教えて、振付稼業air:man!振付稼業ってどんなお仕事?きゃりーぱみゅぱみゅからOK Goまで。年間1,000曲を振り付ける振付ユニットに迫る!

杉谷一隆|振付稼業air:man:杉谷一隆と菊口真由美が立ち上げた業界初の振付ユニット。“動くものなら何でも振り付けます”をモットーに、最近ではNEWSコンサートツアー「White」(総合演出・振付)など年間1,000曲以上を振り付ける。木村カエラ「Ring a Ding Dong」、サカナクション「バッハの旋律を夜に聴いたせいです。」、きゃりーぱみゅぱみゅ「PON PON PON」など多数。

 

振付師。英語ではコレオグラファーという。映画館で流れるマナー広告「映画泥棒」、絶賛オンエア中の水曜日のカンパネラの“ヤフオク!”CM、世界の広告賞を総ナメにしたユニクロの“UNIQLOCK”、OK Goのミュージックビデオ(MV)「I Won’t Let You Down」といった数々のエンターテイメント映像の振付から、舞台、コンサートと、一度見たら記憶に焼き付けられてしまうのが、振付稼業air:manによる振付だ。2014年には、DVDも付いたダンスの教科書「振付稼業air:manの踊る教科書」を出版し、活動の幅をさらに広げる。white-screen.jpはスタジオを訪れ、振付稼業air:manについてのイロハを教えてもらった。

 

――実は、毎日のように振付稼業air:man(以下air:man)さんの振付に、映像などを通して触れています。“動くものなら何でも振り付けます”というスローガンのもと活動されていますが、昨年はOK Goの「I Won't Let You Down」の振付もされ、話題になりましたね。

そうなんです!OK Goは前からファンで、冗談半分に「OK Goの振付をしたいんです」って言い続けていたら実現した。あの仕事は本当に刺激になりました。日本って、よく予算だとか技術的に“そのアイデアは出来ない”から始まることが多いけど、彼らはやりたいことがあって、じゃあどう実現するかってところからブレることがない。アイデアっていうのは、こねくり回すんじゃなくて、いかにカタチにしていくのかっていうことに、改めて気づかされた、本当に幸せな時間でしたね。

 

――大人計画の舞台「不倫探偵」の振付もされています。そもそもair:manは、演劇集団としてスタートしていますね。
演劇集団air:manを組んでいました。まだ、解散してないんですよ、やっていないだけ(笑)。その時のメンバーが「映画泥棒」のビデオカメラの人だったり、須藤元気のWORLD ORDERのメンバーだったりしています。当時から、大人計画の人気は半端なく、“すげーなぁ!”っていう憧れの人たちだった。今、ぐるっとひと回りして、振付稼業air:manとして、憧れの人たちの舞台を振付出来るのは、不思議な感覚だけど、嬉しいですね。仕事をやり続けてきて、好きだった人たちと一緒に仕事が出来るっていうのは、なんだかご褒美をもらっているような感じでもあります。

「キレイ―神様と待ち合わせした女―」っていう松尾スズキさんの代表作があって、唯一のミュージカルなんですね。初演は2000年だったんですが、それを振付したい!っていうのは、実を言うとOK Goと同じくらいの目標だったんです。遂に2014年の再々演で実現したんです!

 

――演劇、テレビCM、MV、振付の違いってどんなところでしょう?
例えばCMの場合、今の音楽の平均BMPが130だとして、ベタで踊ると8小節ぐらいがCMの長さ30秒にはまる尺。でも、その30秒の内訳は、タレントさんのアップが入る、商品カットが入る、だから、踊りを見せられるのは実際は数秒、数フレームの世界なんです。「数フレームでキャッチーな振付を!」って言われても「それ、いじめかよ!」って実際思う尺(笑)なんです。その一瞬で、いかに印象に残る振付にするかってことなんですが、これが、やりすぎちゃうと失敗しちゃう。

重要なのは、まずは演出コンテとカット割りをしっかり理解することと、その中で必要とされるダンスの尺が何秒、何フレーム映るのかをちゃんと把握することなんです。その上でCMは、別の考え方をする必要があるんです。ダンスって身体の流れのしなやかさを見せるところが良さだったりするんだけど、その考えは1回置いておいて、カメラで切り取った時、商品、タレントさんの見え方を軸に、それらが映える振付を考えます。

