自分自身を投影して取り組んだ短編アニメーション「ゴールデンタイム」。稲葉卓也監督インタビュー

稲葉卓也アニメーション作家。1976年生まれ。京都精華大学デザイン学科卒業後、2002年(株)ROBOTに入社。NHK‑BSキャラクター「ななみちゃん」TVスポットの企画・演出ならびにキャラクターデザイン。NHKみんなのうたや、子供向けアニメーション、キャラクターデザインを中心に活動。
写真:森口鉄郎

 

2008年の「つみきのいえ」でアカデミー賞短編アニメ賞を受賞したROBOTが贈る新作アニメーション「ゴールデンタイム」。企画、脚本、キャラクターデザイン、監督を務めたのは、ROBOTのアニメーション作家集団CAGEに所属する稲葉卓也監督。ソウル国際カートゥーン&アニメーション映画祭の観客賞、アジアの光賞の2冠受賞、第17回文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞し、国内外で高い評価を得る「ゴールデンタイム」は、2014年1月に東京都写真美術館にて劇場公開された。

本当にあったかもしれない廃品たちの物語を、独自のセンスでユーモアたっぷりに描き、懐かしくもどこか切ないエンターテインメントムービー「ゴールデンタイム」について、稲葉監督にインタビューをした。

約23分にも渡る新作オリジナルアニメーション「ゴールデンタイム」

「手仕事のアニメーション(「ゴールデンタイム」「タップ君」「つみきのいえ」)」予告編
dir/writer: 稲葉卓也|prod co: ROBOT|m: 烏田晴奈|key ani: 石之博和、矢吹英子、藤原よしえ、辻仁子、大村将司、小川麻衣、山本祐希江、穂坂史織、加来哲郎|ani: 稲葉卓也、佐伯行信、加来由加里(studio4℃)、田口由美子(studio4℃)|support: オープロダクション、なみきたかし|color setting: 石橋広海、石坂未来子、八百悟志、村上幸織、加納由貴、古賀玄義、木下麦、関口和季、原恭子、大源みどり|back ground: 稲葉卓也|sound design: ONPa|recording: 金森大|sound mixer: 采原史明|voice: 堀越真己|post prod co: IMAGICA|ed: 野口達弘|mixer: 望月資泰|pm: 大嶋美穂|pr: 松本絵美

 

――約23分に渡るオリジナルアニメーション「ゴールデンタイム」の完成おめでとうございます。既に劇場上映や文化庁メディア芸術祭でご覧になった方も多いと思います。どれくらいの期間を掛けて制作されたのですか?

シナリオ開発に1年とプロダクションに1年、約2年掛かりました。

 

――「ゴールデンタイム」は稲葉さんのオリジナル作品ですが、ROBOTとしての取り組みという側面も強いですね。

つみきのいえ」に続く、オリジナルのアニメーションをプロデューサーが企画したのが始まりでした。温めているオリジナル企画があったのでコンテにして提案したんですが、社長が「湿っぽい話だなー」とか言って首を縦に振ってくれない。そこで新たに企画を練り直したのが、「ゴールデンタイム」だったんです。

 

――新しくシナリオに取り組む際、どのようなことを意識されたのでしょうか?

「湿っぽい」と言われたボツ企画は、漫画家の先生の話なんですが、“作り事”だったという反省がありました。自分に体験のない話でしたから。じゃあ、“自分の事”をお話にしようと思ったんです。僕は凄い緊張しいで、自意識過剰で、頭の中がごちゃごちゃしていて、じたばた生きている人間で、その感じを笑ってしまいたいなと思ったんです。それを主人公のテレビに反映しました。あの古風なテレビは僕がモデルで、じたばた生きているんです。

今、短編アニメーションの世界って芸術的側面もグラフィックも面白くなってきて、学生のレベルも凄く高くなってる時代。一方、僕は芸術性もなければ、画期 的なビジュアルセンスや革新的な技術があるわけでもなくて、何もないなと思ったんですよね。でも、何もないなりの何かを作らなきゃいけないなと思っていて。

劇中のテレビが「こんなはずじゃない、もっといいもの見せれるのに」ともがいているところに、僕のそういう作り手としての気持ちを重ねているんです。僕にとっては悲劇だけど、それを喜劇にして、エンターテイメントに出来たらいいんじゃないかなという作品なんです。

ちょうど、年齢的にも37歳になって、(昔は)もっと凄いものを作れると思っていたけど、そういうことじゃないな、自分はこういうものしか作れませんということを受け入れるタイミングだったのかもしれません。

 

