映像ディレクター谷川英司インタビュー。テクノロジードリブンな映像制作の秘訣を語る

谷川英司

谷川英司 (TOKYO)|映像ディレクター

企画・演出・撮影・CG・編集といった映像制作に必要な全てのプロセスを一貫して担うクリエティブプロダクションTOKYOを率いる映像ディレクター谷川英司。普段はテレビコマーシャルを中心に多忙なディレクター業を送るが、映像演出に最新テクノロジーを取り入れた実験的な作品作りも積極的に行っている。新陳代謝の早い広告業界において、もはやテクノロジードリブンな企画は珍しくはないが、不安定な技術を使う際には想定外のトラブルは付き物だ。そんな現場を前提に、それでも視聴者の心に響く映像制作を成功させるための秘訣を伺った。

 

魅せられたのは東大が開発する高速プロジェクタ

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――この作品を作るきっかけとなった一番のモチベーションは何だったんですか?

このプロジェクトは、当時WOWにいらっしゃったプロデューサー浅井(宣通)さんに声をかけてもらったのがはじまりなのですが、何よりも面白い!と思ったのは東京大学の石川・渡辺研究室の取り組む最新鋭プロジェクタDynaFlashでした。世界最速の1000fpsを投影出来るという、全く新しくて見たことのない技術ですし、それを真面目に研究している人達がいるっていうだけでもワクワクしますよね。見せてもらったデモ映像では、揺れる布に完全に追従してプロジェクションされていました。これまでは動きの早い対象物にズレなくプロジェクションするは難しかったんです。ちょうど実験的なプロジェクトもやりたいと思っていたところだったので、TOKYO、WOW、東京大学の石川・渡辺研究室の3社で共同出資をして制作することになりました。

 

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1秒間に1000フレーム投影を可能にした最新鋭の高速プロジェクタDynaFlash、超高速センシング技術、高精度な深度計測技術で構築した3Dマッピング技術。遅延10ms以下という超高速な2Dトラッキング技術により、繊細かつ高速なパフォーマンスにも追従するマッピングシステムを構築。DynaFlashは東京エレクトロンデバイスにより製品化。

 

僕としては、こんな面白い技術なんだから、映像を生業としている僕達で一般の人にも伝わる映像に仕立てたいと思いました。そして、この映像制作に関わる全ての人々や技術が、次の段階にいけたり、ビジネスに繋がるような映像を作りたいなと思ったんです。発表後は、日本だけでなく海外からも広く反応をもらえてスタッフ一同盛り上がりました。

 

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DynaFlashに加えて、WOWによるFace MappingやCGアニメーション技術、そして世界的ダンサーAyaBambiらの才能によって作り上げられた
Creative Director / Technical Director:Nobumichi Asai, Director / Editor:Eiji Tanigawa Producer:Toshiyuki Takei, Shinya Masuda, CG Director:Shingo Abe, Programmer:Atsushi Yoshimura, Director of Photography:Senzo Ueno, Choreographer:Aya Sato, Cast:AyaBambi, Gaffer:Tomohiro Takahashi, Music:Setsu Fukushima, Ryosuke Taniguchi, Music Composer:Yosuke Nagao, Colorist:Yasuo Fukuda, Online Editor:Ryota Abe

 

テーマは“技術の紹介映像で終わらないコト”

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――谷川さんはこれまでも広告にテクノロジーを取り入れた企画を多く手がけられていますね

ええ、その多くはライゾマティクスとのコラボレーションになります。テクノロジードリブンなプロジェクトで学んだことのひとつは、「今起こっている問題や課題に対してどういう解決方法を導けるか?」ということ。メディアアートと広告が融合した企画を手がける時って想定外のことが多発します。それはテクノロジーの限界値を知ることでもあるのですが、課題を「ストレス」ではなく「面白い」って考えられるようになりましたね。

 

NIKE+ FUELFEST
TOKYOがライゾマティクスとコラボレーションした代表作。ロンドンのBattersea Power Stationにて行われた参加型イベント。男女にわかれエネルギー量をゲーム感覚で競う。プロジェクションマッピングでインフォグラフィックスを建物に表示しパーティーを盛り上げる演出を行った

 

――課題に対して、クリエイティブな反射神経やフレキシビリティを日々筋トレしてきているんですね。

こと新しいテクノロジーを扱う時って、単なるテクノロジーの紹介になってしまいがち。「映像として面白い」という軸からブレないことが重要なんですが、それがなかなか難しい。

新しい技術だけど、通常の映像制作でレンズを選ぶような気分で扱うようにしています。それぞれ技術や機材には特性があってそれに適した絵作りがあるからです。どうすれば観る人の感情が動くのか?という方に重きをおいています。

 

――新しいテクノロジーって完成版じゃないことってよくあると思うんです。期待感に夢が膨らんで楽観的に考えがちなんですが「あれ、ここまでしか出来ないの!?」といった。