テーマに沿って、アーティストとその曲に合った踊りをはめ込んでいくことを考えられるのがMVですね。MVで気をつけているのが、踊りをどこから切り取られてもいいように、360度どこから見ても絵になるようにイメージして、時にはカメラワークを含めて考えて作ること。MVは、うちらの視野が広がる案件だったりします。対して舞台は、編集というウソがつけないもの。役者はステージにいる間はずっとそこにいる。失敗も含めて伝わってしまう怖さもある。とにかくナマである醍醐味を生かすべく、ステージを見渡すお客さんの視点、つまり引き絵が成立しているかを意識します。お客さんに分かりやすく、分かりにくい演出意図なら、分かりにくいってことを、分かりやすくダイレクトに伝える振付を考えるように努めています。

■「振付稼業air:manの踊る教科書」も出版。教育への関心とは?

「振付稼業air:manの踊る教科書」付録DVD Trailer

 

――昨年はDVD付きの「振付稼業air:manの踊る教科書」を、東京書籍から出版されました。Amazonの書籍の“ステージ・ダンス”カテゴリーで1位を記録と人気ですが、“教科書”を作ろうとしたきっかけは何だったんでしょうか?
平成24年度から中学校の体育の授業においてダンスが必修になったことを受けてなんですが、実は僕ら、子供たちにダンスを教えることにはずっと重きを置いて活動してきたんですね。中村獅童さんのテレビ番組「歴史にドキリ」の振付もやっていて、「歴史にドキリ」はおかげさまで全国の小学校6年生のテレビ授業シェア率50%以上になるという、嬉しいニュースも聞いています。

そうした中、一般的にダンスの教科書的な本は、ポンと開けるといきなりステップが図解で解説されている。まず、分かりづらいですよね。しかも、ステップから入るとダンスが好きな子しか興味が持てないだろうし、嫌いな子はどんどん嫌いになっちゃう。学校の先生も教えづらいだろうなっていう思いがありました。“動き”だからDVD教材があればいいのにって思っていたんですね。だったら、“教科書”って銘打つけれども、エンターテイメントな要素があれば、楽しくダンスにアプローチ出来るんじゃないか?それ1回やってみようって思い立ったわけなんです。

「情熱大陸」の出演がきっかけで、東京書籍さんから「踊る教科書」の執筆と監修のオファーをいただきました。“子供たちと先生たちの距離を近づけるダンスの教材を作ってみたい”という話をしたところ、快諾いただきました。とにかく普通のHOW TO本/DVDにはしたくないので、脚本家、映像監督、出演者も立ててしっかりしたものにしようという僕たちの想いに東京書籍さんも根気よく付き合って下さって・・・足かけ2年半かけて作ったものなんです(笑)。

学校の授業での教材として先生や生徒が使えて、なおかつより多くのダンス初心者、あるいはダンスに抵抗がある人たちが手に取ってくれるようなものを作ることを目標としました。そのたたき案を作るのに、1年かかりましたね。文部科学省の学習指導要領の3つの分野、“現代的なリズムのダンス”、“民踊・フォークダンス”、“創作ダンス”に則って作っているんです。授業で1年かけて学んでいくような構成と章立てで、締めくくりに、それら3分野をミックスして、自分たちの学校の校歌をアレンジし、自分たちのオリジナルのダンスを踊ってみない?という流れになってます。

「振付稼業air:manの踊る教科書」

 

――DVDはダンスの本質が楽しく伝わるし、HOW TOよりもダンスの捉え方、気持ちの面にフォーカスしている映像ですね!特に先生の気持ちを軸に描いているのが面白かったです。
ありがとうございます。ステップの詳細は本とARでフォローしているので、映像は先生と生徒が一緒に見て楽しめるものに振り切っています。

とにかく、先生から1番多かった、“どう教えていいか分からない”という課題へのヒントに繋がることを考えました。いま圧倒的に、ダンス必修で人気といえばヒップホップになってしまうんですね。学習指導要領で言うところの、“現代的なリズムのダンス”。教えるのもハードルが高いですよね。子供側から見てみると、この多感な時期にヒップホップがうまく踊れないと、ダンスを嫌いになってしまう。そんな、先生と生徒に共通して提供出来るものといえば楽しい映像だろうと。だったら、うちらがいつもCMやMVでやってることを、学校教育にドンとぶつけられるんじゃないかと考えたんです。

