体に響くアニメーションの世界。水尻自子インタビュー

水尻自子1984年青森生まれ。手描きやコマ撮りアニメーションを中心に制作し、身体の一部をユニークな視点で捉えた独特のアニメーションを得意とする。TOKYO MX「レイナレイナ」でアニメ監督デビュー。

 

広島国際アニメーションフェスティバル(2012年)での木下蓮三賞、第6回文化庁メディア芸術祭(2012年)アニメーション部門新人賞、アヌシー国際アニメーションフェスティバル(2013年)他、多くの賞を受賞した短編ショートフィルム「布団」で知られる、アニメーション作家の水尻自子氏。

彼女がアニメーションを始めたきっかけは、女子美術大学在籍中に先生である伊藤ガビン氏から言われた一言。「自分が嫌いなものは絶対自分と関係している」。自身の名字“水尻”がコンプレックスだったことから、お尻の絵を描き始める。毎日描いては先生に見せるということを繰り返し、卒業制作では、溜まったお尻の絵を見た先生の「アニメにでもすれば」という助言から、アニメーションの道へ進むこととなる。

アニメーションを始めたきっかけ

「しりプレイ」
dir: 水尻自子
女子美術大学の卒業制作。

 

――女子美の卒業制作として2005年に手掛けられたのが、この「しりプレイ」ですね。

自分の描いた絵が動いた感動が、すごく快感でした。その後はコマ撮りだったり、面白がってやっていました。

人生で、ハマるというか、続けられることっていう経験がなかったんですけど、アニメーションは何かこう作業的に体に合ってるっていうか。ちまちま描いて、動いた時、面白いんですよね、やっぱり。制作中は、なんでこんな地味なことを・・・って気持ちにはなるんですが(笑)。で、出来上がったものを、ガビンさんに見せて面白いって言ってもらえることも嬉しかった。そういうのが自分の中で快感だったんですね。

 

――水尻アニメーション作品は、何と言っても動きの気持ち良さですよね。あの、むにょむにょ感はどこから来ているんでしょうか?

日常で感じている動きや感触を、もっと過剰にして、観ている人が体で思い出せるように意識しているのかなって思います。

あの、ねっとりというか、ゆっくりした動きになっちゃっているのは、描いて埋めないと動きを見てもらえないんじゃないか!? という不安からどんどんどんどん埋めちゃって、結果的にゆ~っくりになっちゃってるんです。動きを見てもらいたいあまりに・・・。

でも、線を決める時も、曲線が歪んでいないかっていうのは入念に見ています。線が綺麗な形のまま繋がっていくか、どこ切り取ってもちゃんと気持ちのいい曲線になっているかという点は意識しています。

 

――官能的、肉感的な動きを目指されているのでしょうか?

官能的っていうのは時々言われるんですけど、実は、作っている時はあんまり意識していないんです。作ってみたら、結果的にそう捉えられている。自分がイメージしている動き、頭の中で感じた動きを再現ちゃんとできているか、もしくはそれ以上の面白い動きになっているか、描いて、動かしてみて、なんか違うなというのがあれば直すという繰り返しで作業をしているんです。

転機となったショートフィルム「布団」について

「布団」Trairer
dir: 水尻自子│ani: 水尻自子、松永まり恵、中村郁美、井上理花│song: "Dark End" by 福原まり(アルバム「karakuri」からのオリジナル曲を戸田誠司がリアレンジ)

 

――国内外の映画祭で高く評価された「布団」について教えてください。水尻さんにとってどういう作品だったんでしょう?

“新しい構成”にずっと取り組みたいと思っていました。それを完成させようと思って作った作品です。個人的なことで言うと、今年の3月まで女子美の助手として働いていたんですけど、空いた時間でちゃんと作品を作らないとここで働いている意味がないと思ったんです。助手を辞めた後に繋がるような、ステップアップになるような作品を作りたかったんです。

 

――その取り組んだ“新しい構成”について教えてください。

新しい感覚として感じられるような作品にするために、構成をどうすればいいかな? と考えたんですけど、最後まで具体的な策が浮かばず、手を動かし始めました(笑)。

今までは、1作品に1モチーフという作品が多かったんですけど、今回は総動員して、やれることを全部やっています。集大成とまでいかないかもしれないですけど、出せるものは全部出そうと。モチーフを選んで、動きを選んで、それらが繋がっていくような構成を練ってみました。そうやって完成してみたら、意外と動きや感覚の連鎖感が出ていて、まぁまぁ上手くいったかもって。この作品で、一歩抜け出せたと思います。

 

――多くの受賞、評価されたことからも伺えますね。

本当によかったです。私、ガビンさんが師匠で、ガビンさん離れをしたいってずっと思っていて(笑)。学生時代から、ガビンさんに見せて「面白い」って言われれば、もうOK! みたいなとこがどっかにあったんです。でも、流石にこれをずっとやっているわけにはいかないよなーって。親離れしなくちゃって。それで、「布団」を作ってアワードやコンペにも出して、ガビンさん以外の人にも観てもらって評価をもらいたいっていうのがあったんです。

 

――制作期間はどれくらい掛かっているのでしょう?

働きながら作っていて、毎夜作業して、4、5ヶ月ぐらいです。1枚1枚描いていると、どうしても時間掛かっちゃうんです、何故か。作っていて、毎回、こんなに掛かんの? って、びっくりする。あれだけ線を単純化した映像でこんなに時間が掛かっているってことは、他の人はどれだけ掛かっているんだろうって心配になっちゃいます(笑)。

 

――コンテは描かれるんですか? それともやりながら作っていくんですか?

