「るろうに剣心」の大友啓史監督がAKB48に送るメッセージMV「僕たちは戦わない」。アイデアから絵作りまでをひも解くインタビュー!

中央左)大友啓史:映画監督。1966年生まれ。岩手県出身。慶應義塾大学法学部卒業。1990年にNHK入局、ドラマ番組部に所属。1997年から2年間、LAにて脚本や映像演出を学ぶ。「ハゲタカ」(07年)、「白洲次郎」(09年)、「龍馬伝」(10年)などを演出、イタリア賞、芸術祭優秀賞を始め国内外で多数受賞。劇場版「ハゲタカ」(09年)で映画監督デビュー。2011年にNHK退局、株式会社大友啓史事務所を設立。「るろうに剣心」(12年)、「プラチナデータ」(13年)を監督する。2014年夏公開の「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」は、2014年度邦画実写のNo.1ヒットを記録し、日刊スポーツ映画大賞、石原裕次郎賞、毎日映画コンクールTSUATAYAファン賞、日本アカデミー賞話題賞など、国内外の賞を受賞。次回作は2016年公開予定の「秘密 -ザ・トップ・シークレット(仮題)」。

 

第7回選抜総選挙を控えるAKB48が放つ新作ミュージックビデオ(MV)は12分に及ぶアクションとドラマが織り成す一大叙事詩!シネマティックな絵作りが迫力の本作「僕たちは戦わない」は10周年記念に贈られる40作目のシングルという節目にふさわしい仕上がりだ!

 

本作を手掛けるのは映画「るろうに剣心」シリーズの大友啓史監督率いる大友組。島崎遥香をメインキャラクターにドラマありアクションありの、これまでとは一味も二味も違うAKB48のMVとなった、本作の舞台裏を語っていただいた!

 

AKB48「僕たちは戦わない Short Ver.」
4月にYouTubeにショートバージョンが公開。フルバージョンは5月20日に発売された初回限定盤付属のDVDに収録。
dir:大友啓史|DoP:石坂拓郎|Total pr:秋元 康|ex pr:窪田康志|ed:Aki Mizuntani(Cutters Tokyo)|colorist: Ben Conkey(Cutters Tokyo)

 

――大友啓史監督がアイドルのMVを撮られたことが、まず意外でした。
大友啓史(以下、大友):AKB48さんからは、以前にもアプローチされていたんです。でも、基本的に僕が今まで積み重ねてきた仕事のイメージとは1番遠い仕事じゃないですか。僕、男臭いもんばかり撮ってきたんで(笑)。だから、いったい何をお望みなんだろうって、今一つピンと来なくて。忙しさもあり、なかなか踏ん切れずにいたんですね。ただ、そもそもNHKを辞めた理由は“やったことのない仕事にチャレンジする”がテーマでしたから。来るものは拒まずっていうスタンス。だから、またオファーがあったら、“AKB48でどういうことが出来るのかな”って、なんとなく考えてはいました。アイデアも勿論ありました。そうするうちに再び、秋元康さんサイドから打診があったんです。

 

AKB48は、今年デビュー10周年で、「僕たちは戦わない」は、ちょうど40作目の記念シングルなんです。その節目に当たって、僕は「日本のサッカーが何で強くなったかって言うと、個の能力が上がったから。集団のスポーツだけれども個の能力の成長がとても大事。彼女たちも1人1人の個性がより際立っていくことがすごく重要で、それがAKB48の底上げになるんじゃないか」ってプレゼンをしたんです。ま、余計なお世話でしょうけど(笑)。

 

そんなことから、10周年以降のNext AKB48にメッセージを送るのであれば、自分の足で立つ=“自立”をテーマにしたいと考えたわけです。極端に言うと、生みの親である秋元さんからもドンドン自立していかなきゃいけないんじゃないかって。実際に秋元さんにお話を伺い、色々と考えを真っ直ぐぶつけさせてもらったんですね。ある意味“親殺し”がテーマのMVにしたいと、そんなことすら言ったと思います。だけど秋元さん自身が、その言葉を面白がってくれて。ビックリするぐらい制約がない。“とにかく自由にやってくれ”と。「今までのAKB48のイメージとは違う、カッコいいものを創ってほしい」というのが率直なオーダーでした。「定番の水着はない」って言われて、ちょっぴり残念でしたけど(笑)。

 

