無響室で創る響きの世界。ICCオープン・スペース 2013「大きな耳をもったキツネ」evalaインタビュー


evala
サウンドアーティスト。1976年生まれ。先鋭的な電子音楽作品の発表および上演、また公共空間、舞台、映画、広告メディアなどで立体音響システムや先端テクノロジーを用いた多彩なサウンドデザインを行なう。代表作に、CD《acoustic bend》(port/2010)、インスタレーション《void inflection》(山口情報芸術センター[YCAM]/2011)など。渋谷慶一郎とのATAK Dance Hall、ボーカロイド・オペラ『THE END』音響プログラム、カンヌ国際広告祭でのPerfumeへの楽曲提供などでも話題。

 

オオミミギツネという、アフリカに生息する耳が極端に発達した夜行性の哺乳動物に由来したタイトルの展示作品「大きな耳をもったキツネ」。東京、初台のNTT インターコミュニケーション・センター [ICC]にて開催中の「オープン・スペース 2013」にて公開のこの作品は、音楽家のevala氏が、国際的に活躍するサウンドアートの先駆者であり、35歳年上の鈴木昭男氏とコラボレーションするもの。鈴木氏の自作楽器による演奏と、evala氏の出身地でもある京都府京丹後市内にある鈴木氏の作品や、彼自身が選定した場所でフィールドレコーディングした音を素材に、無響室でインスタレーションを行う。

楽器が巨大化したり、耳が水で溢れたり、暗転の中で体験する音響イリュージョン「大きな耳をもったキツネ」の特殊な聴覚体験について、そして、evala氏を魅了してやまないという“音”について、展覧会に向けて絶賛制作中の中、お話を伺った。


フィールドレコーディングした滝にて。 撮影:脇葉敦
(左)鈴木昭男:1941年生まれ。サウンドアートの先駆者的存在として、1960年代初頭より「聴く」ことを主体とした制作態度によって国際的に活動する。1970年にエコー楽器アナラポスを創作。1988年には子午線上にある京都府網野町に、一日自然の音に耳をすますという行為を行なうための《ひなたぼっこの空間》を制作。96年には、地面に足跡のように見える耳のマークを描き、その上に立ってその場所の音に耳をすませる《点音》を発表。ヨーロッパを中心に世界の主要な美術展や音楽祭に招聘されている。

 

――無響室は入ると空気がガラッとかわりますね。何て言うんでしょう、ここに居るのがしんどく感じるような空間というか、初めての感覚です。この音の反響がない空間でevalaさんは展覧会に向け毎日作業していらっしゃるのですね。

妙な圧迫感がありますよね。最近、何日かここにずっといるでしょ、だから今日多分うまく喋れないと思います(笑)。電話が掛かってきても「もしもし」がすんなり出てこなかったりする。作業中も一人っきりで籠らないとダメで、アシスタントのマウスクリックさえ気になってしまう。

 

――部屋の中央に、椅子がポツンとありますが、お客さんはあの椅子に腰掛けて音を体験するのですか?

そうです、一人ずつの体験。ICCスタッフの案内とともに椅子に座って頂き、扉が閉められスタートすると照明が落ちて真っ暗になります。
ちょっと聴いてみますか? これは360度包囲の超高解像度な立体音響のマイク一本で録っただけのものです。

――波の音ですね。立体的で、音の位置が凄くて、ちょうど頭の上まで水に浸っている感じがします。

これは素材そのままの無加工で、音の反射や配置だけをいじくったものですが、聞いた事ある音が聴いたことのない位置で響くだけでも、新鮮な体験ですよね。水に全身が浸かっているけど、水中の音ではない。まさに耳の存在を忘れてしまうような。


《大きな耳をもったキツネ》 撮影:濱崎幸友

 

――この展覧会のテーマが、鈴木昭男さんをフューチャリングし、実際に京都でフィールドレコーディングをされていると。鈴木昭男さんとは以前YCAMでもコンサートいう形で一緒に作品を作られていますが、世代も違うお二人がコラボレーションに至るまでの経緯を教えてください。

鈴木さんとは、実は僕が小学校の時に出会っているんですよ。

 

――35歳ほど年の差があって、鈴木さんは現在73歳でいらっしゃいますね。どういう出会いだったんですか?

僕は京都の日本海側の丹後という町で生まれたんだけど、小学生の時、鈴木さんがその町にやってきたんです。何やら東京から芸術家がやってきて、山奥でお弟子さん達と穴を掘ったり壁を作ったりされているようで、よく分からないけど、音を聴くための作品を作っているという。

それが鈴木さんの代表作でもある「ひなたぼっこの空間」(1988年|京丹後市)だったんです。ちょうど完成した頃かに、NHKの特番で「鈴木昭男の世界」とかいう番組をやっていて、あのおじさんだ、有名な人だったんだ、なんて思った記憶もあります。

 

――25年の時を経て再びお二人が交差したのは、その経験がevalaさんを音楽の道へ導くことになったからなのでしょうか?

