映画「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」大友啓史監督インタビュー


大友啓史:映画監督。1966年生まれ。岩手県出身。慶應義塾大学法学部卒業後、1990年にNHK入局。1997年から2年間、LAに留学。ハリウッドで脚本や映像演出を学ぶ。帰国後、NHK連続テレビ小説「ちゅらさん」シリーズ(01~04年)、「ハゲタカ」(07年)、「白洲次郎」(09年)、NHK大河ドラマ「龍馬伝」(10年)などNHKのTVドラマの演出、映画「ハゲタカ」(09年)の監督を務める。2011年にNHKを退局し、株式会社大友啓史事務所を設立。独立後初の監督作「るろうに剣心」(12年)、続く「プラチナデータ」(13年)と大ヒットを記録。2013年、「クリエイティブ喧嘩術」(NHK出版新書)を出版する。
photo: 永友啓美

 

世界中で大ヒットとなった、2012年の映画「るろうに剣心」。未だかつて誰も体感したことのないスピードと圧倒的な迫力のアクションが人間ドラマと融合し、新しい日本のエンターテイメントが熱狂を巻き起こした。映画の原作となるのは、和月伸宏の漫画「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」。世界20カ国以上で翻訳されたジャパニーズコミックの金字塔の実写映画化となった。

2014年夏、遂にその続編となる「京都大火編」と「伝説の最期編」が2部作連続で公開を迎えた。日本では2部作合わせて100億以上の興行収入が確実視され、今年度実写映画ナンバーワンの大ヒット、さらにフィリピンをはじめとした海外でも多くの記録を打ち立てている。この世界規模の超大作に挑んだのは、 大友啓史監督。NHK連続テレビ小説「ちゅらさん」シリーズや、「ハゲタカ」「白洲次郎」、そしてNHK大河ドラマ「龍馬伝」などの演出を手掛けてきた、映画界のアウトローともいえる存在だ。

大人気コミック原作、続編、ハリウッド製作というハードルを超えて完成し、ただいま絶賛公開中の映画「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」について、制作の舞台裏を大友監督にインタビュー!

新しい日本映画の幕開け!


映画「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」
京都大火編:日本|139分|ワーナー・ブラザース映画|2014年
伝説の最期編:日本|135分|ワーナー・ブラザース映画|2014年
監督・脚本:大友啓史|エグゼクティブプロデューサー:小岩井宏悦|脚本:藤井清美|音楽:佐藤直紀|撮影:石坂拓郎
©和月伸宏/集英社 ©2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会

 

――新しい日本映画の幕開けを感じた映画「るろうに剣心 京都大火編」と「伝説の最期編」でした。続編を撮るにあたって、「前よりももっとやる」というテーマを掲げられて臨んだそうですね。

続編だからって単純に「るろうに剣心」をスケールアップしても意味がないですからね。スケールアップのためのスケールアップって、何もいいことない。要は話の内容にあっているかどうかです。

前作は、言わば「神谷道場物語」で、緋村剣心(佐藤健)の生き方の指針を描いたもの。“不殺の誓い”を立てた剣心が、“人を活かす剣”という流儀を掲げて道場を継いでいる神谷薫(武井咲)と出会い、新時代に生きていくための新しい考え方を教えられる。その薫ちゃんが守ろうとしている道場がピンチになって、剣心が救うという物語だったわけです。

それに対して、今回の続編2本で描かれるのは、いわば“国家転覆”にまつわるストーリーです。志々雄真実(藤原竜也)という、剣心と同じ“人斬り”として幕末に暗躍したもう一人の男が登場し、この新しい時代をもう一度ひっくり返そうとする。話自体のスケールが明らかに大きいですよね。“人斬り”という過去に強い贖罪意識を持っている剣心は、それをひきずりながらも、前向きにこの時代を生きている。それに対して、志々雄は、まるでルサンチマンの塊であるかのように、時代そのものをひっくり返そうとしています。