――肩の力がいい具合に抜けたタイミングで挑んだ、セルフポートレート的な作品なんですね。

最初は、立体アニメーションでやりたいと思っていたんです。細かく作り込まれたテレビの感じだったり、モノそのものの魅力を持った画作りが出来ると思ったんです。スタジオもないし、制作費も莫大になるし、立体アニメーションをやったことなかったので現実的じゃないので断念しましたけど、やっぱり立体アニメーションでやりたかった。セットだけ立体で作って2Dと合成するというのも検討はしたのですが、カメラワークがあるカットがどうしても難しくて、時間と費用の兼ね合いからも、やっぱ無理だとなって。

その後は色んなタッチを試しました。最終的には、手描きの風合いなんですけど、そこにテレビだったら木の質感の写真を貼り込んだり、猫のぬいぐるみだと古い布、バケツだと錆びたブリキの写真を貼って、モノっぽい質感を持った2Dを目指すことにしました。背景は立体を諦めた分、リアルに描き込んでいます。

 

――とても個人的なところから着想された作品ですが、喜劇として見せていく上で意識した方向を教えて下さい。

プロデューサーから最初に言われたのが、「楽しめる作品にして下さい」ということ。そこだけはブレないようにしました。お話も一人合点というか、作り手だけで納得しているのが一番怖いので、常にプロデューサーの客観的な視点、意見を聞いて進めていきました。アーティスティックとかじゃなくて、エンターテイメントをしたかったんです。凄くスタンダードに作りたいと思ったんですね。シナリオも基本的な3幕構成にし、カット割りもセオリー通り、キャラクターもスタンダードにモノに目がついているだけにして。

仕事になると、特徴づけを要求されることが多いですが、そういうのを排除したスタイルで、エンターテイメントしてみようと。散々やり尽くされたスタンダードなところで、自分をネタにしてやってみて、結果、そこに自分らしさが出せたらいいなという思いがありました。

 

――結果として自分らしさは出ましたか? 映画祭での上映や受賞といい反響となっていますが。

完成した後、「稲葉君らしいね」と言ってもらえたので良かったです。誰にも面白いと思ってもらえなかったら、僕もう作品を作るのはやめて、アニメーション作家と名乗るのもやめようと思っていました。

 

――そういう覚悟の作品だったんですね。

割と切実に追い込まれていましたね。「作れる」とか「作りたい」とか思っているけど、本当に出来るのかって。身近に(加藤)久仁生くんとかいるから、自分も同じだと思っているけど、本当にそうなのかなって。あれ、暗くなってないですか(笑)?

 

――(笑)。出来上がったものが評価を得て、その気持ちは乗り越えられたんじゃないですか?

自分らしさというか、自分が作りたかったアニメーションや観たかったアニメーションはこういうことなんだって分かりました。やっと、自分のアニメーションの入り口に立てたという感じがしてます。

最近は、学生作品でも、既に自分のカラーを持った作品制作している子もいて、凄いなと思いますよね。僕は15年遅れてるんですよね(笑)。やっと同じラインに立てたというか。


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「ゴールデンタイム さよならテレビくん」
原作・絵:稲葉卓也|文:長谷川義史|白泉社|4月11日発売|1,512円
絵本版の「ゴールデンタイム」。絵も全て絵本用に描き起こしている。

 

――ノンバーバルな作品ですが、それはやはり海外でも見て欲しいという狙いからですか?

プロット段階ではナレーションを入れていたんですが、セリフ無しでやってみようかなと方向転換をしました。なるべく無表情で感情を伝えたいなと思って、口もないし、顔も変わらない。それでも気持ちが伝わるようなアニメーションにトライしたんです。

そのためにこだわったのが効果音です。ONPaの徳永(義明)さんと小林(範雄)さんが、色々なアイデアを出してくれました。テレビだったら、本物の60年代の家具調テレビを借りに行って、そのダイヤルの音を収録したり。木の中で反響しているから音が全然違うんですよね。テレビの軋む音や、昔の底が鉄製の扇風機の音、猫が尻餅をついた時のキュッて鳴くのもぬいぐるみの音から録っているんです。それで会話している雰囲気を作ってくれました。

 

――廃棄場の家電達ですが、動物っぽさもありますね。稲葉さんの作品には動物がよく出てきます。

動物や子供の振る舞いが好きで。動物や子供の自我のない仕草が羨ましいなと思うんです。僕は自意識過剰なので、ああいう風に平気でいられたらいいなと。バケツもお腹に穴が開いているけど、全然悩んでいない。雨の日は水がいっぱい入ってくるから雨を楽しみにしている。雨の日にだって楽しみを見つけられたりする。そういう意味で歪な人たちが自身のまんまで自由にいる世界が理想で、そういう世界への憧れですね。じたばた生きているもので(笑)。

 

――80年代を舞台とした理由はなんでしょう?

