演出家って何だろう?CMディレクター、舞台演出家、スタートアップビジネスと多様な顔をもつ芳賀薫氏インタビュー!

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芳賀薫:映像ディレクター。武蔵野美術大学映像学科卒業。PYRAMID FILMを経て2004年よりフリーランスとなり、THE DIRECTORS GUILDを立ち上げる。代表作にはCM作品JR SKISKI(2014-2015、2015-2016)、RECRUIT TOWN WORK(2014-2015)、TBS ドラマ「階段のうた」、舞台作品「Hotel New Otsuka」他。取材場所は原宿のカフェOnJapan。訪日外国人の拠点になるような場所づくりを目指したOnJapanでは書のワークショップなど様々なイベントが行われている。

CMディレクターとして数々の記憶に残る映像を演出してきた芳賀薫氏。今年に入ってからは舞台演出にも初挑戦。芳賀氏の活動はフリーランスのディレクター集団THE DIRECTORS GUILDの起ち上げや、学生とのスタートアップにも及び、のびのびとその領域を拡張していく。そんな芳賀氏の活動の根底にあったのはあるキーワード!多様な顔を持つ芳賀氏のクリエイティブ・スタイルを紹介しよう。

■ フェアな世の中を作りたい!ディレクター集団THE DIRECTORS GUILDを起ち上げたきっかけはある友人の一言

「キリン澄みきりCMシリーズ」」

dir: 芳賀薫 伝えたいメッセージは”喉越しのよさ”。コピーは”潔よし”でサムライが登場する。というお題の企画を代理店から受けた芳賀氏は、“サムライが説教をする”という演出で仕上げた。「澄みきりは第三のビールカテゴリーで、こういうビールは家で1人で飲む事が多い。そんなとき、疲れた、とかネガティブな思いも行き交いますよね。“大丈夫だよ、がんばれよ”って月並みなことではなく、サムライが上から目線で辛辣な説教でぶった切って、ネガティブを完全否定する演出に捉え直しました」(芳賀氏)。

――「CMディレクターになるぞ!」と目覚めた原体験って何だったんでしょう?

僕は学生時代スケボーばっかりやっていたから、スケボービデオを撮りたくて武蔵野美術大学の映像学科に進学しました。学生時代はビデオインスタレーションやアート系映像にのめり込んでいて、CMディレクターっていうのを意識したのは、就職活動中。好きでやっていたビデオアートはやればやるほど「これは仕事にならんぞ」っていうのが分かったから。それで、広告、映画、テレビに進んだそれぞれのOBに話しを聞いて回ったんです。1番面白いって思ったのが広告で、CMディレクターの道に方向を定めたんです。作品がかっこいいな〜って思っていた、操上和美さんが起ち上げた、制作会社ピラミッドフィルムに就職しました。

――ピラミッドフィルムに就職されて、どういうディレクター時代を過ごしたんですか?その後、フリーランスのディレクター集団THE DIRECTORS GUILDを立ち上げるきっかけとなるエピソードがあれば教えてください。

衝撃的な事が就職して間もなくしてあったんです。同級生が代理店に就職していたんですが、彼と打ち合せで、卒業後はじめての再会の場面で「お茶とお菓子を買ってこい」って言われた(笑)。「あ、社会ってこういうことなんだ。日本の社会ってお金の流れに沿って縦に強烈に繋がっているんだ」って。クリエイター仲間だなんて、美大の延長上に考えていたけど現実は違うってわかった瞬間、会社を出てフリーランスのディレクターになるぞって決心しました。

なので「超カッコイイCMを作る!日本で1番のディレクターになる」って、1本1本勝負だと思って作っていました。当時アメリカではスパイク・ジョーンズとか出てきて、新しい感覚の映像が凄く盛り上がっていた。彼らはMVで頭角を現して、面白いCMを一杯作って、映画に進出して、凄いスピードでステップを駆け上がっていた。会社の型の中にいたら、彼らのように、自分の作りたい映像に素直でいられない。早く独立して自分のブランドを確立しなくちゃって。