僕は、人間の「目」が一番凄い技術だと思っているんです。勝手にフォーカスを瞬時に合わせてくれるんですよ。ベストを自分が持っているから、映像技術やテクノロジーってそもそも至らない部分があって当然で。その至らない部分を否定するんじゃなくて、それでどういうものを作るのかって考えるようにしています。演出で補足することで観ている人に「技術の限界」を感じさせない映像に仕立てる。(テクノロジーの)核となるところだけが面白ければ、限界にぶつかっても、じゃあこうしましょうって展開できる。それを楽しめるかどうか、それに尽きると思います。

 

――この「INORI」では、どういう課題が持ち上がったのでしょうか?

色々とあるのですが、僕の中ではDynaFlashは現時点ではモノクロ出力のみ対応だった。

 

――え!そうなのですか?

バレてないでしょ(笑)。

 

――技術の限界を感じさせてないってこういうことなんですね

マッピングをモノクロでしか投影出来ないので、LEDのライトで赤を足して表現しています。テクノロジーって面白いですよね。飛び抜けて進化した部分があると、どこかがとてつもなく退化していたりする。カラープロジェクタしか知らない世代にとっては「モノクロ!?」って、さすがに驚きました。でも、表現が制約されたことによってデザイン的にソリッドになったし、逆にもっと制約しようと思って赤のみにして、印象を強めることができました。AyaBambiにも赤とモノクロの世界はフィットしたと思います。

 

――他にもありますか?

このテクノロジーの特性は高速で追従することですが、体が回転しすぎたり、揺れすぎたり、前後の動きに対する追従は不得意だというのがありました。これもプロジェクトが進行するにしたがって出てきた課題。となると当初僕が想定していた引いた画角は使えないとか、AyaさんのコレオグラフやAyaBambiのパフォーマンスにも大きく影響してきます。なんですけどAyaBambiは手を使った表現も得意だったり、調整していくと画角もどんどん寄っていって、顔と手くらいが丁度いい、というかそれが限界だと理解したからこそFace Mappingも取り入れた表現にたどり着くことができました。

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手のトラッキング&プロジェクションマッピングはダイナミックプロジェクションマッピング技術を使用。顔のトラッキングはWOWが開発したFace Mapping技術を使用している

演出家として監督として

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谷川 英司:映像ディレクター。1976 三重県生まれ。 2012 TOKYO設立。従来の映像表現のみならず、プログラミングなどの新しい表現を取り入れた企画演出が、世界的に評価を受ける。The Directory Big Won Rankingsにおいて「Top Planning Direction」部門の世界第3位に選出。 主な仕事に「Intel Musem of Me」「Suntory 3D on the Rocks 」「NIKE Fuel Fest」「MILANO EXPO日本館 映像演出」など多数

 

――この映像でどういったことを伝えようとされたんですか?

人生の葛藤みたいなものを描いてやろうって思ったんですね。テーマは「生死」と命に関わるものですが、AyaBambiの命を感じさせない機械的な動きを活かしつつ、生命を解釈したグラフィックスをマッピングしています。
プロジェクタで何を表現すると心が動くかを考えた時、一般的にプロジェクタマッピングって単純にかっこいいものが多いですよね。そうでなくて、根本的なところから攻めようと。技術から一番遠い部分での表現を試みました。彼女たちの歩んできた様を想像しながら、「生命、人生、闇、孤独、葛藤、衝撃、脱皮、融合、誕生、開眼、開放」といったキーワードを表現に落とし込んでいきました。例えば「闇、孤独、葛藤」では顔がズレていったり、ノイズがはいったり。「脱皮、融合」ではお互いの顔が入れ替わったり服がつながっていったりと2人がアメーバーのように一体化していく。彼女たちからは融合物のような印象を受けていたので、「男と女」や「善と悪」のようなわかりやすい対比ではなく、繊細なコントラストが引き立つよう目指しました。演出は過剰にならないように、ライトだけで魅せ「禅」的な削ぎ落としたものでどれだけ表現できるかを考えました。

 

――谷川さんにとって最も”実験的”だった過程は?

