心技一体360°のモノ作り! ファンタジスタ歌麿呂インタビュー。PharellのMV「It Girl」からグローバルへ駆けるビジョンまで!

ファンタジスタ歌磨呂:デザイナー。1979年生まれ。イラストレーター、テキスタイルデザイナー、グラフィックデザイナー、アニメーションディレクターなど多岐にわたり活動中。POPで彩度高めの世界観が特徴。

 

livetune feat. 初音ミクのMV「Tell Your World」や「Transfer」といったミュージックビデオ(MV)だけでなく、ファッション、デザインと幅広く活躍するファンタジスタ歌磨呂。ポップでビビッドな彼の生み出すビジュアルと、熱いクリエイティブに傾ける情熱については、これまでのインタビューでも語られてきた。そんなファンタジスタ歌磨呂氏は、昨年2014年から東京のみならずニューヨーク、アジア、ヨーロッパでも創作活動をしている。そこから生み出された、Pharrell Williams(ファレル・ウィリアムス)のMV「It Girl」をはじめ今後のビジョンを聞いてみた。

 

――ご無沙汰しています。久々にお目にかかって、びっくりしているんですが、身体、かなり絞られましたね!

ファンタジスタ歌磨呂(以下歌磨呂):(腹筋を披露しながら)ここ1年くらい1日おきにジムに通って体を作り直したんです。1日に1時間だけ無になれる時間を作ろうと決めて、慣れるまではほんと辛かったけど、気付いたらストレスフリーになり、体力が付いてきたから身体の調子もすごく良くなって、頭の回転も速くなって仕事がはかどるようになったんです。体と心の正しい使い方を覚えた感じです。

 

――昨年から、東京にとどまらず、ニューヨークをはじめとする海外に行ったり来たりし、生活をされていますね。

歌磨呂:学生の頃から、行きたいって思いはあったんです。僕のモノ作りの考え方として、360°に向けて作りたいっていうのが根本にあって。何度も行こうとは思っていたんですけど、まだちょっと早いかなとも思っていた。というのも、日本のカルチャーを愛しているから、グローバルに持っていく上手いカタチを、主に20代の頃は探って過ごしたんですよね。例えば、これまで作ったアニメーションも、伝統的なアニメに色々な表現を組み合わせてみたり。やっとここ何年かで、日本産ポップカルチャーをグローバルに分かりやすく伝えられそうだな、というアイデアが見えてきた。自分の中で戦えるかもっていうのが出来てきたので、フィールドを広げる、タイミングなのかなって思ってます。社会人になって、色んな社会のシステムやルールを知って、それらをかじり始めたら色んな事を中途半端には出来ないと感じて、自分の中で納得がいくまで日本でやってから海外に行かないといけないなと、段階を得てやっていこうと考えていました。5、6年前のまだ模索初期に行っちゃってたら、やっぱりアメリカ人的な考えに染まっちゃうだろうし、NYってそういう日本人多いんですよね。日本人なのにアメリカ人みたいになりきっちゃってる人。そういうのって90年代っぽくてちょっと違うなって。もうちょっと今の時代ならではやり方で、グローバルで勝負する方法を模索してたんですよね。その方法がやっと少し見えた気がするんです。

 

――ニューヨークはヨーロッパとも近いですしね。

歌磨呂:そうですね。映像においてはパリのエージェンシー「Slowdance 」に所属しています。丁度LAのKELELA(ケレラ)のMVを作っているのですが、実写とアニメーションをミックスした内容で、ディレクターはロンドンで写真家としてもすごく活躍している、ダニエル・サンウォルド。僕は共同ディレクターとして、アニメーションパートを日本のチームと一緒に作っています。ケレラは、素晴らしいアーティストです。多分ドカっとここ1年くらいで来ると思います。クリエイティブ・チームがクラウドファウンディング的に、みんなで作り上げる現場になっていて、すごく面白い体験をしました。ハイファッションのブランドやセレクトショップ、ディレクターも出資していて「みんなで盛り上げよう」という感じでやっていて。クオリティも非常に高いものが出来ました。ダニエルは主にUKのIDマガジンやDAZED & COFUSEDのカバーを撮っていたり、最近はM.I.A.のアートワークなどを作り上げたり、とても優秀なクリエイターなんですよ。