エンターテイメントの基本はLOVE&PEACE!秋元康氏とのキャッチボールで築く世界

――オープニングでファッションショーのデザイナーが敵の襲撃により倒れ、その事件の後、天使のようなAKB48のメンバーが、次の場面で一転して荒涼とした場でバトルを繰り広げていく。
大友:このMVのプランニングをしてる時に、IS(イスラミックステート)の人質事件が起きてね。僕たちが生きている日常の根幹にあるものを揺さぶられるというか。SNSでも色んな人が色んな言葉を吐き出していて、なんだか考えていたら気が滅入っちゃって。僕自身は、シンプルにこうして映画を創っていられる日常に、素直にありがたみを感じたというか。AKB48の“選抜総選挙”なんてね、“平和”じゃなきゃ出来ない。格闘シーンやアクションシーンも平和だからこそ、心おきなくフィクションとして取り上げられる。2011年の東日本大震災の時にも感じたことですが、やっぱりエンターテイメントを存立させる基本は、LOVE&PEACEであることに間違い無いんですね。

 

このMVでアクション=闘いを強調したのも、当初の意味合いは「自立するための闘い」。個が自立するために何を獲得しなきゃいけないのかという。それが僕自身も含めて、色々と変わってきた。何のために戦いを撮るのか、何のために誰と戦うのかってね。「たかがMV、されどMV」という感じで。このアイデアを進めるのは、果たしてこの時期どうなんだ?っていう自問自答のプロセスがあって、演出がどんどん変わっていきましたね。

 

今回の場合、企画や演出を考えている時は、実は歌詞も楽曲も未完成で、タイトルも決まっていなかったんです。だから、最初から「僕たちは戦わない」というタイトルや歌詞があったわけではないんです。最初に候補となっているメロディをいくつか聴いて、そこから生まれた僕のアイデアを秋元さんとキャッチボールする中で、“僕たちは戦わない”という歌詞が返ってきた。その作業が面白くてね。

 

歌詞を読んだ時に“やった!来た来た来た!”って感じ。秋元さんというある種稀代のバランサーから、1番いいボールが返ってきたと思いましたね。エンターテイメントって、当たり前のことですけど、ビジネスの観点だけじゃ人の心に届かない。今、世の中で何が起きていて、1番痛いところ、1番かゆいところに手が届く言葉を投げないと届かない。

 

AKB48の楽曲の中では、震災後の「風は吹いている」とか、すごく良いもん。世の中と呼吸を合わせながら歌詞を書いてるんだなあっていうことが、すごく伝わってくるんですよね。

 

撮影現場の様子。実際にセットが組まれ映画さながらのプロダクションだ!

 

――個々の能力を引き出すのが、Next AKB48というテーマだったとのこと。実際撮影をされていかがでしたか?殺陣もあり大変だったと想像します。

 

大友:アイドルっていうのは、素材に徹することを強いられ、教育されている人たちなんですよね。ある意味、そこについては“曲がった自我”が無い。我の強い“俳優”という生き物と、普段接している僕にとっては、正直物足りないところもあるんだけど(笑)。でもね、若い女の子たちから違う弾がブンブン返ってくるのは面白かった。特に島崎遥香さんは、“塩対応”とか言われているけど、相手が求めるものにどう応えるかっていうことを必死に考えている。それがビンビン伝わってきた。

 

“消費されていく”ことをためらわず、覚悟を決めるのも大変ですよね。アイドルとして24時間、1分1秒の生活を送りながらね、相手と向き合った瞬間どうやってこちら側の要求を理解し、それにどう染まるかということで、懸命に向き合ってきますからね。衣装合わせで待っている時間に、僕の前で緊張して涙を流した子もいましたから。だから、結果はすべてこちら側の態度の反映なんですよ。こちらが本気でやれば向こうも本気で返してくるし、中途半端で向き合うと絶対中途半端に終わる。“ドールのように扱って、かわいく笑っていればみんな飛びつくよね”っていうスタンスでは、とてつもないリスクが生じる。表現者以前に、大人としてちゃんと言うべきことは言わないといけない。彼女たちに正面から向き合っていかなきゃいけない。そういう意識を試される、流せない仕事でした。

 

――ガチでぶつかり合った現場だったんですね。
大友:だから「るろうに剣心」のチームを呼んだわけで。お金もだいぶ使っちゃいましたけどね(笑)。

 

――大友組のスタッフ100人が稼働したそうですね。
大友:いつものメンバーだとそのぐらいになりますかね。撮影日数は、4日間です。

 

テーマは“時の流れ”。2つの世界に託された希望

カラーグレーディングを担当するのは、Cutters Tokyoのカラリストベン・コンキ―氏。上がカラーグレーディング前、下がカラーグレーディング後。

 

