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数々の必然的な偶然が確信へ。株式会社森岡書店設立までの紆余曲折-森岡督行×渡邉康太郎インタビュー2回目

森岡督行(森岡書店銀座店)、 渡邉康太郎(Takram)

切り札として「物件」を見つけたものの……

-「一冊の本を売る本屋」のアイデアが、いよいよカタチになるかもしれない。「株式会社森岡書店」設立に向けて、株式会社スマイルズとの折衝がはじまった。

森岡:遠山さんをより説得するために、まず、切り札を用意しました。その切り札というのは物件です。私は普段から「この物件だったら、こんなことができるんじゃないか」と考えるのが好きで、物件には不思議な力があると信じているんですよね。ちょうど馬喰町に3階建ての1棟貸しの物件が出るという情報を入手しまして。ここなら家賃が安くて、一冊の本を売る書店とカフェ、ギャラリーを併せてできる。収益も問題ないだろうと考えたんですね。

森岡督行さん、渡邉康太郎さん

さっそく、遠山さんに再度お会いしたときに、馬喰町の物件に一緒に行きました。そうしたら、「いいね!スマイルズの役員会議でプレゼンして」と言われまして。資料をつくって、意気込んでプレゼンしたんですが……スマイルズの経営陣からは、かなり慎重な意見を頂戴したんですよね。

渡邉:プレゼンが終わった後、すごい凹んでいる森岡さんから電話がかかってきました。

森岡:でも、スマイルズからは、「必ずしも、やらないわけじゃないよ」と。こちらも、プランをブラッシュアップして再プレゼンを!と意気込んでいたのですが、馬喰町の物件が先に誰かに借りられてしまったんですよ。そのときは、「もうご縁がないのかな……」と思いましたね。

 

本がつなぐ縁に導かれるように出会った、決定的物件

-予定していた物件を借りることができず、次なる手を考えあぐねていた森岡さんは、またしても、一冊の本からチャンスを得ることになったという。

森岡:どうしようかと思っていたころ、ここ(鈴木ビル)が空いたんです。実は、この物件の大家さんは知遇を得ていて、ちょうど本を届けに行ったら、「1階の部屋が、空くよ」と。なんでも、この部屋が空室になったのは40年ぶりらしいです。

渡邉:絶妙なタイミングで。しかも、茅場町の物件とは比べ物にならないくらい、説得力のある物件でした。

森岡:昭和4年築。昭和14年から「日本工房」という名取洋之助が主宰する編集プロダクションが入っていて、当時の海外に向けた日本発の対外宣伝誌をつくっていたんです。そこに在籍していたのは、写真家の土門拳、藤本四八、デザイナーの亀倉雄策といった、そうそうたるメンバーたち。鈴木ビルは、いわば“日本の出版の聖地”とも呼べる建物です。日本のメディアの礎を築いた歴史的背景のある一室で、いま、出版のイベントを行うのは意義もあるし、必然性もある。

渡邉:遠山さんがビジネスをやる上で重んじているのも“意義と必然性”。それが、この物件によってすべてがつながりましたね。

森岡:この物件を見て、遠山さんだけでなくスマイルズの方々も、「じゃあ、やるか!」という意気込みをもってくださったのだと思います。

Photograph: Miyuki Kaneko

Photograph: Miyuki Kaneko

 

ブランディングづくりのベースになった森岡さんの「人生の10冊」

-“日本の出版の聖地”ともいえる歴史的建造物を得て、株式会社スマイルズから出資を受けることに成功した森山さん。ここから、「一冊の本を売る本屋」開店への準備が始まった。まず必要なのは、ブランディングとブランドロゴのデザインだった。

森岡:物件が決まってからは、実際に株式会社を設立するまでは早かったです。店舗のブランディングとロゴデザインをどうしようかと考えたときに、真っ先に頭に浮かんだのが渡邉さんでした。

渡邉:お話を受けて、最初に、「これまでに読んだ本の中でのベスト10を教えてほしい」と森岡さんに尋ねたんです。そういう間接的な情報も、森岡書店らしさに関わってくるんじゃないかと思ったので。

渡邉康太郎さん

森岡:いきなり聞かれましたが、10冊すべてその場でお答えしました。

渡邉:そのときに森岡さんが1冊目に挙げたのが、岡倉覚三の『茶の本』だったんですよ。僕も『茶の本』が大好きだったので、とても驚きました。そんなところにも、自分が「森岡書店銀座店」に関わる強い必然性を感じました。

森岡さんの「人生の10冊」
岡倉覚三『茶の本』
九鬼周造『「いき」の構造』
柳 宗悦『工藝の道』
村上 春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』
夏目漱石『草枕』
堀江 敏幸『もののはずみ』
木村伊兵衛『Japan Through a Leica』
山本 昌男『ゑ』
Josef Sudek『Josef Sudek』
藤原新也『メメントモリ』

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