こういった内容に見合った映画にしなきゃいけないことを考えると、必然的に全てが前作よりもスケールアップしなきゃいけないですよね。しかも、そのためには剣心と志々雄の対決を描くだけでは十分ではない。もちろん中心軸は二人の関係性にありますが、そこに大久保利通が絡み、剣心が作り、守ろうとしている新しい時代、志々雄が壊そうとしている新時代がどういう時代かをタイトに見せなきゃならない。

冒頭の描写で、剣心の“人斬り”の過去はもはやパロディ化されて舞台芝居になっています。観客たちの明るい歓声の中で、常に“贖罪意識”を持って生きてきた剣心も救われるような思いを抱き始めている。新時代の新しい息吹、活力が、幕末の激烈な記憶を風化し始めているんですね。

庶民の、明治という新時代を生きる人たちの表情、町の活気や賑わいといった平和な様子をちゃんと見せるためには、メインの登場人物達だけを撮るだけではなく、背景で動いているエキストラの数も増やし、しっかり彼らにも“その時代を生きて”もらわないと、時代そのものが見えてこないんです。

“壊すもの”と“守るもの”が何なのかをしっかり描こうとすると、当然スケールが大きくなっちゃうわけですよ。こういう物語を選んだ以上、そうしないと、話に説得力が出ませんから。だから、制作にあたってスタッフ全員に「スケールアップね」と伝えました。アクションも含めてね。だって、簡単に言うと、鵜堂刃衛よりも志々雄の方が強いんだもの。剣心は前回のラスト、刃衛との戦いでしか本気になってないんですよね。町の道場のチンピラを蹴散らすシーンなんか、3割くらいの力しか使っていない。でも志々雄は剣心が全力で掛かっても勝てない相手かもしれない。部下の瀬田宗次郎(神木隆之介)にさえ逆刃刀を折られてしまった。「志々雄どんだけ強いの?」って話だから、剣心も本気モードになって、アクションもレベルアップしなきゃならない。

最初に話があった時は、続編はとんでもないことになっちゃうから、やりたい反面やりたくないみたいな。本当に日本のプロダクションで出来るのかっていうようなこともありましたね。物語として、「京都大火編」を選び取ったということはそういうことなんですね。俺のせいじゃないのよ。こんなお金使っちゃったのは(笑)。


「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」予告編
あらすじ:動乱の幕末で“最強”の伝説を残した男、緋村剣心。かつては“人斬り抜刀斎”と恐れられたが、新時代を迎えて、神谷薫ら大切な仲間たちと穏やかな日々を送っていた。そんな時、剣心は新政府から、“影の人斬り役”を務めた志々雄真実を討つように頼まれる。新政府に裏切られ焼き殺されたはずが、奇跡的に甦った志々雄は、日本政府を狙っていた。

 

準備期間はたったの3ヶ月! 全国30か所に渡る日本を縦断するロケーション


©和月伸宏/集英社 ©2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会

 

――製作と配給にワーナー・ブラザースというハリウッドメジャーが付き、全世界配給を前提に制作された日本映画です。「日本の映画はお金もないし時間もない、だからいいものが作れないんだ」とよく言われる中、通常の日本映画に比べるとある程度の予算と時間が用意されていたと思うのですが、「じゃあ、両方あればどれだけいいものが作れるのか」を実証してみせるという目標もあったのでしょうか?

なるほど・・・、この大作2本が十分な時間があったかって言うと・・・。全然ないですよ。

 

――といいますと?