子供時代を過ごしたのが80年代だったのでそこから来てます。それと、物質的に豊かだったバブルの時代を舞台にして、本当に豊かなことってなんだろうって考えたかったんです。作品を発表したのが地デジ移行のタイミングだったので、「テレビが捨てられる話にしたんですか?」ってよく聞かれるんですけど、地デジは関係ないんです。

 

――雨や夜のシーンが印象的です。

1回目の雨を、テレビは嫌がるんですよね、それで、2回目の雨では土砂降りの中をポカーンと上を見上げていて、猫が異変に気づく。心境の変化のために考えたシーンなんです。

最初はもっとシンプルな絵で描いていたんですけど、試写で、野村辰寿さん(現 多摩美教授)に見せた時、「あそこ、もう少し雰囲気出せるんじゃないの?」って言われて、試行錯誤して描き足しています。

 

動画への着色作業。

 

――本作は何人くらいで作られているんですか?

動画は僕がレイアウトや原画を書いて、その先は動画のプロダクション、オープロダクションに間の絵を描いてもらって動画にしてもらっています。

動画が出来た後はデジタルの着色作業になるんですけど、フリーランスのメインのスタッフ3人と、その他に7人くらいで仕上げています。そうすることで自分の作業に集中出来ました。

プロダクションワークで作った作品なんです。これまでは作家が1人で作るものと思っていたんですけど、ROBOTで作るからにはそうすべきだし、僕は個人 作家ではなくてプロダクションあっての監督なんだなと今回強く認識しましたね。1人で作っている人は本当に凄いですよね。僕には出来ないです。

 

――音楽について教えて下さい。音大を出られて、ご自身でもアニメーション作られている烏田晴奈さんが手掛けられていますね。

僕たちのショーリールの音楽をやってもらったのがきっかけなんですが、その時に「卒論を読んでください」って言われて読んでみたら、「トムとジェリー」における音楽のつけ方を研究していたんです。すっごい面白くて。烏田さんが作るアニメーションは、自分で絵を描いて音楽もやっているので、すごくシンクロしているんですよ。絵と音楽が完全に。

「ゴールデンタイム」でも、そういうことやってみたいなと思って。映像の動きと音楽の関係を知り抜いている彼女と一緒にやるのが長年の夢だったんです。絵コンテの段階から共有して、音楽の入るタイミングや、パーカッションに食器やブリキ、廃材を使うアイデアとかを相談しながら作っていきました。セリフの無い世界に感情が宿っていく感じでした。

大きく印象に残っているのは、雨が降る場面で、雨の後、猫がテレビを見つめるカットがあるんですけど、そこまで音楽を入れていたんです。そうすると、彼女から「ここまで曲がこぼれると、猫の感情についている曲に見えてしまう」とアドバイスをもらって、その手前で切ったんです。そうすると、テレビの感情の曲に見えるんですよ! テレビを見ている猫の表情が急に印象的になったりして、本当に面白かったですね。

 

演奏のために用意された様々な楽器。

 

――音楽のトーンでも喜劇的な感じを出すための工夫はあったんでしょうか?

悲劇でもあり、喜劇でもあるという具合を探るのには時間が掛かりました。メインテーマが決まるまでバリエーション違いも入れて30曲くらい作ってくれた中から、お互いこれくらいだねというのを探っていったんです。メインテーマが決まってからは、凄く早かったです。音楽によって3倍くらい良くなったと思います。映画的な雰囲気や、作品の重みも増したように思えます。

 

――2年の間、モチベーションを保って、日々コツコツと進めていくためにしたことはありますか?

オリジナルを作らせてもらっているのに、何も描けないといのはあまりにももったいないし、申し訳ないし、ちゃんと応えたいという気持ちが一番でした。

でも、どうしてもやりたくない時や、アイデアが浮かばなかったり、作業がしんどい時には、卒業後ジャズ喫茶と並行してやっていた、しんどーい日雇いのバイトのことを思い出すんですよ。「あれは二度とやりたくない。あそこに戻りたくない」って(笑)。

身体的には、以前は描ける時は朝までやっていたんですけど、結局次の日がダメになるので、やりたくても区切りをつけて帰るようにしました。短期の仕事だったらいいんですけど、長いのでリズムを作ることを心掛けて、朝もちゃんと起きて10時からやっていましたね。

 

――稲葉さんは京都精華大学のデザイン学科を出られていますが、学生の時からアニメーションは作られていたんですか?

学校の時にはアニメーションを作ってなくて、卒業してからなんです。ただ、学生時代からROBOTの野村さんのアルバイトをしていたんです。

 

――京都在住で、ROBOTは東京の恵比寿ですが、通われていたんですか?

