メジャーデビュー後、プロデュース、映像制作、アートディレクションなど、マルチな才能を発揮するYUTARO氏インタビュー!

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メジャーデビュー後、プロデュース、映像制作、アートディレクションなど、マルチな才能を発揮するYUTARO氏インタビュー!

メジャーデビュー後、プロデュース、映像制作、アートディレクションなど、マルチな才能を発揮するYUTARO氏インタビュー!

「天は二物を与えず」ということわざとは、無縁の男がいる。その男の名は、YUTARO。1999年、ロックバンド「ゼリ→」のベーシストとしてメジャーデビュー。2008年に解散後「LAID BACK OCEAN」「undervár」を経て、2017年には「sads」に加入。バンドメンバーとして活動しながら、音楽事務所兼レーベル「ART LOVE MUSIC」を立ち上げ、アーティストのマネジメントやプロデュース、MV制作、アートディレクションなども始める。ミュージシャンであり、クリエイターであり、さらに会社経営者という、マルチに活躍する稀有な存在といえるだろう。独自の世界観を追求する映像表現の評価は高く、企業やブランドのプロモーション映像制作にも関わっている。そんなYUTARO氏にいままでの経緯、映像制作へのこだわり、そして現在のコロナ禍にどんなことを考えているのかインタビューした。

ミュージシャンからプロデューサーへ

―――ミュージシャンからプロデュースに携わるようになったきっかけを教えてください。

ゼリ→でデビューしたときからCDのデザインやMVなど、ビジュアル面のアイディアを出していました。ファーストアルバムの『RODEO★GANG』はsadsの清春(*1)さんにプロデュースしてもらったのですが、セカンドの『NO NEED』以降は自分たちでプロデュースするようになったのがきっかけです。他のアーティストも含め、本格的にプロデュースに取り組んだのは、会社をつくった2013年ごろからです。

―――会社をつくったのですね?

実は、ゼリ→で活動していたときに、ボーカルのヤフミが社長、僕がビジュアルやデザインを担当し自主で運営する会社をつくったことがあるんです。でも、さまざまな事情でゼリ→が解散し、残ったメンバーと新たなメンバーでLAID BACK OCEANというバンドをはじめたんです。そのバンドの活動でいろいろ表現していく中で、これまで培ってきた部分ではあるんですが“自分の役割が決まっていること”にフラストレーションを感じるようになっていきました。凝り固まってしまうより、もっと広く自分の表現を突き詰めることをはじめたいな、と。それでLAID BACK OCEANを辞めて、undervárというバンドを始め、ART LOVE MUSICを設立しました。

―――新たなチャレンジがしたかったということですね。 ART LOVE MUSICで思った通りのことが実現できていますか?

自分の突き詰めた表現をアウトプットできる場所が欲しかったんです。これまでいたバンドのファミリーな感じから抜け出して、自由に何でもやれる会社をつくりたいと思いました。

ART LOVE MUSICでは、まだ大きいことは達成できていませんが、確実に以前よりは納得できるモノづくりができていますし、制作する相手としっかり向き合ってアウトプットしていると思います。それが積み重なって、いろんなことがやれたな、ということになるのかと思います。

今は、制作過程はいろいろありますが、制作のプロセスを経て作品を完成させ、世に出るのを見届けた瞬間にやりがいを感じますね。

―――プロデュースされる側からする側になり、どんなことが変わりましたか?

自分がデビューしたときは、レコード会社の人などに「これは駄目、あれは駄目、それはやめた方がいい」と、けっこう押さえつけられたようなことがありました(笑)。映像制作に集中するため、現在はマネジメント業をお休みしているのですが、自分がプロデュースするときは、できるだけ押さえつけないような方法を考えていました。

客観的になれる今、若い20代くらいのバンドには魔法がかかっているなと思いますね。ある種、夢を見ているというか、誰に何を言われても「そんなの関係ない。絶対に成功する」という自己暗示が強いというか。これがいわゆるフレッシュさなんだなと思うのですが、ある程度年を重ねてくると、二手先が見えてきてしまうこともあるんですが、関わってきたバンドらを見ていると、昔の自分を見ているような感覚になります。

―――彼らにどんなアドバイスをしていたのですか?