やっぱりワーナー・ブラザースさんは、ハリウッドの会社ですから。ゴーサイン、所謂グリーンライトに対して凄くシビアだから、クランクインの前から正直いろんな危機がありましたね。これだけの超大作なのに、スタッフ集まっての準備期間だって、2本で4月から、7月のクランクインまでの3ヶ月しかないんですよ。脚本を書き始めたのは前の年の11月ですから、クランクインするまで8ヶ月しかない。

しかも、2本分です。僕としては半年前から、キャストとスタッフを集めて準備したい。だって通常の日本の映画1本で、だいたい2、3ヶ月前ですから。「プラチナデータ」(2013年|dir: 大友啓史)は、2月の下旬にクランクインだったけど、もう11月から動き始めてましたから。

それで言うと、この企画2本で、スタッフ集まって3ヶ月っていうのは信じられないくらいの短期間ですよ。もう、ワーナーさんと大喧嘩しましたけど(笑)。


映画「るろうに剣心 伝説の最期編」予告編
あらすじ:日本征服を狙う志々雄を阻止するため京都に辿り着いた剣心は、志々雄一派に立ち向かうが、志々雄は甲鉄艦・煉獄で東京へ攻め入ろうとしていた。志々雄に連れ去られた薫を助けるために剣心は海へ飛び込み、一人岸へ打ち上げられたところを、師匠の比古清十郎に拾われる。今の自分では志々雄を倒せない。剣心は清十郎に奥義の伝授を懇願する。一方、剣心が生きていると知った志々雄は政府に圧力をかけ、剣心を人斬り時代の暗殺の罪で公開打ち首にするよう命じる。

 

――それでも、全国30ヶ所のロケーションでの撮影を敢行し、素晴らしい映画が完成しています。

それで言うと、ロケハンも実は半分くらいしか決まってない状況でクランクインしていいますからね。撮影しながら衣装合わせをし、ロケハンをし、また撮影をして、唯一ある撮休で京都から東京にわざわざ戻って、衣装合わせして、その帰りにロケハンして・・・。

もっと早く準備が出来ていれば、ロケーションをどこかにまとめることが出来るところを、間に合わないんだもの。ってことは何が起きるかっていうと、京都から山形、熊本行って山形って移動してるんだから。まぁ言うと、もう地獄ですよ(笑)。そういう意味で言うと、いつものTVドラマみたいなスケジュールでしたね。僕の感覚で言うと、大河ドラマより厳しかったですね。

ただ、ここが日本のプロダクションの優秀なところでもあるんですね。結局やれちゃうから。普段から厳しいプロダクション環境になれているから対応はできるんですよ、こんな状況でも。まあ、それにしてもって思いますけどね。規模が大きくて、プロジェクトの図体がでかい分だけ、動きにくい部分も多い。結局はインディペントムービーみたいな感覚で進めていかないとにっちもさっちもいかない。瞬発力、咄嗟の判断力がある意味勝負です。そんなコンディションの中やりきったスタッフを本当にリスペクトしています。「よく最後までやり通せたな」って。

アクションエンターテイメントだから、アクションの演出・準備もしなきゃいけないですからね。俳優の練習も含めて、準備にどれだけ時間がかけられるかが勝負ですから。安全面も含めてね。その間、衣装部は次の衣装合わせの準備、制作部はロケハンや次のロケ場所のリサーチや準備など。プロダクション中は、準備のために一体何班が動いているか分からない状況でした。よくぞここまで、このコンディションでやれた。うちのチームの超火事場の馬鹿力。本当に成功したな、と思うのは若いスタッフを選んでいたことですね。

“大友組”の若さが活きた過酷な撮影現場


©和月伸宏/集英社 ©2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会

 

――1作目とほぼ同じ制作スタッフになっていますね。

はい。大体、スタッフが30代中心、もちろん20代も少なくない年齢構成で第1作が始まって。今回は、間違いなく30代がメインどころなんですよね。僕がほぼ最年長っていうくらいだから。その人たちの体力と、やっぱり「面白いことやってやろうぜ」っていう頑張り、若いからこそやれたっていうのはあります。

例えばね、「京都大火編」冒頭の志々雄の登場シーンですが、撮影が始まって5か月、11月後半のプロダクションで、知恵も体力も尽き果てたところの撮影でした。僕はある種のプランをお願いしていたけれど、あそこまでのことが出来ているとは思ってなかったわけですよ。地獄絵図の設定だから火をつけなきゃならないし、すると二酸化炭素中毒の心配もあるし、撮影許可の取れるああいう場所ってなかなかないし。結局ロケ場所は宇都宮の大谷石なんですが、石に打ち込んでセットを吊ってるからね。普通、文化遺跡ではなかなかやらせてくれないですし。

 

――どういうプランをオーダーしていたのですか?

