拡大するクリエイターエコノミー 個人が主役になる時代 KdanMobile Software CEOケニー・スー氏が解説

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拡大するクリエイターエコノミー 個人が主役になる時代 KdanMobile Software CEOケニー・スー氏が解説

拡大するクリエイターエコノミー 個人が主役になる時代 KdanMobile Software CEOケニー・スー氏が解説

インターネットやSNSが広まり、個人クリエイターの活躍の場が広がっています。コロナ禍による働き方の変化も追い風となり、リモートワークが浸透し副業を始める人や、独立して個人事業主として仕事の幅を広げる人たちが増えました。また、個人がつくるコンテンツが支持され始めて、「クリエイターエコノミー*」という言葉も生まれ、企業が個人クリエイターに投資する流れは加速していっています。今回、台湾発のスタートアップでクリエイター向けのSaaS型業務効率化アプリを開発するKdanMobile Software Ltd CEOのケニー・スー氏が、クリエイターエコノミーの市場規模や課題について解説してくださいました。

*クリエイターエコノミーとは個人の情報発信やアクションによって形成される経済圏を指す。(参照:クリエイターエコノミー協会)

個人クリエイターがヒット作を生み出せる時代になった

世界のクリエイター市場は大きな転換点を迎えています。これまではネットフリックスやウォルト・ディズニー・カンパニーといった大企業が巨額の予算を組み、オリジナルのコンテンツを制作し、その著作権でビジネスを拡大してきました。資本を投じ、時間をかけてヒット作品を生み出してきたビジネススタイルでした。しかし、今は個人のクリエイターが曲作りや撮影を行い、SNSや広告にコンテンツを出して収益を上げています。完全に個人が主役の時代になったのです。個人クリエイターはかつて大手企業の下請けというイメージが強かったが、自身のブランドを立ち上げてInstagramやTikTokなどのプラットフォームで勝負しています。こうしたプラットフォームは拡散性が高く、個人のクリエイターが投稿した数分の動画が一瞬でバズることもあります。つまり、これまでエンターテインメントを手掛ける大企業だけが生み出せたヒット作品を、個人が生み出せるようになっているということです。大企業が個人クリエイターを制作面でサポートする動きも出ています。

メタ(前・米フェイスブック)やマイクロソフトなどが仮想空間「メタバース」に投資するのもこうした個人クリエイターの市場拡大を期待してのことでしょう。メタバースは近い将来100兆円に上ると期待され、ゲームや音楽では普及期に入ってきていると言えます。NeoReachとInfluencerMarketing Hubの共同調査によると、クリエイターエコノミーの総市場規模は約1042億㌦(2021年5月時点)とされています。日本円にしておよそ11兆円になります。誰でも発信できる時代になり、クリエイターの数は爆発的に増えています。

世界のクリエイター市場は大きな転換点を迎えている

クリエイターの権利保護や制度づくりも必要

一方、クリエイターが増える中で権利保護や制度づくりも必要になるでしょう。コンテンツが適切に保護され、正当な対価がクリエイターにもたらされ、創作活動を続けることができるような仕組みの構築が必要です。二次利用の不正や転売リスクも考えなければなりません。海外ではクリエイターの活動を支援するオンラインサービスやプラットフォームが立ち上がっています。日本でも2021年夏、クリエイターの活動の促進や権利保護を目的にした「クリエイターエコノミー協会」が発足しました。日本のクリエイターはアニメーションや漫画、動画制作において高い技術力を持ち、海外からも高く評価されています。台湾では、バーチャルアイドルがライブ活動をしたりCMに出演したりといった文化が盛んで、日本のアニメキャラクターも受け入れられています。市場の広がりとともに制度設計することは重要です。
クリエイターという枠を離れて見ても、フリーランスや副業という働き方の選択肢が増えている中で、個人で仕事をする人の立場は保障される必要があります。

リモートワークで、クリエイターの作業工程が複雑に

このような市場拡大期に訪れたコロナ禍で大きく変化したのがクリエイターの作業環境です。テレワークが浸透し、自宅で作業が行えるようになりました。通勤時間が減る一方でオフィスに出社しないことが、クリエイターの作業工程を複雑にしています。具体的にはコンテンツの閲覧や容量の大きいファイルのやり取り、データセキュリティーの保持などです。ファイルサーバーのクラウド化など、外から情報にアクセスできずにストレスを感じた経験はないでしょうか?こうした作業で工数が増えてしまうことは避けたい。

また、コンテンツをつくる上でもスマートフォンをはじめとしたモバイル端末を使うクリエイターが増えたように感じます。以前はPCの前で作業することが多かったが、クリエイターのインスピレーションはオフィスの外で得ることもあるでしょう。アイデアを書き留めたり、素材を集めたりする段階でもモバイル化は進んでいます。

モバイル端末を使うクリエイター

「モバイルワーク市場」の拡大を支援していきたい

これらの解決策の一つとなるのは、クラウドの利用や、写真や動画、デザインといったクリエイティブな仕事を想定して開発されたアプリでしょう。

当社KdanMobile Softwareは、クリエイターの生産性向上を目的にした電子サインソリューション「DottedSign(ドットサイン)」やドキュメント管理「Document 365」、クリエイティブ制作アプリのSaaSを開発する台湾発のスタートアップです。中小企業や個人のアトリエ向けのクリエイティブ制作ソリューション「Creativity365」というアプリも開発しています。アプリは他のメンバーとも共有できるので、素材データのやり取りや更新作業が効率化されるメリットがあります。

これらのアプリは、さまざまな場面でクリエイティブ活動を支援しています。
病院に長期入院する子どもたちの学習支援をするイタリアのNPO「Associazione Avisco」はこれまで800人以上の子どもたちの入院生活をサポートしてきました。イタリア北部の都市ブレシア市内の病院で、長期的に当社の製品AnimationDeskを使用して病院の子ども達に動画制作のワークショップを開いています。アニメーションを制作することは、子どもたちが自身の感情を表現できる有効なツールだといいます。この他、シンガポールの大学では講義で使うノート機能アプリとして導入していたり、ある楽団ではミュージックビデオ制作ツールとして活用されていたりします。

AnimationDesk

これまでクリエイター向けの業務効率化アプリは欧米の企業が中心になり開発してきましたが、KdanMobile Softwareはアジア発の企業として広げていく考えです。今はアメリカ、中国など6カ国に拠点を置くが、2022年は日本市場の開拓に力を入れます。2021年9月にシリーズBで約17億円を資金調達し、日本市場へ本格参入しました。通常、このようなアプリの開発はエンジニア主導ですが、当社の特徴としてアプリの開発をデザイナー主導で行っていて、クリエイターにとってUI、UXが優れていることを重視しています。シンプルな設計で、新しいインスピレーションを生み出してもらえるツールを提供し、日本のクリエイタービジネスを支援したいです。

ケニー・スー氏
Kdan Mobile Software Ltd 代表取締役社長 ケニー・スー氏

2009年にKdan Mobileを設立。自身がエンジニアとして製品を開発し、App storeで公開したものは、 iOS、Android、macOS、Windows全体で2億回以上のダウンロード数を誇る。Kdanの電子署名、PDF、メディア制作、コンテンツ注釈ソリューションの会員は1,000万人に上る。
KdanMobile公式サイト:https://www.kdanmobile.com/ja