――2004年にフリーランスになってTHE DIRECTORS GUILDを起ち上げられました。

THE DIRECTORS GUILD(以下ギルド)はフリーランスのディレクターの集団の会社なんですが、お金の交渉だったり、マネージメントを共有して、演出に集中できる環境を、5人の創設メンバーと起ち上げました。僕が憧れていたのはバウハウス。バウハウスっていうのは職人の集団なんだけど、“アートと現場のモノづくりはセットである”っていう思想のもと、プロたちの下には卵である若者が沢山いて、いろんなスキルを学びながら自分の特性にあった道を進んでいくという仕組みなんです。
そういう場作りから、フェアな社会を再構築したかったんです。そうやって声高らかに叫べば、縦の社会的構造は変えられると信じていた若者でした(笑)。日本の映像、映画業界にかかわらず、日本という社会が抱えている構造的問題があるかぎり、才能がフェアに評価されることはない。クリエイターだって、その仕組みの中で勝った人だけ有名になって活躍しているのが現実で、評価の8割はコミュニケーションとマネージメント能力だと思っています。今年でギルドは12年目になるんですが、おじさんになってきて、その構造は簡単に崩せるものじゃないってわかってきたけど、クリエイティブにおいては絶対に間違っていると思うんです。

――そのクリエイターの卵が属するのが、The Directors Farm(以下:ファーム)という下部組織ですね。

今は4名が在籍していて、随時受け付けています。ファームを作った理由は、ひとつに幅広くいろんな人間がいる方がいいから。もうひとつは、ギルドの創設メンバーはみんなよく喋れるディレクターで、企画を説明できるスキルをもっていた。でも、いい映像をつくれるんだけど、上手く説明できないっていう人もいるんですね。そういう人達でも活躍できる場も必要だと思ったから。“ファーム”には“牧場”って意味と、野球などの“二軍”って意味を掛けていて、二軍だけどプロ。
プロだから自分の食い扶持を稼げないと辞めるしかない。ギルドメンバーの繋がりを活用して、制作の手伝いするとか、メイキング撮るとか、自分の得意なもので仕事をとってディレクターへの仕事に繋げていけばいい。出発としての最低限の環境はあるから後は自分でのし上がってこいと。授業料払って広告学校なるものにいくより断然いいと思ってます。

■ CMディレクターとして映像演出:キーワードは“ストーリー”。10年越しで見えてきた作風。

KAGOME 「野菜生活100」

dir: 芳賀薫
リアリティのある空気感が印象的な野菜生活のCMシリーズ。“からだに届く、おもいやり”というコピーの通り、あえて言葉に出して言わない思いやりがじんわりと伝わってくる。

――エステーの脱臭炭CMシリーズ、平井堅 MV 「POP STAR」など、シュールなものからポップなものまで多岐にわたる表現方法で、記憶に残るCMやMVを手がけられてきました。芳賀さんの中で想い出の深い作品ってありますか?

ここ最近、やっと作風らしきものが固まってきた(笑)。台詞のあるお話ものが好きだってことに気づいたんです。 若いときは、かっこいいクルマCMやオシャレな映像を嬉々としてやっていたけど、ふと、2度見て楽しめるか?って自問したときに、全然楽しくないなって(笑)。

僕は撮影に挑む際、人に比べて事前準備をすごくするんです。色んなシチュエーションを想定してシミュレーションする。運動会だったら、もう運動会やんなくていいじゃんってくらい。すると、オシャレを求められる映像は、そのシミュレーションから5%か10%しか伸びしろがなくて、現場でそこまでワクワクしないんですね。それが、演者がいる場合は、その人が生で何かを感じて動いていくわけですよね。僕は“笑う”と伝わると思っていたけど、演技をみて“そっけなく”台詞を言う方が伝わるよね、っていうようなセッションが生まれるんです。それはどんなに準備していても、現場に入らないとわからないことで、そういう仕事が僕は好きなんだなって。そのキッカケとなったのが「野菜生活」のCMシリーズでした。

