変化激しいSEMの世界「自分の成功体験は正解じゃない」 個性を生かすチーム運営とは?

2018年6月21日

右:アユダンテ株式会社チーフSEMコンサルタント寳(たから)洋平氏、左上:林真理子氏、左下:森田雄氏


Webの課金コンテンツの占いライター、コミュニティ誌の編集者などを経て、アユダンテ株式会社でチーフSEMコンサルタントを務める寳(たから)洋平氏が今回の主役だ。

異色の経歴を持つ寳氏だが、「占いコンテンツ」と「リスティング広告」には共通点が多く、占いコンテンツのライター経験がこの業界に入るきっかけになったという。

現在は、4名の部下を抱えるチーフコンサルタントとして活躍。社内外からの信頼も厚く個性を生かしたチーム運営を実践している。

変化の激しいSEMや運用型広告の世界。自分の成功体験が今の正解ではありません。上司然として命令するよりもチームメンバーが働いていて「楽しい」を一緒に創る伴走者のような存在でチームを盛り立てたい。

と語る寳氏にこれまでのキャリアや人材育成について話を聞いた(以下、発話は敬称略)。

聞き手:株式会社ツルカメ 森田雄氏と株式会社イマジカデジタルスケープ 林真理子氏。写真:永友ヒロミ氏

Webが一般に普及してすでに20年以上が経つが、未だにWeb業界のキャリアモデル、組織的な人材育成方式は確立していない。組織の枠を越えてロールモデルを発見し、人材育成の方式を学べたら、という思いから本連載の企画がスタートした。連載では、Web業界で働くさまざまな人にスポットをあて、そのキャリアや組織の人材育成について話を聞いていく。

作家を目指して執筆活動をしていた過去も

 

林: Webに触れたきっかけから教えてください。

 

寶: 仕事として取り組み始めたのは2001年です。私は大学のときに就職活動をしていないんです。というのも、中学生のころから小説を書いていて、小説創作を学ぶ大学に在学しているとき小さな文学賞を受賞したことから、小説家を目指していたんです。卒業後はアルバイトをしながら、執筆活動をしていました。

 

林: そうなんですね! それは驚きました。

 

寶: はい、執筆活動をしていたときは、テレビも見ず、インターネットにも触れず、図書館で本を読むという生活でした。しかし、だんだん生活がやせ細っていくように感じたんです。そうすると、結局おもしろいものは書けないんですよね。限界を感じて2001年、26歳でちゃんと社会に出ることに決めました。

子どものころから書くことが好きで、人より得意なことは書くことしかなかったので、Webの課金コンテンツのライターとなりました。当時の私をWebが拾ってくれたんです。

アユダンテ株式会社 寳洋平氏

実はデータドリブン! 占いコンテンツ制作の裏側

 

森田: どんなコンテンツを書いていたのですか?

 

寶: 占いコンテンツです。ライター部屋という一室に集められて、みんなで占いの結果を書いていきます。1人で大体1日数万文字の占いを書きました

 

森田: ライター部屋(笑)! 占いのコンテンツといっても寶さんが占うわけではないんですよね。

 

寶: もちろんです。そのサイトの場合、星座や選んだカードなどユーザーの入力した内容にあわせて結果を出すんですね。だからすべてのパターン結果を用意しておくんです。

占いの結果は「象意(しょうい)」というのですが、その象意に対して占いの専門家からキーワードをもらって、ライターがコンテンツとして膨らませていきます。

占いの場合、いわゆる最大公約数の結果を書いてもユーザーは満足しません。これは自分のことだと感じてもらうように書かねばなりません。象意を具体的に反映させているものが良いというのがわかってきていて、キーワードを見ながら、ストーリーを作って展開していました。

 

林: 占いの書き方の良い、悪いはどのように判断するのですか?

 

寶: それがデータドリブンなんです。占いのコンテンツは、複数のプロバイダー事業者に提供していて、どのコンテンツの、どのメニューがどれくらい課金されたかが全部わかるようになっていました。

ユーザーに支持されるコンテンツの売れるメニューを見ながら、課金したくなる切り口や繰り返し見たくなるコンテンツを考え、ライター同士で綿密な情報共有をしながら取り組んでいました。

占いライターの多くは女性でした。書くと必ず売れる、うまいライターの方々がいるんですよ。私はそういう方々のコンテンツを分析して売れるコンテンツの法則を探しながら書いていました。これは、今の仕事にもつながっています

 

林: そのお仕事はどれくらい続けられたのですか?

