
真円にきわめて近い円筒形レンズの誕生
スマートフォンと連動させて使用する新しい形のレンズスタイルカメラ『DSC-QX100』『DSC-QX10』。デザインを担当した柘植隆弘氏は、いかにカメラとしてのクオリティを表現するかに注力したと話す。

「スマートフォンにしっかりと、かつシンプルに取り付けられる形状に苦労しました」
柘植:奇をてらわず、本質的なレンズの品質を伝えるデザインを心がけました。そのときに最もネックになったのが取り付け方法です。
まずはスマートフォンにレンズをしっかり取り付ける方法をいくつも試したのですが、かなり“ゴツい”クリップ状になってしまってシンプルにまとまらないのです。そんな形ではソニーが目指す「愉快」なデザインとは言えません。
本来、機構設計は設計担当者が考えるが、今回は商品性に大きく影響する部分だったので、デザイナーとしても多くの提案をしてきた柘植氏。
柘植:ヒンジ付きのモックアップを社内の3Dプリンタで成型して、実際の形を作り上げてから設計担当者に相談する、というプロポーザルを繰り返しましたね。形状だけでなく、アタッチメントの勘合方式も円筒形状に合った回転式にこだわって提案しました。
光学性能の良さを凝縮して表現したいという考えから、結果的に交換レンズそのもののような円筒スタイルに行き着いた。
柘植:今までとは使い方が違うカメラなので、形にも新しい概念を与えるチャンスだと思っていました。開発途中では、レンズに見えない形や、全くカメラとは思えない形などもアイデアにはありましたが、結果的にはレンズだけが独立したようなカメラに決まりました。
こうして、真円に近い円筒にほんの少し脚がついている形状に収まったレンズスタイルカメラは、可能な限り、余分な出っ張りを削ぎ落としたデザインだ。
柘植:(スマートフォンという)板と(レンズという)円筒でカメラになる、という象徴を完成できたと思っています。

スマートフォンに装着するアタッチメント部分の試作品

手持ちのスマートフォンをアタッチメントで上下に挟み込み、簡単に装着できる
写真をシェアするために最適化したUIデザイン

赤川 聰 あかがわ さとし
プロデューサー/デザイナー
2001年入社。「XMB™(クロスメディアバー)」の搭載機器、VAIO®向けのアプリケーション、タッチパネル、一眼レフカメラの一号機のUI開発などを経て、2009年から3年半ほどアメリカに赴任。帰国後はソニーのカメラ全体のUIの統一業務および、Xperia™, Tablet向けアプリケーション業務に携わっている。
レンズスタイルカメラの画期的な特徴のひとつに、スマートフォンから取り外した状態でもWi-Fiを使えば自由な視点で撮影できることが挙げられる。この機能は、スマートフォンをもっと楽しみたい一般ユーザーに、これまでにないカメラの楽しさを与えるものになった。UIデザイン統括グループの赤川聡氏は、その魅力を次のように語る。
赤川:レンズはレンズで持ち歩き、スマートフォンをタッチするだけで高性能なカメラが起動するという特性は、カメラに新しい付加価値を与えました。自分撮りはもちろん、入り込めない隙間や、高い視点など、今までに見たことのない景色を自由に撮影できる楽しさは格別です。画像は本体にも保存され、ソニーのクラウドベースの写真・動画共有サービス PlayMemories Online(プレイメモリーズオンライン)に自動でアップロードすることもできるので、ひたすら撮影した画像を後からウェブ上で確認できるのも便利だと思います。
カメラ側にメモリが入っていなくても、スマートフォンがあれば保存できる。撮影した画像をそのままFacebookやTwitterにアップすることが多いスマートフォンユーザーを意識したUIデザインの完成だ。