“かわいい味噌汁”ってどんな味?海外からも注目されるマルコメCM「世界初かわいい味噌汁/Definition of Japanese Kawaii」。監督の鎌谷&佐渡氏をインタビュー!

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左)佐渡恵理 右)鎌谷聡次郎

佐渡恵理:映像ディレクター。ロンドン芸術大学卒業後、株式会社コトリフィルム入社。かわいらしい中に、ダークな要素を含む世界観や、遊び心と手作り感のあるアナログな演出を得意とする。TV CM、WEB CM、MV、TVタイトルバック、インスタレーション、インタラクティブ作品、映像制作など幅広く活動中。

鎌谷聡次郎:映像ディレクター。関西出身。自主制作したMVのアニメーション作品をきっかけに、フリーランスで活動を開始。その後、株式会社コトリフィルム入社。アニミズム表現や日常のささいな価値観を拡張する表現を好む。民族音楽好き。カンヌライオンズシルバー賞、LIA金賞、ADFEST銅賞、SSTV最優秀ディレクター賞など受賞。

 

2016年、2月に公開され話題を呼んだWebCM「世界初かわいい味噌汁/Definition of Japanese Kawaii」。強烈な世界観とあらゆるビジュアル表現が怒涛のごとく迫ってくるこのCMに、何かしら新鮮なビジュアル体験をした人もいるのではないだろうか?本作を手がけるのはQotori film(コトリフィルム)所属の若き才能たち。元美容師という異色のキャリアを持つ鎌谷聡次郎監督と、イギリスの美術大学で映像を学んだ佐渡恵理監督だ。2人の共同監督によって作りだされた「世界初かわいい味噌汁」映像は、公開されるやいなや国内は元より海外でも話題となり、フランスのBandit、スペインのBe Sweet Filmsらとプロダクションとディレクター契約を結ぶことになったそうだ。単なる“かわいい”で終わらないこの映像が、どう生まれたのかお2人に語ってもらった。

■ そもそも“かわいい”ってどういうもの?

「世界初かわいい味噌汁/Definition of Japanese Kawaii」」
dir: 鎌谷聡次郎/佐渡恵理

日本を代表する食文化“味噌”の老舗ブランド、マルコメが即席味噌汁「カワイイ味噌汁原宿味」の発売を記念して作ったWeb CM。

 

――“かわいい”って漠然とした共通認識で、なんでもありだったりしますよね。感覚的で抽象的。お2人にとって“かわいい”のイメージは最初から確固たるものがあったのでしょうか?商品の「かわいい味噌汁原宿味」のイラストの可愛さとも別方向のかわいい映像となっています。

鎌谷:“かわいい”をどう解釈するかっていうのは大きなテーマでした。その答えを出すまでの道のりが大変な仕事だったんです。打ち合わせで、昔のファッション、十二単から今の服まで、かわいいとされたものを挙げていったりするのですが、それらってその時代のイケているアイテムだけど、果たして“かわいい”のか?なんかしっくりこないな・・・。“かわいい”って何なんだろう?っていう自問自答のループが続きました。概念すぎてわかんない~って。さらには、味噌と“かわいい”を掛けるとどうなるんだ?って(笑)。

最終的にヒントになったのが、僕の大好きな手塚治虫のマンガ「火の鳥」でした。“かわいいとは何か”を追い求めているこの過程が、絶対的だけどあやふやな存在“火の鳥”を求めるというマンガの内容と重なって、「そうだ、“かわいい”を探求している過程を映像化すればいいんだ」って思ったんです。僕にとって“かわいい”ってそういう規模感のもので、“かわいいといえば原宿系”という範疇で語れない、歴史も時空も渾然となった存在でした。

無事、案は採用されたのですが、クライアントはちょっと不安そうでした。Webムービーって、バズる要素が求められるから、わかりやすかったり、トリビアや、得した感っていうのが要求されるものなんです。簡潔に表現できて、ニュースサイトに取り上げられそうなネタ性が重要。なんですが、僕はそれよりも映像を見た時の説得力の方が大事だと思いました。ワケのわからない映像なんだけど、見るとすごく説得される感じ。それが作れれば今までにないものが出来ると、関係者には言い続けたプロジェクトでした。

 

■ 険悪になっても突き進んだ二ヶ月間

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――佐渡さんが共同監督として関わることになった経緯は?

