ドキュメンタリー映画『築地ワンダーランド』遠藤尚太郎監督インタビュー。初の長期撮影が捉えた知られざる市場のリアルで不思議の世界に感動!

築地ワンダーランド遠藤尚太郎監督インタビュー

『TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)』 監督・脚本・編集:遠藤尚太郎|日本|上映時間:110分
制作プロダクション:Pipeline|製作・配給:松竹メディア事業部|協力:東京都中央卸売市場築地市場、東京魚市場卸協同組合|©2016松竹
10月15日(土)より全国公開中:http://tsukiji-wonderland.jp/en/theater/

 

2016年。邦画が豊作の年となった。『シンゴジラ』、『君の名は』、 『この世界の片隅に』などなど。どれも日本人性が感じられるテーマが共通してある。
そして、ここに紹介するドキュメンタリー映画『築地ワンダーランド』も今年必見の映画のひとつ。先行上映された香港ではハリウッド大作に混じって、2週連続で興行成績ベスト10にランクイン、タイでは初週の興行収益がドキュメンタリー映画の新記録を打ち立てた。美しい映像で描かれる世界一の魚市場築地市場、豊かな食文化、そして築地で働く仲卸さんたちのドラマ・・・。デジタル、効率化、コストパフォーマンスと高らかに叫ばれる、世の中のトレンドと真逆を行くかのような商いに対する姿勢は、世界ナンバーワンの魚市場「築地魚市場」を作り上げている。移転を目前に築地のリアルな姿を映画に焼き付けた遠藤尚太郎監督のインタビューをお届けする!

 

監督・脚本・編集:遠藤尚太郎 |音楽:Takahiro Kido |企画・プロデューサー:手島麻依子
奥田一葉|プロデューサー:中山賢一、坂口慎一郎|撮影:木村太郎 (S.O.G)、栗田東治郎、角田真一、小林雄一郎、吉田剛毅、三木誠、田中宏幸、堂前徹之 (S.O.G)、神戸千木、月永雄太、百々新、石塚崇寛 里見昌彦、岸本幸久、遠藤尚太郎、酒井隆史(空撮)、福田光司(ドローン撮影)|カラリスト:長谷川将広|出演 :築地で働く人々(仲卸ほか)、すきやばし次郎、鮨さいとう、すし匠、第三春美鮨、㐂寿司、石かわ、銀座小十、神宮前樋口、ESqUISSE、みかわ是山居、道場六三郎ふぐ料理浅草みよし、新田亜素美、René Redzepi(noma)、Theodore C. Bestor(文化人類学者)、服部幸應、山本益博、犬養裕美子、岩村暢子ほか

 

普段ドキュメンタリーを観ない人にも観てもらいたい

遠藤尚太郎監督

遠藤尚太郎監督:1978年2月14日生まれ。自主制作作品『偶然のつづき』が第27回ぴあフィルムフェスティバルに入選、観客賞を受賞。俳優小栗旬が初映画に挑む姿を追ったドキュメンタリー番組(TV/DVD)を手掛けるほか、広告やミュージックビデオなどを幅広く手掛ける。本作が劇場用映画初監督作品となる。

 

――この企画はどうやって生まれたのでしょうか?

ある時、仕事で築地を撮ったんですが、そこに圧倒的な世界が広がっていて「築地の映画が作りたい」って思いはじめたのがきっかけでした。どこに何があるわからな い、混沌としていて、でもそこで働く人は分刻みの時間割をこなしていて、1日約45万 トンの水産物が流通していくんです。この築地にあるエネルギーを映画に収めたいと思ったのが2012年でした

 

――そのエネルギーを伝えるためにどういう映画にしようと考えられましたか?

仲卸さんを中心に撮ろうとはじめから決めていました。築地市場に集まった魚を分けていく作業を分荷といいますがそれを担っているのが築地で働く約600店の仲卸さんたち。日本食文化って世界に類をみない程高度に専門化されていて。大まかに言うと480種類の魚種を、寿司、天ぷら、ふぐ、うなぎ、郷土料理だったり、様々な食べ方が あって、それぞれのニーズにあった魚を仲卸集団が目利きして提供している。
そうやって江戸時代から培ってきた日本の食文化の豊かさや素晴らしさを再確認すると共に、そこに果たしてきた築地の役割を描きたいと思いました。ですから、誰か特定の人を追うのでなく、集合体としての築地の魅力を伝えたるため、そして10年、20年後にも見てもらうためにも、多くの人が映画に登場することがポイントでした。

 

――この映画で豊洲移転には触れていませんがそれは意図的にでしょうか?