日本で「ディレクター」って言った時、その権限って強くて。ディレクターがアイデアを出して、CGアーティストはそのアイデアをただ作る人。このプロジェクトはみんながアイデアを持ち寄って、僕はそれを客観的に取捨選択して、上手くコンポジットしていく役をやりたかったんです。ほぼコンテのようなものはなくて。

プロデューサーの武井(寿幸)からのアイデア、カメラマンの上野(千蔵)のアイデア、音楽も同じで、Ongakushitsu Inc.の方にさっきのキーワードを投げて、「音楽家さんとしてどういう表現が望ましいと思いますか?」と進めていく。それらのアイデアを肯定し、最終的にまとめていくっていう作業をしました。そうすると音楽ひとつにおいてもすごく良いものが上がってきて、後々、北米のNikeから曲を使いたいってオファーがきて、実際使われたりしたんですよ。

本当に当日までみんなでライトはああでもない、こうでもないって考え尽くして、当日エイっ!ってやる感じが、普段やっている仕事とは全然違っていてとても新鮮でした。フレキシビリティが生まれます。アイデアに対して一度吸収してみる、上手くいくかどうか、一回やってみるっていうことを実践する。それは、実はディレクターにとって肩の荷が降りるような行為でもあるというか。ディレクターって意固地にならざるを得ない時もあるんですが、その辺も柔軟になるというか。自分のアイデアと違っていても、良いものに対しては素直に良いって言える姿勢が自然に培えました。

 

――それもひとつのディレクションの方法かもしれませんね

ダメな方に進んでいった時にNOって言えばよくて、よくわからない時はみんなで一回トライしてみたら、相乗効果で良いものが重なっていくってことがあるんですよね。

 

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――AyaBambiですが、彼女たちとのコラボレーションはどんなものでしたか?

AyaBambiのイメージとして凄くソリッドでストイックなものがあったので、怖いのかな~なっておもっていたら、すごく気さくでした。関西人?って思うほど(笑)。振り付けを担当しているAyaさんは凄く技術に対する解釈が的確なんですよね。「ここまでが限界値なんだ。じゃあ、この範囲で動くけど、私たちがやるからにはこういうことを見せなければいけないね」と判断し提案してくる。

例えば、左右に揺れる振り付けでも、あと1cm揺れが大きくなってしまうとダメなんです。そういった制約の中で、制約を感じさせないアイデアをくれる。それと、2人いるからこそ出来る表現、テレコになったり、2人で一つの絵になったりとか、なによりも2人がドンピシャでユニゾンする感じは圧倒的。

コレオグラフだけじゃなくて、顔にお経が流れるアイデアなんかも出てきました。Face Mappingだし、「耳なし芳一」みたいなのが面白いんじゃないかって。結果としてそれが凄く効いていますよね。あ、タイトルが、INORIという言葉に決まったのも、AyaBambiの醸し出している宗教的な香りからなんです。

 

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撮影に向けてAyaBambiの3Dスキャンが行われた。撮影では、プロジェクタと被写体の距離をリアルタイムで計測できるように立体的なターゲットを打っている。「将来的に、(DynaFlashが)コンサートとかでも使える技術になっていくと面白くなりそう」と谷川氏。

――海外からの反響も多く寄せられたそうですね。

ええ、「技術の紹介だけにならない」映像が作れたことに満足しています。繰り返しになりますが、DynaFlashの特性を使って、AyaBambi、WOW、TOKYO、そして関わった人全員の作品になれたんじゃないかなと思います。

3年続ければ結果は出る!? 谷川流日々のクリエイティブ筋トレ

――新しいテクノロジーを使った表現を目指しているデイレクターにアドバイスをするとすれば?

良いものを作る、っていう気持ちを忘れないことだと思います。どうしても、そのテクノロジーを紐解いていくとどんどん制約が生まれていくようなものが多いので。それは自分自身がどんどん知っていくということ。「それは出来ません」っていうことがかなり出てくるんですね。その時に心が折れると、ダメなものになっていかざるをえない。ヤバイな〜って思っても、軌道修正できるような熱を持っておく。

こういうプロジェクトを重ねて思うのは、ディレクターというのは、主観性と客観性を同じくらい持っているべきなんだということ。若い頃は自分が面白いアイデア考えて素敵な演出をすれば世の中に認められるんだって思っていたけどそれだけじゃない。ディレクターって演出家だけど監督。演出は主観の仕事で、監督っていうと客観的に優秀なプレイヤーを集めて才能を引き出しまとめ上げるもの。僕はそう感じるんですね。それが僕のスタイルなのかもしれません。みんなの良いところが混ざり合っていい映像が出来た時っていうのは、この仕事の醍醐味です。

――良いものを作る気持ちを忘れないためにオススメのことがあれば教えてください。

よく言うんですけれど、やりたい仕事をやるのであれば、受験勉強なんかより勉強しないといけない。せめて寝る10分前くらいは自分がやりたい美しい仕事を、インターネットとかでもいいし、見たり触れたりして、自分の血や肉にしてほしい。僕も未だにやっています(笑)。世界中にいる優秀な人の作品を見て、若い人にとってはそういう作品作りをするためにはどうすればいいんだろうって考える時間が血となり、僕にとってはストレスのいいリセット方法。3年も続ければ実りは形になって見えてくると思います。

 

――3年。意外と早い!いいモチベーションになりそうです。ありがとうございました。

 

 

- 取材・文・編集:山本加奈|写真:Rakutaro -

 

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