 

――Slowdanceと言えば、一流のディレクターが所属しているプロダクションですね。

歌磨呂:共通の知り合いを通じてダニエルから直接話をもらったんですが、今回のケレラのクリエイティブ・チームがSlowdanceだったんです。ヨーロッパのエージェンシーも探したいなあって思ってた矢先に「ディレクターとして所属しない?」って話をいただいて。そしたら、デビッド・フィンチャーやガイ・リッチーらのメジャーどころが所属しているじゃないですか。「おおーやべぇ! でも、お世話になります(笑)」みたいなノリで始まりました。

 

――パリでの撮影はいかがでしたか?

歌磨呂:撮影はパリで行われたのですが、実写の現場のレベルは日本に比べてすごくシンプルかつハイレベルだなと感じました。圧倒的に根本が違う感じがしました。映像でもスチルでもそうなんですが、やっぱりなんて言うんですかね、英語がとにかく素晴らしいんですよ。チームワークにとって。英語ってコミュニケーションに向いている最強の言語なんだなあと、痛感しました。面倒くさいことがないというか。すごくシンプル、且つ、物足りないんですよ。だから、チームワークが大事になってくる。スタッフ皆が補完し合うんですよね、クリエイションを。衝撃でした。日本語って伝える前に何枚かフィルター通している感じですよね。特に映像業界とかは、“クライアント至上主義”“代理店とか監督がえらい”“現場のしきたり”とかクリエイティブを濁す要素があるじゃないですか。みんなで何か一つの方向に向かうためのシステムではないんですよね。だから濁ったクリエイティブが世に中に蔓延するんですよね。結局最終的に、僕らみたいな末端のクリエイターが傷つく図式になってるんですよ。ただ消費されていくっていう。

もっと、曇りなき眼で見定められるようなクリエイティブ環境になれると、もっと素晴らしいクリエイターは生まれていくんだろうなって思います。単純に良いものを作るっていうゴールに全員が向っていける状況になれたらって心から願っています。

 

――英語の方はいかがですか?

歌磨呂:語学学校行ったりで勉強中なんですけど、中々上達しなくって。言語の構造って思考回路と直結しているんですよね。ある意味日本語での表現方法に慣れ過ぎてしまったので、それを英語のコミュニケーション体系に変換するのがすごく難しくて。日本語は奥ゆかしさや空気を読むとか、あえて言わない、とかそういう趣が素晴らしいんだけど、それって職人的なクリエイティブなんですよね。チームワークとしてはその表現方法は英語には敵わないんですよ。僕もそこがまだまだ慣れなくて、日々苦戦中なんです。日本語的に考えちゃって「あなたはこう考えていて、このようにやっているんだけれど、もちろん、そのあなたのこの部分は大事だけど、僕は、こういう風に思うんだけどどう?」みたいな、えらい遠回りな言い方をして「は? 何言いたいの?」みたいな(涙)。でも、英語のコミュニケーションはもっとシンプルで「こう思うんだけどどう?」って基本的に主観のかけ合いなんですよね。だから物足りないし、補完し合うしっていう。すごく良く作られた言語だなあっていうのは、この半年で学べました。日本語のコミュニケーションは、合気道みたいなところがあるから時間をかけて、循環させてこその美学があるんですよね。KELELAの撮影も、2日間でかなりカット数があったのに、昼前から始まって夜八時には終了しちゃうんですよ。終わるの? って思ったらきっちり全香盤バッチリ! みたいな。パリだけにランチは、一人一人テーブルクロスを敷いて焼きたてのバケットが出てきて、ビュッフェで、洒落てる!! って感じで(笑)。僕が感じたのは、だからと言って英語の思考システムの方が優れているとか、羨ましいとか、そういうわけではなくて、学ぶべきところとしてきちんと把握しなくちゃいけないんだなって思ったんですね。川村(真司)さんともNYで会って話をしたけど、川村さんご自身もすごく物事をグローバルに俯瞰して見てて、日本の素晴らしい価値を伝えようとしていて、すごく僕は勇気をもらったんですね。彼らは見ている世界がとにかく広い。海外っていう感覚はすごくドメスティックなんです。“海外”なんて表現方法を使うのは日本人ぐらいなんじゃないかなって思います。海外っていう中と外っていう考えではなく、ポイントで物を語るんですよね。トーキョーとかロンドンとか、街の名前だったりね。だから日本にはこれだけ面白いカルチャーがあるのにそれが届いていないのは、やっぱり思想と言語が大きな問題なのかなとか考えたりしましたね。僕らが世界に向けて出来ることに課題は尽きないなあと、この数ヶ月で痛感したところではあります。