企画が動き始めた4年前、豊洲移転はもう決まっている時でしたがまだ時期はまだ発表されていませんでした。この映画では移転は前提でありつつも特にテーマとしては扱っていません。移転をテーマにすると移転だけで一本の映画が出来てしまう。
この映画では、築地のハード面だけでなく、世界に類のないソフトの部分を描きたかった。“豊かな食文化”を、80年間培い、支えてきた築地の役割にフォーカスし、未来に何かを残せる映画を撮るのが目的だったんです。

 

クラウドファンディングで実現した映像表現のこだわり

クラウドファンディング

『TSUKIJI WONDERLAND』©2016松竹

 

――クラウドファンディンで、900万ほど資金が集まっていました。日本のドキュメンタリーでちゃんと予算をかけ映像クオリティも高いものを作る事例は少なく感じます。着手するにあたって想定したクオリティと予算感はどうしましたか?

900万円だとこの映画は作れなくて総製作費の一部となりますが、海外の映画祭に行くと、そこで上映されているドキュメンタリー映画は制作費が一桁違っています。1億円以下が低予算と言われていますね。企画から自分でやっているので、正直資金が十分集まらなくても、どうにかするしかないという覚悟はありましたが、映画にする意味っていうのは、時代を超えて国境を超えて発信出来る媒体にするということです。
ありがたいことに海外映画祭でも上映されているのですが、痛感するのは国際映画祭に出すとなると最低限の品質ってやっぱりあるんですよ。築地をちゃんと映像として記録して観てもらうためには、それなりの映像のクオリティって必要。そんな国際的な基準をクリアした映像の質感は意図しました。そのために、ベースとなる制作費に加えてクラウドファンディングで資金を集めたんです。撮影自体は既に自分で始めていたのですが、それでやっと撮影機材に選択肢ができたり、空撮も可能になりました。

 

――築地という狭い場所であり、仕事場でもある場所。撮影制限も多かったのではと想像します。どのような撮影スタイルで挑んだのでしょうか?

基本3名体制です。僕、カメラマン、プロデューサー。音声も僕かプロデューサーがやります。時には僕はスチル撮影も兼任していて、絶対使うレンズをつけたスチルの一眼デジタルカメラをぶら下げていて、広角レンズと標準レンズを僕とカメラマンでぱぱっと交換しながら撮っていきます。というのも、築地の撮影制限のひとつが、三脚はNGなんです。代わりに一脚をつかっています。まぁ、現実三脚を置く場所なんてないですけど。ライティングもダメでしたが、場内は裸電球がバーっと並んでいるので光源は潤沢でした。でも全部が色温度が違うのでカラコレが大変で(笑)。しかも、魚の色はルックで決められないから、そこはマスク切っているんです。
とにかく撮影のユニットをできるだけ少なくしたかった。狭い築地市場という物理的な問題と、出来るだけ撮影回数に制限をかけたくなくて。一回の撮影コストを抑え、数を増やしたんですね。一度の撮影で安く見積もっても5~10万って簡単に飛ぶんです。100回いったら1千万円になりますからね。3日に1度のペースでなんとか撮影をしていました。

 

記憶を無くした10カ月に渡る編集の日々

3カ月に渡る編集

『TSUKIJI WONDERLAND』©2016松竹

 

――トータルで撮影日数が1年4カ月。収録時間600時間と伺っています。

撮影素材が600時間ってぐったりしますよね。編集するMacにはHDD120TBがついていました。

 

――もうサーバーですね。編集はご自身で?