鎌谷:この映像って答えってないですよね。何か問題提起しているわけでもなく、何かを解決しているわけでもない。ラスト強引に味噌におとし込んでいますけど・・・。それよりも、“シュール”だけで終わらない圧倒的な説得力のある映像を目指しているわけですが、かわいいってなった途端、やっぱりその感覚って女の子のものだったりするので、男だけで作るということは、単に圧倒的なムービーしか出来ないって思ったんです。男女ってそれぞれの持っている波長って違うと思うんです。色にも波長があるように。だから、この映像に関しては、服の色一つを選ぶにしても女子の意見も必要で、同じ会社の佐渡にジョインしてもらいました。

佐渡:コトリフィルムは、それぞれがディレクターとしてやっているんですけど、案件によってダブルディレクションをすることもあって、その辺はフレキシブルな会社でもあるんです。この作品で、マルコメの前CM「ロックを聴かせた味噌汁」から手がけている鎌谷さんのチームに参加させていただきました。

 

――女性として、かわいいを追求すると言うミッションが課されたわけですが、いかがでしたか?

佐渡:私にとって難しかったのが“かわいい”をどう“圧倒的な映像”にするのか?ということでした。例えば、爆発が迫ってくるような表現を自分の作品でやったことなかったので、演出で難しかった部分がありました。でも、一番大変だったのは、その前段階のアイデアを練っている時でした。

鎌谷:喧嘩してたね(笑)。

佐渡:険悪でしたね~。普段は仲良いんですけど、この仕事中は険悪でしたね(笑)。2人ともストレスがすごくて、10時間位スタッフと打ち合わせして、帰宅してからも電話で何時間も議論するっていう状況が続いたんです。

marukome_moze佐渡氏がイメージを掴むのに苦労したというシーン「モーゼの滝」。圧倒的な迫力で迫ってくる“かわいい”に主人公が飲み込まれそう。

 

鎌谷:撮影するシチュエーションが40以上もあって、1つのシチュエーションごとに衣装、ヘアメイク、撮り方、美術を決定&準備という作業が、掛ける40強あるわけです。だから打ち合わせも毎回長いし、そのあと2人で打ち合わせで出た課題や次回の打ち合わせに向けた宿題をしなくちゃいけない。しかも、イメージの共有までいきつくまでの過程が大変だったんです。例えば“タンブラー的な表現だけにはしたくない。いい感じのイメージの羅列だけで終わりたくない”って言った時、「タンブラー感やめるっていうのは、こういうことやん」っていうのがなかなか伝わらなくて、言い合いになってしまう。

佐渡:私の中では、“圧倒的な感じ”っていうのを正確にイメージするのが難しかった。イメージが共有できないと、CGを担当する人に指示を出せなかったりするじゃないですか。鎌谷さんは、共同監督なので全てのシーンにおいて2人とも同じイメージを共有しているべきって思ってくれていて。そういうのに私が追いつけない部分もあって・・・。露骨に出たのが、爆発だったり、通称「モーゼの滝」と呼んでいる箇所でした。勉強になりました。でも主題である“かわいい”っていう感覚は、普段私たちが好きなものが共通しているので、簡単に共有出来ました。

鎌谷:僕らが同じイメージを持っていることは大切な要素だと思います。それに佐渡は絶対にわかってくれるとも思っていましたから。

 

■ みんなの総合力で作る、ハンガリー人が作った日本の“かわいい”

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メイクの歴史を人形で見せていく。様々な時代の有名人、フリーダ・カーロやオードリー・ヘプバーン、ツイギーやGAGAのメイクが登場する。

 

――その険悪になりつつも、決定していった各シチュエーションやモチーフについて教えてください。

佐渡:日本的なカルチャーを入れて、8ビットの画面だったり、デコ仏像とか、ギャルとか、付け爪とか昔から現代までのかわいいカルチャーのオムニバスとしてのネタ出しをしていきました。

