デザイン界のドン Neville Brody×大日本タイポ組合によるフォントにまつわる対談!


(左から)秀親(大日本タイポ組合)、ネヴィル・ブロディ、塚田哲也(大日本タイポ組合)
Neville Brody(ネヴィル・ブロディ):ブロディ・アソシエイツ代表。グラフィックデザイナー、タイポグラファー、アートディレクター、ブランドの戦略家として、デジタル、タイポグラフィからアイデンティティーの分野で活躍。初期に手掛けた雑誌「The Face」やレコードジャケットのデザイン等で脚光を集め、現在はグローバル企業からインディペンデントなプロジェクトまで幅広く手掛ける。ロイヤルカレッジ・オブ・アート(英国)のCommunication Art & Design department学部長。
大日本タイポ組合秀親と塚田哲也の2人で1993年に結成。日本語やアルファベットなどの文字を解体し、組合せ、再構築することによって、新しい文字の概念を探る実験的タイポグラフィ集団。ロンドン、バルセロナ、東京での個展や世界各地での企画展に参加。2012年古堅まさひこと共に日本科学未来館にて「字作字演展」を開催。2014年10月には“文字による文字のための文字のサイト”「type.center」を立ち上げる。主著書に「TYPE CARD PLAY BOOK」(ACTAR)、「大日本字」(誠文堂新光社)。

 

Graphic Design Award by Yamaha(GDAY)」は、ヤマハが過去に開催した「Graphic Grand Prix by Yamaha」を原点とし、さらなるグローバル社会とのつながりや実践的なアプローチを目指したグラフィックデザインのコンテスト。“感動”をテーマに掲げたこのコンテストの審査員長を務めるのが、言わずと知れたデザイン界の巨匠、イギリス人グラフィックデザイナーのNeville Brody(ネヴィル・ブロディ)氏だ。

このたび、「GDAY」の審査に際して来日中だったブロディ氏と、彼から大いに影響を受けてタイポグラフィの未来を築いている大日本タイポ組合との夢の対談が実現! この対談でお届けするのは、タイポグラフィへのそれぞれの考え方から、現在のデザイン界を取り巻く日英事情まで!

ネヴィル・ブロディと大日本タイポ組合が考える“タイポグラフィ”


ネヴィル氏が審査員長を務め、ロゴデザインも担当した「GDAY」。

 

大日本タイポ組合(以下、大日本タイポ):ヤマハのアワード「GDAY」について教えてください。

 

ネヴィル・ブロディ(以下、ネヴィル):ご存知のように、ビジネスの内容が全く違う、ヤマハとヤマハ発動機、両社に共通する「Graphic Form of KANDO」をテーマに、若いデザイナーを対象にしたグラフィックデザインのアワードです。ヤマハの企業理念である“感動”にかけています。「GDAY」として第1回目の開催となりますが、世界中69か国から1,200点エントリーが世界中から集まりました。

 

大日本タイポ:先ほどまで審査会をやられていたとのことですが、応募作品はうまく“感動”を捉えていましたか?

 

ネヴィル:全作品とは言えないですが。中には変わった作品もありましたよ。奇妙な人がバイクに乗ってる作品や、バイクに乗ってピアノの上を走っているとか。

 

大日本タイポ:自分が考えていた感動のイメージと応募作品とのマッチと傾向はいかがでしたか?

 

ネヴィル:プロとアマチュアとから幅広く募集したので、すごく面白かったです。学生もいれば、プロの作品もあったりと。受賞作品の発表は2015年となりますが、楽しみにしていてください。

 


ブロディ氏が1991年に創刊したデジタルタイポグラフィの専門誌「Fuse」の20年分をセットにした「FUSE 1–20」の表紙。ボール紙製。

 

大日本タイポ:今こうやって親しげにインタビューさせてもらっていますけど、僕らは若い頃にネヴィルさんがデザインした「The Face」とか「Arena」を読んで憧れていました。特に「Fuse」に一番影響を受けました。フォントを使った実験性に富んだ雑誌で、そこでフォントは“文字”ではなくなり、フォントというフォーマットで遊んでいるというか。

 

ネヴィル:私も「Fuse」が大好きでした。言語には、いろんな制約があります。「Fuse」ではキーボードというツールを使って、その制約にどれだけチャレンジできるのかが挑戦でした。言語というのは契約であり、ルールによって並べることにより意味が生まれます。その契約や制約を変えることで、新しい言語やアイデアを生み出すことができるのです。

 

