放送業界の映像クリエイターが挑む、動画マーケティング業界への転職事情

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放送業界の映像クリエイターが挑む、動画マーケティング業界への転職事情

放送業界の映像クリエイターが挑む、動画マーケティング業界への転職事情

テレビ番組のプロデューサーやディレクター、テレビCMのプロダクションマネージャーなど、これまで地上波の映像制作を手がけてきた面々が、動画マーケティング業界に転職する動きが活発です。とりわけ30代前半に多く見られる、この映像クリエイター転職動向の背景や転職活動の実際に迫ってみましょう。

目次

活況の動画マーケティング業界

映像産業の市場規模を見渡すと、放送業界が長く横ばいなのに対して、ネット動画広告は拡大を続けており、今後もさらなる成長が見込まれています。

総務省の「情報通信白書」によれば、放送事業者全体の2020年度の売上高は、前年度比8.1%減の3兆5,522億円。2008年から13年間の推移を見ても停滞している状況が確認できます。

グラフ1

出典)総務省「情報通信白書」令和4年版 第3章第3節「放送産業の市場規模(売上高集計)の推移と内訳」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nb000000.html

一方で、電通が毎年公表している「日本の広告費」によれば、2021年のネット動画の広告費は、前年比32.8%増の二桁成長で5,128億円、初めて5千億円を突破。今年2022年の予測も、前年比20.5%増と高い成長率を維持して、6,178億円まで拡大すると見込んでいます。

グラフ2

出典)電通「2021年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」グラフ9「ビデオ(動画)広告市場の推移(予測)」
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2022/0309-010503.html

電通の同調査によれば、今やインターネット広告媒体費全体のうち、動画広告は4分の1(23.8%)を占めるまでに成長、今後ますます存在感を増していくことが期待されています。

YouTube、Instagram、Twitterと広がる活躍フィールド

今や多くの企業が、TwitterやInstagramなどのSNSアカウントを開設して情報発信を日常としています。自社・自ブランドの公式YouTubeチャンネルを立ち上げて、定期的かつ頻繁に動画コンテンツを作って配信する企業も増えてきましたよね。

こうした動きを背景に、動画専門のマーケティング支援会社も出てきましたし、社内で動画プロモーションの専任者を中途で自社採用する企業も増えています。

また動画配信プラットフォーム、動画メディアを運営する会社も、映画・音楽・スポーツとさまざまな分野に存在し、いろんなテーマを包括的に扱う大資本の企業も台頭してきました。

これまで映像クリエイターの職場というと、放送局、映像・CM制作会社、ポストプロダクションなどに限定されていましたが、ここ数年で一気に活躍できるフィールドが広がった感があります。今は映像関連の求人も実に多様化していて、大手の上場企業からスタートアップまで、業種も多岐にわたります。

YouTube、Instagram、Twitterと広がる活躍フィールド

求人企業が求める映像クリエイター像とは?

職種で言えば、映像を扱えるプロデューサー、ディレクター、プロダクションマネージャーなど、ビジネス・マーケティング文脈で企画を立ち上げて映像制作プロジェクトを取りまわせる推進者の求人募集が大変増えています。

一般の事業会社でも、自社の事業推進・マーケティングの一環として、YouTubeや各種SNSを連動したプロモーション施策を起案して内製できる部隊を整えるべく、事業企画・サービス企画を担う部署からの正社員募集が増えています。

動画配信プラットフォームや動画メディアを運営する企業では、解析ツールで得た視聴データなどを駆使して、自社のターゲットにどんなコンテンツが刺さるかを分析し、適した動画コンテンツを調達したり、オリジナル番組を企画・設計したりできる人材が求められています。

コトを創り出す面白さ、伸び盛りの市場、安定した労働環境が魅力

こうした市場動向を受けて近年、とりわけ30代前半の映像クリエイターからよく聞かれるのが「動画マーケティング業界に転職したい」という声。主な肉声を4つに整理すると、

  • データドリブンで流入経路や視聴動向も見ながら、SNSなども連動させて映像コンテンツを作ったり効果的にデリバリーしたりする仕事をやりたい
  • 企業の事業・マーケティングにインパクトを与えるソリューションとしての映像制作、モノづくりに限らずヒトやコトを動かす仕事にやりがいを感じる
  • 成長市場・新興分野で働いたほうが年収アップが見込めるし、将来も明るい
  • 一般の事業会社で正社員として勤務し、ワークライフバランスを重視したい

上2つは「仕事内容」、下2つは「労働・職場環境」に焦点が当たっていますが、どれか1つということではなく、複数の理由の掛け合わせで、これまでのキャリアを活かして「もっと面白い仕事、将来性が見込める職場」を求めて転職に打って出る方が多いようです。

選考場面で発生しているミス・コミュニケーション

ただ、動画マーケティング業界が求める映像クリエイターは、「映像を作る人材」というより「映像でビジネスする人材」。当社で映像業界を専門に扱う転職エージェントに話を聴くと、ここに転職希望者と求人企業のミスマッチが発生しやすいと言います。

選考場面で発生しているミス・コミュニケーション

従来の放送業界で映像制作の技量を磨いてきたクリエイターは、応募先企業に対して自分の「映像を作る職能」をアピールする。あるいは「担当した番組が高視聴率をたたき出した」「手がけたCMが広告賞を獲った」とアピールしてくる。一方で、求人企業の側は「作った映像を使って、他メディア連動も駆使して、いかにビジネスにインパクトをもたらせるか」に焦点をあてて選考しているため、そこでのコミュニケーションがかみ合わず、採用選考が不成立に終わるケースが少なくない。これにまつわる悩みは転職希望の映像クリエイター、求人企業の採用担当者の双方から、よく聞く話です。

転職成功者たちは、どうアピールしたのか?

