MITメディアラボで本格始動!! スプツニ子!インタビュー

スプツニ子!アーティスト。1985年東京生まれ、ボストン在住。マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教。インペリアル・カレッジ・ロンドン(ロンドン大学)数学科および情報工学科を卒業後、英国王立芸術学院(RCA)デザイン・インタラクションズ専攻修士課程を修了。在学中より、テクノロジーによって変化していく人間の在り方や社会を反映させた映像、音楽、デバイス、写真、パフォーマンス作品を制作。主な展覧会に「東京 アートミーティング うさぎスマッシュ」(東京都現代美術館、2013)、「Talk to Me」(ニューヨーク近代美術館(MoMA)、2011)など

 

“理系女子アーティスト”という従来おなじみの形容詞を超え、新ステージに進みつつあるスプツニ子!氏。作品の制作、発表活動に加え、2013年はマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの助教就任というニュースで人々を驚かせ、有名ファッション誌が読者をインスパイアした女性たちに贈る 「VOGUE JAPAN Women of the Year」も受賞、さらに初の著書「はみだす力」も上梓した。

今年は、メディアラボでの活動がいよいよ本格始動予定。そこで東京~ボストン間のSkypeインタビューを行い、現地の様子と今後の展望、また自らの推進力などについて聞いてみた。

東京からボストンへ

――こんにちは。ボストンでの暮らしはいかがですか?

11月に引っ越したのですが、年末はいったん帰国して過ごし、年明けから改めてボストンに来ました。だから研究室通いはまだ始まったばかりという感じです。今は、この秋から生徒を迎える自分の研究室「デザイン・フィクションズ・グループ」の立ち上げ準備をしているところです。

 

――具体的にはどんな人々との、どんな活動になるのでしょう?

まず、メディアラボには20数名の教員がいて、各教授陣の研究室の集合体でラボが形成されています。それぞれ独自の研究領域の“王国”みたいなものですかね(笑)。私はいま、この秋に始まる自分の研究室の活動に向け、応募者の中から生徒を選ぶチームづくりの段階です。といっても最初はかなり少人数からと考えていますが、嬉しいことにかなり応募も多く、審査に苦労してます。国籍も欧米やアジアなど多彩で、面白そうな人も多いですよ。一方で、この研究グループのビジョンを明確にして秋から学生たちを導けるように、日々それを考え続けています。

 

――東京とは街そのものや文化の違いもあるでしょうし、一日の過ごし方も変わりましたか?

そうですね。ボストンでは一人で考えたり、じっくり本を読む時間が増えています。ボストンの街は東京に比べると静かで「たまには東京で友だちとウェイウェイ賑やかに遊びたいな」「やっぱり日本食は最高だな~」とか思うとちょっと寂しくもなります(笑)。でも「自分はこれから何をしたいのか」と熟考するのには、とても適した環境だと思っています。

 

「デザイン・フィクションズ」が目指すもの

スプツニ子!「ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩」
dir: 池田一真|prod co: P.I.C.S.|ca: 近藤哲也|cast: 遠藤新菜、スプツニ子!

 

――現段階では、デザイン・フィクションズでどんな活動を考えていますか?

もともと私が関心を寄せてきたクリティカル・デザインの思想や、自分で提唱してみた「ドラディカル・デザイン」の延長線上の活動になると思います。デザインって、機能性や見た目の美しさで語られることが多いけれど、それとも違って「こんな未来、あんな未来はどうですか?」と提案して議論を起こすようなデザインですね。

 

――それにふれた者に何かを考えさせるデザイン、でしょうか。スプ子さんの「ドラディカル・デザイン」も、実はそうした考え方が日本の「ドラえもん」で早くから示されていた、というユニークな発想からの造語ですね。たしか就任前にもこのテーマで、MITメディアラボでのレクチャーをしたことがあるとか。

はい。中には素敵な未来ばかりではなく、ちょっと不穏なものもあっていい。そこから議論が始まって、人々の常識やモラル、価値観をゆさぶりながら「もしかしてこういうふうに考えることもできる?」という気付きを与えられたらいいですね。それらは、最終的にはどこかで、よりよい未来づくりにもつながり得るのではという考え方です。

 

――それはアーティスト・スプツニ子!の創作を貫く思想でもありますね。渡米前に「うさぎスマッシュ展 世界に触れる方法」(東京都現代美術館)で発表された最新作「ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩」もそう。オタクっぽい理系女子が、月面にハイヒールの靴跡を残すべく特殊な月面探査車をこっそり自作する物語のインスタレーションでした。NASAの協力を得つつ、いまだ女性にとっては月が“未踏”である事実や、メイカームーブメントの可能性なども連想させます。

ありがとうございます!

 

――傾向や思想は違えど、他の人々の活動にも「デザイン・フィクションズ」的視点から興味を引くものはありますか?