――芦田愛菜ちゃんをはじめ魅力的なキャスティングですね。

お話にあう役者さんを選んで自分たちで直接交渉にいったんです。今売れているから、とか言った理由でなくて、ストーリーにあった役者さんをキャスティングして演技を撮るのは面白かった。現場では役者さんには基本自由にやってもらい、細かい感情を補足して、それを解釈して違う演技をみせてもらうということをやってました。 よく、演技を演出をする、と言いますが、「左向いてニコっとしてください」っていうのは演出じゃなくて、ただの振付。
演出というのは、例えば、この人はコレに興味があって、なぜ興味があるのか、興味あるときに人はこういう事をするかもしれないですよね、っていうような話しをしていくのが演出なんですね。商品カットにしても「広告だから、商品はこう撮らなくちゃ」って定石はあるんですが、そういうライティングやアングルをこれは一切やっていません。“やらないことの効果”っていうのが本当にみえたシリーズでした。

■ 迷子にならないための“思考の樹形図”とは?

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――現場で起こることにある程度委ねる場合、例えばいい演技が2バージョン生まれて、迷いが生じたときどう判断していくのですか?

これはファームのメンバーにも教えている事なんですが、プロセスにおける思考を、頭のなかに樹形図として残しておくようにいってるんです。「ここでこれを考えた、そして結果この選択肢からこれを選択した」という風に。現場も同じで、その樹形図があれば迷子になることはほぼないです。みんな上手くいった場合のシミュレーションだけで香盤を組みがちなんだけど、あらゆるシミュレーションをしておくと、現場でその瞬間に判断できるんです。想定した上で余白を残しておく。だから僕に取ってシミュレーションは大事なプロセスなんですね。

■ CM演出とは全く違う。舞台演出は異次元ワールドだった!

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4Dプロジェクト「ホテルニューオーツカ」

2016年02月に萬劇場にて公演。脚本・演出:芳賀薫、田中祐介、寺尾学ぶ、金川慎一郎。 あらすじ:扉の向こうは、ほぼ異常。豊島区大塚。駅徒歩4分。煤けたホテル。西向きの部屋。4組の客。物騒な会話。混み合った事情。愛情と孤独。過ぎ行く時間。乱れるシーツ。交差する思惑。4人の監督。4つの結末。描くは絶望?それとも希望?

――今年の2月には舞台演出に挑戦されました。4Dプロジェクト「ホテルニューオーツカ」です。連日大盛況のうちに幕を降ろしましたね。CMでストーリーを撮ることに興味がわいてきたということでしたが、まさしく生ものである舞台演出はいかがでしたか?

友人の寺尾(学ぶ)の舞台を観に行っ時、ひょんなキッカケで舞台をやることになったんですが、寺尾が選んだ4名のディレクターが紡ぐオムニバス形式の舞台です。僕自身、長いお話を作りたいっていう想いが溜まっていたから、いいチャンスだって割と軽い気持ちで受けたんです。そしたらCMとは全然違った(笑)!面白さも全然違った!やっぱり自分の頭の中は映像なんだってことを思い知りましたね。

要するに舞台の上に演者が3名いて、Aさんが台詞を言ってるとき、僕の頭の中は、Aさんにクロースアップして勝手にフレーミングをしちゃってるんです。フレームの外の人はその時間存在していない世界なわけで、でも、舞台ってずっとヒキだから、台詞を喋っていない人もそこにはいるわけで、お客さんは興味ある役者をずって追っているかもしれない。映像のように “今この人に注目!”っていうのが出来ない。台詞を言っていない役者さんに「今何をしていればいいですか?」って聞かれるし「水でも飲んでください」っていうと「なんで水を飲むんですか?」ってまた聞かれる。「喉が渇いたからじゃなないですかね」っていうと「なんで渇くんですかね」って言われるわけですよ。
舞台にあがっている演者全員を魅力的につくらなくちゃいけないんです。主人公の台詞だけをグリグリ考えてたらどんどん陳腐になっていく。群像劇って、こっちで話している人も入ればあっちで何かをやっている人もいて、その中で、Aさんが魅力的に見えるってことをしなくちゃいけないって勉強させていただきました。

――芳賀さんのエピソード「パンダの密輸」の脚本で目指したものを教えてください。

ハートウォーミングで面白いものにしたいなって。ホテルの部屋を舞台に4つのストーリーが順番に展開して、ラストが僕。だから、なんとなくまとめる感じありつつ、強いメッセージも伝えたい。なによりお客さんが楽しかったって思えて、帰り道が笑顔になるようなイメージをしていました。

生きるっていう事が少しよいものに感じられるようなストーリー、ホテルの部屋を使って密輸してるっていうアイデアが合体してカタチを作っていった。ビジュアル的にも(密輸の)デカい箱が部屋の真ん中にボンってあるっていうのが異様で面白い。しかも密輸品はパンダ(笑)。それを取り巻くカップルのストーリーなんです。

――本番までの準備はいかがでしたか?

