デザインされていないものをデザインする。歌詞を可視化したスピーカー「Lyric speaker」―斉藤迅―1回目

株式会社SIX 斉藤迅 (クリエイティブディレクター)

株式会社SIX
斉藤迅 (クリエイティブディレクター)

歌詞を文字で読む行為は、歌詞カードを通じてが唯一の方法だった。しかしデジタル技術の進化によって、その固定観念を壊したプロダクトが、この「Lyric speaker(リリックスピーカー)」だ。歌詞を表示するディスプレイと楽曲を再生するスピーカーを一体化させ、歌詞を読みながら曲を聴けるという今までにない音楽体験を提供することに成功した。その仕組みとしては、楽曲を再生すると、データベースから歌詞を抽出。楽曲の雰囲気を解析して、文字をモーショングラフィック化。歌詞を彩るグラフィックが曲に合わせてディスプレイに表示されるという、ミュージシャンの綴った言葉とリッチに向き合うことができるオリジナルのプロダクトだ。2016年度グッドデザイン賞で「グッドデザイン・ベスト100」にも選出された、このリリックスピーカーを発案した株式会社SIXのクリエイティブディレクター斉藤迅さんに、まずは歌詞に対する思いを、そしてどのようにプロダクト化したのかをうかがった。

歌詞は、作詞者が人生で思った“密度の濃い言葉”

-斉藤さんは単著「一瞬でやる気を引き出す38のスイッチソング」を上梓されるほど歌詞に興味を持たれていますが、それはなぜでしょうか?

斉藤迅さん(以下、斉藤):音楽を聴くとやる気や元気が出たり、いろいろな力が得られると思います。その力がどこから来ているのかを考えると、それは歌詞からかなと。歌詞は約3分の短い時間に、作詞者が人生で思った言葉が凝縮されていて、その“密度の濃い言葉”に触発されるものがあって。そこが歌詞に興味を持っているところです。

作詞者の伝えたい言葉にメロディが付いた、ということは音楽の原点のひとつであると思うんです。ただ、それを楽しみきれてないなと思って。そこで歌詞カードを広げたりいろいろ試して、「この曲はこういうことを歌ってるんだ」という曲の面白さ再認識しました。昔好きだった曲でも改めて聞いてみると、当時はわからなかった歌詞の内容が理解できて面白さを発見したり。

斉藤迅(SIX Inc.)

斉藤迅(SIX Inc.)
音楽的なバックグラウンドを軸に、広告、ブランディング、商品開発などを手がけるクリエイティブディレクター。2010年、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルにてダイレクト部門金賞、2011年、アジア太平洋広告祭にてINNOVA部門グランプリ受賞。

音楽の魅力を再発見したりより深く味わうことに、歌詞は意外と触られていない切り口だと改めて気づきました。その切り口をもっと広げていく方法を考えて、曲の雰囲気に合わせて歌詞が現れてくるというものが思い浮かんで、これなら音楽の魅力がより楽しめるんじゃないかと。例えば、ひとつのmp3のデータでもそこから楽しめる体験が広げられます。

-音楽データでは歌詞カードが付いていないので、歌詞を“文字”として読むことは難しい。そういう意味では、リリックスピーカーは曲を再解釈させるツールと考えることもできますよね

斉藤:僕らがプロトタイプをつくっていて思ったことは、「歌詞と共に楽しむ音楽」と「雰囲気を楽しむ音楽」では、楽しみ方の質がけっこう違うこと。「歌詞と共に楽しむ音楽」は、ミュージシャンのメッセージを知って、文学的や芸術的な側面に触れられる。「雰囲気を楽しむ音楽」は、聴いている空間を楽しんだり踊ったり。

その意味性に着目して、歌詞には聞き手の心に対して言葉が化学反応を起こすという内面的な音楽の楽しみ方があると思って。歌詞の言葉、その雰囲気をデザインしたものを楽しむことは、いまのデジタルの時代ならではの音楽や歌詞の楽しみ方になると思います。

歌詞の“文字”の中にその曲ならでは雰囲気を表現できたら

-リリックスピーカーの開発中を含めて、いままでにすごくグッときた歌詞はありますか?