だから逆に言うと、日本は、アニメーションや職人の伝統工芸とか、内宇宙的なクリエイティブに特化してると思うんですよね。そういう棲み分けが出来ているから、そのバランスを大事にプライドを持って世界と戦っていけたら面白くなりそうだなと思っています。僕らが持っている気質を最大限に生かせるやり方は何かって考える癖を付けることが大事だと思うんです。

 

――効率よく撮影して、ランチはゆっくり食べて、時間内に撮り終えて、夜は家族や友達と過ごす。いいですね。日本のように長時間働いて、じゃぁ、その分経済効果も高いのかっていうと疑わしいですし。ワークライフバランスなんて最近言われていますが、日本が一番実現し辛いのかなって気もします。

 

目指すはクリエイティブ界のダライ・ラマ?

「livetune feat. Hatsune Miku "DECORATOR EP"」
ad/textile de/de: fantasista utamaro|illustration: mebae
ファンタジスタ歌磨呂氏がアートディレクションしたCDのジャケット。イラストはmebaeによる。
©2014 mebae/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.|©2014 fantasista utamaro/KOTOBUKISUN All Rights Reserved.|© Crypton Future Media, INC. www.piapro.net

 

――デザインワーク、テキスタイルにアート活動は今後どうされるのですか?

 

歌磨呂:アートは日本だけだとやっぱり狭き門だし、なかなか難しいですよね。今はアジア、ヨーロッパ、ニューヨークで、僕の“アーティスト”としての価値を作っていく作業を進めています。


――手応えはどうですか?

歌磨呂:いい感じで受け入れてもらっていて、今、展覧会の準備をしています。ただ現代アートやファインアートっていうガチな方向は、ヒエラルキーだったり色々と壁があるので、その辺はよく考えながら、という感じですよね。とにかく、歌磨呂という存在を概念化していく作業が必要なんです。というのも、実は、アニメーションの劇場版の企画を、2014年の夏から始動していて、今、シナリオを書いています。原作、脚本、監督みたいな感じでやろうとしてるんですけど、今はまだまだ準備段階。2、3年後に向けて進めているんですよ。そのプロジェクトは、日本の価値を世界のレベルと完全に同じラインに持っていくのが目標。これは音楽の世界でも未だほとんど出来てないことだから。アニメーションは、日本のテレビアニメや劇場アニメによって色んなムーブメントが出来ていて、それをもっと分かりやすく表現したい。出来上がったら、全世界同時上映でやりたいんですね。そのためには、まず僕が堂々と物事を言える立場、僕に価値がなければいけないですよ。だから僕の価値を作るために、アーティストとしてもモノ作りをしていなければいけないんです。アーティストとして世界を動かしている人たちと同等のレベルまでいければ発言力が出ますから、そうすることで僕の大切なこの日本の文化の翻訳へ繋がっていけると思うんです。ファッションもしかり、クリエイティブ全体的にそういう方向の展開を考えていきたいです。だからファレルのMVもまさにそういう実験としても作りたいと思った。今までのアクションが全部地続きになっていくと思うんです。絵も描いて、服も作って、最終的に映画を通して日本のカルチャーを世界中に届けたい。世の中、悲しいことはいっぱいあるし、何かこういうモノを作ることでワクワクするとか、そういうことだけだと思うんですよね、僕らにできることって。素晴らしいものを言い続けることくらいしかできない。だから、最大限の形を作ろうってのが、僕のビジョンというか。その為には僕が人柱になるのも厭わないというか。ガンガン道を切り開いて行って、それを見た人たちが、もっと楽しいことしようとなったら、ワクワクするじゃないですか。ワクワクすることが人間にとってすごく大事なことだから、そういうモノを作りたいなと思います。ダライ・ラマとかガンジーとかジョン・レノン、そういう方向に近いのかもしれません。大きく言っちゃえばね。何様だよ、とか言われそうですけど(笑)。

