちになるんだったら、時給800円だけど時間の自由がきくバイトして、行きたいところに行って、会いたい人に会って、やりたいことやってた方が、自分は健康でいられる。金はなくても、別にそれでもいいなって思っちゃうタイプ。

それに、快速東京は一ノ瀬もデザイナーだし、ベースの奴も働いてるし、俺がわああーって言ってないと、転がんないんですよ、絶対に。「なんかやりたいね」って言うだけで終わる。僕が常に「あの人たちと対バンしてー」「こういうことやったらおもしれー」って動かさないと転がんないんですよ。

泉田:哲丸が「就活する」って言い出したら、みんながどよめくね(笑)。

福田:だから、CEKAIの話が来た時は、「なんだよ、あんじゃん!」って思った。CEKAIは井口(皓太)くんから声掛けてもらったんだけど、快速東京のやり方が井口くん的にはドツボだったらしくて。俺らは「アルバム出します」ってなった時に、「アルバム出すってことはMVが絶対に必要じゃん」「いや、Tシャツだろ」みたいに、すぐ何か作りたがる。

で、「ジャケットはじゃあ一ノ瀬がやる、Tシャツどうする? MVは岳!」ってずっとやってたんですよ、学生の時から。そしたら、学生の時にフジロックとか出て、なんかすげーことになってきた。で、「コピー」っていうMVを公開したら、全世界で220万ヒット。「えーーっ!?」みたいな。それを、井口くんが実はTYMOTEをやりつつ見てたらしいんですよ。

俺らが何かを作って、それに周りの人を関わらせていく。で、どんどんそれを知ってる人達が増えて、輪が広がっていく感じが凄くいいって言ってくれた。彼がCEKAIでやっていることと同じで、凄く共感してくれた。

僕らは深いことを考えてなくて、「やりたいことだけやってりゃいいじゃん、そういう存在でいいじゃん」って思ってたんだけど、井口くんのようにTYMOTEでマネタイズもしっかりやってきた経験を持っていて、頭の中身がフレキシブルな人に出会った途端に、僕の考えてることでお金が稼げる。「わぁ、ラッキー! よかった、就職しなくて!」みたいな(笑)。

――みなさんの世代は、美大といえども就職大前提の教育をされていますよね。

福田:電通、博報堂の流れに、俺たちは幻滅してる世代というか。世代的に、絶望前提なんですよ。バブル知らないし、希望みたいのを1回も体験してないから。

泉田:本当にそう。諦めはあって、それはネガティブでなく普通のこと。

福田:「大人になるのってこんなに楽しいんだぜ!」っていうのを知らない世代だから。しかも、この間の3.11でそれが決定的になったと思うんですよ。「あー、なんか生きててもこんな感じなんだろうなー」みたいな。「じゃあ、どうやって明日楽しもうかなー」ってことになるんです。

でも、それがおじさんから見ると、すげー不思議らしくて。「若い子が金使わない、酒飲まない。今の若い子は・・・」とか言ってるニュースとか見て、「いや、当たり前だって。あんたらとは生きてる時間軸が違うんだよ」って思う。

俺が、最も自暴自棄になってるというか。「なに? 就職すんの? 無いよ、この先」みたいなね。「代理店なんてなくなるっしょ」って本気で思ってるし、音楽の話だったら、メジャーレーベルの数字もバンドやってると大体分かっちゃうし。そうすると、何が起こるかっていうと、自分が思う「面白い、美しい、カッコいい」だけが残って、それを信じて生きていけばいいじゃんって話になる。

泉田:この先、自分に楽しいものや好きなものとかがないと、もう破綻しちゃうなっていうのが凄くある。3.11の時、僕は電通、博報堂に就職したくて受けてたんですよね。デザイン、一枚絵のグラフィックや広告を目指してた僕にとって、衝撃だったのは、あれだけの大惨事が起きた時、「僕がこれからなろうと思ってる人達はどういう動きをするんだろう」って見てたら、節電ポスターがバーッて並んでた。僕がもし代理店でその位置にいたとしたら、これ作んのかって思って。「あ、そうなんだ、やばいやばいやばい、危ない危ない危ない」って流れの中から、こうやって岸に辿りついた感覚があった。

で、3.11と同じ頃に公開された、やっさん(安田昂弘)が作った快速東京の「コピー」のMVが220万再生された。ブラジルのサイトに「日本から良いニュースが届いたぜ。日本は今、大変な状況だけど、日本の映像作家、安田昂弘は頑張ってるぜ」みたいなのが載ってて、「あ、もうこれでいいじゃないか」って思った。「映像をやるぞ」ってなって、ギリギリまだ募集していた3社を受けて、今に至ってる。

福田:小さいコミュニティの方が力を持ってくる気がする。その力が集約したものが波紋のように影響しあっていく流れを感じてる。それに対応出来ない、でっかいところはどんどん潰れていくと思う。

CEKAIが目指すもの

会社の枠を超えた謎のチーム「CEKAI(世界)」とは? 快速東京&泉田岳インタビュー!!

「ライムのうた」絵コンテ。漫画を描いていた泉田氏だけに、臨場感溢れる絵コンテとなっている。
※画像クリックで拡大します。

――福田さんがおっしゃっているのは、究極の実力主義でもありますよね。

福田:そうそうそう。駅貼のポスターとかみても、今や誰でも出来る時代になっちゃってて、「それはもうこうなるわな」っていうものしかない。見る人もそれに慣れているから、例えいいものであっても、それが変わったものだったら「これはルールから外れてるよね。分かりづらい」ってなっちゃう。慣れてないものを享受する能力がない。身体的にも脳味噌も、それを理解出来ないから、購買意欲に繋がらなくなってる。“見たことある安心感”を求めてるでしょ、みんな。そういうものの方が強いですよね。

泉田:一ノ瀬は飲むと必ず言ってる、「世直しだ」って(笑)。

福田:みんな本当にそういう意識があるから面白い。戦うしね、ちゃんと。CEKAIは、本来もっとシンプルで、楽しいとか面白いとか美しいとか綺麗とか「それが結局最強だよね」っていう部分を共有している人がいる場所。

ここで仕事してると、別にそんな難しいことじゃないのにって思う。無理しなくていいんですよね、モノを作る時に。綺麗、楽しい、カッコいい、それだけあれば無敵だと。そういう人の集まりがCEKAI。だから「CEKAIとは何か?」となると、そこだけなんです。そういう変な必殺の感性がある奴だけがいる場所。これが多分、CEKAIの核心的なところ。

To Creator編集部
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