当社でサポートしてきた事例を振り返ると、放送業界から動画マーケティング業界への転職を成功させた皆さんに共通するのは、「映像×ビジネス」の掛け合わせに焦点をあてて応募先企業の戦力となれるポテンシャル、戦力になりたいという志しをアピールしていたこと。

「映像制作に関わる技量を、実務経験や制作実績を根拠にアピールする」のは当然のこととして、下に挙げるような観点でもアピール材料を用意することが必須と言えます。

  • 映像制作の実務経験・実績からアピール
    自分が手がけた映像作品が、自社やクライアントの事業に直接インパクトをもたらした実績(売上アップ、新しい顧客ターゲットの開拓など)を具体的にアピール、そのための戦略・戦術立案にどう関わったかもあわせて
  • 動画マーケティングの実践・学習経験からアピール
    自分が手がけた映像作品に対して、データドリブンで視聴データなどから分析を行い、分析結果から仮説を立てて映像作品の企画~制作に役立てた実践経験があれば具体的にアピール。なければプライベートで学習し、YouTubeや各種SNS・アナリティクス関連ツールなど駆使してトライアルした経験をアピール。そこから何を学び、自分にとってそれがどう面白いのか、もっと突き詰めてどんなことをやってみたいのかも自分の言葉でアピール
  • 募集ポジションでやりたいことをプレゼン
    応募先企業の市場環境や事業を十分に調べた上で、募集ポジションで求められている役割を前提に、自分がどういう企画・体制を実現して事業貢献したいのかを具体的にプレゼン

「興味はあるけど、今は何もしていない。入社したら頑張りたい」では、中途採用の選考を突破することは叶いません。たとえ現職でマーケティング職を担当していなくても、自分の持ち場で自分なりにどう動画マーケティング的エッセンスを実践しているのか、プライベートでどんな学習・トライアルをして力をつけているのかを具体的にアピールできるよう経験を積み、初対面の相手にも説明できる言葉に整理して おく必要があります。

刺さるアピールには、キャリアの棚卸しが必須

当社でも、転職相談を受ける際には個別にこれまでのキャリアを伺う中で、ビジネスインパクトをもたらすどんな働きぶりがあったかを丁寧に棚卸しして、どう職務経歴書に書き加えるか、面接でどう具体的にアピールするか、転職活動と並行してどんな学習・経験を積んでいくといいかなど、一緒に練っていく時間を大切にしています。

実際こうした棚卸しの時間をもつと、マーケティング職としてのご経験がない方でも、それまでのキャリアにアピールできる実務経験・実績を発見することは少なくありません。

また専門的な映像制作スキルに限らず、汎用的なソフトスキルとして、企画構想力、チームを動かすディレクション力、プロジェクトマネジメント力、新しい環境でも円滑に信頼関係を築けるコミュニケーション力、途中途中の変更に臨機応変に対処できる柔軟性など、自分の強みを、エピソードトークとあわせて明確に打ち出せる自己分析と棚卸しなど、転職活動特有の準備も大切です。

同業者に自分の映像制作の技量を伝えるのとはわけが違うので、「何年の現場経験がある」「何の編集ソフトが使える」「現場の人たちとうまくやれる」「あの作品・あの人の作品に関わった」といったアピールにとどまっていると、業界外の人からはむしろマイナス評価をかってしまうリスクすらあります。放送業界から動画マーケティング業界への転職を実現する際は、自分のキャリアを棚卸しして、業界外に刺さるアピールに翻訳するプロセスが成否を分けるポイントとなりそうです。

まとめ

今回の記事では、放送業界から動画マーケティング業界に転職する映像クリエイターのキャリア転換を取り上げて、ご紹介しました。自分の働く場所、ビジネスフィールドについて考える機会にお役立ていただければ幸いです。

また「自分も動画マーケティング業界に興味ある」という方は、ぜひ当社の映像専任の転職エージェントにご相談ください。どんな方が動画マーケティング業界に転職していて、どんな準備をして転職を実現させたのか、実際にどういう企業の募集があるのかなど、個別に情報提供・ご相談に対応しています。

▼映像・動画制作に関連する転職・求人情報にご興味がある方は下記から自分にあったお仕事を探してみましょう。

▼これからも映像をつくる職業をたくさん紹介していきます。ぜひYouTubeチャンネルも登録してください。

林 真理子
トレーニングディレクター/キャリアカウンセラー 林 真理子

1996年よりクリエイティブ職のキャリア支援・人材育成事業に従事。広告・メディア・ネット業界を中心にクリエイティブ職向けトレーニングやワークショップを開発。開発講座数は数百、法人提供実績は50社超。講師には実務エキスパートを招聘し、自身は裏方のインストラクショナルデザイン(教授設計)とプロジェクトマネジメントを専門に手がける。クリエイティブ職の仕事の学び方や教え方、人材育成やキャリア形成に関するスライドをSlideshareにて公開、総閲覧数は29万ビュー超。国家資格キャリアコンサルタント、日本キャリア開発協会認定CDA、日本MBTI協会認定MBTI認定ユーザー。