斉藤:そうですね、ひとつは尾崎豊。昔よく聴いていましたが、改めて歌詞をじっくりと読みながら聴くと、尾崎豊の姿勢などいろいろなものがより鮮明に伝わってきて感慨深いなと。あと、注意して聴いたときに言葉遣いがすごく詩的というか、文学的な点に改めて惹かれました。

それと英語ではカニエ・ウエスト。自分自身へのプライドというか意地というか、そのパワーが言葉にも滲み出ていて。元気が出ないときに聴くとカニエに影響されますよね(笑)。カニエの曲は意味を追わずに聴くと、そのサウンドは「かっこいいな、お洒落だな」という印象ですが、歌詞の内容に着目すると、ある意味ドロ臭いくらいの熱量を感じられておもしろいですね。

-カニエの名前が出てくるのは意外でした。プライベートでもオールディーズのバンド「JINTANA&EMERALDS」のリーダーとして音楽活動をされていますよね?

斉藤:はい(笑)。自分のバンドは、オールディーズを現代風にアレンジしてます。オールディーズの時代の歌詞は、いまからすると驚くほどシンプルな歌詞なんです。「ここにいて欲しい」とか「教会で泣きました」といった、シンプルな人間らしい感情の歌詞はすごくいいなと思ってオールディーズにハマったんです。

やはり音楽の原点は「シンプルに感動すること」だと思います。感動するときは、結局伝えたいことや言葉を通じて歌手の思いに感動していると思うんです。リリックスピーカーには、そういう感動を発信したい気持ちがあって、音楽の原点に立ち返る意味合いもあります。

斉藤さんがリーダーを務める、JINTANA&EMERALDSのファーストアルバム『Destiny』のアナログ盤(編集部私物)

斉藤さんがリーダーを務める、JINTANA&EMERALDSのファーストアルバム『Destiny』のアナログ盤(編集部私物)

-インディペンデントで音楽の活動で触発された部分は、製品の開発に影響はありましたか?

斉藤:それはありますね。他のアーティストの作詞している状況を見ているので。「これだけ歌詞は濃縮して書いているんだな」というのを見た自分自身の体験があります。

-音楽活動で知り合った、身近なミュージシャンが書いた歌詞にグッときたりすることも?

斉藤:もちろん、あります。その人だからこそこういう言葉を選んで書いてるんだなという、言葉遣いの重みも面白いですね。私小説のような本人の背景込みで言葉が生きてる部分もあって。僕の周りだと一番好きな歌手は藤井洋平なんですけれど、わかります?

-彼はソウルシンガーとして、ここ数年精力的に活動していて、歌詞が独特ですよね。

斉藤:藤井洋平の歌詞はめちゃくちゃ面白いですよね。彼のアルバム『Banana Games』(2013年発表)はすべていい歌詞で、(同アルバム収録の)『ママのおっぱいちゅーちゅーすって、パパのスネをかじっていたい』という曲では、めちゃめちゃソウルフルに歌い上げてます。あの素晴らしさは、これからもっともっと評価されるのだろうなと思います。まさに天才ですよね。

斉藤迅 (クリエイティブディレクター)

でも、歌声からだけでは歌詞の内容がハッキリ伝わってこないこともあります。音楽が流れる濃密な時間と、ただ単に歌詞の“文字”を読んでいる無機質さとの差がありすぎるので伝わりづらいと感じます。なので、歌詞の“文字”に、その曲ならではの雰囲気を表現できたら、もっと音楽に没頭できるではと思いつきました。リリックスピーカーは、これまでにないほど、音楽の歌詞の部分を楽しませるものを目指しています。

インタビューは全3回連載です。次回の更新は、2017年1月6日を予定しております。

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