人の作品を“観る”方法

「とにかくたくさんの作品をみること」とは言うけれど

どうしたらもっとステキな作品を作れるようになるのか。こういった問いに対して「とにかく日常的にたくさんの作品をみることだよ」とはよく聴くアド バイスの一つ。確かに多くのものを見れば目が肥えて、いい作品が作れそうな気もします。が、じゃあ見れば見た分だけデキル人になるのかといったら、それも またちょっと真実味のない話…。

私が思うに、この「とにかくたくさんの作品をみること」の前には、そうアドバイスする人が他の人の作品をみるとき“無意識にやっている習慣”が隠されているのではないかと。また、ここでやっているのは「見る」ではなく「観る」ではないかと勘ぐっています。今回は“果たしてどんなふうに他の人の作品をみていったら日常的に自分の引き出しを増やしていけるのか”、この辺りに迫ってみたいと思います。

できあがった作品から何をどう読み取るか

まず、他の人が作った“最近のお気に入り”を一点ご用意ください。私が最近お気に入りなのは、東京で地下鉄を利用している人にはおなじみの東京メトロ月替わりマナーポスター「家でやろう。」(寄藤文平さんの作品)。とってもステキなので、ご存知ない方もぜひご覧ください!

東京メトロ月替わりマナーポスター「家でやろう。」 東京メトロ月替わりマナーポスター「家でやろう。」
東京メトロ月替わりマナーポスター「家でやろう。」

では、次のようなステップで自分のお気に入り作品をじっくり観察してみましょう。

  • 自分はなぜその作品を気に入ったのか
  • その好印象は、その作品の中でどんな工夫が施されているためなのか
  • その作品の中で一貫しているポイントはどんなところか
  • 作り手は、何を意図してそのポイントを一貫させていると思うか
  • 一貫したコンセプトを保ちつつ、どんな変化・バリエーションが見られるか
  • そのほか表現上の工夫が見られるところはどこか、それは何を意図しての工夫か

先に挙げた「家でやろう。」シリーズであれば……

自分はなぜその作品を気に入ったのか

→ イラストがかわいい。遠くからでも目を惹く。苦言を呈する系のメッセージであるはずが、なんとも親しみやすく見る側に好感を抱かせる。マナー違反している人も「自分が非難されてる!」と目をそむけたり反発せず見てくれそうな包容力がある。

その好印象は、その作品の中でどんな工夫が施されているためなのか

→ 主人公の目が点で表されていたり線が簡略化されていることで、リアル感が消され、キャラがかわいく描かれている。利用者の注意を喚起する黄色と黒と白の三色構成。内容がユーモラス。

……という風に。ちなみに、これは今出ている『PEN with New Attitude』2009/6/1号の連載「デザインは楽しい。」(文:土田貴宏氏)に取り上げられていたこのポスターの記事内容を思いっきり参考にさせていただいています。

制作過程を逆読みしてエッセンスを抽出

こんなふうに自分が目に止まった作品をじっくり読み深めていくと、その作品のコンセプトがどんなもので、そのコンセプトを体現するためにどんな手法を使っているのか、その一貫性を保ちながらどんなバリエーションを展開しているのかが浮き彫りになってきます。

つまり、できあがった作品をもとに、次のステップで制作過程を逆読みしていくわけです。

制作過程を逆読みするステップ
制作過程を逆読みするステップ

すると、そのプロジェクトの目的→デザインコンセプト→具現化の手法がエッセンスとして抽出でき、今後実践で活かせる血肉となります。それがたとえ作り手の実際の意図とは異なるものだったとしても、それはそれ、あなたに学びがあれば目的達成です。

見たものをそのまま使っちゃただの盗作ですが、上記のプロセスを踏んで、そこから自分が取り出したエッセンスを自分の作品に応用できるようになれば、自分の引き出しを増やす機会には事欠きません。

「見る」のではなく「観る」方法

しかしながら、作品に埋め込まれた工夫や作り手の思考を逆読みするのは結構大変なこと。「見る」がそこにあるものをそのまま目で捉える感覚とすれば、「観る」はその作品の奥にある背景や真理を、頭や心や手を動かして全身でつかみとる行いです。

最初のうちは、先の私がしたようにデザイン誌やデザイン専門のWebサイトを開き、「絵」を眺めるだけでなく作り手のインタビュー記事など「文字」 にも目を通すようにすると勉強になりますよ。また、手書きや(時間があれば)実際作ってみるなどして、忠実に作品を模写する練習をすると、いたるところに 繊細な作りこみがなされていることに気づくことができます。

これまでただ漫然とたくさんのものを見てきた気がするなぁという方は、まず一つひとつの作品を作り手目線でじっくり観ることから始めてみてはいかがでしょうか。

最後に、私の好きな小説にあるこんな一節を。

書物はそれが書かれたときと同じ慎重さと冷静さとをもって読まれなければならない。

ポール・オースター『幽霊たち』より

んー、心にしみます…。でもこれやってると、読むのがものすっごく遅くなるんですよね(笑)。

(デジタルスケープ キャリアカウンセラー 林真理子)

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