大日本タイポ:僕らはそれに非常に共感しました。Aってキーボードを押した時にAってアルファベットが出る必要はないと思ったんです。それは、僕たちの文字にまつわる書籍「大日本字」でも言及しています。例えば、3つの書体が重ならないと読めないフォントを作ったりしました。「ミリタリー」というフォントは、1つ目のレイヤーがカタカナで、その次にもう1つ重なると別のカタカナになって、最後のレイヤーが重なると漢字になるというものです。もう一方の「YMC」というフォントは、3つの書体にそれぞれ色を指定して、重ねることで1つのアルファベットが出来上がります。

 


大日本タイポ組合によるフォント。(左)ミリタリー、(右)YMC。

 

ネヴィル:とっても「Fuse」的だね(笑)。

 

大日本タイポ:90年代、日本でもフォントブームがあって、みんながいろんなフォントを作ってたんですけど、僕らは、フォントをつかった実験って部分に共感し、影響を受けて創作をやっていたわけです。「Fuse」の実験で、制約を超えて出来ることが実際に広がっていったんじゃないかと想像しますが?

 

ネヴィル:言葉は社会的な意味があり、制約を持っているので、その為、伝わらないことも出てくる。それを極力変えていきたくて、その試みを続けています。その実験は、止まってはいけないもので、ずっと続けていかなくては意味がない。常にラディカルであるべきです。言語は、政治とビジネスによって制約されていくものだから、そこにチャレンジして制約を変えていくことは社会的にも大事なことなんです。

例えば、スターバックスやAmazonがデザインしているのは世界共通の言語。スターバックスがビジネスを成功させるためには、シンプルでどの国でも通用する表現が有効ですが、我々はその反対をしないといけない。反発するには、難しさ、複雑性や細かさで差別化していかないといけないのです。シンプルな言葉に対して反するのはローカルの複雑な言葉なんです。

 

大日本タイポ:一つ一つに意味やメッセージを込めていくってことですね。一方、スターバックスやAmazon的とも言える「The Times」の書体もデザインしていますよね。あれはどうでしたか?

 


ブロディ氏が手掛けた「The Times」の新しいフォント。

 

ネヴィル:The Timesからの依頼は、「全部変えてくれ。でも、誰も気づかないように」というものでした。よくある依頼内容ですけど(笑)。そこで、私は、車のパーツを分解するように全部一度バラして作り直す作業をしました。再構築したものを読者に読ませてテストし、アンケートをしたところ「いいんじゃないの」と返ってきました。しかし、実は、これがリデザインしたものだと明かすと読者は急に拒否反応を示したのです。人は変わることに抵抗があるかもしれないと感じましたね。

 

大日本タイポ:The Timesは保守的な新聞なのですか?

 

ネヴィル:ほとんどの新聞が保守的でしょうね(笑)。大日本タイポ組合の作品はラディカルで楽しいですね。今の、日本の若いデザイナーはどうでしょうか?

 


ブロディ氏が手掛けた「The Times」の新しいフォント。

 

大日本タイポ:ざっと見渡した感触でしかないですけど、みんな同じような均質的なアプローチをしている印象がありますね。

 

ネヴィル:そうでうすか・・・。日本は昔すごくラディカルな印象でしたが、今はおとなしいと感じていました。

 

大日本タイポ:昔は、ネヴィルが言っていたように制約があって、どうしようかってところで僕らはやってきたけど、今はリファレンスが蔓延している時代というのも大きく関係しているのかもしれません。ネタ元が明らかでそれをみんなが共有している感じは受けますね。イギリスではどんな感じなんですか?

 

ネヴィル:似ていると思います。イギリスでは“デザインしないデザイン”というのが流行っています。デザイナーが関わっているのを見せない、デザイナーの存在を見せないデザインです。若いデザイナーはプロフェッショナルなデザインを拒否しているのです。昔のように、グラフィックデザイナーのスーパースターを目指していないのです。ある種のアンチデザインです。

来年、また、アンチ・デザインフェスティバルをやるべきかな。ロンドン・デザインフェスティバル(毎年9月にロンドンで開催される街を舞台にした大型デザインフェス)があって、その裏で2010年にアンチ・デザインフェスティバルを開催したのです。約1週間で約2万人以上集客しました。

例えば、道で拾ったソファを展示したりしていて、完璧に完成した作品や、崇められるような作品も特になかったけど、クリエイティブな考え方、実験や体験だったり、そのプロセスは貴重なものでした。非常にコマーシャライズされたロンドンデザインフェスティバルに対しての、アンチコマーシャルな活動ですね。

教鞭を執るRCAでの取り組みとは?