 

寶: 1年ちょっとです。その後は、フリーのライターとして企画・編集・校正の仕事をやったり、横浜エリアのコミュニティ情報誌の編集長をやったりしていました。この期間は3年ほどです。

占いコンテンツとリスティング広告の「キーワード」という共通点

森田雄氏

 

森田: そうした経歴で、SEMの世界に入られたのは?

 

寶: 検索キーワードに応じた広告を出すリスティング広告の広告文を書くということに興味を持ち、2006年にクロスリスティングという会社に入りました。与えられたキーワードから、クリックされるような広告文を作るという仕事は、占いコンテンツを作るのと共通するものを感じて、すごくのめり込みました。

ただ、広告のキーワードを選定する仕事と広告文を書く仕事が分断されていたんですね。広告文を書きながら、「もっと良いキーワードがあるはずだ」と感じることがありました。そこで、ライターがお客様から直接ヒアリングして、キーワード選定から広告文まで作るチームを作ったところ、非常に成果がでました。

 

森田: その後、どういうきっかけでアユダンテに転職されたんですか?

寶: 当時勤めていた会社でセミナーを開催していたのですが、そのときのゲストの方にアユダンテを紹介されて、2010年に転職しました。

クロスリスティングは、gooやエキサイトといった中堅ポータルサイトのジョイント・ベンチャーとして設立された経緯があり、広告の出し先が限られていたんです。仕事は非常におもしろかったのですが、GoogleやYahoo!なども含む、より広い世界でチャレンジしたいと思ったんです。

私が転職してきた当時、アユダンテはSEOに特化した会社だったので、広告の担当は私1人で、広告事業をゼロから作っていきました。と言っても、すでにSEOのコンサル契約をしているクライアントを中心に営業をして、仕事を受注していったので、他のメンバーにはとてもサポートしてもらいました。

アユダンテは30人規模の会社ですが、スペシャリストがたくさんいて、非常にとがっています。「周囲の刺激を受けて、自分もとがらないと」と思って仕事をしていったら、知識は後から自然に身についていきました。

あえて情報をインプットし過ぎず、クライアントの課題と向き合う

林真理子氏

 

林: 2010年というと、広告のテクノロジーも進化して、すでに複雑化していたと思います。広告配信の仕組みやトレンドなどの最新情報はどうやってキャッチアップしてこられたのですか?

 

寶: 最新情報の収集については、特定メディアのRSS購読や、信頼できる人の発信している情報のチェックなどを人並みにしていますが、一方であまりインプットに偏りすぎないようにしています。お客様の課題に深く入って取り組み、そこで発生する問題への対処方法を調べて考え抜く、というほうが実際に使える知識になると考えています。

リスティング広告をはじめとする運用型広告の場合、プラットフォーム側の事情で変化が激しいので、細かいアップデートまで全部インプットしていたら情報を処理しきれませんし、知っている程度におさえています。

 

森田: 現在のSEMコンサルタントとしての業務内容はどういったものでしょう?

 

寶: クライアントの担当者は、Webマーケティング部のように、広告、アクセス解析、コンテンツなどWeb全般を見ているという方が多いです。会社のWebマーケティングの現状を聞いて、予算をどう配分して投資していくかといった戦略的なことから、広告アカウント構築・再構築、広告のメンテナンス、運用の代行といったことまで、お客様の要望に応じて仕事は幅広いです。

リスティング広告の仕事は、数学的な分析のアプローチも大事なのですが、それに加えて、どう人の心を動かすかというアイデアや表現を考えていくことも重要です。後者を支えることでお客様の役に立っていることが多いですね。

Webの世界は正解があるわけではありませんが、お客様の理想と現状をうかがって、良くない方向にいっているなら、アドバイスします。たとえば、広告運用するなかで、検索キーワードからユーザーのニーズ、インサイトを分析した結果、「Webサイトにこんなコンテンツが足りていないから追加したほうが良いですよ」と提案することもあります。アユダンテは制作会社ではないので、コンテンツそのものはお客様のほうで制作いただくことがほとんどです。

 

森田: ところで、コンサルタントとして研究開発や新しいテクノロジーの吸収などはどうしていますか?

 

寶: アユダンテの場合は、広告だけでなく、SEO、Googleアナリティクス360のチームなどもあります。アナリティクス360は大手企業に提供しており、そうした企業のマーケターの方は我々と同等の知識を持っていて、新しいことへのチャレンジ意欲が高いです。我々は彼らのカウンターとなって相談にのり、高度な機能を実験的に使うこともあります。大手企業と最先端の技術を現場で使えて、一緒に課題解決をしていくことが、それに近いでしょうか。

 

林: 最新情報のキャッチアップには一定の距離を置いているとのことでしたが、チャレンジ精神旺盛な大手企業の実験的取り組みに関わってカウンター役を務められるだけのインプットは、やはり日頃からなさっているんですね。

アユダンテ株式会社 寳洋平氏

上から物を言わない上司による「部下の育て方」とは?