 

ファレルMV「It Girl」のはじまり


Pharrell Williams「It Girl」
dir: ファンタジスタ歌磨呂, Mr.|pr: 村上隆|original draft artwork : Mr.|dot ani: 大月壮|rotoscope ani: シシヤマザキ (KOTOBUKISUN inc.)|effect ani: 畳谷 哲也(KOTOBUKISUN inc.)|composite & motion graphic: 佐伯雄一郎|cel ani: NAZ|Prod: カイカイキキ

 

――実験だとおっしゃっていたファレルのMV「It Girl」についてお聞かせください。普通、やりたくてもできない、世界のポップアイコン、ファレルのMVをいきなり作られた。さらには、プロデュースに村上隆やMr.というすごい布陣。しかも、発表した作品は、誰も想像していなかった思い切ったアニメーションMVだったと思います。

歌磨呂:Mr.の世界観を軸に、総集編的なのをやりたかったんですよ。大月壮君の世界観や、日本で面白いことをやっている人たちの超総集編を。話をいただいた流れとしては、村上隆さんのコレクターであり友人であるファレルが、カイカイキキのアーティスト、Mr.のファンで、新しいミュージックビデオを一緒にやらないかって話になったようです。でもMr.はアニメーション監督ではないため、さて、どうしようかという時に、たまたまお声がけをいただいたんです。

 

――村上隆さんとはゆずの「LAND」でもコラボレーションされていましたね。

歌磨呂:そうですね。村上さんとは、そのもうちょっと前からのお付き合いなんです。「LAND」のMVもとても気に入ってもらいました。Mr.のイメージや原案をベースに彼のイメージをヒアリングして、再構築し、アニメーションを制作していきました。ファレルって今や世界の超ポップアイコンだし、村上さんは去年の秋に「In the Land of the Dead, Stepping on the Tail of a Rainbow」(ガゴシアン・ギャラリー・ニューヨーク)っていう、大きな展覧会をやって、Mr.も個展「Live On」(アジアン・アート・ミュージアム)をシアトルで控えていた中だったので、彼にとってもすごく大事なプロジェクトだったんですね。彼の世界観と今の日本の文化の見え方をストレートに表現したいなって思いました。Mr.と、ビットマップゲームっぽいのや、ロトスコープを入れようとかディスカッションしました。シシ(ヤマザキ)ちゃんや大月(壮)君など、日本の映像作家として面白いことをやっている人たちを口説いて、Mr.のアトリエでみっちりミーティングしました。「みんなで世界と戦うぞー! 行くぞー!」みたいな感じで作っていきました(笑)。

 

セルアニメ、ドット絵、モーショングラフィックスに、日本で撮影したロトスコープ!

「ゲームと一言で言っても色々なテイストのものがあるので、今回の案件に対してどんなゲームをモチーフにしたら面白いか歌磨呂さんと相談して“プリンセスメーカーがいいね!”ってなった時に、頭の中でバチッとパズルがはまりました。日本のゲームの文脈としてギャルゲーやエロゲーは土台としてとても重要なので、村上隆さんプロデュースでMr.と歌磨呂さんがディレクターというこの作品に、その要素を差し込めたことが良かった点です」(大月壮)

 

――映像作家のキャスティングも歌磨呂さんがやっているんですね。

歌磨呂:そうです。僕、大月君がすごく好きで、めっちゃ大ファンだったから、遂にこの時が来たと思って「実はさぁ、ファレルのビデオを作ることになっちゃって、ビットマップのパートで一緒にできないかな?」って相談したら、「えーっ!! 」ってなって(笑)。僕がビットマップの最初のパートは“横スクロールのアクションゲーム”がいいかな?って大月君に相談して、「これいつ頃のゲームのニュアンスがいいかな。やっぱり90年代初頭のゲームとか80年代後半のPCエンジンだよね」といったやり取りを重ねていきました。ビットマップの表現も時代によって超細分化されているんです。大月君は天才的なアイデアマンだから、超面白いアイデアをアイデアシートにまとめてくれて、もう、僕、げらげら笑いながら「サイコ―サイコ―」って感じで進めていきました。

 

――どれくらいの期間がかかったのですか?

