鉛筆と消しゴムと白紙のアニメーション。くるりのMV「Remember me」端地美鈴インタビュー


端地美鈴(はしじ みすず):映像作家。1990年、京都府に生まれる。2009年、京都造形芸術大学情報デザイン学科イラストレーションコースに入学。2012年、卒業制作として、紙・鉛筆・消しゴム・消しカスを使用したアニメーション「lost and found」を制作。2013年、京都造形芸術大学情報デザイン学科イラストレーションコース卒業。同年、くるり15周年記念シングル「Remember me」のMVを制作、初めての個展「over and over now」も開催。

 

2013年の10月に公開されたくるりのミュージックビデオ(MV)「Remember me」は、なんと消しカスを使って作られたアニメーション。京都造形芸術大学を卒業し、母校で働きながら作品制作に勤しむ端地美鈴氏が手掛けた作品だ。弱冠23歳の端地氏にとって人生初の取材となったという記念すべきインタビューを、京都からはんなりとお届けいたします!

画用紙と鉛筆、消しカスで物語を描く、くるり「Remember me」

くるり「Remember me」
dir: 端地美鈴、CHIMASKI

 

――圧倒的なパワーを感じずにはいられない「Remember me」ですが、消しカスでアニメーションをしようと考えたきっかけは何だったのでしょう?

William Kentridge(ウィリアム・ケントリッジ|南アフリカの美術家。木炭とパステルを使った動くドローイング作品が有名)が凄い好きなんです。大学1年の時に、京都の近代美術館の展覧会で観た彼のアニメーションが凄く面白かったんです。ウィリアム・ケントリッジがドローイングするワークショップを観たりしていて、「アニメーションをやってみたいな」ってなんとなく思っていました。

大学のイラストレーションコースでデザイン哲学を学ぶことがあって、“消しゴム”について考えたことがあったんです。消しゴムは小さくなると最後まで使われず、知らない間に無くなったり、捨てられたりして可哀想だなって思ったのと、白い画用紙を鉛筆で全部黒く塗りつぶして消しゴムで消したら、その部分が白くなりますよね。それは、消しているんだけど描くことになるんじゃないかなと、“描く”と“消す”について考えたんです。鉛筆で字を書いて、その周りを鉛筆で塗りつぶすと、それは“描いてるんだけど消している”んじゃないかなとか。

その想いを卒業制作まで引っ張っていて、それをテーマに3つのアニメーション作品を制作したんです。そのひとつが電車と女の子のお話で、「Remember me」の元になっている作品です。

卒業制作は夏に作っていたんですが、エアコンがなくて、扇風機だと風で消しカスがヤバいので扇風機を止めて、さらに窓から風が入らないように窓も閉めて・・・。クーラーを買わなくちゃって思ったんですが、結局、学校で作りました。クーラーもあるし、機材も借りれるし。ただ、友達が息でフーってからかいに来るので、「フーってしんといてなっ!」て言いながら作っていました。

 

――いろんな苦労が・・・。

あと、撮影用のライトが凄い熱かったです。アニメーションの撮影台を使っていて、それにライトが2個付いてるんですけど、それが凄い熱くて、当たってるだけで日焼けしそうでした。

 

――その卒業制作が、どのようにくるりのMV制作へ繋がっていったのですか?

くるりのツアーグッズをデザインしている大学の先生に卒業制作を見てもらったんですが、そのご縁で、先生がくるりの岸田繁さんに卒業制作を見せてくれたんです。先生に推薦してもらって、私と、CHIMASKIっていう先生のジュエリーの会社と、共同でMVを作ることになりました。

先生には絵コンテの段階でチェックしてもらって、やり直して、くるりに見てもらって、OKが出てからは一人で制作していきました。途中段階を動画で書き出して、それをまた先生やくるりにチェックしてもらって進めていきました。

消しゴムアニメーションの作り方

「Remember me」の1シーン。実際に手で描いていることを伝えるために、自分の手も登場させている。

 

――この消しゴムMV「Remember me」について詳しく教えて下さい。感動すると同時に、凄い労力なんじゃないかと想像しました。

音楽の力も凄く大きいと思います。作り方は、基本的に、形が変わるところは消しカスを動かして、手を引っ込めて撮影して、また消しカスを動かしてっていう風に作っています。完成までに、3、4ヶ月掛かりました。

 

――消しカスで1フレームずつ描いてコマ撮りをしているのですか?

カメラをセットして、5秒間の動画を撮って、止めて、描き直して、また5秒間撮って、また止めてって繰り返しです。

 

――静止画ではなく、動画にした理由はなんですか?

自分の手を入れて撮りたいところがあったのですが、そこは動画じゃないと出来なくて、静止画との切り替えが上手く出来なかったんです。「じゃあ、全部動画でいいや」って。最後は、早送りして編集しました。

 

――撮影で使用したカメラは?

デジタル一眼を持ってなくて、凄い古いHDVカメラを使ってます(笑)。カメラのモニターで巻き戻したり、早送りしながら「あ、動いてる動いてる」って確認しながら。周りからも「もうやめたら?」って言われました(笑)。デジタルじゃなくて、ちっちゃいテープに収録してたので(笑)。

 

――電車にまつわる箇所は影など面白い表現ですね。思わず見入ってしまいます。

電車の中から見る風景と外から見た風景と、見方が変えれるのが面白いなって。そこに人が乗っているから、勝手に物語が出来ちゃった感じがします。

 

――物語の部分は歌詞からの影響もあるんですか?