たとえば私の母校、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)の後輩にあたる長谷川愛さんは、女性が人間以外の絶滅危惧種との間の子どもを宿したら、ということを考察したりしています。女性が自分の子どもを生みたいという願望ってある時期に強くなるとも言われますが、もし彼女が「人間の子どもは生みたくない」という気持ちをもっていたならどうか、という。たとえば、今の人間界はあまり平和な世の中じゃない、生きづらいからなど理由もいろいろ考えられますね。そういうとき、たとえばある種のサメは人間と胎盤が似ていたりもするそうで、まったくの絵空事だと撥ね付けられるものでもないんじゃないか、という。

 

――なるほど・・・たしかに、なかなかキツめの“ゆさぶり”です。

子どもに関連した例でいうと、また全然違うのですが、MITのご近所であるハーバード大には、現代女性がネアンデルタール人の子供を妊娠、出産することも可能だと言っている、George Church(ジョージ・チャーチ)という教授がいたりします。これはもうデザイン・フィクションズの領域を超えていると思うのですが、すでに発掘されて いるネアンデルタール人の骨から遺伝子コードを分析し、DNAを復元させることができるというんです。

 

――そこまで実践主義だと、かなりキテますね。

もちろんこの場合、仮に科学的には実現可能だとしても、現実には法律やモラルの問題もあるのだけど。ただ、それこそSFみたいな奇抜な発想も、あながちただのおとぎ話に収まらない、という領域があるのは興味深いです。だから私が考えるデザイン・フィクションズの研究はその名の通りフィクション上だけれど、そこから現実世界にとっても有益な、新しい議論や視点が生まれることを期待しています。

 

――メディアラボではご自分の生徒たちと一緒に、作品制作と研究をリンクさせていく感じ?

そうですね。他の研究室とも、必要に応じてアイデアや知識を交換しながら活動できたらいいなと思っています。

 

――伊藤穰一所長や、タンジブルユーザインタフェース(無形の情報にも直接触れることができるような、実体感のあるインタフェース)の研究で知られる石井裕教授など、先輩教授陣とも交流は始まっていますか? 異能集団というイメージもありますが、スプ子さん自身がかなり異例の抜擢なのかなとも思っています。

教授同士でのミーティングもよくやっています。互いの領域に留まらずこういう実験したいねとか、今後どんな学生や教師を迎え入れたいかなど。私の存在については・・・やはり異色というのは自認してます(苦笑)。ラボでは学生たちもエンジニアリングのスキルがとても高く、歩いているとそこら中に数式が書いてある。ただ母校のRCAとも共通する点もあって、それはめちゃくちゃ自由なオープンさ。逆に言えば誰もが自立していて当然というか。私も採用以降「OK、じゃ、がんばって研究初めてね!」という感じで、ほぼノータッチなんですよ(苦笑)。

 

――たしかメディアラボを取材した際に、創設者のニコラス・ネグロポンテ氏に「助教の募集があるから受けてみたら?」と勧めてもらったんですよね。

そうなんです。それで応募して、面接してという。

 

ボストンでは読書や熟考のための時間も増えたとのこと。オススメしてもらった1冊が、Anthony Dunne(アンソニー・ダン)とFiona Raby(フィオナ・ラビー)による著書「Speculative Everything: Design, Fiction, and Social Dreaming」だ。

 

――面接準備も結構がっちりして臨んだのですか?

メディアラボは学びの場として憧れの存在でしたが、助教のチャンスが巡ってくるとは思いませんでした。それで、面接のときも下手にMITの歴史などを調べるのは思い切ってやめにしたんです。本やGoogleで調べてわかるような情報から考えても、私がやりたいことも、逆に彼らが私に期待していることも生まれないだろうと思って。「自分はいったいここで何ができるのかな?」とひたすら家に寝転がったりしながら考えて(苦笑)、ぎりぎりまで構想を練って、一気にデザイン・フィクションズについてのプレゼン資料を作って臨みました。

 

――豪気ですね(笑)。

石井先生には「それにしても、もう少しは調べてきなさい」とたしなめられました(苦笑)。それで反省して一応、その勉強もしてます。

 

“異端児”の道が、悩みの克服過程にも

 

初の著書となった「はみだす力」。宝島社刊|1,365円

 

――スプ子さんの経歴は、優秀だけどちょっと変わり者の数学少女として東京で育ち、高校卒業を待たずに渡英して名門インペリアル・カレッジ・ロンドンで数学と情報工学を勉強、さらに一転して美大の大学院にあたるRCAに進学というユニークなものですね。そこからアーティストとして急速に注目を集めた後に、今度はメディアラボの研究者。端から見ると、思い切った決断が多い方だなと思います。

ただ、私の中ではどれも重要なんです。もともと理系出身ですが、ロンドンでアートやデザインの世界を知ったことで、その表現者となりたいと思い、それらがテクノロジーがもたらす影響の作品化にもつながりました。そして、東京に戻ってきてからは、より現実世界とつながった表現の実践ができたと思う。そこを通過して今、メディアラボなんです。仮にRCAからそのままメディアラボにという進路だったら、私は机上の考えに寄り過ぎたままだったかもしれません。