あの場面はね、本当に志々雄の思う灼熱地獄の再現、修羅だけが生き残る世界ですよね。日本の絵巻にあるような地獄ってものを再現したいっていうオーダーをしていましたが、「もうこの期に及んでは無理かな」と半ば思ってたわけですよ。他のシーンの撮影が終わって駆けつけてみると・・・美術部が踏ん張ってスゲーことやってくれていた(笑)。

 

――その編成されたスタッフについて教えて下さい。

僕が会社辞めてすぐだったんで、僕はやっぱり映画界からすると外様の人間ですから。今後自分が映画界で一緒にやっていくことを考えたら、発想の凝り固まった人たちよりも、若くて頭が柔軟で、長くお付き合い出来る、そして常識を乗り越えて一緒に闘っていける元気のいいスタッフがいいなと思って。

 

しかも、「るろうに剣心」は、ある種時代劇だから、年配の人とかだと、時代劇のルールとかゴチャゴチャ言い始めるかもしれない。「ルールを外せ」って言っても、ずっとそれでやってきてると残念ながら外せなくなってしまいますから。僕はそれで、大河なんかでずーっと苦労してきたから。まあ、だからそういうね、ルールとか方法論とか、時代劇の仕来りやなんかにあまりとらわれない若い、しかもいい意味で野蛮な(笑)スタッフを選んで、功を奏したと感じてますね。

大友啓史流の演出術


©和月伸宏/集英社 ©2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会

 

――何班もが同時並行で進行していらっしゃるとのことです。監督として描いている大きなイメージを実現に向かって、全体をどう動かしていくのでしょう?

前作で1回やってるからね、僕がどうすれば喜ぶかっていうのをみんな大体分かってくれてるんです。だから、凄く大雑把な話、“初期設定”を話すと、みんなアメーバみたいに自由に動いていくんですね。最初に申し上げたように、1作目は「神谷道場物語」、今回は物語に応じてスケールアップしていかなきゃいけないよねってことから始めちゃう。つまり、剣心が好むと好まないに関わらず、国を二分する戦いになってくる。「戦争だよ、戦争みたいなことになってくる」とかね。

やっぱり、監督の仕事はそこじゃないですか。スタッフ一人一人、キャスト一人一人がスペシャリストだとすると、俺は全体を見ていくジェネラリストだから。最終形態としてアウトプットされるものをなんとなく頭に思い浮かべながら、スペシャリストたちを刺激する言葉をチクッチクッと繰り返し言っとけば、あとはね、それぞれが自分たちがやるべきこと、必要なものを考えて勝手に動いていきますから。

みんな「目新しくてエッジが効いていて、激しいことをやってれば大友は喜ぶ。とにかくやりすぎるくらいやんないと、この人は満足しない」ってことは、なんとなく分かってる(笑)。だから、僕はそこまで言ってないのに「そこまでやるんだ。いいよ、じゃあそこまでやろうよ」って言葉が僕から出てくるくらい、もうみんな勝手に走り始めていた(笑)。その走り始めた時に誰にもリミットをかけさせないっていうのが、今回の僕の大事な戦いだったと思うんですよね。現場はみんな「やれるところまでやろうぜ」モードにはなっていたと思うんですよね。

例えば、京都大火の火も、初期設定として「京都の祇園祭が近づいていて、京都の町は祇園祭の準備で賑わっている頃」という話をしているんですね。それがある意味、クリエイティブの1つの参考基準になる。そうすると勝手に、ある種のアイディアは出てきますよね。

志々雄チームにしてみれば、目眩ましのためのフェイクのお祭りなわけですよ。だから「神輿担いで登場しようぜ」ってなって、“炎の神輿”にしようってなっていく。下見をしながらその場で話しながらなので、変な意味ではなくて“紐付きの自由”なんですよ。みんな分かっているんですよね。しかも、「これでいいですよね」って持ってくるレベルが、相当前回より上がりましたよね。