歌詞からの要素は多いですね。卒業制作の時は女の子はそこにいるだけで、女の子が乗っている電車の窓から流れる風景や、線路を渡るシーンしかない、すごーく短い1、2分の短編でした。次にやるなら5分くらいの長さでストーリーのあるものをやりたいなと先生と話していたので、今回の挑戦はストーリーを作れるかどうかでした。先生に相談しながら物語を考えて固まったら、あとは制作に突っ走っちゃう感じで・・・。

 

――事前に絵コンテをビシッと描いて、それに従って作っていったんですか? 或いは、やりながら変わっていくような作り方ですか?

卒業制作の時はやりながらでしたけど、「Remember me」は絵コンテをびっしりと描きました。どの歌詞の時に消しカスがどう動くかというアニメーションの流れ、また鉛筆で描く箇所と消しゴムで作る箇所の違いを意識もしました。自分の手が入らないと描いているって分からないから、どこでどう手を入れていくかとか。

消しカスで作っているので、「Remember me」を聴きながらノリで進んでしまうと、直したくても、元に戻すっていうのが不可能ですから。やり直すとなると、また真っ白の状態からやるしかないんです。

 

――鉛筆で書くことと消しゴムアニメーションをどのように分けているんですか?

鉛筆で描くのは動かないモノで、消しカスでやっているモノは影、木、人とか、動くものに限定しました。消しカスは変化出来るので、生き物としてアニメーションしています。だから、消しカスで動かす方が大変です。

 

――ベタな質問ですみません。消費した鉛筆と消しゴムはどれくらいなんでしょう?

鉛筆は何本か分からない程です(笑)。uniのエンジ色のを使いました。真っ黒に塗りつぶす時は濃い芯のものにしています。消しゴムはMONOを使っていて、これも大量に消費しました。細かいところを消す時は細いペン状の消しゴムを使っています。でも、消し過ぎて紙が破れたこともあったんです。

 

(右)消しゴムをかけすぎて、中央部が破れてしまった原画。(左)撮影した原画を出力したもの。作りながら動きが分かりにくくなった際、確認のために使っていた。

 

――それは、ギョッとする瞬間ですね。紙は、描いては消してと同じ用紙の上に重ねていくんですね。

今回は2枚使っていて、初めは1枚だけで描いていたんですが、電車の影が流れて、家の窓へという場面転換の時にめくって2枚目にいくようにしました。だから、原画は結構汚いというか、消し跡と消しカスが結構ついてて、ボロボロになっています。

 

――それも狙いの一つなんでしょうか?

はい。普通、アニメだと上に重ねていくので、下に残っていくものがないけど、跡が残って、そこに消しカスが残って、また消しカスが生まれて、それが違うものになるっていう繰り返しが、“今が過去になる繰り返し”のメタファーでもあるんです。今までたどってきた過去が今になって、新しいものになって、そして 過去になって、そうやって今があるのかなって。

 

――それが「Remember me」における端地さんのテーマだったんですね。

初めからそう考えていたわけではないんですが(笑)。私、考えると手が止まっちゃうんですよ。賢くないので。何も出来なくなるから、作ってみて、後から考えるようにしているんです。作品を見せると、他の人が面白ところに気付いてくれたりしますし。逆に全然伝わってないなって時もありますけれど(笑)。

 

――東京に出ようと思ったことはありますか?

凄いスピードで物事が回転していそうですよね。東京がいいと思うのは、クリエイティブの中心なんだなってところです。でも、就職活動をしていた時はやっぱり関西圏ばっかりでした。東京は受かったとしても、そこで暮らしていける自信がないです。行ったこともないんですけど(笑)。「スクランブル交差点でスクランブルされてしまう! 無理無理無理!」って(笑)。

 

――作家性のある作品を作りつつ、商業的な作品も作りつつ、今後どういうビジョンを描いていますか?

考えないといけないなって思うんですけど、広告業界には適応出来ない感じが思いっきりしています(笑)。やっていることが時間掛かっちゃうのと、クライアントの考えに寄せていってしまうと、自分の考えてることがどうしても出来なかったりするし、出来たとしても「ちょっと違うな」ってなっちゃうと思うので。でも、機会があれば取り組んでみたいと思っています。

今は学校で働いていますけど、フリーランスとしてやっていくのかな~と。そのためにも頑張って作らないといけないです! 作ることはやめないですね(笑)。大事ですよね。

 

ギャラリー「KUNST ARZT」にて、2013年10月15日(火)から20日(日)まで行われた端地氏の個展「over and over now」。2部屋を使った展示。1部屋は暗いスペースに2面の壁に「Remember me」や卒業制作品を上映。もう1部屋には、撮影現場を再現した空間に「Remember me」の絵コンテなどを展示。

 

――卒業校の京都造形大学でお仕事をされていますけれど、卒業されて同じところに就職するというのはどんな感じなんですか?

「大学卒業しても制作したい」って言う人はいっぱいいるんですけど、やっぱり就職しちゃうと忙しくてなかなか作れないんですね。だから、今の環境はありがたいと思っています。美大だから制作環境も整っているし(笑)。授業で教えてもらうことは出来ないけど、絶好のチャンスだなって思ってやっています。

「一旦就職してから、何年か経って落ち着いたら作ればいいじゃん」って先生から言われたりもしたんですけど、それだと置いてかれる気が凄いする。何年も作らないでいる時間を持つって何なのかなって。作り続けないとって思ってます。

 

――今はどういうものを作っているんですか?

11月にある「木津川アート」のための作品の絵コンテを考えている段階です。京都と奈良の境目にある木津川市の色んな場所が舞台になっていて、街の建物をお借りして作品を発表するアートフェスなんですが、そこで展示させてもらえることになって。今回も消しゴムアニメーションを構想しています。

 

取材・文:white-screen.jp

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