はい。ひたすら自宅の編集ルームで。他人に作業してもらおうと思っても、何が写っているのかわからないし、どこの競りかもわからないですからね。撮影しながら編集も始められればまた違ったのかもしれませんが、撮影に行くともうドロドロになって帰ってくるんですよね。帰宅したらバッテリーを充電して、メモリーカードのバックアップとデータ変換で2日終わってしまう。しびれる状況でした(笑)。
はじめに、全インタビューを編集し、要素ごとにキャプションをいれて整理していった。同じ話題別にグルーピングして、組んでいく。今度は築地市場だけの撮影を整理します。8時間位のシーケンスができたんですが、最後にそれにインタビューを組み合わせていくという流れで作っていきました。600時間は病気になりますね。編集には10か月かかりました、中でも佳境だった夏の3ヶ月間の記憶が本当にないんです。

 

――テンポのよい仕上りとなっていましたが編集で意図したことは?

この映画を企画した4年前というのは今ほど「食」の映画も多くなくて、すきやばし次郎さんの映画『二郎は寿司の夢を見る』の日本の公開は2013年ですが、それからですよね。だから築地の映画のドキュメンタリーと言っても果たして誰が見るんだろう、って言う不安はありました。「日本人として日本文化を見直すものにしたい」と思いつつもどこまでそれが伝わるのか?でも、普段ドキュメンタリー映画を観ていない人に観てもらいたいという強い気持ちがありました。海外の映画祭で上映された時も、どこまで伝わるのか未知数でしたが、日本の食や文化に対する驚きと共感は想像以上で、何百席という劇場の座席は埋まり、現地で家族をもって生活している日本人の方は映画を見て涙していたり、伝わったんだなぁって。
僕自身スクリーンで10回以上観ましたが、毎回観た印象が違うんですよね。それは一つの明確な起承転結を元にしている映画ではなくて、群像劇だからなんですね。細かい起承転結の集合体なので、上映環境だったり自分の体調や気持ちの状態にひっぱられる。編集中の印象はもっと違ったものでした。観るたびに印象が違うのが特徴だと思いますし、作っている最中もそうでした。

 

そして次なるワンダーランドへ!

次なるワンダーランド

『TSUKIJI WONDERLAND』©2016松竹

 

――映画の完成後、築地に対する見方って変わりましたか?

それが未だに僕にとってはワンダーランドで。この前も築地で買い物をしたんですが、「何の魚ですか?これ?」って写真を撮っちゃう。そうしたら怒られるんですよね「あれだけ撮ったのにまだ撮るの?好きだな~お前は」って(笑)。行っても行ってもわからないことだらけで、新しい発見のある場所です。

 

――映画公開後で築地の方や海外からどんなフィードバックがありました?

意外に思うかもしれませんが、築地の中の人っていうのはすごく専門的に仕事をされているため築地の中のことを知らないんです。まぐろの競りをやっている人は、うにの競りを見たことがないんです。だからこの映画をみた築地の人はそこが面白いって言ってましたね。同時に商いに対する共通する想いには改めて襟を正す機会になったし、若い人たちに観てもらいたいとおっしゃっていただいています。

海外では、この前ボストンのハーバード大学で行われた学会で上映させていただいたんですが、一番驚かれたのが「日本人ぽくない」ということでした。「日本人って日本を語るのが得意じゃないよね。そういう意味でこの映画は日本人じゃない人が作ったのかと思った」と。そういうところでも日本を改めて見つめられる。この映画にはそのハーバード大学の社会文化人類学教授テッド(テオドル・C・ベスター氏。「築地」の著者)にも出演してもらっているのですが、自分たちの文化を客観的に見るために外国人の彼の視点を取り入れたくてオファーしました。加えて構成上、僕の声がほぼ入らない作り方にしていて、ナレーションも必要最小限に抑え、客観的に描くことを意識しているんです。そういうところに驚かれていました。

 

――それはとても共感する意見です。今後どういうのを作られるご予定でしょうか?

僕はドキュメンタリーを専門とした監督ではないし、今後ドキュメンタリーだけを作っていこうとも思っていなくて。僕は物語映画をつくることを目指していきたいし、群像劇を作っていきたい。この映画もドキュメンタリーというより、僕の中では群像劇を描いているとも言えるんですね。このドキュメンタリー映画を撮ったのは、僕らのチームが築地に対する愛情は誰にも負けない自信があったからであって。ドキュメンタリーでは食育をテーマにしたものは撮ってみたいと思いますが、フィクションも積極的に撮っていきたいですね。

 

取材・文・編集:山本加奈|写真:森口鉄郎

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