――セットの背景に巨大な時計のモチーフや、島崎遥香が握りしめる時計など“時間”を想起させるモチーフが多く登場します。

大友:10周年なので、“時の流れ”がテーマなんです。 想いとしては、青空の下、ピンクのパンツで踊っているダンスシーンは、今僕たちが暮らしている日常です。エンターテイメント世界に生きているAKB48の日常。戦いのパートは、きっと世界のどこかで起きているであろう争いを、表現しました。その戦いの世界に向けて僕たちはここから、“戦わないで”って呼びかけている。それは届かない声かもしれないけど、少なくとも何か小さな希望が生まれて来ている。生まれて来てほしい、そんな思いを込めています。

 

戦場に送ったメッセージが届くか届かないかわからないけど、言葉を投げかけずにはいられない。目を瞑っていることは出来ないけど、何をしたらいいのかと目を凝らすことで、一体何が生まれるのかなっていう。答えは出してない。ラスト、擬人化された白い鳥が1羽でポツンといるところでドリーバックしてる画を見てね、色々感じてもらえればいい。想いは漂うだけかもしれないし、届くかどうかもわからない。見てくださった皆さんがどう感じるかは、自由だと思います。

撮影現場のエピソード

石坂拓郎:シネマトグラファー。1974年生まれ。神奈川県出身。撮影助手時代に、「セクレタリー」(02)、「ロスト・イン・トランスレーション」(03)に参加。その後、2006年にFrameworks Films Inc.を設立する。「ホノカアボーイ」(08)には、照明監督として参加。「さくらん」(07)、「昴-スバル-」(09)、「MW-ムウ-」(09)、「ゴースト もういちど抱きしめたい」(10)、「キミとボク」(11)、「るろうに剣心」(12)、「階段のうた season6」(12/TBS)、「震える牛」(13/WOWOW)などを手掛ける。

 

――石坂カメラマンは、映画「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」の時、殺陣をダイナミックに撮る秘訣は被写体ギリギリまで寄ることと話されていました。レンズと被写体の距離が、見ている人の距離感になるとおっしゃられていましたが、今回はいかがでしたか?
石坂:スタンスは同じですね。「るろうに剣心」は刀が多いので、刀の範囲だったのですが、今回は、殴りもあるので、またさらに近づいての撮影でした(笑)。 今回はMVということもあって尺も長くないので、ほとんどは手持ちです。カットの使用尺が短ければ、手持ちの方が早くいいアングルに入れますし、ギリギリの距離感も保てます。

 

1番に考えたのは、いわゆるAKB48のMVじゃないもの。5人がボロボロの衣装で立ち上がるとか、卵のシーンといったシンボリックな各シーンの世界観をどう捉えるか。砂漠、ロケのシーン、時の世界観、ピンクのパンツの世界をどういった解釈で変化付けていくかっていうのが1番の難所でした。

RED EPICを2台使用し5K収録した本編。

 

――映画の時は撮影の足場も悪く体力消耗戦とのことでしたが、そうすると今回は、まだラクでしたか?
石坂:それが、結構辛かったんです。下が砂地だったので、終わった時の疲労感が半端なかった(笑)。

 

――ドラマ部分に関してはどうですか?
石坂:“感情のある表情”を上手く出せる人かどうかは、現場にいると明確にわかるもので。アクションと言っても感情を入れてドラマを感じさせないといけないわけで、練習では上手いと思っていても撮影の時に、感情よりも運動神経が際立ってしまうメンバーもいました。ぱるる(島崎遥香)はそういう点で、良い表情をたくさん見せてくれました。アクション練習では感情をあまり見せなかった分、現場で“あ、こう来るんだ!”と。

 

今回は“大友組集まれー!”って集まって、“こういうことやります!でも、歌はまだないですみたいな(笑)”という中で、よく見るアイドルのMVから脱することと、大友さんの描いた大きい流れをもとに、各部で想像を膨らませて行き、その場で撮れる最良の画を探しました。

 

オープニングのファッションショーのシーンも難しかったですね。最初は、AKBのアイドル感と大友さんのテイストの間で、ちょっと悩まされました。どう撮れば格好良くなるのか?ちゃんと大友組がやるAKBのMVとして成立しているのか?など、色んなことを考えました。そういったチャレンジングなところが面白かったです。

 

編集を担当したAki Mizutani氏によると、編集におけるテーマは“痛みを表現する事”だったそうだ。

 

――最後に、本作「僕たちは戦わない」のお披露目を終えた感想をお願いします。

大友:MVって元々何だったんだっけ?っていうところを考えさせられた気がします。話題になる、注目されるのが本質。なのにフォーマットにみんな陥って作っているから、同じようなMVばかりが蔓延する。全然違うスタイルにしちゃっても良いんだっていうのはありましたね。尺も含め、制約を外れたところでやれるものに参加出来て良かった。MVって色々試せる枠ですよね。色んなヒントもあったし、面白く出来たと思います。

 

編集:white-screen.jp

写真:荻原 楽太郎

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