脚本も好評で「出来た、大丈夫だ」って大船に乗った気で稽古をしてみたら、全然面白くなかったんです。説教臭いし、台詞ばっかりで動きはないしで、つまんない(笑)。さあ、どうしようかと。そこで、もういちど2人が置かれたリアリティを考え、そこではじめてわき上がる気持ちを台詞に書き直しました。稽古期間は一ヶ月半あったんですが、CMの仕事を全部断ってずっと掛りっきりでした。舞台をなめていましたね。

幕が開けてからも毎日付きっきり。パンダ役を日替わりゲスト枠にしちゃっていたので更に大変だった(笑)。ゲストのパンダの動きにあわせてカップルは間合いも毎回変えなくちゃいけない、ストレスだったと思います。舞台演出っていうのは指揮者みたいなものでリズムを整えていくのが仕事だと感じました。それは映像とは全く違う種類の映像演出ですよね。

――またやってみたいですか?

次はもっと上手くやれると思う(笑)。自分でコントロール仕切れない“生”が最大限なのが舞台で、本番がはじまったら僕は手放して、演じている人がゴールに導く。監督といっても外から応援しているフィギュアスケートのコーチのようなものですよね。ちょっとした空気感のズレで笑いの起こる場面で起こらなかったり、舞台って恐ろしいな~って。

■ CMと舞台だけじゃなかった!キーワード“ストーリー”から発展するライフハック

「TOMODACHI GUIDE」

dir: 芳賀薫

――今後のビジョンを教えてください。

CMディレクターだけにこだわらず、映画もやりたいし、舞台もまたやりたい。自分の真ん中に来ているキーワード“ストーリー”で、人の心を動かせる、未来や過去という時間も含めたストーリーテリングを作るのが目標です。 僕は鎌倉に住んでいるんですが、学生が主体になった訪日外国人のガイドの会社「Huber.」の起ち上げもやっているんです。定番の年期のはいったガイドさんによる真面目なツアーじゃなくて、友達のようなガイドを提供するのがコンセプト。
経験上、海外仕事で、コーディネーターの若者が面白いとロケが楽しくなるんですね。そんな新しいガイドサービスのスタートアップなんです。いきなり、別の世界って思うかもしれないけど、僕にとってこれもひとつの“ストーリー”のカタチなんです。 旅の想い出って「何を見て何を買う」じゃなくて「誰と何をしたか」だと思うんです。日本の文化って“モノ”だけじゃなく、「食べ物を残さない」といった無形のものだってそう。そういう事を伝えられるガイドサービスです。

――“失敗”というワードが出てきたので最後にもうひとつ質問です。クリエイターとして“失敗”とどう向き合っていますか?

失敗っていうのは自分の取った選択肢と取らなかった選択肢の比較。僕の場合、徹底的なシミュレーションと樹形図のおかげでどこで間違ったかすぐ分かる。で、その瞬間に、楽天家の僕は「じゃ、次はこうしよう」ってポジティブに考えます。樹形図を辿り原因を探っても見えない時は、ほっとくかな(笑)。その実験は次回に持ち越しですよね。今回はその選択を受け止めて、なんとか頑張るしかないってことですね。

自分っていうものと、自分がやった事柄を混ぜて考えないんです。例えば作ったCMが”お蔵いりになった”なんてことになると大失敗だし、ディレクターは傷つきます。でも僕は、そこは傷ついたらダメで学ぶ場面だと考えているし、失敗で傷ついたりしない方がいいと思うんです。失敗は事柄なので学べばいいんです。なんて言っていますが、40歳を超えてやっと、ふわっふわっな人間がまとまってきている感じなので、ここから傷つくのかもしれないですけれど(笑)。

 

取材・編集:山本加奈|撮影:永友啓美

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