ダンスってそんなに難しく考えるものじゃなくって、技術向上やカッコ良く踊ることが目的でもなく、あくまでもコミュニケーションツールの1つだよということを、この教科書では言っています。

あらすじは、ダンスが体育の授業において必修化されて、ダンスに抵抗がある新任教師(小林顕作|コンドルズ)が生徒にどう教えたらいいか困っている。するとそこへ、謎の男(杉谷一隆|振付稼業air:man)が現れ、「悩みを解決しましょう」と、さまざまな授業へと誘う。英語や国語といった授業を謎の男とのぞき見しているうちに、彼のダンスへの苦手意識が徐々に解きほぐれていく(撮影現場のメイキング写真より。RIP SLYMEのRYO-Z扮するイングリッシュ・ティーチャーが“リズム”についてノリノリに教えてくれる)

 

未だに振付師っていう職業だけで食ってる人って少ないんですよね。振付師っていう職業をもっと大きくしようという思いもあります。この教材に触れた子供たちが大人になった時、職業としてのアウトプットがダンサーだけじゃなく、“踊る仕事もあるけど、踊らせるっていう仕事もあるんだよ、それを振付っていうんだよ”ってことを、まずは知ってもらいたい。

■振付稼業air:manに聞く。振付師という職業とは?

OK Goのボーカル、ギターDamian Kulash(ダミアン・クーラッシュ)から送られてきたクリスマスプレゼントは、なんとダミアンが15歳ぐらいの時にメンバーからもらったサイン入りのソニックユースのTシャツ!

 

――日本では、振付家職の方が非常に少ないということですが、どういう現状なんですか?
多分、振付だけで食っている人って10人いないんですよ。その中でもラッキィ池田さんクラスはモンスター級ですが、その辺の大先輩は60歳前後の世代です。僕らが40歳前後で、若い20代で振付師で食ってる人ってほとんどいないんです。まだダンサーとして身体も動くし難しい時期ではあるんですが、その世代で“振付師です!”っていうやつが出てきたら、もっと幅が出ると思うんです。いくつかシステム的な問題もあって。振付師って、のれん分けシステムがない。スタイリストさんやヘアメイクさんみたいに、“アシスタントを経て独立します”っていうのが一切ない職業なので、裾野が広がっていかないんですよね。

 

――というと、キャリア15年の30代後半のアシスタントさんがいたとして、先生が現役の間は、振付師になれないということですか?
悲しいかな、多い気がします。もう1つは、振付師として成功している人の多くは、タレント兼振付師で世に出ている。それも1つのカタチなのですが、現状それしかアウトプットがない。振付師って、ほとんどが事務所に所属している現状なんです。素敵で大切なことだと思うのですが、他に形はないものか・・・?と。

 

――air:manさんのように、デザイナーユニットやディクレターズコレクティブのように、振付師のユニットで裏方に徹するスタイルはかなり新しいんですね。それが振付稼業air:man結成のきっかけだったりするんでしょうか?
10数年前に思ったんです。演劇集団air:manとして、ある日イベントをやっている時、振付師のアシスタントをやっていた菊口真由美が遊びに来ていて。で、ベロンベロンに酔っぱらった私に向って真剣に、振付師としてのアツい想いを語り始めるんですよ。

「私は振付師になりたいんだけど、どうしてもなれない。私は振付師のアシスタントっていう職業になりたかったわけじゃない、振付師になりたかったんだ」って。

彼女は高校生の時からセーラー服きて木村拓哉さんのCMに振付していたスーパーアシスタントで、振付師がみんな欲しがっていた逸材だったんです。今もそうですが、人に対する気配りが素晴らしい。うちらの仕事って結局、踊らなくても成立するタレントさんたちに踊らせなくてはいけない。