準備期間中は「もう全然いい! だからもっといけるよ、いや、まだいけるね!」ってケツを叩く係です。クランクインしてからは「やあ! スゴい! みんな頑張ってる!」って持ち上げ係(笑)。こんなスケジュールで、正直生きて帰れるかくらいのことをやらせているんですから。でも、事故も起きなくて本当によかった。

 

――てっきり、ハリウッド製作ですし、仕上がりの映画を拝見しても、てっきりプリプロダクションの段階でプロダクションデザインの部分に時間を掛けていると思っていました。

ロケ場所が決まらない限り、ストーリーボードも描けないですからね。へたすりゃスケジュールも、キャスティングも決まらない。ただ、1作目も含めて、コンテが無くても動けるチームにしているんです。現場は“ライブ”だよね、コンテなんていらないよねって。それが、僕の現場のやり方ですから。そうじゃなかったら成立させることは出来なかったという自負があります。僕は現場を信じている。現場に持ち込めばなんとかなる。

“準備期間がない” “過密スケジュール”というネガティブな状況を、どう逆手に取るかっていうことですよね。準備が出来てないからこそ、ここまでの作品が出来たってのがあるんですよ。

「るろうに剣心」シリーズにおける新しい挑戦とは?


“人斬り抜刀斎”をパロディした芝居を観劇し、お客と一緒に笑う剣心と薫たち。
©和月伸宏/集英社 ©2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会

 

――映画作りの過程で新しい挑戦となったことを教えて下さい。

アクションエンターテイメント映画って、アクション以外のところまで手が届いているものって少ない気がします。例えば美術とか衣装とか、照明やエキストラの動きとか。無論アクションも凄いし、それをスタント俳優でなくて本人たちがやっているのも凄いし、それを支える美術とか、色んなものを含めて、同レベルのものになっているってことが、新しいと思うんです。

技術的な試みとしての新しさってことよりも、そのトータルなクオリティとして、ここまで頑張っちゃおうとしていること自体が新しいんじゃないかなって思うんですけどね。

時代劇の括りでもないし、アクション括りでもなく、原作からも自立していると思うし、ある種チャンプルー意識で作っているんです。「ジャンルを一つにしねーぞ」みたいなことも含めて。ですから、トータルにみて作品自体が新しいっていう気はちょっぴりしているんですけどね。

ハリウッド製作であること


©和月伸宏/集英社 ©2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会

 

――目指すクオリティを維持しようと誰もが監督業をすると思いますが、最後まで妥協なく折れなかったところに芯を感じます。

そうですね、最後まで誰も折れませんでしたね。そして、全て収まっていった。やっぱり途中で危機はあるんですよ。それが、ガラッと変わったのが9月中旬、新月村での剣心のアクションシーンをワーナー・ブラザースのインターナショナルの方々が見た瞬間。「とんでもねえぞ、これは」って変わっていった。やっぱり「ソフトが強ければ」っていう認識が先方にあるんだと思いましたね。それで商売している人たちで、予算と内容のせめぎ合い含めて「生きるか死ぬか」ギリギリの勝負で、ビジネスを、いやギャンブルをやっている人たちなんだよね(笑)。

映像を商品にしていくには、やっぱり一歩、どこか特化したところがないといけない、中庸なものではいけない感覚、何をセールスしていくかって見えなくちゃいけないんだって、本社の方とお付き合いしながら、言葉の端々から感じましたね。投資する意味があるのか、これに掛ける価値があるのかってことをずーっと頭から最後までこいつら見てるぞっていう感じはありました。