当時12歳くらいで、それまでピアノを習っていたりギターを始めたりはしてたけど、両親に連れられて行った鈴木さんのコンサートで、音楽と呼んでいいのかどうか分からないけど、ただただ耳が研ぎすまされていくような奇妙な音体験だけは鮮明に覚えています。

で、その経験は特に何も意識なく音楽はずっと続けてきて、今のコンピュータで音楽を作るスタイルになったんだけど、ここ数年は立体音響なども取り入れ始めて公共空間のサウンドデザインなども手掛けたりしていて、気付いたら音や空間を強く意識するようなってました。
そしたらコンサートの後にたまにお客さんから「鈴木昭男さんって知ってます?」って言われるようになったんですよ。びっくりっていうか意外だったんだけど、そうやって「何か通じるものがある」って言われるようになった矢先にYCAMから、鈴木昭男さんを招聘するので共演相手として出演してほしいとの打診がありまして。で、鈴木さんから「evala様 初めまして。この度は宜しく」とメールがきて、「実は小学生の時にお会いしてる江原です」って伝えたら、「えーー! あのお子さんですか!」って。

それで、考えてみたかったんです。僕の原体験だったのかなって、鈴木昭男さんが。それでもう一度彼と何かやりたいって時にタイミングよくICCからお話をいただき、鈴木昭男を題材にした作品を作ってみよう、と今回に至っています。


evala+鈴木昭男「sound tectonics #11」より
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]|撮影:田邊アツシ

 

――展覧会では“evala+鈴木昭男”とダブルネームになっていますが、創作の過程を教えてください。

ダブルネームですが、共同作業というよりは、まず僕が鈴木さんのところに行き、彼の演奏や、好きな場所や秘密のスポットを録音するところからはじまりました。紐解く、じゃないけど、いわば、カメラでなくマイクだけを持って、耳だけで鈴木さんのドキュメンタリーを撮っていくような感じ。猛暑の中、長靴にタオル巻いて、山や滝やら洞窟やら色んなところにいったりして。鈴木さんはしょっちゅう海外のあちこちにいらっしゃるんだけど、スケジュールを合わせて京都でみっちり4日間一緒に過ごしたんです。

 

――どんな体験だったのでしょう?

ここじゃとても言えない、アートの歴史が変わっていたであろう貴重な裏話とかもいっぱい聞かせてもらったんだけど(笑)、あの世代の方ってやっぱり今とはスケール違うなって痛感しました。
例えば「ひなたぼっこの空間」は、標準時を決めている子午線上で一日中耳を澄ますだけの空間を作ろう、という構想がまずあったそうで、子午線って地球上に他にもたくさんあるけど、サイコロを振って決まった場所が、たまたま京都の日本海の丹後だったというね。すごい・・・。仲間の中には、スペインに行きたかったのにまさかの国内・・・と残念そうに嘆いた人もいらっしゃったとか(笑)。

美術館とか飛び越えて、突如山に出現するあんなでっかいものを創るっていう作品のスケールもそうだけど、時間のスケールも凄いですよね。何年も掛けていくわけで。東京でごちゃごちゃ仕事してるのが馬鹿らしくなるっていうか、今の時代はもうこういうアーティストは出てこないんじゃないかなって思ったり。

 

――今日までの制作過程の中で、ご自身の音楽における原体験だと確認されましたか?

25年目の「ひなたぼっこの空間」に訪れてみたら、経年で草木も生えてるし、敷き石も風化して砂になっていて、見た目がものすごく変わっている。音もこんな響きじゃなかったなあって、ある種衝撃だったんだけど、そこで鈴木さんは一言「自然に帰ってて良かった」って。
なんと実は、制作段階当時から50年後の「ひなたぼっこの空間」のスケッチを描かれていたそうで。自分の原体験かどうかっていうことより、当時は分かり得なかったスケールのデカさのインパクトがとにかく大きかったです。

 

――鈴木さんを題材とした作品制作において、無響室を選ばれた理由は?

僕にとっては、鈴木さんは凄く空間の人なんです。例えば楽譜を見る時、まず音符を意識するけど、鈴木さんの場合はその間、つまり音符と音符の間に徹底的に耳を開いている稀有な方だと思っていて。

例えば、パン!って手を叩く。“パ”ていうのが音源(音符)だとすると、“ン”っていうのは余韻とか響き(間)、それって何かというと、空間の体験ですよね。僕らが日常的に“音”と呼んでいるものは“音源+空間”のことであって、音源に空間があって“音”というものが立ち上がってくる。耳の体験は、空間の体験でもあり。どうやっていい“パ”を叩くかといった時に、みんな音源ばかりを考えて取り敢えず手の使い方を変えるんだけど、鈴木さんは“ン”の響きに鋭く耳を開くことで、新しい“パ”を生み出していくっていうか。

鈴木さんがふと石を叩いたり、マドラーで机を叩いたりするだけで、耳を開かせる何かがあって、それは何なのかなぁって自分なりに考えていたんだけど、音源よりその後の空間に常にフォーカスしているから、こんなに惹きつけられる“音”になるんじゃないかなって。これ、先の「ひなたぼっこの空間」の50年後のスケッチが既にあるという話にも何か繋がってきますよね。


鈴木昭男 クギウチ

 