 

――そのあたりの経緯は、初の著書「はみだす力」にも詳しく綴られていますね。意外なのは、その時々で常にコンプレックスや悩みも多かったということです。近年の活躍ぶりからは、余計にそうしたギャップが不思議だったり。

でも本当にそうなんですよ。インターナショナルスクールでは浮いていたし、RCAに進んだときも、絵もろくに描けないので最初は劣等生でしたし、今のような作風の端緒を見つけた当時も、最初は全然注目してもらえなかった。本の執筆にあたって自分が数年前に書いていたmixi日記も読み直したんですけど、「うわ、悩んでるな~」って(苦笑)。

 

――何か、敢えて困難そうな場に自分を放り込んでいる気すらします(苦笑)。

選んできた道が、いつも自分の殻を破るセラピーみたいなものでもあるのかなって。もともと人前で話すことも苦手なんですけど、「アーティストとして面白いことを考えられたとしても、自信を持って話せないんじゃ意味がない」と思って必死に頑張ったり(苦笑)。昔からそういうことの連続で、未だにそれはありますから。

 

――ちなみに今の活躍の原点というか、学生時代やアーティストとしての駆け出し時期にこういうことをやっておいたのはよかったと思うことはありますか?

大学の夏休みで帰国していた間、日本の広告制作会社にインターンに行ったりしていました。特に募集はしてなかったんですが、ここが一番面白そう、というのを自分で決めて突撃する感じで(苦笑)。なぜ募集してないところにわざわざ行くの? と思われそうですが、行ってみなければわからないし、逆に募集してないならライバルはいないから有利だと思うんですよね。実際、面白いやつだって採用してもらえて、仕事的にも後のつながりの面でも、貴重な体験をさせてもらったんです。だから自分の殻もそうですけど、世間の決まった型にもとらわれない方がいいという思いはずっとあります。

 

“型を破るためにも型を学ぶ”の精神

MITメディアラボ前にて。

 

――前述書には「型を知らないと、型破りになれない」「型を知れば、自分の知らない方向にもっと成長できるかも」との言葉も出てきました。RCAでの経験などはその典型かと思いますが、それはメディアラボでの経験についても言えそうですか?

そうですね。これだけ恵まれた環境のチャンスをもらえたのだから、メディアラボの他の研究者たちの思想や、思考・実践のプロセスをできるだけ学びたいと思っています。RCAではそれがアートやデザインの型だったのが、今度は教育者とか思想家など、ある種のムーブメントを生み出すような型なのかもしれません。もちろん私は今後もアーティストであり続けると思いますし、逆にメディアラボが私を採用してくれたのも、彼らも今までにない新しい血を入れたい、という意思表示ともとれる。お互い良い変化のきっかけを与え合えるなら理想だなと考えています。

 

――変化といえば前述の「ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩」では、主人公の理系女子をこれまでならご本人が演じそうなところ、違う女性が担っていましたね。スプ子さんは彼女が憧れるスーパーヒロイン「ルナガール」として日本刀を振り回してましたが(笑)、そこも興味深かったです。分身的なオタク風理系女子の役割ではなく、その憧れの対象も演じられる心境なのかなとか、色々連想が。

どうなんでしょう(笑)。あれは私もどうなるかわからず試してみたんですけど、結果はよかったかなと思います。自分の作品世界にこれまでと違う広がりみたいなものも欲しいですし、確かに私自身も色々変化しているのかもしれません。

 

――そういう意味では、型破りな印象のあるスプ子さんも、ご自身はむしろ自然体で我が道を進んでいる? 著書の「はみだす力」のあとがきに「女性向け自己啓発本に以前から淡い興味と憧れを抱いていた」「ぜひ、書店さんには「はみだす力」をミスコンやカリスマ読者モデルの女子力本と並べて置いてほしい」とありましたが、あれもご自身一流の照れというか、ブラックジョークですよね、たぶん。

実はあれがそのままストレートに受け取られて「スプ子さん大丈夫?」的に思われている節もあり、困ってます(苦笑)。伝えることって難しいなと改めて思いますね。もちろん、違う形で読者にとって何かのヒントになれば嬉しいとは思うんですけど。

 

――ではこの記事が、誤解を解く一助になればと(笑)。ちなみに僕があの本で好きだったのは、RCA時代の悩めるスプ子さんに、イギリス人教授がそっと「不良姐御伝 猪の鹿お蝶」のDVDを「コレ見てみ?」って渡してくれたエピソードと、スプ子さんが音楽的にはあふりらんぽの影響を受けていたというくだりです。ともあれ、ボストンの新環境からどんな作品・研究が生まれるのか楽しみにしています!

ありがとうございます。まだまだスーパー未熟なので、“たまごっち”みたいな育成系MIT助教、って感じで暖かく見守ってください(笑)。

 

取材・文:内田伸一white-screen.jp

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