今年のワールドカップに際して、ナイキによるイングランド代表ユニホームのフォントは、ブロディ氏によるもの。

 

大日本タイポ:若者がそういう状態にあって、ネヴィルさんはロンドンのロイヤルカレッジ・オブ・アート(RCA)で教えられています。なぜでしょうか?

 

ネヴィル:大日本タイポ組合の2人も美大で教えているんでしょう? それはなぜですか?

 

大日本タイポ:学校で教えるのは、割に合わない仕事ではあるんですけど(笑)、やっぱり若い人がどう考えているか知りたいんですよね。若い子のデザインを見たいなって。

 

ネヴィル:私も同感です(笑)。ゆくゆくは世界を変えるぐらいのデザインの力を持った生徒に会ってみたいですね。教育というのは、決定された“完成作品”を目指していくものですけど、RCAではその逆を試みています。アンラーニング、アンフィニッシング、ディプログラミング。そうすることによって新しいアイデアが生まれたり、想像することができます。“デザイナー=グラフィックデザイン”と固まった方向に教育をするのではなく、アニメーション、フィルムメーカー、建築といったテーマを横断をする、グラフィックデザイナーだけどその後映像に行くかもしれないし、コーディングの世界に行くかもしれない。そういう広がった考え方を培うための教育をしています。

 

大日本タイポ:むしろ技術やテクニックではなく考え方の教育ですね。

 

ネヴィル:基本的なテクニックは教えるけど、そこは重要じゃない。一番重要なのは“Non-Teach”、教えないことなんです。ちょっと背中を押したり、手助けはするけれども、自分の知識を生徒に全部渡すのが教育だとは考えていないんです。

「私も年老いたな~」って思わせるような、新しいアイデアや考えとかを見せてくれと生徒にはいつも言っています。日本は師匠っていう存在があって、それに向かって上下関係や階級のような仕組みが強くあると思いますが、イギリスでは違っていて、そういう仕組みは嫌われる傾向にあるんです。

 

大日本タイポ:実は、僕らに師匠はいないんです。昔はラディカルなこともやっていたし、今後もやろうと思っています。

タイポグラフィのWebサイト「type.center」


大日本タイポ組合が立ち上げ、編集長を務める「type.center」は、“文字による文字のための文字のサイト”。Facebook、Twitterも要チェック!
※画像クリックでサイトへリンク

 

大日本タイポ:ラディカルなことの一環として、最近、文字の情報サイト「type.center」を立ち上げました。ここで全部の文字に関する情報やニュースなどを通じて、タイプグラフィや文字をいろんな人に紹介していきたいなっていう試みです。
先ほどの、教育の話に戻りますが、僕たちは教えてもいるんだけど、まだ勉強中でもあるんです。日本語書体のルーツとなる書をここ10年ほど学んでいて、そこから新しい文字の形やタイポグラフィの可能性を探ったりしています。ネヴィルさんも今取り組んでいることってありますか?

 

ネヴィル:伝統的な書体をコンテンポラリーにリデザインするというのは、先ほどのThe Timeもそうですが、こちらもその一例です。RCAのための書体なんですけど、オリジナルの書体とリミックスして新しく作りました。

 


DPRCAフォント CalvertBrody

 

ネヴィル:前から使われていたオリジナル書体のラインのボリュームを減らして、それを元に書き直しています。更にそれをタイポグラフィ的にデザインを加えたり、何ステップか実験的な試みを経て、最後には、手書きのアプローチで完成させました。この書体は、紙媒体、ディスプレイなどのデジタル媒体、校内の立体的な空間で使用されるという前提で開発したものです。

 

――最後にみなさんに影響を受けたものと、この職についたきっかけ教えてください。まずは影響を受けたものは?

 

ネヴィル:全てです。自分以外の人、映画、本、音楽。そういう体験してきたものすべてが私に影響を与えていると思います。もちろん大日本タイポ組合のお二人とこうしておしゃべりしていることもです!

 

大日本タイポ(塚田):おしゃべり。言葉ですね。

 

大日本タイポ(秀親):自分の名前です。「秀親」って「親より秀でる」って書くんです。うちの親父が大学の教授だったんですけど、ある時、それを超えるのは難しいと思って、「親しむことに秀でる」ようになればいいやと理解したことですね。

 

――続いて、この職に就いたきっかけは?

 

大日本タイポ:実験し続けてたらここまで来たって感じです。

 

ネヴィル:子供の時は、アートの道に進むと思っていたんです。でも、ある時、アートはビジネスで、デザインの方が誠実だと気づいたんです。それがきっかけですね。

 

――ありがとうございました!

 

取材&文:white-screen.jp

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