――しかしながら、無響室は響き、残響が全くない世界ですが。

そう、全くない世界。だからこそエキサイティングなんです。そういう空間的な鈴木さんの演奏やフィールドレコーディングという“響き”とは切っても切れないものを題材にして、響きの全く無い無響室で何かを作ることは、新しいものに出会えるんじゃないかと。
通常の場所だと、その空間が持つ残響や反射があるから、そこで発せられた音になってしまう。それが響きがゼロの無響室だと、プログラムで計算することで、部屋を100mにしたり、自分が小人にでもなったかのように楽器を巨大化させたり、水が頭の中を侵食していくとか、新幹線に正面から轢かれるとか、現実世界ではあり得ないことが色々創り出せるわけです。僕にとって無響室は夢のような真っ白なキャンバスともいえるかも。

 

――無響室での体験は、8.1chのスピーカーによるとありますが、ホームシアターでよく聞く5.1ch以上の立体音場となるんですね。

5.1chは前後左右の水平のみで、高さがないですよね。今回の8.1chでは、四隅の上下2層で8、と椅子の下にウーハ―を1台仕込んでます。過去に24chとかで公演や作品を作ってきたりしたのでスピーカーの数としてはミニマムなセットですが、立体音響専門の株式会社アコースティックフィールドの久保(二朗)さんにエンジニアリング面を担当してもらいながら、最新鋭のプロセッサーを駆使して、彼と僕が知りうる限り今までに例のない3Dサウンドを作り出しています。

 


《ひなたぼっこの空間》にて 撮影:脇葉敦

 

――フィールドレコーディングの生音、evalaさんの電子音楽と、一見両極に思えますが、空間という視点からだと地続きなのですね。

結局は音ですからね。今までのフィールドレコーディングってドキュメンタリー的なものかコンセプチャルなものかのどちらかだったんですが、僕がフィールドレコーディングでやっているのは、森で野鳥を録ったりするようなスナップ写真のようなものを撮りたいんじゃなくて、コンピュータでは生成出来ない、マイクロフォンでしか得られない音色があるからなんです。そうやって採取した時間も場所も違うのものを混ぜ合わせて、人工とも自然ともいえない新しい空間が立ち上げると、そこで予期しなかった音楽が響き出していく瞬間に出会うことがあって、それはとても快感です。

 

――具体的に、電子音との違いは何でしょうか?

大きな違いとしては、立体感といった時に、コンピューターはテクスチャー的な立体感、マイクロフォンは空間的な立体感が得やすいというそれぞれ特徴があるんです。それらの特性をちゃんと掴んで自然音に電子的な処理をすることで、人工か自然かの二項対立を超越したものが作り出せる。2010年に発売した「acoustic bend」というアルバムは、まさにその手法です。

今回の「大きな耳をもったキツネ」では、その延長にありながらも、録音素材に電子的処理はしておらずほぼ無加工、かなり生々しいものになっています。が、近くのものが遠くで、遠くのものが近くで鳴っていたり、頭蓋骨で響いたりという音響の悪戯をいっぱい仕掛けてるんです。もう電子音か環境音かなんて何の意味もなさない、音の配置と組み合わせだけでここまで面白い世界が創れるっていうネクストステップです。先程の海の音にしても、あれ現実的には起こり得ないですからね。

 

――先ほど聴いた音が完成した時、どう変容しているのかワクワクします。

暗転の中で耳が開くことで、映像か何か分からないものがいっぱい見えてもきますよね。視覚表現をやられている映像作家さんとかにも是非とも体験していただきたいなって思います。

 

――“無響音室で空間を音で入れ替える”試みはこれまでにない体験をもたらしてくれそうですね。

今日、途中段階を聴いてもらったICCのスタッフさんからは、音に触られているようとか、自分の身体がなくなって音になったみたいとか、色がいっぱい見えたなどの感想をいただいたけど、ちょっと不思議な音の映画みたいなものを作れればいいなと。

 

――最後にお伺いしたいのですが、音楽でも映像でも写真でも、フリーランスでアーティストとしてやっていく秘訣はなんでしょう?

ビジネス的な秘訣云々よりも、例えば頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになるような未知なる体験に貪欲であったりとか。僕は音楽やりながらも、ずっとアートが好きなんですけど、アートはモノの見方を変えてくれる。価値の転換みたいなことですかね。
簡単に言うと、凄く綺麗なウンコがあって、それでも買いたいと思ったらそれはアートですよね。これは音楽にしろ映像にしろデザインにしろ限らないことですが、世界には無数の価値基準が存在していて、別に意識的にそうするわけではないとしても、どれだけたくさんの互いに矛盾しあう価値判断の基準を自分ひとりの内に抱え込めるかが、その人間のある種の豊かさを保証する部分だとも思います。そこには柔らかく貪欲にいたいものです。

 

取材・文:white-screen.jp

 

オープン・スペース 2013
会期:2013年5月25日(土) - 2014年3月2日(日) ※月曜(祝日の場合は火曜)、年末年始(12月28日 - 1月3日)、2月9日は休館
時間:11:00 - 18:00
入場料:無料
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー4階
※「大きな耳をもったキツネ」は整理券による予約制。

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