歌磨呂:4ヶ月ぐらいですね。Mr.にヒアリングして、チームを集めて、ストーリーを練り直して、ビデオコンテの絵を描いています。村上さんは全体の監修的な立場で、途中途中でチェックバックしていただいて、どんどん企画をブラッシュアップさせて、アニメーション制作がスタートしました。

「WHAT'S A FANTASISTA UTAMARO by "QUOTATION"」
special editor : fantasista utamaro|texitile : manga camo 1
ファンタジスタ歌麿呂氏が雑誌をジャック! オリジナルのテキスタイル「manga camo 1」を用いた洋服と靴を長澤まさみが着用する。アートディレクションもファンタジスタ歌麿呂氏が手掛ける。

 

――ビットマップの他にもロトスコープ、セルアニメーション、モーショングラフィックスと様々な手法をミックスしたスタイルですが、ファレル本人をロトスコープで描いた理由は?

歌磨呂:このMVでは、フルアニメーションをつくろうという話だったんですね。だから本人の出演はロトスコープで起こしたいとMr.から話を受けたんです。たまたま、プロモーションで来日している時があって、ちょっとだけ時間をもらって、村上さんのスタジオで撮らせてもらいました。3テイクぐらいしか撮れなかったですけど、ロトスコープにしちゃうからある程度融通効きますしね。

 

――融通が聞くというのは、アニメーション化するときに結構なアレンジをいれているのですか?

歌磨呂:面白いやり方でやっています。ロトスコープを描く前に、オフライン編集したムービーにエフェクトのアニメーションを足して、それをシシちゃんがロトスコープでやるっていうやり方をとっています。

 

――その狙いは?

歌磨呂:普通のロトスコープよりも面白くしたいのと音のグルーヴを表現したいというのがあったんです。実写にエフェクトを絡ませたようなムービーを作ってから、それをまた全部起こし直して、書き直して、手付けの風味を足すんです。

 

――撮影をされて、ファレル、どんな印象でした?

歌磨呂:めっちゃいい人でしたよ。日本がすごく好きみたいで。

 

――ファレルへの企画提案や途中の確認などもあったんですか? それともそこは村上隆さんに一任されていたのですか?

歌磨呂:もちろんです。ファレルには、ビデオコンテ、脚本の段階から提出しています。でも、ファレルサイドは常に寛容にクリエイティブを受け入れてくれていましたね。

 

――そうやって色んな才能によって料理されたフッテージを、一本化していく作業について教えて下さい。

歌磨呂:フレーム単位で僕が演出を決定して、佐伯(雄一郎)くんが実際に組上げていきました。彼はコンポジットがメインなんですが、モーショングラフィックスもすごく上手いんです。これまでも「Transfer」や「LAND」で手伝ってもらっている超優秀な人なんです。

「トリプルファンタジー」
ファンタジスタ歌磨呂氏が手掛ける“上質”にこだわったライフワーク・プロジェクト。第一弾はアパレルで、岐阜県の生地屋、三ツ星の伝統工芸の技とプロダクトデザインをミックスした、ニット生地を開発し、洋服を完全受注生産で生産。もちろん国内に限らず欧米で販売予定。一部、ストールはH.P.FRANCE(アッシュ・ぺー・フランス)で購入できる。

 

――大変だった事はありますか?

歌磨呂:やっぱり、セル・アニメーションですね。尺に対してフレーム数の指示を出しているんですけど、あまりに実験的すぎてセル業界の人は理解するのに苦労した様子でした。何度も何度もリテイク続きで、何度か怒鳴ってしまったりすることもありました。とにかく大変な作業でした。

 

――具体的にどういう理由でリテイクになるんですか?