そうなんですよ。夏休みとか冬休みに野村さんの家に泊まり込んで、1週間とか2週間アルバイトをやらせていただいてたんです。「ストレイシープ」の背景を描いたり。東京にいる間は日本アニメーション協会がやっている「イントゥ・アニメーション」っていう上映会で、集中的に色んなアニメーションを見ました。TVで見たことのない、色んな表現のアニメーションがあって、凄く面白いなって思いました。他に当時触れた作品では「ウォレスとグルミット」が強く印象に残ってますね。

その頃の僕は、一枚絵を描くイラストレーターを目指していました。それがうまくいかなくて。ちゃんと作品にならないというか。それでいつの間にか卒業を迎え、就職活動もしてなくて、どうしようって考えた時、絵を描くのが好きで、本を読むのも好きで、音楽も好きってことは、それらが集約されたアニメーションを作ろうと思い立ったんです。

その当時、京都のジャズ喫茶で働いていたんですが、マスターが若松孝二監督の助監督をしていた方で、映画関係や演劇関係や小説家志望の人とかがたくさん集まっていた面白い場所でした。京都東映の撮影所のカメラマンの人もいて、「アニメ—ションを作りたい」って話をしたら「フィルムで撮ったらいいよ」ってアドバイスをくれたんです。「作品をみんなに見てほしいんだったらフィルムで撮りなさい」って、16ミリのカメラを貸してくれて。いつもなら捨てていた、余った1分や2分のフィルムを少しずつ集めてくれたりしたんです。それに僕はセルで描いて、アニメーションを作っていたんです。セルの裏から絵具を塗って、時代錯誤も甚だしいですよね(笑)。15年前だから、当然Macもあった時代に。ジャズ喫茶だし。

 

――東京にはどういうきっかけで?

完成したアニメーションを野村さんに見てもらうため、取り敢えず東京に行こうと。そして、野村さんと保田克史さんという立体アニメーションを作っている方の現場でアルバイト生活を始めました。そうした時、ベネッセのビデオコンテンツのアニメーション企画を募集していて、当時10名くらいいたバイトに、野村さんが企画提案の機会をくれたところ、それがたまたま仕事になったんです。

とはいえ、僕はフィルムしか使えない。アニメーションを描けても、それを仕上げまで出来なくて。After Effectsを使える坂井(治)くんを野村さんが紹介してくれて、2人で作ったのが初めての仕事となるアニメーションでした。当時のROBOTには久仁 生くんが1年先に入って、野村さんと2人で社内にCAGEというアニメーションの部署を立ち上げたところでした。野村さんもその時、自社でアニメーションを作れる体制を整えていて、僕と坂井くんの採用を会社に提案してくれて、今に至るんです。

 

栗コーダーカルテット「黄金虫」
dir/ani/back ground: 稲葉卓也|color setting: 石橋広海、古賀玄義、加納由貴|composite: 石橋広海 今年結成20周年を迎える栗コーダーカルテットのミュージックビデオ。インストゥルメンタル・アルバム「あの歌この歌」からの1曲。

 

――アニメーション作家を目指している人や駆け出しの人に向けて、アドバイスをお願いします。

言えるようなことないんですけど(笑)。アニメーションじゃなくてもいいと思うけど、好きなことが見つかるといいなと思います。僕も悩みながらやっていますんで(笑)。この間、自分が作ったこれまでの作品を並べてトークショーをしたのですが、いろんなタッチで描いたりしていて、凄いあっちこっちいっているんですよね。だから、焦らなくてもいいってことでしょうか。いつか、自分が好きなことを見つけられるといいんじゃないかなと思いますけど。15年掛かっても大丈夫(笑)。

 

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「稲葉卓也個展 ~ボクの練金時間~」
会期:2014年4月14日(月) - 4月19日(土)
時間:11:00 - 19:00(土曜日は17:00まで)
会場:青山ピンポイントギャラリー
東京都港区南青山5-10-1二葉ビルB1F

 

手仕事のアニメーション
上映期間:2014年4月26日(土) - 5月23日(金)
料金:当日一般 1,200円/学生・シニア・障碍者手帳をお持ちの方・シアター会員 1,000円/中学生以下 600円/※未就学児童は無料。
前売券(1,000円)、立誠シネマ受付窓口にて発売(上映開始前日まで)。
場所:立誠シネマ
京都市中京区備前島町310-2(木屋町通蛸薬師下ル)
4月26日の初日13時の上映後トークイベントあり。詳細は立誠シネマのサイトまで

 

取材・文:white-screen.jp

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