かつての自分も同じでしたから、彼らの気持ちはよくわかります。その先がある程度読めるようになった今、魔法を解かないようにアドバイスすることもありましたね。

例えば、日常で他のメンバーに不満があるとしたら、その矛先を「ステージでのパフォーマンスで“お前らより俺はかっこいい”みたいな感じで、ねじ伏せる気持ちでやりなさい」とか(笑)。

ただし、経験して自分たちに合った解決策や乗り越え方を見つけることも必要ですし、そうやって自分たちで気づいて変えていくことがこの世界で生きていく醍醐味のひとつだと思うので、あえて言わないこともありました。その都度不満の内容にもよりますが真正面から話し合いすぎても現実的になっていくだけだったりしますからね。

プロデュースするうえでは人間関係が大切です。関わり方にもよるのでしょうけど、メンバーの悩みをひとりひとりヒアリングして、キャリアを積み上げていけるようにサポートしていました。それが一番大変でしたね。

YUTARO(ユータロー)|ミュージシャン/クリエイター。福岡出身。ART LOVE MUSIC(アートラブミュージック)代表
YUTARO(ユータロー)|ミュージシャン/クリエイター。福岡出身。
ART LOVE MUSIC(アートラブミュージック)代表

映像作品へのこだわり

―――映像作品のプロデュースも手がけていらっしゃいますが、PCで画像・映像をつくるようになったきっかけは?

20歳のとき、デザイン学校へ通っている友人にMacbookを見せてもらったんです。「何なんだ、このおしゃれな機械は!」と驚き、「こういうのつくれるんだよ」とillustratorの作品を見せられて、すぐに真似して買ったのがきっかけです。そうしたら、意外とIllustratorはすぐに使えるようになりました。

それからデジカメを買って、パシャパシャ撮ったら周りから写真上手いねって言われて。調子に乗ってしまいますよね。自分に魔法がかかっていたので(笑)。

絵は下手だったのであまり描かなかったんですけど、それでも好きでしたし、子供の頃からモノづくりは好きでした。小学校の図工の時間は好きでしたね、段ボールやレンガで秘密基地を作ったりして。そういった感覚で映像も作り始めたんです。

―――はじめてのMV作品誕生のきっかけを教えてください。

undervárの新曲のリリース時に営業回りしているとき、『village vanguard』で店頭受けするするアーティストになりたいと思っていたんです。『village vanguard』でピックアップされる多くのアーティストは魅力的なイメージをもってました。サブカルチャーというか、発掘した感というか、マニアックな心をくすぐるような場所に置いてほしかった。それで、『village vanguard』に営業をしたときに、「MVください」と言われ、「あ、つくるの忘れてた」。しかも「明後日ください」と言われ、どうしようと思って目についたのが、iPhone。よし、コレで撮ってみようと街をウロウロ歩いて撮影し、なんとかカタチにしました。いまから7〜8年前のことですから、当時iPhoneで撮ったMVは珍しかったと思います。

いま観るとあまりにも恥ずかしいので、公開していませんが(笑)。

―――清春さんや古内東子(*2)さんなどのMVを手がけるようになったきっかけは?

清春さんは一緒にバンド『sads』をやっていましたし、自分がレーベルを作ってさまざまなバンドのMVを撮っていることを知ってくれていたので、その流れで依頼を受けて、今はライブ映像なども含めて手がけています。古内さんは知り合いから映像監督として紹介してもらったのがきっかけで、映像を10本制作しました。

【清春】 「20th Century Boy」feat.SUGIZO LIVE DVD The Birthday

―――映像制作において、どんな部分を担当されるのですか?