歌磨呂:セルチームのスタッフがどうこうっていうんじゃなくて、セルアニメーションって伝統芸能的なプロセスが定着してて、スタイルが固まっているんですよね。今回のような構成の作品に合わせてフレキシブルに対応できない仕組みだったので、ちょっとでも道をはずしたらやり方が分からない、どうしよう?ってなっちゃうんです。モーショングラフィックスといったアニメーションの世界だったらできることが、セルアニメではなかなか出来ない。絵の枚数もCGのようにはいきませんから。これまでの経験から、何となくは分かっていても、僕も100%理解出来てないから、またミスを起こしてしまうんですよね。僕の経験不足もあり、かなり大変でした。でも、やりきりたいから納得いくまで修正を出すじゃないですか。それで、ライン・プロデューサーも前向きに受け取ってくれるんだけど、なかなか思うようにいかないこともあり、大変だったんです。セルアニメーションのワークフローって、基本修正が出来ないシステムなんですよね。

 

――ノンリニアでない作り方故に、ということですね。

歌磨呂:そうそう。僕からすると、えー、そんなの有り得ないでしょ、みたいな気持ちがあったのですが、よくよく理解していくとああそうなんだ、って。とにかく、セルアニメパートが一番苦労したし、僕も経験値として成長出来た部分です。セルアニメーション恐るべし! ですね。

 

――歌磨呂さんオススメのシーンがあれば教えてください。

歌磨呂:やっぱり頭のファレルのロトスコープのところかな。Mr.の世界観がぎっしり詰まったシーンなんです。僕もMr.の世界観のファンなので、彼からいただいた色んなキャラクターやテキストのオブジェクトが入り乱れてコラージュしてますが、あの膨大なオブジェクトを動かしているのが佐伯君。その後、横スクロールに展開して、大月君のビットマップのキャラクターが出てくるところも、大月君の超絶なこだわりが効いてますよね。実はストーリーにも凝っていて、そこも見てほしいですね。女の子の青春物語をファレルがセレブレイトしている物語なんですよね。彼女は今大人になって、仲間と散り散りになってしまっているんですよね。それで、過去の自分の青春をまた感じたいと思って、昔みんなで夏休みに訪れた海に行くんです。ファレルは魔法使いのような存在で、女の子の寂しさを気遣って、魔法で彼女の想い出をファンタジーとして蘇らせる。友達を呼んだり、浜辺がお花畑になったり、星がこれ以上ないぐらいにギンギラギンに輝いている。その辺のストーリーはMr.や村上さんと入念に詰めていった感じです。「となりのトトロ」で、拾ったドングリを庭に植えて、夜中にぶわーって育って、大きな木になるシーン分かります? そのままトトロと夜の世界を空中散歩するんだけど、気づくと朝。で、夢だけど夢じゃなかった。そんな感じです。それで、MVの彼女は最後はまた一人っきりに戻るんだけど、彼女の中には素敵な思い出が今も色褪せず輝いていることを知るんですよね。色んなものを乗り越えて、ちょっと優しい笑顔をして終わるんです。でも、お花の髪飾りは残っているんです。まあ、構成が激しすぎて伝わらないとは思いますが(笑)。メッセージとしては、“全ては人の心の中にある”っていう愛を込めた作りになっています。

 

学生時代から地続きでやってきた

――歌磨呂さんの学生時代の話も聞きたいのですが、美大を卒業してからフリーランスとしてずっとやっていらっしゃったのですか?

歌磨呂:中学3年の時に、気持ち的に死に直面しちゃって。思春期だとよくあるじゃないですか、そういうの。なんで生きているのか分からなくて。なじめなかったですね、感覚が。悩んだ挙句、自分の中で「もう無理だ」ってなっていたんです。ずっとそんな感じでした。その後、大学の時も、精神的に参りすぎて爆発して、就職活動とか一切興味も湧かず、何もしなかった。就活って何? って感じで。みんなが躍起になってやっていることが全く理解できなかった。ずっと、もがいていたんです。でも、やっぱり作る事が好きなんですよね。だから作り続けるしかないんですけど、なんで作っているのかは分からなくて。アニメーションが大好きで、ノーマン・マクラーレンの作品とか当時はカナダ大使館のライブラリーまで見に行かなければ見れなかったんですよ。とにかく掘りまくってました。でも、こうやってもがいていた人は沢山いた筈だって思って、とにかく色んなものを勉強しなきゃって、マンガも描いたりしてた。それがカタチになって繋がってきたのがlivetune feat. 初音ミクのMV「Tell Your World」でした。そして震災を境に「戦い続けよう」って、覚悟が決まったんですよね。

 

――そういう意味でも世界に出て勝負なんですね。

歌磨呂:今は、自分の目で見て触れて感じる事が大切だと思ってる。インターネットでよりその感覚が強まっています。肌で空気を感じることって自分が思っている以上に大事ですよね。

環境を変えて良かったこと

――最後に仕事の仕方や環境をガラッと変えてみて、一番良かったところってなんですか?