そういう時、菊口は丁寧かつ明確に、そのCMの全体プランや監督の演出意図を踏まえて、“あなたにこういう踊りしてもらうことによって、このCMのメッセージを初めて伝えることが出来る、これはそのための振付なんだ”っていうのを、相手に伝えることを決して怠らないんです、10代の時から。 そういう子が今、騒がしいクラブで訥々と語っている。“今、この場所で話すことじゃねぇだろっ(笑)”って思いながらも、あぁなるほどなって話を聞いているうちに、「職業として成立してないなら、やりようがあるんじゃないか?振付師でもなくてアシスタントでもなくて、どちらでもあるっていう存在になればいいんじゃん?全員が振付師で全員がアシスタントっていう集団を作って、日本の振付業界で成立するか、1年限定で試してみようか!」って、酔っぱらった勢いで言っちゃったんです(笑)。

 

――そこが運命の分岐点だった(笑)!
菊口が「やります!」って言うから、「よし1年こっきりでやってみるぞ!」って。あれから12年目になります(笑)。彼女との出会いがなければ、今のカタチをとっていなかったでしょうね。

■ユニット体制のプロトコル

振付稼業air:manの杉谷一隆(左)と菊口真由美(右)。

 

――約10年やってきて、振付師のユニットの手応えはいかがでしょう?

現在進行形で日々、更新中です。air:manの1番若いメンバーは14歳の中学生、その上が16歳、19歳、20歳。若い子たちを中心に今広がりをみせているところです。若い子たちは面白いですよ。

air:manでは、徹底的に打ち合せで、振付を言語化します。若い子たちがいるから、最近はその言語化に時間がかかることかかること!世代の違いで共通言語がなくなってきてます。「じゃあここ、MCハマー歩きね!」と言うと、「MCハマーって何ですか?」と戻って来る。知らない世代なんですよね。そこから、新しい共通言語を作っていくわけですね。「ちょっとガニ股、腰を落として、こうやって腕を回しながらウェ~って歩く」、「あ、ウェ~ですね」となると、“ウェ~”っていう共通言語が出来る。「じゃあ、ここはウェ~カニ歩きね」とか「ウェ~テケテケね」とかって、新たな共通言語を作っているんです。

 

――air:manプロトコルを作る、と。
そうそう!振付師ってあくまでも踊らせる仕事なので、「この踊りをマネして踊ってください」と言った瞬間にアウトだと思っています。それでは“ダンサーの方法論”なんです。そこが振付師とダンサーの境目。僕らは絶対それをやりません。見よう見まねではなく、理解してまねすることが大切だと考えています。

徹底的に打ち合せをして共通言語を作った後、今度は動いて、言葉をダンスに落とし込んでいく。動きながら調整を重ね、何パターンか準備して持って行く。現場で、パターンAがダメならパターンBですぐ対応する。そうやって徹底的に打ち合せで価値観やビジョンを共有するので、メンバーが分散して、今のところ1日7現場まで同時に回せる仕組みなんです。

■振付界のフロンティア、air:manがこれから目指すモノ

――新しいカタチを模索し、スタートさせ、10年以上続けて来られたエネルギー源って、なんですか?
単純に、振付っていう仕事がすーごく好きだなって思いますね。全ての段階で、好きなんですよね。監督との打ち合せ、メンバーとの打ち合せ、言語化してって“じゃあ踊ろうか”っていう瞬間、サンプルビデオを撮って監督やクライアントに見てもらう作業、現場でタレントさんに振付する時、どの作業をとっても面白いなっていうのが答えですね。

自分が踊るより踊らせる方が好きなので、振付師になっているんです。ダンスってすごいコミュニケーションツールだなって思うんですよ。

 

――振付界の最前線を開拓しつづけるair:manの、今後のビジョンを教えてください。
僕たちの10年間を無駄遣いしないように、振付のユニットが定着して、その先陣にair:manがいるっていうところまでいきたいですね。でないと、やっぱりタレント兼振付師のやり方しかないのかとなってしまう。そのためにはセルフプロデュースしていかないといけない、貪欲に。そして、仕事は毎回手を抜くことなく、やり続けるってことだけです。僕も菊口も、現場から戻ってきてスタジオでうなだれている時間の方が長い(笑)。うまくいかないことも多いけど、それを含めて、きっと好きなんだと思いますね。

今は若いメンバーが成長しているから、air:manが、明日も振付を作り続けていける。もっと、ぶわ~んって広がって、誰が振付稼業air:manか分かんないぐらいに浸食出来ればいいなと思いますけどね、やるからには。

 

編集:white-screen.jp

写真:永友啓美

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