 

林: アユダンテでは入社して8年目ということで、事業拡大とともに求められる役割も変わってきていると思います。今チームは何人体制ですか?

 

寶: 今は部下が4人のチームですね。3人は経験者で、1人は元・未経験者です。

 

林: 特に新人に対してどのように業務を教えていますか?

 

寶: リスティング広告の管理画面の設定などは、さほど難しくないので、特に教えるということはありません。自己学習のためのヘルプや役立つブログを教える程度です。「これは見ておくとおもしろいよ」といった感じで、押し付けないように伝えています。

林真理子氏

 

林: コンサルタントとしての仕事はどうでしょうか?

 

寶: 案件は、一緒に動いて刺激を与えながら、必要な知識を身に付けてもらっています。最初は私がメインで、新人がサブという形で入り、慣れてきたらメインとサブを入れ替える、そして1年後には定例会などであれば1人で行けるようにしていきます。

 

林: まず1年は高密度に1対1でコミュニケーションをとって育てていく感じですね。寶さんは文章表現のバックボーンがあるということでしたが、そのバックボーンがない人に寶さんのスキルを継承していくような取り組みはしていますか?

 

寶: 自分のスタイルを踏襲してもらおうとは思っていません。1人ひとり異なるパーソナリティを持っていますから、その人にあわせたやりやすい仕事の形でいい結果が出せることを目指しています。

 

林: 人によって育て方を変えた例があれば教えてください。

 

寶: たとえば、前に出て話すのが好きなタイプは、先ほどお話ししたメインとサブの役割をすぐに変えて、どんどんしゃべってもらう機会を与えるとか。

そうではないタイプには、自分の得意技、武器を用意してもらおうとしたこともあります。まず、好きなことを見つけてもらって、それに関してレポートなどを作ってもらいます。そして、その内容を僕のほうからチーム全体に「これ、おもしろいよ」と言ってシェアするとか。とにかく、仕事をするうえでその人が「おもしろい、楽しい」と思うことを一緒に作っていく。サポートしていく。というスタンスで仕事を進めています。

そもそも私は末っ子ということもあって、上から物を言えないタイプ。人に命令するよりも、年の離れた伴走するパートナーでありたいと思っています。何より、若い人の視点ならではの発見もあるので教えられることもあります。

業界としても、広告の仕組みがめまぐるしく変わるので、自分の成功体験が今の正解とは限りません。逆に、メンバーの成功体験が参考になるので、チーム全体が対等な関係です。

 

森田: 検索行動自体も、実用化はまだ先としても、「頭で思い描いたらインプットになる」くらいに進化する可能性もあり、検索やキーワードの概念そのものが変わりそうなくらい、技術変化がすさまじいですよね。

森田雄氏

ピンチがあっても立ち直るレジリエンス(回復力)を育てる

 

林: チームをまとめることの苦労はありますか?

 

寶: 特に無いですね。会社全体がスペシャリスト集団で、とがった存在が多いので、自ずと自分もスペシャリストを目指せる環境です。チーム全員が広告を扱いますが、それぞれの強みを生かせるようにしたいですね。

たとえば、誰かがFacebook広告に興味を持ったら、その人がスペシャリストとなり、Facebook広告に関しては自然と彼に聞くようになる、というように、それぞれのキャラクターができていく感じです。

 

森田: 平準化よりも個性化、ですね。「この人ができることを別の人もできるように」と平準化をしすぎると、会社が凡庸になったり、社員に嫌気が蔓延することがありますね。個性を伸ばすほうに向かっているのは時代的な背景もありますか?

 

寶: そうですね、「それぞれがシャープに」ですね。たとえば、映画監督には、役者の「素の」部分を個性として活かそうとするタイプと、役者の「キャラクター」の部分をそのまま使おうとするタイプがいます。

どちらが正解というわけでもなく、振り返ってみると「Facebook広告だったね」みたいになるのが理想ですね。「君はこれが担当ね」ではなく、関係のなかで形になっていけばいいと願いながらコミュニケーションしています。

 

森田: Facebook広告なら急になくなるということはなさそうですが、あまり特定のプラットフォームに依存し過ぎると、スキル習得の観点からは逆にリスクになることもありますよね。つぶしがきかないというか。また、本人のやりたいことの視野が狭くなってしまうかもしれません。

上司はそれに気づきを与える必要がありますね。

 