鎌谷:でも、そういうのだけをポンポンって置いてみると、やっぱりタンブラー感というか、シュールでかわいい映像が繋がった、よく見る表現になってしまう。圧倒的な説得力にするための深みがない。う~ん、どうしよう・・・ってことで文脈を考えました。それがナレーションにもなっているポエムです。これによって哲学的な軸ができました。最初にネタ出ししたものを、このポエムで再構成して、女の子の葛藤から、味噌に落ちるまでをどう描くかを造形していきました。“かわいい”っていう文化は、変化をしながら日本人とともに歩んできたと思うんです。日本の大切な食文化である、味噌も太古からの調味料であり、日本人とともに歩んできた。「この2つはどこかで必ず接点があるはず。やっぱり火の鳥やな!」って僕の中では繋がっていきました。

佐渡:約1千年前、清少納言が枕草子に綴った“かわいい”の定義。そこから広げていって、現代の女の子が持つ葛藤をナレーションにのせました。女性が「あ、わかる!」ってリアルで共感するようなナレーションにしたかったし、一方でカオスな感じも出せてすごく気に入っています。映像的には、トリビア要素も入れつつ見た目の迫力をキープできるネタを調整していった感じです。映像表現なので、ディフォルメをしたり、例えば“爪”のいきすぎた日本人の“カオスかわいい”美意識を見せるため、千手観音にして手をいっぱい出してみたりといった工夫をしています。

鎌谷:ヘアスタイルは少女漫画風のターバンはどうだろう?例えば、お歯黒というモチーフなら、蛍光色のお歯黒はどうだろう?からはじまって、蛍光色だけだったら怪しいだけに留まりそうだし、日本的な要素も欲しいから、白塗りを加えましょう。それだけだとお面白くないから、肌を塗り分けて見せましょう、といった打ち合わせをスタイリストさん、ヘアメイクさんたちと重ねていきました。

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お歯黒がテーマのカット。蛍光色怪しく光るお歯黒に、塗り分けられた白粉が印象的。

 

佐渡:みんな総合力です(笑)。メインのモデルさんにもこだわっていて、スーパーモデル級の方をオーディションでキャスティングしているんです。

鎌谷:葛藤を描く主人公はあえて日本人にはせず、匿名性を重視しました。日本人だと、バックグランドを考えていまうというか。記号っぽい感じが欲しかったんです。あとはアンバランスの妙というか。日本人じゃない方が逆にハマるカルチャーもありますし、クールジャパンっていう世の中的な動きもありますが、そこにも寄りすぎたくなくて、あやふやな印象にしたかったんです。“ハンガリー人が日本のかわいいをテーマにムービーを作ったら?”というのが、スタッフみんなと共有していたビジョンです。

 

――ハンガリーというのは意味があるのでしょうか?

鎌谷:関係ない人っていう意味です(笑)。例えば、うまい棒で作ったドレスは日本人が考えたデフォルメだと思うんです。もっとぶっ飛んだ勘違いから派生していった想像力の産物という意味でのハンガリー人です(笑)。主人公が考えている“かわいい”が、そもそもあやふやなものじゃないですか、だから、着物の着こなしも「こんな感じやったかな?」っていう具合のディフォルメをしています。コンセプチュアルなディフォルメっていうよりも、「着物の襟ってこんな感じやったよね?」ってスカジャンを持ってきたり。そういうスタンスで衣装を考えてもらっています。

 

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圧倒的な衣装と色味が記憶に刻まれるセーラー服のシーン。

 

――緑のセーラー服がぶわっと広がるカットも迫力がありますね。

鎌谷:ターセム・シンの映画「ザ・セル」に影響されたカットです。セーラー服っていうわかりやすいモチーフをいかに面白く見せるかを考えました。他のシーンの背景はコンテ通りだけど、これだけ当日変更になったんです。当初の予定では同系色でしたが、獅子舞で使った赤い背景の前に、このドレスを着て待機しているのを見て「めっちゃいい!カンボジアの色みたいだ」って(笑)ノリで決めました。実際の袖はここまでブワーッと生地はなく、CGで拡張しています。音楽的にもサビの部分なので、女の子の一瞬の儚い一番いい時を・・・

佐渡:一番いい時かどうかはわかんないですよね。

鎌谷:そこは俺の中でね(笑)。“女子高生から大人になる儚い一瞬の輝き”を表現したかったんです。ナレーションにも綴っています。

 

■ コギャルmeetsアフリカン!そして“かわいい”は世界に拡散された

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遠くて近い存在・・・かもしれない、この2つのかわいい存在が出会うことにより引き起こされた出来事とは!?