企画、監督、演出、撮影など、全部やっちゃう感じですね。照明も指示しますし、舞台セットなどの美術も手がけています。

けっこう大変で、なんでこんなことしてるんだろうと思うときもあります(笑)。でも、楽しいんですよね。

なかでも編集の工程がいちばん好きですね。イメージどおりに撮影して、家に帰ってゆっくり見返しながらする編集作業は大好きです。

編集ソフトはPremiere ProとDaVinciを使っていますが、独学で覚えました。音楽のソフトと似ているところがあるので理解しやすかったです。

―――苦労された経験や失敗談はありますか?

いつも苦労していつも失敗しているんですけど(笑)、いちばん困ったのは、カメラが回ってなかったときがありました。ライブ撮影で、10台あるカメラのうち2台が2曲分回ってなかった。あとは、編集後のデータを消しちゃって、バックアップを1からやり直さなくちゃいけなくなったこともありました。

―――MVを制作する上でのポリシーを教えてください。

しっかり楽曲を聴き込んで、深く入り込むようにしています。アーティストの個性を大切に、この楽曲でどういうことを表現したいのか考え抜きます。たとえば、この楽曲にどういう色のイメージをもっているのかなどをヒアリングし、さらにそこに僕のイメージを重ね合わせ、アーティスト自身もわからないくらい深い部分を引き出せたらいいなと。

自分がそうしてもらいたかったからかもしれません。簡単な打ち合わせで適当なアイディア出されて、はい終了!みたいな経験があるので、僕はそんなイージーに仕上げることはしたくないと思っています。

清春『A NEW MY TERRITORY』監督・カメラ・演出・美術セット
清春『A NEW MY TERRITORY』監督・カメラ・演出・美術セット

コロナ禍の活動について

―――コロナ禍の現在、どのような状況ですか?

ライブやフェスができなくなり、ミュージシャンをはじめ、バンドマンや音楽関係の人が非常に厳しい状況になっています。

いままでの全国ツアーは、1つの人気バンドに加え、3〜4つのバンドが入れ替わりで演奏する対バンでライブしてたわけです。それができなくなったので、新たなムーブメントを起こしたり、ファンと共有したりすることが一切なくなってしまいました。それが音楽を盛り上げ、音楽ファンがどんどん増えていく大切な部分であるだけに大変残念です。

―――こういった状況で、いまアーティストに必要なことは何だと思いますか?

自立心。自立するチカラかな。アーティストそれぞれが自分たちで今後を見据えて動くセルフプロデュースが重要だと思います。自分たちの方向を決め、ズレないように切り拓き、それが時代にハマればスポットに入るような気がします。

―――映像配信で実現できることはありませんか?

コロナの感染拡大によって、ライブイベントなどでの音楽との偶発的な出会いがなくなりました。Aという目的のバンドを見に行って、たまたま出ていたBというバンドが好きになるというような。いま、そういう偶発的なものが起こる配信ができるプラットフォームを計画しています。

ちょっとハードルは高いですけど、誰もやっていない新しい方法ですし、ぜひ実現したいと思います。人気バンドAにはファンA、人気バンドBにはファンBという、直線的なつながりではなく、もっと広げたいです。世の中にはいいアーティストがいっぱいいますから。

―――映像制作を志す方へメッセージをいただきたいのですが、より良い映像をつくるにはどうしたら良いですか?

いまはものすごくおしゃれな映像が簡単につくれるので、たとえばアーティストものをつくるときは外見よりもその内面を引き出すといいかなと思います。

具体的には、 じっくり相手を観察して魅力を引き出すことですね。「撮影するよ」と言ってから撮るのではなく、ごく自然なふとした瞬間を撮って、そのリアクションから新たな一面が見つかることもあります。

また、照明について勉強するといいかもしれません。映像は光が命で、光がないと映りませんから、光の変化や可能性を試してみるといいでしょう。

*1:日本のミュージシャン。ロックバンド黒夢、sadsでの活動のほか、ソロのシンガーソングライターとしてのキャリアでも知られている。

*2:日本の歌手、シンガーソングライター、ラジオDJ。

To Creator編集部
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