――世界配給という前提を踏まえた作品です。制作において、そういうところを意識しましたか? 「国内にウケればいい」っていう作品とまた違うと想像しますが。

それはもう、最初のスタッフの顔合わせの時に「この作品は、世界で観てもらう機会が多い。世界基準で考えて作りましょう」と明言しています。日本国内に届けるってことだけでいうと、極端に言うと、時代考証とか気になってきますよ。「なんで沢下条張はあんな格好してるの?」ってところから始まって、「あの時代にこんな衣装着ていた人はいないでしょ」とかね。下手すると、細かい重箱の隅をつつくような作りになっていく。でも、そんなことはもう気にしなくていいですよってことなんですね。

元々「るろうに剣心」っていうコミックは、海外でその世界観が受け入れらているし、そんな時代考証とか気にしない人たちが観るわけだから。じゃあ、その“歴史”を掘り下げていくのではなくて、違うところに力学を置いて焦点を当てて作っていくってことなんですよね。そうすると、日本は中庸で、削いで、シンプルにしていく表現が多い。それこそ“侘び寂び”の世界というか、フレームも含めて引き算の思想で作るんですよね。

ところが、向こうは完全に“かけ算の思想”で、“足して” “埋めて”作っていく。画面の隅々まで“カロリーを高くしていく”発想で作っていく。日本でこのくらいの強度の映画を観ると息が詰まりそうになって、笑うところも笑ってもらえないけど、海外だと左之助や子役のシーンで、きっちり大爆笑が起きますから。欧米だけでなく、フィリピンでもそうでした。みんなやっぱり分かっているんですよね、笑っていいところを。

 

――確かに海外で映画をみると、リアクションもまた映画鑑賞の一部と感じます。

フィクションの見方が上手いんです。映画を思う存分楽しむぞって、そう思って映画館に来ている。日本人は真面目ですよね、それがいいところなんですけどね(笑)。だから、日本向けに真面目に作っちゃうと、世界からは「もう少し楽しんで作ったら?」と言われちゃうような気がして。その言い方が的を得ているかどうかは何とも言えませんけど、ことエンターテイメント映画に関してはね。真面目にやり過ぎちゃうと、ストイックに削いで行っちゃうと、息が詰まっちゃうんです。リアリティーも含めて。

例えば日本だと、死体をもっとマイルドに・・・とかそういうことを言い始めるけど、海外を見た時に、どうやってエッジを効かせていくかっていうと、もうむしろ、死体がリアルじゃない方がもうみんな冷めちゃう。向こうは、映画表現のベースってリアリズムだから。それがフィクションというか、作りものであるということを分かった上でね。だから、海外を基準にした時に、安心して汚せたり、血を流せたり、泣き叫ばせたり、思い切ったことが出来るんですよね。

プロダクション的にはハードな部分も沢山あったし、もう少し準備に時間が掛けられたらという思いもありますが、完成まで仕上げられたのはバジェットが膨らんでも最終的にそれを許容できた、やっぱりワーナー・ブラザースという会社ならではだと思いますね。正直日本の映画会社でここまで踏ん張れたろうか、という想いも少なからずあります。絶対絶命になったときに、そして投げやりになってしまいそうな時に、ワーナーブラザース本社の人の言葉に救われたりもしましたから。価値のあるコンテンツを作れば、理解してもらえる。その積み重ねで信頼関係を一つ一つ積み上げて、次のステップへ進んでいくしかない、そう思いますね。

 


■ 映画「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」
京都大火編:日本|139分|ワーナー・ブラザース映画|2014年
伝説の最期編:日本|135分|ワーナー・ブラザース映画|2014年
監督・脚本:大友啓史
エグゼクティブプロデューサー:小岩井宏悦
脚本:藤井清美
音楽:佐藤直紀
撮影:石坂拓郎
出演:佐藤健、武井咲、伊勢谷友介、青木崇高、蒼井優、神木隆之介、土屋太鳳、田中泯、宮沢和史、小澤征悦、滝藤賢一、三浦涼介、丸山智己、高橋メアリージュン、福山雅治、江口洋介、藤原竜也
公式サイト:映画「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」公式サイト
※上映劇場一覧はこちら
©和月伸宏/集英社 ©2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会

 

取材・文:white-screen.jp
取材協力:松永勉

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