 

鎌谷:コギャルとアフリカ部族のカットはちょっとしたエピソードがあります。コギャルを撮りたかったんだけど、制作部に、この時代にコギャルなんて用意できない、って言われたんです。が、彼ら、コギャルカフェなるものに行ってスカウトしてきてくれたんです。どんな人たちが来るのは本番当日までわからないし、どんな雰囲気なのかも本当に来てからしかわからない。しかも、来てくれるかどうかもわからない(笑)。すごくドキドキしてました。

佐渡:コギャルさんたちが、夜型だということで・・・。撮影時間がちょうど深夜に当たったので、無事来てもらえました。

鎌谷:コギャルと対するのがアフリカの部族の人たちなんですが、一般的に西アフリカの方でないと、こういう手足の長い容姿じゃないんですね。マッチョ系がマジョリティなんです。豹のような黒人の方を探してきてもらいました。おかげでイメージ通りに衣装がバッチリ似合っていました。

 

――ゴキャル meets アフリカン部族として描かれていますが、その関連性は?

鎌谷:“かわいい”を考えるうえで、さらに国籍や時代を超えてもっとプリミティブな方向にいった時、人にどう見られるか?ではなく、自分の意識を高めるのに必要な化粧や装飾が、ゴキャルと部族に共通していると思い・・・

佐渡:ギャルが目の周りを白くするパンダメイクも一緒だなっていう思いつき・・・あ、思い込みか(笑)。

鎌谷:その人たちが、時空と距離を超えて出会うっていうシーンなんです。出会うと、ビックバンが起こり、“かわいい”が世界に波及していく様を表現しています。

佐渡:その“かわいい”は、DNAレベルまで波及していきます。続く変身シーンはCG担当の西藤立樹さんが超がんばってくれました。すごくかわいくて大好きなシーンです。流れは、主人公の女の子が壁を抜けると、ミントアイスや地球が爆発して、そこからマーブルチョコが流れてきて、滝が降ってきて、滝に飲まれた女の子が、どんどん“かわいい”を自分の中に取り込んでいって、骨までかわいくなって、遂にはDNAまでかわいくなるというもの。

鎌谷:“かわいい”は自分の中にあったんだって、気づいて覚醒。答えを見つけたことを可視化しているんです。結局、答えは“味噌”だったんですけど(笑)。

 

■ 2人が臨むこれからのビジョン

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――最後にそれぞれが映像作家としてこの作品で目指したものを教えてください。

鎌谷:見ている人が焚きつけられてなんぼの映像にしたかった。「見て為になった」っていうトリビアもなければ、シェアしたくなるフォーマットでも無い。その代わり「私、日本人に生まれてよかった」っていうくらいのカタルシスを視聴者が得られるものを目指しました。音楽にも、日本的要素、祭囃子だったり和太鼓を取り入れて、その感覚が得られる映像を作ることをずっと念頭に置いていました。

佐渡:ロンドンの大学を卒業して帰国して映像の仕事を始めてから、ずっと日本っぽい映像を作りたいって思っていたんです。というのも、日本の仕事なのに、リファレンス資料は海外のものばっかりというのに違和感がありました。もっと日本のカルチャーを出した映像を作りたいって思っていたんですけど、そういう機会がなかったというか、自分で作れなかった。今回、マルコメっていう企業で、“かわいい”カルチャーがテーマとなった時、すごく参加したい!って思ったし、味噌スープは、海外でも知られているから、広く見てもらえると嬉しいなって。今後海外でも仕事をしていきたいですし、日本人としてオリジナルなのもを作りたいって思っています。

 

取材・編集:山本加奈|撮影:永友啓美

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