ひとりの人にどれだけ深く刺さるか?最大公約数ではない“外れ値”の取り組み-森岡督行×渡邉康太郎インタビュー3回目

森岡督行(森岡書店銀座店)、渡邉康太郎(Takram)

ブランドロゴデザインに込められた思い

-森岡さんの「人生の10冊」をヒントに、渡邉さんはどのようなブランディングを考えたのだろうか。ブランドロゴのコンセプトを聞いた。

渡邉:まず、“一冊だけ”という心意気に、日本的な美意識を感じました。イメージは、“一室”の小さな部屋で、お坊さんみたいな茶人が、一幅の軸、つまり一冊の本を掲げてお客さんを待っている……というような風景。まさに「一冊、一室。」です。「森岡書店銀座店」の場所自体に流れる哲学が、茶道に通じるんじゃないかと思いました。ブランドロゴをつくるプロセスにも、そういった思考が反映されています。

一見、文章のように見えるけれど、これがお店のロゴです。1行目は屋号。次の行に、ブランドステートメントの一部である「一冊、一室。」を英語にしたもの。それから、この場所は“出版の聖地”というだけにとても重要なので、住所を3・4行目に。これらの情報をすべて同じ大きさの文字で伝え、さらにいちばん下には、“開かれた一冊の本”であり、“開かれた一室”を表したひし形を配置。「開かれた本のもと、開かれた部屋に、人々が集う。人と人とのつながりを大事にする本屋」という思いを、このブランドロゴに託しました。

森岡:ブランドロゴを使って、オリジナル商品もつくりました。Takramによるブランディングは、グッドデザイン賞をはじめ国内外のデザインアワードで評価していただきました。

渡邉:僕自身が考えるデザインの定義は、“まだ言語化されていない価値”を言語化して世界に届けること。それには必ずしも、形や色がある必要はないと思っています。

価値観の逆転こそが、森岡書店の社会的必然性

-ブランディングの志向プロセスはいったいどんなものだったのだろうか?

渡邉:すでに書店をやっていらっしゃる森岡さんが、このタイミングで、このコンセプトの書店を、という必然性というのは何だろうと。もちろん、内なるモチベーションというのもあるけれど、ほかにも社会的な必然性が多々あるように思えて。

雑誌もどんどんなくなって、本屋も減りつつあり……。唯一の勝者に思えるAmazonは、物理的な場所がなくとも無限にストックがもてるという形態の書店です。森岡書店とは対極ともいえる存在ですよね。でも、いまは両者が共存する時代。どちらも重要だと考えています。

僕にとってもAmazonは大事な存在で、よく利用します。でも一方で、その本の出版に携わった人と出会って話をすることで、ぐっと価値が高まる、という体験もあります。森岡書店が素敵なのは、本に出会う前に著者と出会ってしまうかもしれないということ。本屋に行って、新しい本に出会って、「この本面白いな。どんな人が書いているんだろう?」と思うような、一般的なプロセスと逆じゃないですか! そういった価値の逆転が起こる、魔法のかかった不思議な場所です。

森岡:そういう偶然の出会いを大切にしたいので、いまのところWebサイトでの発信もやらないようにしています。いまは情報がたくさんあふれているから、そういう店舗に価値を見出してもいいのではないかと思って。とはいえ、それは試みであって、この先、もしかしたらWebサイトをつくっているかもしれませんが……。

目に見えない“きっかけ”を未来へと紡いでいく

-時代の主流に逆行しているかのように見える森岡書店だが、顧客からの反応は確実に広がっている。さらなる事業の成功を願い、Takramは森岡書店との絆を深めていくことになった。

森岡:現時点では、来年の6月ぐらいまでは展示の予約が埋まっています。(※取材時2016年11月)

渡邉:Takramとしても、多くの人が“一冊の本”によって幸せになっていくことに喜びを感じています。その思いをカタチにしたくて、今年の3月から株式会社森岡書店に出資をするようになりました。

森岡:新たに株主になったからといっても、まったく関係性は変わっていないのですけれどね。

渡邉:我々としては、ブランドロゴをデザインした後も森岡書店と定期的に会う「公的な言い訳」が欲しいんです。頻繁に会って、意見交換して……名実ともに志をともにしている実感を得たい。すると、出資というカタチを伴う関係性に行きつくのは、自然な成り行きなのかな、と考えました。パートナーとして一緒に走り続けたいと感じたんです。

森岡督行さん、渡邉康太郎さん

森岡:Takramは意見を言いたくて株主になったわけではなく、「森岡書店が社会にどう影響を与えていくのか知りたい。おもしろい景色を一緒に見ていきたい」ということだと思っています。

渡邉:「なんでTakramが出資を?」と、よく聞かれますけどね。もちろん、普段からたくさん出資をしているわけではありません。我々の仕事はあくまでデザイン・コンサルティングですから。しかも、一般的にはデザインとは、ターゲットを平均化して、広く多くの人に向けられるもの。

森岡:でも、森岡書店は明らかに一般的でない……。

渡邉:“一冊の本”を選ぶこと自体が相当ニッチなわけですからね。最大公約数ではなく、“外れ値”の取り組みです。最大公約数としてオリジナリティを薄めてしまうのではなく、高濃度のままアプローチするにはどうすればいいのか?ひとりの人にどれだけ深く刺さるかを考えて、少人数から価値を広げていくには?大量生産という主流がある中で、毎週、生まれ変わることによって奥行きと深さを追究していく。この取り組みは、本当にホットだと思います。

森岡:渡邉さんと、Takramを介して出会うことのできた遠山さんとスマイルズの方々。そして、そこにすっと入ってきた私と。スマイルズには、出資と融資もしていただきました。みんなの化学反応がなかったら、いまのようなカタチには絶対にならなかった。そもそも、形や色がないし、言葉にもならない。目に見えない“きっかけ”を紡いで具象化していくことこそが、本当の意味でのデザインなのではないかと感じています。

森岡督行さん、渡邉康太郎さん

取材・文:佐藤理子(Playce) 撮影:中川良輔

トップへ戻る

マイページログイン

Web・ゲーム・映像業界専門の求人・転職・派遣ならイマジカデジタルスケープに登録する