歌磨呂:今までデザインの仕事で、常に追い詰められる仕事のやり方だったから、逆にゼロから作ろうっていう、一歩を踏み出す力が、追い詰められることによって失われていたと思うんですよね。でも、一呼吸おいて「さあ、自分から行くぞ」って気持ちになれました。自分でアイデアを考えて、自分でチーム見つけて、誰にもお願いされてないのに何かを作るっていうのは本当にレベルが高いことだなっていうのは実感しています。だって、ビビるし、本当の意味で自分と向き合うっていう事はデザインよりも何百倍も大変なんですよ。だから村上さんとか本当すごいなって改めて思った。一つ始まっちゃえば拍車がかかると思うけど、“一歩踏み出す勇気”はすごく実感し始めてる。なんかこう、色んなものがリセットされて、新鮮だし、精神的にはゆったりしてるんだけど、恐怖感はでかい、みたいな(笑)。

 

――会社組織としてKOTOBUKISUNは今後どういうビジョンを持っているんですか?

歌磨呂:例えばですが、アンディ・ウォーホルのファクトリーのような、センスや才能があって、すごく価値のあるものを作っている人達を応援できる、モノ作りの現場にしたいと考えています。ファクトリーに、ミック・ジャガーやバスキアやアナスイといったクリエイターが行き来したような、みんながワクワクする場所、ファイナルファンタジーのセーブポイントみたいなポイント。そういうのを作れたらいいなあって思っています。今の日本の、既存のシステム的なものはなかなか変えられないから。だったらもがいてる若い世代だったり、戦い続ける人たちを、もっと素晴らしい環境でモノ作り出来るように変えていければいいんじゃないかなって。勝手にそういうムーブメントを起こしちゃえって。初音ミクしかり、やっぱりカルチャーでしか変えられないものってあると思うんです。やっと、学生の時からずーっと悩んだり、作ったりしてきたものが、全部繋がって来た。諦めないでやるのは良いことだなあ、って最近すごく感じます。だから、ファレルのMVも、まず座組みが半端じゃないし、ファレル、村上隆、Mr.っていう超ヤバイメンツに対して精一杯応えたかった。僕の出来うる最大限の炸裂したやり方で、僕の信じてるヤバい仲間達とやりたかったんです。それで、あれを見て、もがいてる若者とかは「えーこんなことファレルでやっちゃうの!? 」って、勇気にもなるだろうし、ワクワクさせたいっていうのもあるし、自分を含めてね。

 

――ダライ・ラマ級の覚悟でもってですね。

歌磨呂:搾取して消費していくんじゃなくて、盛り上げてもっとデカイところにみんなで行こうぜ、っていうスタートアップ的な考え方なんですよね、僕は、きっと。社会のシステムとかに染まっていって、こうしなければいけないっていう風になっちゃいがちだけど、そんなのもったいないって思うし。「は?」みたいな姿勢は常に大事にしていきたいです。そこにしか僕の生きる希望はないです。

 

――もしかすると、そのシステムも古い時代に作られたものかもしれない。

歌磨呂:本当にそう。今の時代において、何の芯もないですよね。

 

――プライベートで今年目指したい事はありますか? 英語の習得とか?

歌磨呂:去年は身体絞ったから、そうですね・・・英語も覚えつつ、最強のアニメーションチーム作りでしょうか。ドラゴンクエストで、最強のパーティーを作るみたいに、強力なモノ作りの仲間たちと冒険したいですね、世界を。

 

取材&文:white-screen.jp

トップへ戻る

マイページログイン

Web・ゲーム・映像業界専門の求人・転職・派遣ならイマジカデジタルスケープに登録する