寶: リスティング広告の場合、変化が前提になっているので、そもそも何かに固執し過ぎるのがNGという空気があります。熱量を持って取り組むことは大事ですが、結果が出ないのにやり方を変えないなら、それは思い込みです。また、広告のパフォーマンスが悪くなったときに立ち直れないと、精神にも影響してしまいます

レジリエンス(回復力)という言葉が注目されていますが、落ち込むことがあっても気持ちを切り替えて、次に進むことですね。リスティング広告は結果が必ず出ます。良い結果も、悪い結果も。ですから、想定したパフォーマンスが出なければ、次の手に切り替えないといけません。

明日、これがなくなっても生きていけるくらいの気持ちでいてもらいたいですね。同時にSEMは真剣に取り組む価値があるということ、他の組織でも使える市場価値の高いスキルであることは伝えています。

 

林: 骨太なコンサルティング力をじっくり育んでいければ、変化の激しい知識ノウハウは、へたに固執せず柔軟に出し入れしてアップデートしていこうと自然に思えますよね。寳さんがそうしたお考えで、重層的に自分たちの知識・スキルを捉えてふるまっていらっしゃるのが、きっと部下の方にも伝わっていて、皆が安定的にキャリアを育めているのではないでしょうか。

「企業が次に踏み出すシナリオを書く(描く)」お手伝いしていきたい

 

林: 今後のキャリアは?

寶: 4月に新刊書籍『ネット広告運用“打ち手”大全 成果にこだわるマーケ&販促 最強の戦略102』を出版しましたが、共著の方は皆、自分より若い方です。セミナーで一緒に登壇する方も若い方が多くなってきました。そういう方と一緒に仕事をするのは、おもしろくて刺激的です。

私がこの業界に入ったときは、両親も同級生もあまりWebのことをよくわかっていなくて肩身の狭い思いがありました。「私の軸は書くこと」にあり、広告、コンサルティングの仕事は人つながりで、結構汗をかいて来たと思っています。ですが、若い人たちは、クールに自分の得意技を身に付けているように見えるので、うらやましく思う一方で心強いですね。なにより、若い世代が生き生きしているのをみるとうれしくなります。

一緒に働くチームのメンバーに対しては、その人ならではの完成形を目指して、お客様に対してバリューが出せる人間になってくれたら良いなと思います。自分個人としては、得意分野である「書くこと」の領域を広げていきたいです。

「ものを書く」という意味合いもありますが、全然違うレベルで「企業が次に踏み出すシナリオを書く(描く)」お手伝いができたら良いと思っています。今でも縁あって深く取り組ませていただいているお客様に対して、いつも「(この企業は)次にどう進んでいくんだろう?」と考えながら仕事をさせていただいています。

これをもっと発展させていくことに、自分ならではの価値が出せるように思います。企業のストーリーを前に進めるお手伝いができたらいいですね。

――応援しています。ありがとうございました。

 

編集後記: 二人の帰り道

 

林: 「象意のキーワードをもとに占いコンテンツを書く」のと、「検索キーワードをもとにSEMの広告文を書く」のが一緒に感じられたという話が印象に残りました。小説も「着想をもとに物語を展開していく」点で重なるところがあるのかもしれません。文章を表現手段とした寳さんの物語展開力が、その時々の市場ニーズがあるところに場を移しながら発揮・鍛錬され続けているように感じられました。こういう変化の激しい時代には、「小説家」とか「コンサルタント」と名前づけされた既成概念で自分の仕事の枠組みを規定せずに、「文章を表現手段とした物語展開力を活かせる仕事」くらいの枠組みで世の中で求められる役割とのマッチングポイントを探り、時代変化に適応していけたほうが健康にキャリアデザインできそうですね。今は書きたいけど書けていないという長編小説、このキャリアの先で書かれた際はぜひ読んでみたいです。

 

森田: 異色の経歴といえばその通りですが、Webの人たちってわりと出自が今とかけ離れていることも多い印象がありますね。僕も、サッシ組み職人からWebデベロッパーになった経緯がありますし。ただ、なんというか絶妙に経験が生きていたりもするんですよね。寶さんの場合でも、コンテンツを書くというスキルが軸となって、多様な職域を通じて経験を備えてきて、そうやって力を発揮できているんだなと感じました。まさに、手に職をつける、特に職能としてつけているという印象です。Webの業務の中だけでなく、それ以前からもっているスキルや関心事に目を向けて、経験値との掛け合わせでどういう能力を発揮できるかと考えるのも、キャリアデザインの一助になりそうだと思いました。

 

本記事はWeb担当者Forumで公開された記事を転載しています。

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