最近は描くようにしています。段々学んできて、構成をちゃんとやりたいと思っているので、コンテを最初に描いて、そのとおりに一回やってみるっていうのが重要だっていうことに気づきました。コンテを信じてやってみる。でも、ラストは決めかねることが多いのですが。

 

――「布団」では、音の使い方がこれまでの作品と一線を画しています。

音楽に助けられたっていうのは凄くあります。「布団」の前までは自分で音素材を買ってきて作ることが多かったんです。「布団」は、作品のレベルを上げたかったので、戸田誠司さんにお願いしました。凄く時間がなかったんですよね。

途中経過のものは、一切見せたくなくて、締切の一週間前まで粘ってアニメーションを作っていて、「これにお願いします!」って。戸田さんは仕事が早いと有名な方なんですが、流石にゼロから作曲は無理だってことになりました。

そんな折、戸田さんのお知り合いの福原まりさんが新曲を出すとのことで、それを私の作品に合わせてアレンジしてつけましょうと提案いただいて。原曲を、作品の細かい動きのタイミングに合わせてアレンジしてくれて、こちらからイメージを伝えるとか、やり取りも一切なかったのですが、出来上がった音楽をもらって映像に付けたら、ぴったりだったんです。

水尻アニメーションについて

「すし 2」
dir: 水尻自子

 

――水尻さんの作品のモチーフは、体や食べ物といった、生モノが多いですね。ほんわかした色合いや、シンプルな線も特徴的です。

単調な線の理由は、「描き込みが凄い!」って、方向にいくのに抵抗があって。アニメーションと言えば、手描き感が凄い作品とかありますよね、でも、画力にそんなに自信が無いので、それを自分が取り入れたところで、チンケなものにしかならないなと思って。だったら、余計な要素は全部取って、線だけで勝負したい、というのがあります。

「布団」まで、「もっと描き込んだ方がいいのかな」っていう迷いはあったんですけど、やっぱり、純粋な形や動きにこだわろうって決めました。

色については、それも自信の無さからなんですが、ビビットな色を乗せると線が負けちゃうし、柔らかくて、ゆっくりな動きに合わせていくと、もうちょっと薄い方が合うかな? とどんどん薄くなって、現在のような風合いになっちゃいました(笑)。

 

――感覚的な印象が強い水尻アニメーションですが、背景にストーリーはあるんでしょうか?

ないですね(笑)。そもそも、登場するものに顔がないですからね。顔は意識的に避けています、特に目は。目って感情が直に出るから。感覚的な動きに焦点を当てたアニメーションを作っているので、そこを集中的に見て欲しいんです。感情的な部分は置いときたいんです。そこにストーリーがあって、登場人物の顔があって、感情が表れていたら、観客はそこを感じてしまいます。形だけで表現することに努めているんです。

 

――そぎ落とされた世界の中に置かれると、見ている人は繊細なところまで反応しますものね。

そうなんです。アニメーションって、そこが怖いところだと思ってます。見ている人って敏感に気付くんです。ちょっと動きに違和感があったりすると、あれ? って思っちゃうから、繊細に、ズレが全く気にならないようにしています。基本的な性格は大雑把なんですけど、アニメーションだけは何故か、0.数ミリのズレも許したくない(笑)! 自分でも不思議なんですけど、アニメーションに関してだけは、なぜか繊細に気を配れるんですよね。

 

――どの作品にも共通する、一貫した約束事ってあるんですか。

構成の面で、一本の作品として成立しているかどうかということ。そして、分かりやすく、物量とかスピードとか起承転結に頼っていないかっていうことですね。

見た目の面では、書き込みで生まれる手触り感や質感に頼っていないかということです。余計なものを排除して、純粋に線で勝負できているのか、といったところです。

 

――選ばれるモチーフやシーンはどう選択、思いつかれているのですが?

私、過去のことをエピソード的に瞬間的に引き出すのが、苦手なんですよ。なのでモチーフも、気付いたら出てたみたいなことが多いんです。意識的に引き出すのではなく、整理されずにどこかに微かに溜まっているものが突然現れてくるんです。自分でも大丈夫かなって思うのですが(笑)。その、浮かんだやりたい動きから、作品にするためにどう繋げていくかアイデアを出して構成をしていきます。

 

――「布団」に続き、新作「かまくら」を完成させられました。今後のビジョンを教えてください。

「かまくら」のワンシーン
dir/animation: 水尻自子|m: とくさしけんご
手描きとデジタル両方を使って制作するという水尻氏。最近はペンタブレット使用率が多く、本作は全てペンタブレットによるものだ。

 

う~ん。これからどうなるんだろう? っていう。「布団」で取り組んだことを再確認するために「かまくら」を作ったのですが、正直、余計分からなくなっちゃったんですよね。もう、ちょっとやれば見えてくる気がしているんですけど。

 

――そんな中で新作の予定はあるんですか。

あります。ギャラリーでの発表用に、「布団」と、「かまくら」ともう一個つくって三部作にする予定です。

水尻氏が絵やアニメのために描いているスケッチ。最近では絵を描いて販売することも試みているという。

 

――それを作った時に何か見えるかもしれませんね?

見つかるかもしれないし、見つからないかもしれない(笑)。漠然とした感じですが、作り続けていたいですね。でも、生活という、現実的なことも絡んでくる。理想的を言えば、お金のことを気にせずに作りたいですよね。でも、そうするにはどうすればいいか、今悩んでいます。

出来れば自分の作品で稼ぎたいんです。作品に値段をつけて、お金を得たいという気持ちがあります。

 

写真:永友啓美
取材・文:white-screen.jp

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